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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
330/800

330食目 ハッキング

 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


 恐るべき熱を持った溶岩が空に向かって放たれ我を飲み込んだ。

 いくら我でも煮え滾る溶岩を耐えることなど叶わぬ。

 鉄壁を誇る黄金の鱗もぐずぐずに溶かされ、

 我はあっけなく蒸発してしまった。


『ブラザァァァァァァァァァァッ!! なんで死んじまったんだよぉ!』


『うるさい、頭の中で叫ぶな』


 だが上空でマグマに焼き尽くされたのは、

 マイクが桃力と気と魔力で作ったダミー、つまりは偽物ということになる。

 わざわざ我の姿を忠実に再現せずともよかろうに……。

 マイクの奇策も大したものだ。

 あのタイミングでここまでの成果を出すとはな。




 我がエルティナに攻撃を仕かけるタイミングで、

 マイクは我の口を使って話さず、直接頭の中で語り掛けてきた。


『ブラザー、俺っちに良い考えがある!

 嬢ちゃんに小山になってもらえるように演技をしてくれ!』


『演技? 我にそのような器用なことはできんぞ?』


 演技と言われても、今までしたことがないものを急にやれ、

 と言われてできるものではない。

 取り敢えずはエルティナが危険を感じて防御してくれるように、

 強引に攻撃に出てみる。

 すると彼女は驚きの表情を見せて小さな山となった。


『いいぞ、ブラザー! ナイスな演技だ! 

 あの小山には振動だけ与えて、その場に留まってくれ!』


『それでは、攻撃をまともに喰らってしまうではないか』


『相手が桃使いで、俺っちだからこそできる奥の手があんのよ。

 頼む、ブラザー! 俺を信じてくれ!』


 いつにもないマイクの真剣な頼みごとに、我は半信半疑で了承した。

 そして、マイクの言うとおりに行動したのだ。


 まず、小山に手を載せ内部に振動を与えてくれ、

 と頼まれたので我は小山の中腹辺りを軽く小突いた。


『いいぜぇ! おっと、手はそのまま付けておいてくれよ!

 よっしゃ、ダミー射出!』


 背中が熱くなり、何かが放出される。

 それはマイクが作ったダミーであった。


 上空に我の桃力と気と魔力を混ぜ合わせた、

 あまり役に立たなかったダミーが飛んでゆく。

 果たして今回はきちんと仕事をしてくれるのであろうか?

 多少心配であるが、信じることにしよう。


『ここまでは順調……後は俺っちの腕の見せ所さ!』


 我の頭に響くカタカタという音が一層に激しくなった。

 そして暫くすると、恐るべき熱量を持った溶岩が、

 勢いよく上空に向かっていったのだ。

 その場所には我のダミーの姿があり、一瞬にして蒸発してしまったのである。




『上手くいったぜ、一か八かだったけどハッキングが成功したよ。

 俺っちって、天才かも?』


『この場面で博打を打ったのか……大した度胸だ』


 マイクの話によれば〈はっきんぐ〉が成功すれば、

 相手のソウル・フュージョン・リンクシステムを一時的に支配し、

 上空に我が跳躍した姿を連中に見せることが出来るそうだ。


 それによって彼女らは、

 己の奥の手をみすみす曝け出してしまったのである。


『ソウル・フュージョン・リンクシステムも完璧じゃないんだよなぁ。

 確かに俺は桃先輩としては未熟だけども、

 ハッキングに関しては結構やり手なんだぜ?』


『はっきんぐ、とやらはよくわからぬが、

 おまえが大仕事をやり遂げたことだけはわかる』


 そして、マイクの思惑どおり、エルティナは大技を繰り出してきた。

 大きな技の後には必ず隙が生じる、そこを狙い仕留める算段だ。


 足場は問題ない、桃力で固めればいいだけのこと。

 それよりも演技の方が大変であった。


『HAHAHA! よく言うぜ。ハリウッドの役者顔負けの演技だったさ。

 どう? 俺っちとブロードウェーに出演してみるかい?』


『そのうちな』


 じゃれ合いはここまでだ、今なら渾身の一撃を極めれる。

 長い戦いであったが、これで決着だ!


「さらば! 小さき強者エルティナ!!」


 我は噴火によって脆くなっている小山に渾身の突きを繰り出した。

 それはいとも容易く山に突き刺さった。

 まるで〈シグルド〉が愛してやまなかった、

 出来たてのバターのような柔らかさだ。


「終わったな……ぐっ!?」


 突き刺した指先に鋭い痛みが走った。

 何事かと思い急ぎ引き抜くと、我の太い爪が指先ごと消滅しているではないか!

 いやな予感がし、その場から飛び退く。

 その瞬間、小さな山が爆ぜた。


「終わるにゃあ、まだはえぇぞ! シグルドォ!!」


 爆炎の中から血に塗れた白エルフの少女が、

 巨大な奇妙な物を手にゆっくりと歩いてきた。


「エルティナ!? バカな! 我の攻撃を防いだというのか!?」


「おい、おい……そんなのありかよ!? ここってファンタジー世界だろ!!」


 大気を切り裂くような奇妙な音を立てるそれは無数の刃が、

 高速で回転している見たことのないような奇妙な剣であった。

 それは眩しいほどのピンク色の光で覆われている。


 間違いない、アレはエルティナの桃力だ!


「魔法障壁の可能性の一つ……〈チェーンソー〉だ!

 この調理器具で、おまえを捌いてくれるわぁ!!」


「正気か!? それは断じて調理器具じゃねぇよ!」


「あぁ? 骨を断つのに使うだろうがぁ!

 俺にとっちゃあ、この世の全ての道具は調理器具よぉ!

 ふきゅぅぅぅぅぅぅぅぅん! シグルドォ、バラバラにしてやんよぉ!」


 マイクは大慌てしているが、あの奇妙な剣も回転を止めてしまえば、

 無数の刃が付いた普通の剣だ。そこまで慌てることはない。


『そ、そうは言うけどよぉ。色々とトラウマがあるのよ、俺っち』


『今は忘れろ』


『OH、ジーザス。ブラザーがサタンに見えちまうぜ』


『我は……桃使いだ!』


 我はエルティナに突撃を仕掛けた。

 あの得体のしれない剣を桃力で封じ、今度こそ戦いに終止符を打つ!


「桃力〈固〉! その剣の動きは封じさせてもらう!」


 我は桃力を口から無数発射した。

 剣を封じつつ、エルティナをもその場に固定するのが目的だ。


 エルティナは無言で〈チェーンソー〉と呼ばれた奇妙な剣を振るい、

 我の放った桃力を切り捨てた。

 掛かった、これでその剣はただの剣に……!?


「なんだと!? いったいどういうことだ!!」


 刃の回転が止まる様子がない。

 確かに我の桃力はあの剣に命中したはずだ!


 もう一度、我は無数の桃力を放つ。

 今度は剣を振るいもせず、エルティナは全てをその身で受けた。


「シグルド……俺の桃力はどうも〈食いしん坊〉でなぁ。

 食べちまうんだよ、なんでもかんでもよぉ!」


 エルティナの体から滲み出るように放たれる大量の桃力。

 それは我の放った桃力を、いとも容易く貪り食ってしまった。

 この力は陽の力を持つ桃使いが持っていいのであろうか?


 桃力が桃力にゾブリと噛み付き、食い荒らす様はまるで悪夢のような光景。

 抵抗など許さぬ一方的な捕食。

 我ですら背筋が凍りつき、冷や汗が流れ落ちるのを感じ取った。


「切り札ってもんはよぉ、残しておくもんなんだぜ!

 桃力〈食〉! 俺の桃力は全てのエネルギーを貪り食う!」


 なんということだ、これで我の桃力は封じられてしまったも同然だ。

 今まで使わなかたのは、我の頼みの綱をここで砕くためか!?


 エルティナから発せられている異常な量の桃力。

 これが、我と彼女との〈差〉だというのか!?


「バケモンだ、あの桃力の量はありえねぇ!

 ブラザーの桃力の総量の三倍だなんて!

 真・身魂融合を果たしているんだぞ、こっちはよぉ!!」


 マイクが悲鳴を上げ、言わなくてもいい情報を与えてしまっている。

 だが、エルティナの返事を聞き我は耳を疑った。


「俺は真・身魂融合を二回おこなっている。

 おまえ達が大切な友の魂を背負っているように、

 俺もまた大切な友の魂を背負っているんだ!

 こっちも負けられねぇんだよっ!!」


「に、二回も……!」


 あの想像を絶する悲しみを、エルティナは二度も体験したというのだ。

 これは桃使いだからできるわけではない、

 桃使いであっても心を壊し再起不能になった者がいるそうだ。


 マイクもそうだ、彼は真・身魂融合をおこない心に深い傷を負った。

 一歩間違えれば廃人になり得るほどの苦しみなのだ。

 だがエルティナは、それほどまでに困難な儀式を二度もおこなっている。


 覚悟の量が桁違いだ……我は彼女に勝てるのか!?

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