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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
331/800

331食目 食欲

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 くっそ危なかった。

 桃先輩の咄嗟の機転がなければ、

 俺は今頃土の中で真っ二つになっていたことだろう。


『エルティナ、ソウル・フュージョン・リンクシステムがハッキングされた!

 上空のシグルドはダミーだ! くそっ、やってくれる! 

 ヤツの攻撃が来るぞ!』


『なんですと!? 魔法技は出したばかりだから使えないぞ!!』


 そこで作りだしたのが魔法障壁で作りだした〈チェーンソー〉だ。

 こいつは複雑な造りをしているが、実際は回転刃がメインであり、

 もちての部分などのごつごつした部分はただの飾りであるので、

 この『調理器具』は即座に作りだせる。

 その上、圧倒的な攻撃力を誇るが難点もあった。

 寧ろ難点の方が多い(白目)。


 まず起動中は魔力がもりもりと消費してゆく、

 主に刃を回転させているためである。

 次に取り回しが難しいこと。

 下手をすれば自分をバッサリ切ってしまう(恐怖)。

 最後に切った断面がぐちゃぐちゃになるため、食材が痛んでしまうことだ。

 特に最後の難点が一番の問題である。


 やはり調理には向かないんだよなぁ……(小声)


「よし、生成しゅうりょ……おわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 チェーンソーを構えたところにシグルドの鋭い爪が突き刺さってきた。


 ピンポイントで、俺のどてっ腹を狙ってくるんじゃねぇよ!

 チビるかと思ったわ!(苦情)


「け、計算どおりだったぜ」


『運が良かったな』


 俺の緻密な計算によるチェーンソーの配置は、

 黄金の竜の巨大な爪を切り刻み指先ごと吹き飛ばしてしまったのである。

 流石は俺の切り札的存在だ。


 さぁ、返り血を浴びて気色悪いが、

 小山を吹き飛ばして派手に登場してやるとしよう。




『流石に、こいつまで使うハメになるとは思わなかったぜ』


『切り札中の切り札だからな。

 もう、残っている切り札はないぞ』


『……わかっている』


 とはいったものの、実は一つほどあったりする。

 初代が作り上げた禁呪『多重連結発動術式』だ。

 こいつを使えば〈ファイアーボール〉百発分が一瞬にして発動する。

 もちろん、俺とてただでは済まない……というか、まず助からないだろう。

 まさに役に立たない自爆魔法だ。


「いくぞ、シグルド! 勝負だ!」


「こい、エルティナ!」


 自分の力の拠り所を砕かれても、

 なお心を折られないのは見事としか言いようがない。


 そうでなくては他者の魂を背負うことなど、できようはずもないか……。


 俺とシグルドは同時に飛び出した。

 当然、向こうの方が足が速い。

 走る速度の遅い俺は必然的に迎撃に回ることになった。


「パワー全開だぁ! おまえに、こいつが止めれるか!!」


 俺の気合いに応え、ブィィィィィィィンと音を立て張り切るチェーンソー。

 んん~、いいぞぉ! 神だろうとなんだろうと、こいつでバラバラだぁ!


 ん? お空から女性の悲鳴が聞こえたような……気のせいかな?


「ぬうぅんりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「がふっ!?」


 シグルドは俺の突き出したチェーンソーに、

 一切の迷いもなく右前足を突き入れた。

 そんなことをすれば、

 前足は真っ二つに裂けてしまうのは明白であるにもかかわらず、

 彼は自ら突き入れたのである。


 だが……その割けた前足は俺に届いた。

 自ら突き出した前足は中ほどまで裂けているが、

 その分だけ、前に進んでいたのだ。


 爪が引き抜かれ、穴から大量の血液と内臓が飛び出した。

〈ペインブロック〉を発動していなければショック死まったなしだ。 

 早急に治療をしなければ!


『なにこれ』『じゃま』『ももちから』『かためられてる』『なおせない』


 チユーズが、ぽっかりと空いた腹の穴を見て困り果てている。

 いったいどうしたんだ、早く治しておくれ。


『エルティナ! 傷口をヤツの桃力で固められた!

 早く取り除かなくては治癒の精霊が傷を治せないぞ!』


「ごほっ、なんだとぉ!? くそっ、桃力〈食〉!!」


「やらせん! つあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 今度は左前脚が頭上から振り下ろされてきた!

 チェーンソーでは防げない! 威力があり過ぎて貫通してしまう!


「えぇい、南無三!」


 俺は魔力消費が激しいチェーンソーを解除し〈ウィンドボール〉を発動する。

 そして、そのまま〈風雷竜巻〉に持ってゆこうと試みる。


「その魔法はもう通用しないぜ、嬢ちゃん!

 ブラザー! 桃力の出力は俺に任せてくれ!」


「任せた!」


 シグルドの振り下ろした左前足が小さな竜巻に命中した瞬間、

 竜巻は固められた後に砕かれてしまった。


「バカな!? 風を固めて砕いただと!!」


 冷静な桃先輩もこれは予想外だったらしく、声を荒げることとなった。

 もう、俺を護る障害はない、このままではぺしゃんこにされてしまう。


『やらせないよ!〈凍れる戒めの茨〉!!』


 輝夜本体から氷の茨が伸びて行き、俺をドーム状に包み込んでしまった。

 直後、激しい衝突音がしたものの、

 辛うじてシグルドの攻撃を防ぐことに成功した。

 しかし、氷で出来た茨には無数のヒビが入っており、

 次の攻撃には耐えられそうにはない。


『助かった、輝夜! ごぼっ』


 口に大量の血が込み上げてきて、それを俺は吐き出してしまった。

 イカン、早くこの〈ぽんぽん〉に開いてしまった穴を塞がなくては。

 桃力で傷を固めていた桃力を喰らい尽くす。

 その結果を見届けたチユーズ達は慌てて治療を開始した。


『いそげ~』『いそげ~』『はやく』『はやく』『ふきゅん』『ふきゅん』


 急ピッチで腹の穴が塞がれたものの、

 まずいことに大量の血と桃力が失われてしまった。


 また、魔力も現在では四割を切っている。

〈ペインブロック〉を常時発動させているためだ。

 これ以上戦いを長引かせれば、俺に勝機はなくなるのは明白であった。


『有効打が見つからない、シグルドの覚悟が我々の切り札を凌駕するとは。

 エルティナ、このままでは時間が過ぎれば過ぎるほど、

 こちらに勝ち目はなくなるぞ』


『はぁはぁ……わかっている!』


 だが、どうやってシグルドに勝てばいいんだ?

 俺のとっておきは全て出した。

 それでも、ヤツは倒れず立ち向かってくる。

 もう俺の武器はない。


『俺の武器はもう……武器?』


 ここで、俺のつるっつるの脳みそに一筋のしわが刻まれた。

 俺の最大の武器が残っているじゃないか。


 それは俺の大本であり存在意義でもある。

 大切なのはイメージ、大丈夫……俺ならきっとできる。


 再び激しい衝撃音がして、今度こそ氷の茨は砕け散った。

 月の光に照らされて、キラキラと弾け飛ぶ光景は幻想的である。


「これで終わりだ、エルティナ!」


 シグルドが俺にとどめを刺そうと大きく左前足を振り上げる。

 俺は覚悟を決めた。

 それはシグルドに殺される覚悟ではない、

 俺のどうしようもできない〈武器〉を解き放つ覚悟だ。


 ドクンと心臓が大きく脈動する。

 そして頭の中に何者かの声が聞こえてきた。


 ……出てしまっても、構わないのだな? と。


 その瞬間、俺の何かが外れた。


「出てこい! 俺の〈食欲〉!!」


 俺の小さな体から飛び出す巨大な何か。

 それは大きな口『のみ』を持った恐ろしく巨大な大蛇であった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「な……!?」


 シグルドの口からマイクの悲鳴と本人の絶句が聞こえる。

 他にも何か言っているようだが詳しくは聞き取れない。

 頭に白い霧がかかっているような感覚だ。

 意識をしっかり保たねば……ぐ~、ぐ~。


『エルティナ! しっかりしろ! あれは、いったいなんだ!?』


『ふきゅん!? ね、寝てませんよ?』(震え声)


『気を失っていたのか!? それよりもあれはなんだ!

 アレが撒き散らしているのは恐怖と絶望だぞ!!』


 桃先輩は俺が出した大蛇を見て、そのように言った。

 だが、アレは俺の食欲に魔法障壁で作った器を与え具現化したもの。

 そもそもが意思などないのだ。

 恐怖や絶望を感じるのは、見た者が俺の食欲を恐れているからに過ぎない。


 だって、アレは……『俺』なのだから。


「フキュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」


 大蛇が咆哮を上げる。

 それはすなわち腹が減って音を立てるのと同じことである。

 そう……俺は今、猛烈に『腹が減っている』のだ。


 もう誰も『俺』を止めることはできない。


「いけ、俺の食欲……〈暴食のあぎと〉! 全てを喰らい尽くせ!!」


 暴食の大蛇が大きな口を開け、シグルドを喰らおうと襲いかかった。

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