33食目 再会! 赤くて白くて辛いあんちくしょう!
露店なう!
今日は露店に来ているのだが……実は一人で来ている(ドヤ顔)。
このことは、レイエンさんとスラストさんに許可を得ているので問題ない!
それに、露店のおっちゃんやおばちゃん達は全員顔馴染みなのだ。
だから、何かあったら手を貸してくれる……はず。
「おっ!? 食いしん坊! 今日は一人かい?」
「変なのに、ついていっちゃダメだよ!?」
と気にかけてくれる……良い人達ばかりだ。
今日は食事もさることながら、珍しい食材がないか物色しに来たのだ!
冒険者達が珍しい食材を、卸していたりするので意外と侮れない。
……だが、先に腹ごしらえだ!(空腹)
暫く何を食べようか? と迷いながら露店を巡回した。
いろいろと美味しそうな料理に目移りする。
そして俺は、とある一軒の露店で運命的な再会を果たしたのだ。
「こ、これは…………!!」
「いらしゃい! ワタシ、ここで、みせ、ひらくよ!!」
その露店の店主は片言の喋り方で非常に怪しいが、
驚いたのはその店で扱っているメニューである。
ラングステン王国では珍しい中華料理を提供する店だったのだ!
そして俺の目に飛び込んできた料理名とは……『麻婆豆腐』!
あの辛さと熱さが堪らない料理だ!!
しかし……今の俺で食えるか……?
だが、出会っちまった……これで食わねば、男が廃るってもんだぁ!
「まーぼーどーふ! おくれい!!」
「かしこまったね! ちょと、まつ、よろし!」
俺は店のテーブルに陣取り、料理が完成するのを心待ちにした。
やがて聞こえる、挽肉を炒めるジャーっという音。
ジュオーッ! と言う音は……豆板醤を加えた音だろう。
やがて、主役の豆腐を入れた音が聞こえ、いよいよ完成間近なようだ。
「はい、おまたせね!」
俺の前に出された、麻婆豆腐!
唐辛子の赤い色と……豆腐の白い色が芸術的!
にんにくの葉の緑色がとっても綺麗だ!!
「香りも堪らん……いただきま~す!!」
俺は麻婆を口に運んだ!
辛い! 一気に毛穴が広がり汗が吹き出る!
しかし……美味い! 辛さもさることながら、旨みが半端ない!!
豆腐も型崩れせずに四角を保っている。
このおっさん……只者じゃない!
「はふはふ……んぐんぐ、ぐびぐび……ぷは~」
俺は麻婆と水を繰り返しながらも完食した。
本来なら……麻婆の痺れる辛さと旨味を満喫し、
ビールで口の中に残る油を洗い流す、
という作業を楽しむのだが……現在、お子様な俺は水で我慢である。
「美味しかった! ご馳走さま!!」
俺は作ってくれた店主と俺を満たしてくれた麻婆豆腐に感謝を捧げる。
そして、店主に料理の代金を払い店を後にした。
「まいどありね、また、くるよろし!」
「またくるんだぜ!」
また来ることを約束し……俺は気分良く露店巡りを再開した。
ああ……次はチャーハンだな。
◆◆◆
露店巡りを無事に終えた俺はヒーラー協会に戻り、
いつもの仕事着に着替えて仕事に精を出していた。
もちろん、フードは深く被って謎っぽさを演出している。
「次の方、どうぞ~」
ふふっ……真面目に働いてるんですよ? わたくし!
これも、お金を得るため! 汗水流して美味しい物を食べるのじゃ~!!
「エルティナ様~そろそろ交代ですよ?」
「ビビッド兄、もうそんな時間?」
働いていると時間が過ぎるのが早い。
季節柄なのか、今日も風邪のお年寄りが多い日だった。
健康に気を付けろ! 聖女様との約束だっ!! と言える日は来るのだろうか?
いい加減このフードが鬱陶しい。
仕事が終わり自由な時間がやってくると、
俺は相も変わらずトレーニングに費やした。
明日のために……打つべし、打つべし!!
締めに、桃先生をモシャモシャする。
コレだけは止められねぇなぁ! げへへ……(ゲス顔)。
明日は再び実戦訓練だ! 風邪をひかないようにしなくては!
……まぁひいても『クリアランス』で治してしまうのだが。
念には念を入れて、早めにベッドに潜り体を休めることにする。
「にゃ~」
先客がいたようだ。
布団が野良にゃんこの体温で温くなっている。
その優しい温もりは、すぐに俺を眠りの世界に誘うには十分であった……ZZZ。
◆◆◆
さて、今日の訓練は……ひゃあ、堪んねぇ! ブッチョラビだよ!
……て言うか、もう増えてるぅ? 一日しか経ってねぇのに、どうなってんだ!?
「別の群れが来たのかなぁ?」
リンダがブッチョラビの群れを見て苦笑いをしている。
その様子を見たヒュリティアがリンダの隣に立ち「たぶん」と返事する。
「サクッと、片付けて飯にしようぜ!」
だが、ライオットにとっては、どうでもいいことであったようだ。
彼はいつもどおり、やる気満々である。
既にブッチョラビは彼にとって餌でしかないのかもしれない。
「そうですね、ですが……くれぐれも油断はしないようにしましょう」
フォクベルトは鉄の剣を抜いた。
光の剣では威力があり過ぎて、ブッチョラビの肉が傷んでしまったそうだ。
「エルはぁ向かってくるヤツに気を付けろぉ! いくぞ、おめぇらぁ!」
ガンズロックの号令に従い、一斉にブッチョラビを狩り始める。
初日で最早ブッチョラビは相手にならない、
とわかった生徒達は早々にブサイク兎達を狩り終えてしまった。
「このクラスの子は優秀な子が多くて楽ちんだわ~」
と先生のお褒めの言葉を頂いた。
若干、違う意味合いも含まれているようだが。
もっと褒めてもいいのよ? ……え? 俺は対象外!?
ふきゅん……(しょっく)。
さて、こんなやりとりもあったが……昼食の準備が始まった。
前回で自分の役目を大体把握した男子共は雑用に勤しんだ。
女子である俺達は調理を開始しているわけだが……。
「わ? 何……そのお鍋? 変わってるね?」
リンダが俺の鍋に気付き興味深く覗き込んできた。
ふふふ……気付いたか! これぞ料理の革命児『圧力鍋』だ!
発案者は……例の転生チートのフウタだ。
嫁さんに頼まれて開発したらしい。
フウタはかなりグルメであるらしく、
彼の治めるエルタニアでは飲食業が非常に盛んであるらしい。
果たして、どれほどの規模なのだろうか?
いずれ領地に行ってみよう。
とんでもない料理とかありそうで楽しみである。
そのようなことを考えつつも、俺は圧力鍋に水を張り、
その中にブッチョラビのバラ肉を入れ火にかけた。
まずは普通に煮込むのだ。ぐつぐつ。
大きな皿に醤油、調味料を加え広げる。
次に煮込んだブッチョラビの皮付き(重要)のバラ肉を、
皮を下にして皿に置き肉の上に八角を散らす。
後は……柔らかくなるまで蒸せば、
豚の角煮ならぬブッチョラビの角煮のでき上がりである。
本来はすぐに煮込まないで二時間ほど一旦蒸した方がいいのだが、
流石に二時間も蒸している時間はない。
よって、その工程を短縮するために煮込みと圧力鍋をもちいたのだ。
俺はでき上がった角煮を試食してみる。
肉はほろほろと解ける上に、トロトロになった脂が舌に絡みつき、
官能的な食感を体験することができた。
味付けも申し分ない。
前回食べた時、肉質が豚に似ていたので上手くいくと思ったが、
ここまで上手くいくとは思わなかった。
自生していたホウレン草と、野人参も引っこ抜いてスープを作る。
野人参は甘かったので、すりつぶして隠し味にした。
これで、甘味が出て美味しくなるだろう。
蒸し上がった角煮を、人数分に切り分けて……と?
「おいぃ……なんだか、他所の子が混じってませんかねぇ?」
いつの間にやら、別のパーティーが俺達のパーティーに合流していた。
「いやぁ、美味しそうな匂いが前回もしたから来てしまったよ」
「エド様がどうしても……と言ったので仕方なくですわ!」
「プルプルしたお肉が珍しいので……ぷるぷる」
「食いしん坊って、料理も上手なんだなぁ」
「お……美味しそうなんだな。じゅるり」
「流れに乗った。
しかし……エル、これで食っていけるんじゃないのか?
店出すなら俺も一枚噛ませてくれよな!?」
そう、合流したパーティーとはエドワード達であった。
ニコニコしながら料理を待つ様は、まるで雛鳥のようであった。
おまえらなぁ……そんなに量、作ってないんだぞ!!
結局、エドワードの達の分まで作るハメになったのであった。
角煮は好評であったようで、
パンに挟んで食べる者やレタスのような野菜に包んで食べる者もいた。
スープも好評だったようで綺麗になくなった。
うん、野菜が美味しいからね!
素材が良いと、調理が適当でも美味しくなるよ!(震え声)
「いやぁ……エルの料理は美味しかったよ!
温かい料理は、お城では食べられないからね!!」
と俺を抱き枕状態にして喜ぶエドワード。
彼は王族なので料理が出てくるまでには、
毒見という工程を経て食卓に並ぶそうだ。
よって、その間に料理は冷めてしまい、暖かい料理は滅多に食べられない。
可愛そうではあるが、仕方のないことなので同情するに留まる。
「シンプルなのに、とても美味しかったですわ。
でも、勘違いしないでくださいましっ!
エド様が食べたいと、仰ったから仕方なく……仕方なくですわっ!」
エドと逆方向に陣取り、俺を抱えて頬ずりしてくるのは、
銀ドリル様ことクリューテルだ。
彼女は典型的な『ツンデレ』であったらしく、
見事としか言いようのないツンデレに、
俺はただ「ふきゅん」と鳴くしかなかった。
「いやぁ……お肌、プルプルになった気分です」
ゲルロイド君……貴方、元々プルプルじゃないですかやだー!
と心の中でツッコミを入れる。
スライムの彼はブッチョラビの角煮がとっても気に入ったのか、
ライオットと奪い合うようにお代わりをしていた。
美味しそうに食べてもらうのは悪くない気分だ。
「信じられない美味しさだな。
あ~あ……一度、食いしん坊の料理食べたら、
ただ焼くだけの肉なんてもう食えねぇよ」
と愚痴るのはリザードマンのリック・ミュラーシュ。
鱗で覆われてない箇所のみ防具を着け重鎧並の防御力を獲得し、
その軽さを活かした戦闘を信条とする超戦闘系の種族である彼。
将来は騎士に取り立てて貰いたいらしい。
「う……美味かったんだな! また、た……食べたいんだな!!」
この、太っちょはグリシーヌ・リリシム・ディランクス。
オークの女の子で上級貴族の娘だそうな。
食べることが大好きで常に何か食べている。
俺と対張る『食いしん坊』だ。
オークの国は料理技術が発達しなかったらしく、
素材が『まるごと』食卓に上がるらしい。
故に調理された料理に衝撃を受けた彼女は、日夜料理の研究をしているそうだ。
将来の夢は、自分で調理した食事を未来の旦那と食べることだそうな。
非常に乙女チックな夢である。
「この角煮はパンに挟めると売れるな……。
エル、マスタードをつければ……インパクトも出て、いけると思うぜ?」
「普通のパンよりも花巻……蒸しパンの方がいいかもな。
角煮にマスタードか……確かに合うな」
ダナンが金の匂いを嗅ぎつけ、売りに出そうと企んでいる。
流石に商人を目指す男は目の付け所が違う。
俺達は暫くの間、雑談に花を咲かせていた。
「休憩終わり~! 学校に帰るまでが訓練よ~!」
と言うスティルヴァ先生の声が聞こえる。
そろそろ戻る時間のようだ。
「ふぁ~い」と満腹になってダルそうな生徒の声。
うん、どこの世界でも同じなんだな! 生徒って!
「片付けて帰る準備だな」
俺の言葉に皆が片付けに入る。
今日も何事もなく訓練は終わり無事に学校に到着。
各パーティーでミーティングをして訓練終了だ。
◆◆◆
ふぃ~、何か疲れたんだぜ……。
自室に戻った俺は、予定より多くの料理を作るハメになり疲れていた。
料理は結構疲れるものなのだ。
ただ単に俺の体力が少ないという点もあるが。
これならばブッチョラビと戦ってる方が疲れない。
ここに、料理>ブッチョラビの関係が成立した。
ブッチョラビは泣いていい。
少し軽めにトレーニングを済ましてベッドに潜る俺。
「にゃ~」
布団が温まった頃に野良にゃんこが潜りこんできた。
外は寒かったらしく、身体がひんやりとしている。
普段なら目が覚めてしまうのだが、疲れていたので眠気の方が勝っていた。
ふわふわする感覚の中、野良にゃんこを抱きしめて目を閉じる。
次第に冷たさが温かみに代わる頃には、
深い眠りの中へと入りこんでいたのであった。