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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
329/800

329食目 魔法技奥義

 迫るシグルドの巨大な爪。

 あんな物が命中してしまおうものなら、

 俺は醤油せんべいのように、パキッとバラバラになってしまうことだろう。


「冗談じゃねぇ!〈アースボール〉!」


 ワンパターンと思われるが、

〈ウィンドボール〉では貫通されてしまう危険性があるため、

 確実性を取ってこちらを発動したことを俺は皆に伝えたかった。

 決して、俺が臆病だからではない。


 それに、〈岩山発破〉を警戒して離れてくれないかな~?

 と密かに思ってたりもする。

 しかし、彼は一切迷うことなくその爪を突き刺してきた。


 躊躇なさ過ぎぃ!?


 シグルドの鋭い爪は小さな山を容易に貫通し、

 俺の腹部を貫通するであろう位置にあった。


 ただし、それは俺が素直にそこにいればの話だ。

 俺は既に〈アースブレイク〉による高速地中移動にて、

 ヤツの背後に飛び出している!


 小賢しさなら、おまえの比ではないのだよ!


「取ったぁ!」


「甘い!」


 ゴシャッという鈍い衝撃音と共に地面に叩き付けられる。

 俺の脇腹にシグルドの尻尾が命中したのだ。

 口に広がる鉄の味は俺が吐血している証。


『いかん! 肋骨損傷、骨が内臓に突き刺さっている!

 早急に治療! 出血を止めるんだ!』


『うおぉ……体が千切れなくて助かったぜ! チユーズ、頼む!』


『わー』『わー』『たいへんだぁ』『いそげー』『いそげー』


 チユーズ全員が急ピッチで肉体の損傷を修復してゆく。

 俺が気を付けるのは即死ともう一つ、血液の大量喪失だ。


 残念ながら、血液の瞬時再生は俺を以ってしても叶わない。

 現在は〈増血丸〉による、自然回復でしか補えないのである。

 当然、戦闘中に呑気に〈増血丸〉を飲んでいる暇はない。

 飲んだところで、即座に血液が補充されるわけでもないので、

 血液を失えば体の再生が容易な俺でも、

 非常に危険な状態になってしまう。


「仕留め損なった!?」


「アレだ! 嬢ちゃんの持ってる木の枝が、

 ブラザーの攻撃を吸収したんだ! なんて頑丈な木の枝だ!」


 そう、俺の体が引き千切れなかったのは、手にした輝夜のお陰だった。

 彼女は咄嗟に俺の手を離れ、シグルドの尻尾と俺の体の間に割って入り、

 衝撃を緩和してくれたのだ。

 彼女の機転がなければ、俺は体を引き千切られて即死していたかもしれない。

 輝夜さまさま……である。


『私もやる時はやるのよ。えっへん』


『助かったんだぜ、輝夜。さぁ、反撃開始だ!』


 地面に転がっていた輝夜を拾い上げる。

 彼女の着ていたお気に入りの金色の布地が、衝撃で千切れ飛んでしまっていた。


 この戦いが終わったら、俺……新しい布地を買ってやるんだ(致命的なフラグ)。


 幸い、失った血液量は多くない。

 戦闘に支障は出ないだろう。

 問題は地上戦でシグルド相手にどう立ち回るかだ。


 今しがた〈アースボール〉で作った小さな山は、

 ヤツに軽々貫かれることが判明した。

 しかし、振り下ろす攻撃には耐えられるようなので、

 使用にはタイミングが必要になるだろう。


 問題は突きによる攻撃ということになる。


 この強烈な突きを封じないと俺に勝ち目はない。

 現在持っている魔法で、

 ヤツの突きを封じることのできるものは無いと言っていいだろう。


 こりゃまいったぁ、どうすっかなぁ?(白目痙攣)


 このままでは恐怖のあまり、大地をおしっこで濡らしてしまうことだろう。

 それだけは断固として阻止しなければ!

 ん? 大地を濡らす? あぁっ、その手があったか!


 大切なのは『イメージ』だ、と桃先輩は言った。

 まだ試していない組み合わせの魔法があったのだ!

 ぶっつけ本番になるが迷っている時間はない、やってやるぜ!


 まずは、いつもどおり仕込みからおこなう。

 まず指定した範囲の地面を〈アースブレイク〉で砕き解す。

 この際、穴は開けずにおく。そして、この行為を悟られてはならない。


 指定位置は俺の足下だ。

 つまり、俺が沈んでしまわないような、

 絶妙な硬さを維持することが絶対条件である。


「今度こそ決める! もう汝の岩山発破は通用しない!」


 シグルドが突撃を開始した。

 えぇい、堪え性のないヤツめ! そういうヤツは女に嫌われるぞ!


『エルティナ! 来るぞ!』


『わかってる!』


 最後の仕上げだ、俺は〈ウォーターボール〉を発動し水の爆弾と化した。

 爆発したそれは辺り一面を水浸しにする。


「なんのつもりだ!? うっ、これはっ!?」


 ずぶりと黄金の竜の足が地面に沈んでゆく。

 上手くいった。

 シグルドは俺の足下に発生した泥沼にハマったのだ!


 俺が呼び寄せた大量の水は細かく砕いた大地と混ざり合い、

 ドロドロとしたものとなった。

 もともと粘土質の土だったようで、効果は更に倍増したようだ。

 これで足を踏ん張っての突きはできまい。


「搦め手が多過ぎるだろうが! ブラザー、このままじゃ不利だ!

 一旦、泥沼から出よう!」


「いや、このまま攻撃だ! ぬぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 シグルドの恐ろしいところは、この折れない意志の強さだ。

 彼は泥を撒き散らしながら、尚も俺に向かってきた。


「うおっ!?〈アースボール〉!」


「その防御は通じぬ!」


 シグルドが必殺の突きを繰り出してきた。

 それを俺は〈アースボール〉を発動し、小さな山になることで防ごうと試みる。


 これは賭けだ。

 シグルドの突きの威力は泥地に足を取られるせいで落ちているはず、

 それならば、俺のいる中心部まで爪は届かないだろう……たぶん(震え声)。


 ズシンという振動が来た。

 どうやら、爪は中心部まで届かなかったようだ。

 カウンターの魔法技〈岩山発破〉のチャンス到来である。


『まて、シグルドは上だ!』


『なん……だと……』


 小さな山の中にいる俺は土に覆われているため、外の状況はわからない。

 そこで大きな耳による聴覚と振動を頼りに〈岩山発破〉を発動するのだが、

 現在は桃先輩が憑いていてくれているため、

 外の状況を薄い半透明のプレート君で表示してくれるのだ。

 映像には確かに宙に浮いているシグルドの姿があった。


『ヤツは突きをおこなうのではなく、

 小山を足場に上空へ飛び〈岩山発破〉を誘発しようとしている!』


『野郎! 威力の落ちた〈岩山発破〉を耐えて上空から攻撃を決める気だな!』


 強力無比な〈岩山発破〉であるが、こいつにも欠点がある。

 カウンター用に作りだした魔法技であるため、

 最大の威力を発揮するには至近距離でなくてはならないのだ。

 そのため、距離が離れてしまうと効果が薄く、

 シグルドほどの強靭な肉体の持ち主ならば耐えられてしまう可能性が高い。


 だが、このまま何もしなければ落下速度+体重+覚悟の量=破壊力の

 とんでもない必殺の一撃が漏れなくもらえるだろう(いらない)。


 俺の選択は二つ、コソコソ逃げるか……迎え撃つかだ。

 だが俺は第三の選択肢を強引に作り出す。

 それは……ヤツを撃墜するという選択肢だ。


『エルティナ! 極めるぞ!!』


『応! シグルド、おまえはそこが安全だろうと踏んだのだろうが、

 それは大きな間違い! そこはもっとも危険な場所だぁ!

 見せてやろう……俺の必殺奥義を!』


 俺の魔法は基本的に広範囲の無差別攻撃である。

 だが、たった一つだけ、ある方向だけに放てる魔法技があるのだ。

 その一撃は恐らく俺の魔法技の中で最強を誇る。

 俺の恐るべき破壊力を持った魔法が、たった一点に向けられるのだ。

 その威力は推して量るべし。


『怒れる山よ、その大いなる怒りを今こそ解き放て!

 魔法技奥義!〈怒轟大噴火どごうだいふんか〉!!』


 俺は小さな山の天辺に穴を開け〈ファイアーボール〉を発動させた。

 そして、大地から伝わる大いなる力を感じ取る。

 その力とは溶岩マグマの力だ。

 火の精霊と土の精霊がタッグを組んでハッスルしているのである。


 土を溶かしながら爆発のエネルギーは上空へと向かって行く。

 そこには黄金の竜シグルドの姿があった。


「っ!? マグマだと!! 火山の噴火だっていうのかよぉ!!」


「マイク! 桃力〈固〉!!」


 シグルドは桃力を使い、怒りのマグマを止めようと試みる。

 だが、時すでに時間切れ。

 桃力を発動する前にシグルドはマグマに飲まれ、

 瞬く間に蒸発してしまったのだ。


「ふきゅん、シグルド……これが俺の力だ」


 戦いはあっけなく終わってしまった。

 ヤツの肉は食えなかったが、仕方ないのないことだろう。

 シグルドは強かった。

 俺の全力……奥義〈怒轟大噴火〉を以って、ようやく倒せたのだから。


『エルティナ……!』


 そんな俺に桃先輩が声をかけてきた。

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