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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
326/800

326食目 必然

 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


 ユウユウと悪魔レヴィアタンとの激闘をなんとか制した我は、

 最後になるであろう応急処置を受けていた。


『上手くいってよかったぜ。

 想定よりも威力があったから突破されるかもしれない、

 と冷や冷やしたもんだがな』


「桃力〈固〉の連続防御壁の展開か……アレは本当にギリギリだったぞ。

 先に桃力の方が尽きかねん」


 我はマイクの作戦により三つ巴の戦いを制したのだが、

 それは本当に紙一重の勝利と言えた。

 マイクの作戦とは我の桃力の特性を活かした防御壁を何層も生成することにより

 ユウユウとレヴィアタン、

 更には我の放った暴虐の音玉の衝撃をも止めてしまおうというものであった。


 防御壁一枚当たりの桃力の使用量は、

 我の桃力の総量の十分の一を使用するそうだ。

 そして彼らとの戦闘により、

 既に桃力の総量の六割を消費していた我には、

 三枚ほどの防御壁を張るので精一杯であったのだ。


 そこで、我はハッタリを試みた。

 暴虐の音玉の威力を抑え、姿形だけを大きく見せて放ったのだ。

 これは自然界でもよく使われる手法で、

 自分の体を大きく見せて無駄な戦闘を回避することを目的とするものだ。


 非常に危険な賭けであったが、

 ユウユウがまんまと乗ってくれたお陰で上手くいくことができた。

 彼女はレヴィアタンの放ったドス黒い水の槍と、

 我の放った暴虐の音玉の威力が同等の威力であると錯覚したのだろう。

 その両方に渾身の力を込めて拳を振り下ろしたのだ。

 威力が高ければ高いほど、返ってくる衝撃も強くなるものだ。


 威力を抑えていた我の下には、二人ほどの衝撃波はこなかった。

 それでも桃力の防御壁三枚を張って、ようやく抑えられたほどの衝撃だ。

〈アシュラ・インパクト〉のような点による衝撃でなく、

 面による衝撃であったのも幸いした。

 威力が拡散したお陰で最後の防御壁で止めることができたのだから。


 後は先に衝撃波が通り過ぎた空間に移動し、

 桃力の防御壁を解除すれば完全に回避成功である。


「下手をすれば、動けないでまともに衝撃波を受けていたかもしれぬな」


『かもな……とんでもねぇガキンチョどもだよ、まったく』


 防御壁で衝撃を止めたものの、

 限界まで桃力を使ってしまったため、まともに動ける力が残っていなかった。

 だが……その時、我には聞こえたのだ。

〈シグルド〉の励ましの声が。


 もう、指一本動かないと思っていた身体に、

 熱を帯びた気力が流れ込んでくるのを確かに感じ取り、

 我はその場から力を振り絞り飛び退いた。


「桃使い。想いを力に変える陽の戦士……か」


『ん? どったの、ブラザー。今更だな?

 そうさ、桃使いは切なる想いを背負い、力に変え、前へと歩き続ける戦士さ。

 たとえ志半ばで倒れたとしても、

 その想いは後から来た同士が背負って、前へ……前へと進んでゆくんだ。

 もう、何百、何千年も間、そうして存在してきたらしいぜ』


「そうか」


 だとすれば、我は〈シグルド〉の想いを背負い前に進んでいるのだな。

 そして、エルティナに勝利すれば、彼女の想いを背負い歩むことになる。

 小さき強者エルティナはもう目前だ。

〈シグルド〉の残してくれた食料はここで全て食らい、

 桃力に変換することをマイクに告げた。


『あぁ、それには俺も賛成だ、ブラザー。

 応急処置も最低限にして桃力に回すんだな?』


「そうしてくれ」


 きっと、今度の戦いは肉体的なものだけではない。

 桃力が勝負のカギとなるだろう。

 エルティナの桃力が、どのようなものかはわからない。

 しかし、それを制しない限り我に勝利はないだろう。


 それともう一つ……戦う前に確かめねばならぬことがある。


 我は夜空を見上げた。

 満天の星空が目に飛び込んでくるのだが、

 何故かそれは月が流す涙に見えたのだ。

 それは感傷的になった我が見た錯覚か?

 それとも、本当に月が嘆き悲しんだ故に見せた姿であろうか?


「決戦の時はきた……後は行くのみ」


『ブラザー、桃力の変換がだいたい完了したぜ。

 後はゆっくり消化しながら変換していくしかないな』


「十分だ、行こうマイク」


『あぁ、行こうぜ、ブラザー! どこまでも憑いて行くからさ!』


 我らは再び歩み出した、この先に待つ宿敵の下へと。

 この戦いの結末はきっと月だけが知っているのだろう。

 だが、我は悔いのない戦いをするのみだ。

 それが、エルティナに対してできる、我の精一杯の礼儀なのだから。




 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


「エル様! ガルンドラゴンのシグルドが向かってきてます!

 お願いです、わたくしに掴まって避難をしてくださいまし!」


 ブランナが半べその状態で、俺にそう懇願してきた。

 ここには俺とライオットしかいない。

 この周辺に魔族の部隊が来たらしく、

 その対応にムセルも増援として送ったからだ。


 俺としてもシグルドとの決闘に水を差して欲しくなかったから、

 と言うこともあるが、

 本当の理由はムセルを決闘に巻き込みたくなかったからである。


「だが断る」


「何故でございますか!? シグルドは危険ですわ! 

 アレはわたくし達の想像を遥かに超えて成長しております!

 ユウユウですら持て余す怪物なのですよ!?」


「ブランナ、俺は逃げる気はない」


「エル様……」


 彼女は心の底から俺を心配してくれているのだろう。

 だが、俺には引けない理由があるのだ。

 そう……確かめなくてはならない。


「ありゃ? まだ戦いが始まってねぇな」


「あんた、ガルンドラゴンを追い越しちゃったんじゃないの?」


 そこにオフォールとアマンダがやってきた。

 ということは、ガイとユウユウはシグルドにやられたってことか。

 ならば、そろそろ準備をしなくてはならない。


「ツツオウ、こっちにくるんだぁ」


「にゃ~ん」


「シシオウをどうするつもりだ?」


 ライオットの肩に載っていたツツオウを膝に載せ、

 俺は〈フリースペース〉からワイングラスとぶどうジュースを取り出し注いだ。

 そして、手頃な岩に腰を下ろし大物感をたっぷりとだす。

 これで準備完了だ。丁度、ヤツも来た。


「ふっきゅんきゅんきゅん……よく来たな、シグルド」


「にゃ~ん!」


「待たせたな、小さき強者エルティナ」


「おいおい、マフィアのボス気取りかよ?」


 俺は表面上、余裕と平静を保っているが内心では非常に焦っていた。

 一時間ほど前に会ったシグルドが、

 アホみたく成長していたのを感じ取ったからである。


 それは、はぐれた鉄の塊スライムを十匹ぐらい纏めて葬り去って、

 一気にレベルアッポしたのと同様のチート感であった。

 こんなの許されざるよ!(苦情)


 しかし、そんなヤツでも自重という名の枷を外した俺の敵ではない。

 この時のために、俺は昼食後の昼寝を惜しんで鍛錬を重ねてきたのだ。

 今こそ、その成果を見せびらかしてくれるわ!


「マフィンのボスだと思ったら大間違いだぁ」


「マフィアな」


「桃先輩の適切なツッコミで俺のハートがギザギザになった」


「……エルティナ、戦う前に聞いておきたいことがある」


 桃先輩のツッコミに動揺していた俺に、

 シグルドが畳みかけるように質問をしてきた。

 本来なら問答無用で「断る」と言ってやるところであるが、

 俺もシグルドに聞きたいことがあるので特別に聞いてやることにする。


 寛大な俺に感謝するがいい(尊大)。


「汝はシグルド・ファイムという男を〈知っている〉か?」


「知っている」


 シグルド・ファイム……初代エルティナの想い人。

 知らないはずがない。

 その想いでは初代のもっとも大切なものであり、

 最期まで穢されぬように守り続けたものだからだ。

 だが、俺は実際に彼に会ったことはない。

 しかし、もしも出会ったら初代の想いを伝えようと思っていた。


 今度は俺の番だ。

 と言っても、既に答えは出ているようなものだが。


「シグルド、おまえはエルティナ・ランフォーリ・エティルという女性を

〈知っている〉な?」


「……知っている」


 もう、これ以上話すことはない。

 俺達の最初の出会いは偶然だった。

 だが、今回はそうじゃない……必然。

 そう、俺達は互いの初代に導かれ再会したのだろう。


「ライ、皆を連れてここから離れてくれ」


「バカを言うな、エル。

 俺だって、こいつと戦う権利があるんだぜ」


「頼む」


 俺の顔を見た彼の顔が一瞬、驚きで満たされる。

 果たして、俺はどんな表情をしていたのだろうか?


「……わかった」


「すまん……うずめ、さぬき、おまえらもライオットと共に離れていてくれ」


「ちゅん!」「ちろちろ!」


 しかし、それでもブランナは俺を戦わせまいとした。

 その姿は必死であり、忠臣の鑑とも取れるような姿であったが、

 俺は立ち止まるわけにはいかなかったのだ。


「ブランナ、おまえの主として命じる。

 俺の勝利を信じて、この戦いを見届けろ」


「エ、エル様……! は、はい。いえ、御意でございます」


 俺は初めてブランナに〈命令〉をした。

 彼女に命令をしたことなど一度たりともない。

 ブランナは確かに家臣ではあるが俺は友人として接してきたつもりだ。

 でも今回ばかりは、主として命令を下した。

 それは、シグルドとの戦いを誰にも邪魔されたくないからだ。


「ライ、皆を頼む」


「……あぁ、勝てよ、エル」


 俺は宿敵ガルンドラゴンのシグルドに向き直った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 珍獣ェ…いやまあ役割的に今回それっぽいねとはおもったけども!
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