328食目 激闘
俺の目の前にはシグルドの無防備な白い腹がある。
そこに俺の必殺の拳を叩き込んでやりたい衝動に駆られるが、
いかんせん俺の腕は短く、仮に当たったとしても
俺の拳が「ひぎぃ」と悲鳴を上げる未来が脳内にハッキリと浮かび上がった。
この間、僅か一秒の出来事である。
『妙なことは考えずに〈魔法技〉で攻めろ』
『わ、わかっているんだぜ』
この絶好のチャンスを逃すつもりはない。
シグルドがいつまでも空中に居るのは困るので、
ここいらで地上に叩き落してくれる!
まずは〈俺式ウィンドボール〉を発動、続けて〈ライトニングボール〉だ。
「くらえっ!〈風雷竜巻〉!」
「ぐっがっがががががががが!?」
この魔法技は〈俺式ウィンドボール〉の強化版と考えればいい。
俺の〈ウィンドボール〉は相手との距離を引き離すのに有効であったが、
この〈風雷竜巻〉はその効果に電撃によるダメージを加えたものである。
範囲内に入った者は感電しながら吹き飛ばされるのだ。
しかも、感電によるマヒ効果も狙えるエグイ魔法技である。
もちろん、無差別攻撃だぁ(邪悪顔)。
物凄い衝撃音がし大地が揺れ、そこに生えている木々が大きく揺さぶられた。
シグルドが体の自由を奪われ地面に叩き付けられたのである。
流石にあのタイミングでは、魔法技を固めることはできなかったようだ。
しかも、都合がいいことに、そこは〈戒めの蔓〉の種を埋めた場所である。
「ふっきゅんきゅんきゅん……やはり、天は俺に味方しているんだぜ!
輝夜、〈戒めの蔓〉だ! ヤツをイヤ~ンな姿で縛って差し上げろ!」
『え~……それはちょっと』
輝夜にまで否定されてしまった。
やはり、俺には味方がいないようだ。鳴きたい……ふきゅん。
それでも〈戒めの蔓〉によりシグルドは雁字搦めになり、
行動を封じることに成功した。
よし、この隙に〈中華包丁〉を生成してくれる!
俺は急ぎ〈中華包丁〉の生成に移る。
そして、生成の八十パーセントを過ぎた辺りで、
シグルドが蔓の戒めから脱出した。
自分を縛り付けていた蔓に、口から出した桃色の球体をぶつけ破裂させた瞬間、
それは凄まじい咆哮を放ったのである。
圧倒的な咆哮の衝撃は丈夫な蔓をズタズタにし吹き飛ばしてしまった。
そんなものを至近距離で炸裂させれば自身を傷付けることになる、
にもかかわらずシグルドは決断し実行した。
「やってくれたな、エルティナ! 今度はこちらの番だ!」
シグルドが口から無数の桃色の球体を飛ばしてきた。
先ほどの咆哮の爆弾である。
冗談ではない。
魔法とは違うので、当たろうものなら一撃でご臨終になってしまう。
俺は常に一撃死と隣り合わせの戦いを強いられているのだ。
下手をすれば鼻息でも死ぬかもしれない(白目)。
『えぇい、後もう少しだというのに! いもいも坊や、頼む!』
『いもっ! いもいもっ!!』
回避運動はいもいも坊やに任せ俺は〈中華包丁〉の生成に集中する。
ひらりひらりと華麗にかわすいもいも坊や。
だが、いきなり俺の下でかわしたはずの音玉が止まったのである。
「桃力〈固〉、解除!!」
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
しまった、この音玉は桃力で作られていたんだ!
なら、通り過ぎたと思わせ、背後に固定した後、桃力を解除すれば……!
爆発的な咆哮の衝撃波が俺に襲いかかった!
『魔法障壁六十層展開!』
「クソッタレが!」
連鎖的に放たれていた無数の音玉が爆発を起こした。
襲い来る破壊の音に魔法障壁が悲鳴を上げる。
桃先輩が強制発動した魔法障壁だけじゃ追い付かない!
俺は〈中華包丁〉を盾にし身を守った。
「あれだけの音玉で耐えるとは……化け物め」
「やってくれるじゃねぇか、シグルド!
お陰で〈中華包丁〉がパーになっちまったぞ!」
即死は免れたものの、中華包丁と右足の太ももから先が吹き飛んでしまった。
「どういう根性してんだよ、嬢ちゃん。
お宅、足が吹っ飛んでるんだぜ?」
シグルドに憑いている桃先輩のマイクが信じられないといった声を上げた。
当然、これにはカラクリがあったりする。
医療魔法〈ペインブロック〉を使っているのだ。
これにより、俺は痛覚を遮断し痛みによる行動の遅延を防いでいる。
〈ペインブロック〉を使わないと、俺は痛みのあまりに白目痙攣をし、
ちょろちょろとおしっこを漏らしていたことだろう。
危ない、危ない……。
後はチユーズに治療させれば問題は解決する。
要は死ななければ安い状態にしてあるのだ。
『なおせー』『なおせー』『はやく』『はやく』『このばかたれがー』
……チユーズにまで怒られだした。
俺の味方、かむひあ~!
「右足が再生した! 一撃で仕留めないと勝てないってことかい! ファック!」
「ふっきゅんきゅんきゅん……そういうことだぁ!」
「ならば、一撃で仕留めればいいだけのこと!」
再びシグルドが空に向かって飛ぼうと翼を広げた。
こちらは小回りが利くが、速度は向こうの方が早いことが判明している。
ドッグファイトになったら、あっという間に撃墜されてしまうのは明白。
とは言っても、地上戦ならもっと悲惨な性能差に鳴くことになる。
それは相手も同じことを考えているはずだ。
『桃先輩、勝負を懸ける! 地上戦だ!!』
『わかった、アレを使うんだな?
シグルド達の虚を突く方法もこれが最後だ。きっちり決めろ!』
俺は地上に降り、月光蝶モードを解除。
いもいも坊やを休ませると共に、シグルド達の虚をつく。
「ワッツ!? 地上戦を仕掛けてきやがった!」
「どういうことだ? だが、我のやることは変わらぬ!」
シグルドが突撃してきた。
細身になりその駆ける速度、動作、共に洗練されており、
俺達の予想を遥かに超えた速度で迫ってきた。
だが、進化した俺もまた、
以前と比べ物にならない速度になったのだ! 見よ!
へちょ、へちょ、へちょ……。
『もっと早く走れんのか?』
『以前の1・5倍の速度なんだぜ』
おのれ、シグルド! またしても俺の見せ場を奪いやがって! 許さん!
「エルティナ、覚悟!!」
シグルドが宙を舞い、巨大な爪を振り降ろしてきた。
だが、俺は慌てない。
ここまでは予想どおりだからだ。
「甘い!〈アースボール〉!」
俺は土属性下級攻撃魔法〈アースボール〉を使用し小さな山と化し、
シグルドの攻撃を防ぐと共に、次なる魔法技の準備を進める。
と言っても魔法を発動するだけだがな。
「迂闊なヤツめ! くらえぃん! 魔法技禁じ手〈岩山発破〉!!」
「何っ!? ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
これぞ、俺の数ある魔法技の中でも、
一、二を争うほどの凶悪な複合魔法攻撃だ。
〈アースボール〉を使用し、小さな山となることによって攻撃を防ぎ、
その内部にて〈ファイアーボール〉を発動する。
するとどうだ、小さな山は爆発を起こし、岩による物理ダメージ、
爆発による熱ダメージ、熱波による火傷の追加効果が望める、
恐るべきカウンター魔法なのだ。
例によって、このカウンター魔法も無差別に範囲内の者に襲いかかる。
仲間がいると使えないんじゃ~!(白目痙攣)
「ブ、ブラザー!?」
「ま、まだだ! まだ終わらん!」
「し、信じられん。岩山発破の直撃を受けてまだ立ち上がるのか!?」
「だろうな、覚悟の量が段違いなのさ。だが、それは俺だって同じだ!」
岩山発破の直撃を受けたシグルド。
その身体を埋め尽くす黄金の鱗の大部分は吹き飛び血に塗れている。
そして、片方の翼が吹き飛んでいるではないか。
『これは、勝ったな』(確信)
『調子に乗って油断すると、ひっくり返されるぞ』
空を飛べなくなったシグルドなど、ただのシグルドだ。
俺は月光蝶モードで空へ上がり、魔法技をぶっぱなってくれるわ!
ふははは! 一方的に攻撃される怖さを教えてやる!(邪悪顔)
『いもいも坊や! 月光蝶モードだぁ!』
……あれ? いもいも坊やの反応がない。
『ぐ~ぐ~いもっ。ぐ~ぐ~いもっ』
アクシデントォ! いもいも坊やが、おねんねしちまったぁ!!(白目)
これじゃあ、お空に昇って無双できねぇじゃねぇか! がっでむ!
そして、眼前には砂煙を撒き上げて突っ込んでくるシグルド様のお姿が!
誰か助けて!(悲痛な叫び)
果たして、俺はシグルドの攻撃を防ぐことができるのだろうか?