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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第一章 珍獣と聖女と仲間達
34/800

34食目 恐怖をまとう者

「ははっ、久しぶりだな! 元気にしていたか~?」


暫く振りに、アルのおっさん先生が帰ってきた。


一部の生徒から不満の声が上がる。

理由はもちろんスティルヴァ先生が担当から外れるからだ。

これからは武器を扱う授業を受け持つそうなので、

会えなくなることはないのだが。

毎日の楽しみであった、あの乳と尻が拝めなくなるのは結構な損失である。


まあ……あ~だこ~だ言っても、どうにもならないので大人しくなる生徒達。

愚痴をこぼしていたのは、ほぼ男子生徒ばかりだったが、

一部の女子生徒も愚痴ってたのには驚かされた。


やはりエロは偉大であった! はっきりわかんだねっ!!(確信)


まぁ、それは置いといて……

ウチのクラスは、優秀なヤツが多いらしく、

ブッチョラビ狩りは卒業して今度は猪を狩るそうだ。


「ブッチョラビと違って、かなり手強いぞ~?

 気を引き締めてかかるようにな!」


アルのおっさん先生の号令の下、俺達は猪のいる丘へと意気揚々と向かった。

今日は『ぼたん鍋』だな……と考えながら。


ああ……鍋良いなぁ、グツグツ煮えるお野菜や肉を心許した友と共に

啄きつつ、清酒をグビリとやる!

特に寒い日にやると最高だ。

心身共に温まるからな。

鍋にとって、寒さは鍋を引き立たせるなくてはならないものである。


俺を囲むように歩くパーティーメンバー達。

いつか……このメンバーで、お酒を飲みながら鍋を囲めるといいなぁ。


◆◆◆


やって来ました! 丘の上!!

これは凄い! 王都フィリミシアが一望できるんだぜ!


ちょっと興奮気味の俺。

それは、ここから見る景色が想像以上のものだったからだ。


不意に、あの森のことを思い出した。

俺が初めに居た、あの奇妙な食べれる森だ。

これって……ホームシックってヤツか?


ここからでは、あの森は見ることができなかった。

少し残念に思うが仕方がない。


「思えば、遠くに来たもんだ……」


あの森を出て一年と数ヶ月。

色々あったなあ……


おっと、そんなことよりもぼたん鍋……もとい、猪狩りだ!!


「今回はキチンと、前衛後衛で役割分担して狩らなきゃなっ!

 ノルマは一頭だぜ!」


バシンと拳を叩くライオット。


「前衛は俺とライとヒーの字だぁ!

 後衛はエルとリンダ、フォクは後衛の護衛頼まぁ!」


「任せてください、上手く立ち回りますよ」


流石、ガンズロックだ。

パーティーの大黒柱的な存在で頼りになる。


でもって、早速狩りを開始する俺達。

今回のターゲットは『ヒルボア』こいつは丘に住み着く猪である。

名前がそのまんまの意味だな。


こいつもブッチョラビほどではないが、

餌が少なくなると畑を荒らしに来るので、

定期的に狩りをして間引かないと損害を被るのである。


「いた……あそこ」


ヒュリティアが指す丘に一頭のヒルボアがいた。

こちらには気付いていないようである。


「よぉし……正面は俺、右からライ、左からヒーの字頼む。

 後衛はぁ少し離れて、バックアップ頼まぁ!」


いよいよ戦闘開始である。

まあ、俺は見てるだけなんだけどねっ!

俺がパーティー戦で攻撃魔法使うと大惨事になるよ!!(震え声)


それでも皆が危なくなったら、

こっそりヒールを使うくらいは許されるかもしれない。


「いくぞぉ!!」


かけ声と共にヒルボアに突撃するガンズロック。

両脇から波状攻撃を試みるライオットとヒュリティア。

完璧だ……そう思っていた仕留めれると。


そこに、巨大な『何か』が現れた。

圧倒的な、圧倒的な……威圧感をともなって。


そいつは、ヒルボアの真上から落ちてきた。

そして、その巨体を持ってヒルボアを一撃で絶命させてしまった。

当たりに飛び散る大量の血と肉片。

その生臭いにおいが俺の鼻腔に入り込んでくる。


「ド、ドラゴン……だとぉ!!」


ガンズロックは固まってしまったかのように動きを止めてしまっている。

いきなり、金色の鱗をまとった巨大なドラゴンが真正面に落ちてきたのだ。

無理もないだろう。

俺も「ファッ!?」と間抜けな声を出して固まっていた。

他の皆も同ようで完全に固まっていた。


そのドラゴンは……デカ過ぎた。

六本の角、体を覆う黄金の鱗、そして異常に発達している四肢。

その黄金の竜が俺に向き直り姿勢を低くした。

だが、いきなり飛びかかってはこない。


俺達は戦慄した。

その圧倒的な巨体、圧倒的な威圧感、圧倒的な殺意に……!!


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


堪えきれなくなったリンダが悲鳴を上げた。

それが切っ掛けとなって止まってた時が動き出す。

圧倒的捕食者が、俺に狙いを定めて向かってきたのだ!!


「ぐおっ!?」


対応できなくて吹っ飛ばされるガンズロック。

血反吐を撒き散らしながら岩に激突する。

それでも勢いは減ることはなかった。

他のメンバーには目もくれず、俺に突っ込んでくる黄金の竜!!


おいぃ……なんで俺なんですかねえっ!?

もちもちしていて美味しそうだから? 

……うおお! ノーサンキュー!!



俺は恐怖で竦む全細胞を無理矢理動かし、

全力で横っ飛びをして緊急回避を試みた。


カシュッ!!


と空を切る巨大な口。

その口には鋭利な歯が無数に並んでいる。

あんなのに噛まれたら、一瞬でお陀仏だ!


「おまえら、逃げろっ!!

 アルのおっさん先生に、このことを伝え……あぶぶっ!?」


また噛み付き!? 今度もギリギリだ!!

やっぱりこいつ、俺しか狙ってない!

どういうことだ!?


「エル!」


「ふきゅん!?」


ライオットが俺を抱えて走り出した。


「ライオット!? あのドラゴンの狙いは俺だ! 理由はわからないけどな!

 俺と一緒だと巻き添え食うから置いていけっ!」


「馬鹿か! 守ってやるって言っただろう!?

 足が遅い癖に大口叩くんじゃねぇよ!!」


ライオットは他のメンバーから離れるように駆け出した。

だが、俺を抱えているので、いつものような速度はでない。


「ヒュリティア! アルフォンス先生に伝えてくれっ!!」


「ライオット……!! フォクベルトッ! ガンズロック達をお願い!!」


ヒュリティアも、このことを伝えるため全力で駆け出していた。

俺はその姿を、ライオットに抱えられながら見ていることしかできなかった。


◆◆◆


「へへっ! 面白いことになってきやがった!!」


「面白くねぇぇぇぇぇぇっ!!」


俺の腕の中で絶叫している、ちっこい白エルフのエルティナを抱え、

俺は突如襲ってきたドラゴンから逃げ回っていた。


いくら軽いからと言っても、ひと一人抱えて走るのには限界がある。

けど……弱音を吐くことはできねぇ。


ドラゴンの狙いは……どういうことかエルティナだ。

ガンズロックのヤツが目の前にいたのに、

目もくれずエルに向かって行きやがった!


なんとか奇跡的に回避したエルだけど……偶然は何度も続くわけがねぇ。

それでなくても白エルフは身体能力が低いんだ。

それに輪をかけてエルの運動能力は低い……というか酷い。


「はあ……はあ……こっちだ! デカブツ!! 悔しかったら捕まえてみろ!」


「無茶だ! 降ろせ! 死んじまうぞ!?」


相変わらずエルが言ってくるが無視する。

エルを犠牲にして俺が助かる、という選択肢は俺にはねぇ。


「くそぅ……俺にせめてライの半分の速さがあれば、

 あんにゃろうに一泡吹かしてやるのにっ!!」


「エルに俺の半分の速さがあっても使いこなせねぇ……よっと!!」


ドラゴンの噛み付き攻撃を間一髪、横っ飛びで回避する。

……今のはかなり危なかった。

これは俺の体力の限界が近い証拠だ。

なんとかヤツを撒かなくては、二人ともやられちまうっ!


「しめた……! 森だ!!」


視界にうっそうと茂る森が見えた!

あそこなら姿を隠しながら逃げられる!!


俺は全力で森に駆け込んだ。

一路の希望を見出して……。


◆◆◆


「先生!!」


ようやく、アルフォンス先生を見つけた。

アルフォンス先生はボロボロになった私を見て驚いていた。


私がボロボロになったのは、

ここに来るまでに何度も足を絡ませて転んでしまったからだ。

体が上手く動かないのだ、震えが止まらない。

こんなことは初めてだ。


「ど……どうしたんだ!? おまえほどのヤツが、ヒルボアにやられたのか!?」


慌てて手当をしようと駆け付けてくるアルフォンス先生。

でもそれどころではないのだ。

このままではエルが……エルを護ろうと彼女を抱きかかえて、

勇敢に駆けて行ったライオットが死んでしまう!!


「先生……助けて……皆がエルが……ライが……ひっ、うう!!」


感情が乱れて上手く喋れない……!!

落ち着いて……! 早く、早く伝えないと!!


「落ち着け……ヒュリティア。ゆっくりと俺に教えてくれ」


異変を察したアルフォンス先生の低く優しい声が、

感情の乱れた私を落ち着かせてくれた。

大丈夫、今ならきちんと伝えることができる……!!


「ヒルボアを……狩ろうと、

 皆で……そうしたら急に上からド……ドラゴンがっ!!」


ドラゴン、そう自分の口から言葉が出ると急に恐怖が蘇った。

怖い! 怖いよ!! 今まで……体験したことがないほどの恐怖!!


なんであの状況で……エルはかわせたの!?

なんであの状況で……ライは動けたの!?


……情けない! 情けない!! 情けない!!

守って上げるなんて、言っておきながら……何もできなかった!!

涙が自然と溢れる。

悔しい! くやしい……!!


「よく……伝えてくれた!! 立派だぞヒュリティアッ!!」


ガシっと、私の肩を掴んで先生は褒めてくれた。

何故……?


「俺は二人を保護しに行く!

 エドワード殿下! ここはお願いします!」


エドワード様に後を任せ、アルフォンス先生は風を纏って駆けだす。

そして、信じられない速さでその姿が遠くなっていった。


「ご苦労様……後はアルフォンス先生に任せよう」


エドワード様は私の背を摩り労ってくれた。

私は全ての力が抜けたのか……その場に崩れ落ちてしまった。


どうか……どうか、無事でいて……!!


私には二人の無事を祈ることしかできなかった……。

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