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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
325/800

325食目 超越者達の宴

 ◆◆◆ オフォール ◆◆◆


 はい、現場のオフォールです。

 現在俺がいる崖の下では、三名の超越者達が互いを牽制しております。

 幸いにもここまで被害は及んでおりませんが、

 それも時間の問題かと思われます。


「か、帰りてぇ……」


「あら、奇遇ね? 私もよ」


 白目を剥いて全力で死んだふりをしている俺の下へ、

 アマンダがびしょ濡れの状態でやってきた。

 あの大津波の中、よく無事だったな。


「よく生きていたな」


「酷い目に遭ったわ。

 あの津波の中を泳いでいたら波の上まで出れたから、

 ここまで跳んできたのよ」


 彼女は体に付いた水分をプルプルと体を震わせて吹き飛ばす。

 俺にまで飛んでくるので、やめて欲しい。


「泳いだって……あぁ、あの〈犬かき〉か」


「犬っていわないで。そう、言うなれば〈ウルフクロール〉よ!」


 アマンダは最近少し出てきた胸を張って自慢顔をした。

 彼女が言うには犬かきとウルフクロールは微妙に違うらしいが、

 俺にはその微妙な違いがまったくわからない。

 取り敢えずわかるのは、その犬かきがとてつもない速度であり、

 後方で泳いでいる者にとって大迷惑だということくらいだ。


 恐るべき速度で水をかくため、後ろに膨大な水しぶきが上がるのである。

 そのため、後ろで泳いでいたエルティナが浮き輪をしていたにもかかわらず、

 膨大な量の水を被り沈没してしまったほどである。


「しかしまぁ、おまえも大概だな。

 俺はもう、あいつらにはついていけねぇよ」


「まぁ、あの三人は異常だしねぇ。

 私達は傍観者に徹するのが一番だわ」


 そう結論付けたところで三者が動いた。

 一番最初に動いたのはユウユウ、次いでガイリンクードの悪魔、

 最後に出遅れたというよりは、わざと遅れた感じのするガルンドラゴンだ。


「引き千切ってエルティナに調理してもらおうかしら!

 きっと、美味しく調理してもらえるわよ? ウナギさん!」


「誰がウナギだ、このクソガキ!

 てめぇはグチャグチャに潰して、ハンバーグにでもしてやんよぉ!?」


「この糞野郎、調子に乗って能力を使い過ぎんじゃねぇよ!」


「ブラザー、この状況を上手く利用するんだ! 必ずチャンスは来る!」


「わかっている。シグルドなら、きっとそうするだろうからな」


 力を暴走させる者、力に振り回される者、力を使いこなす者。

 果たして女神はこの三人の誰に微笑むのだろうか?

 俺達が祈ることはだた一つ。


「「無事に帰りたいです」」


 俺とアマンダのセリフが寸分違わず重なった。


ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「くぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ユウユウとガイリンクードの悪魔が激突した。

 彼女の鉄拳がうねりを上げ悪魔に接触すると、

 ぬるりとした表皮が恐るべき威力を秘めた拳を受け流したのである。


「やっぱり、アレってウナギよねぇ」


「俺、生きて帰ったらエルティナに〈うな丼〉作ってもらうんだ」


 アマンダの言うとおり、あの悪魔はウナギにしか見えなかった。

 捌いて蒲焼にしたら美味しそうである。

 でも、よくよく考えたらガイリンクードの腕なんだよなぁ。


「桃力、〈固〉!」


「あぁ!? 邪魔すん……ぶべっへぇ!?」


 ピンク色の光が悪魔を覆うと、途端にユウユウの拳が直撃しだした。

 どうやらまたあの能力を使ったらしい。


「HAHAHA! その〈ぬるんぬるんの鱗〉はもう役に立たないぜぇ?

 戦いはフェアにやらねぇとなぁ?」


「この見習い風情が、調子に乗ってんじゃねぇぜ!」


 またしても悪魔が水を掻き集め始める。

 しかし、今度は津波ではなく針状にして無差別にばら撒き始めた。

 その威力は凄まじく木や岩までもが貫通してゆくほどだ。


 つまり……。


「うをぉぉぉぉぉぉぉっ!? 全力回避ぃぃぃぃぃぃっ!!」


「きゃー! きゃー!?」


 俺達にもとばっちりが来るわけだ。

 辛うじて水の針をかわしているが、こんなものを何度もかわしたくはない。

 無差別範囲攻撃は、勘弁していただきたいものである。


「こんな小技を放って、ふんぞり返ってんじゃないわよ!」


「そいつはどうかな?〈サンダー・インストール〉! ショット!!」


 ガイリンクードが魔導銃に、

 雷属性下級攻撃魔法〈ライトニングボール〉を詰め込み放った。

 彼の銃から弾丸の形をした雷が放たれ、

 無差別に放たれている水の針に命中すると、

 それは雷を纏った水の針へと変化したではないか。


 それが水の針を物ともせず拳で打ち砕いていたユウユウに命中すると、

 バチバチと激しい音と光を放ち、彼女を感電させるに至ったのだ。


「戦っているのは糞野郎だけじゃないんだぜ? 恋乙女バーサーカー!」


 ガイリンクードの得意とする属性付与だ。

 これは簡単そうに見えるが非常に高度な技術であり、

 対象が小さければ小さいほど付与の成功率が低くなる。


 彼が言うには大切なのはイメージだという。

 そこでイメージを弾丸に絞り込んで成功率を上げているのだそうだ。

 そのため、一度の付与で装填数と同じ六発までしか付与できないらしい。


 付与できるのは魔導銃の耐久力の問題から下級攻撃魔法のみだが、

 その威力はただ撃つよりも格段に違っていた。

 魔法自体が圧縮されたことによって高威力と高速度を獲得していたのだ。

 それが魔導銃に施された加速機能によって発射されるため、

 よほどのことがない限り回避することは困難だ。

 ガイリンクードの銃の腕前もあって、撃てば必ず命中するだろう。


 では直接撃ち込めばいいのではないか?

 と思われるが、これはこれで問題がある。


 このうち出す弾丸は魔力で作られた弾丸であるので、 

 魔法抵抗力の高い者には防がれてしまうのだ。

 つまり、エルティナやユウユウといった、

 ふざけた魔法抵抗力を持つ者には効果が薄い、

 もしくはまったく効果がない、という状況に追い込まれてしまう。


 そこでもう一つの効果、

 弾丸による強制付与を用いて魔法抵抗を突破させ内部で炸裂させる、

 といった手段を取ったのだ。


 これは直接、魔導銃内の弾丸に付与すると、

 発射の際に魔導銃が付加に耐えられず暴発してしまうからだそうだ。


 銃に興味があった俺は、銃に詳しいガイリンクードと語り合っている内に、

 この魔法付与の情報を得るに至ったのだが、

 実際に目撃すると開いた口が塞がらない。


 それに、あの水の針は魔力で飛ばしているわけではないようだ。

 魔法抵抗で防がれていないからである。

 物理的に針の形をした水を飛ばせる方法なんてあるのだろうか?

 あるにはあるのだろうが、それを使用しているのが悪魔なので、

 俺達では扱えない技術なんだろうなと結論付けた。


 つまり、考えたところで無駄だということだ。 


「痛ぅ……まさか、貴方にも感じさせられるなんて。

 素敵よ、ガイリンクード! あぁ……でも、どうしましょう?

 シグルドと貴方、どちらかを選ぶなんて私にはできないわぁ!」


「何を言っているんだ? ユウユウ」


「でも安心してちょうだい、私は懐の大きい女よ!

 二人ともたべてあげるからぁ!」


 黒煙と血飛沫を撒き散らしながら恍惚の表情で再度突撃する様は、

 決して恋する乙女ではなく狂戦士である。

 あんな彼女に迫られたら間違いなく俺は失禁する。


「うわぁ……ガイリンクード君、ユウユウさんに惚れられちゃった?」


「心の底から同情するぜ」


 三人の戦いは佳境へと差しかかっていた。

 戦闘によるダメージが蓄積しているガルンドラゴンは元より、

 ユウユウの疲労具合も相当なものだ。

 ガイリンクードも悪魔に生気を吸い取られているのか、

 顔が真っ青になっている。


 それでも彼らは動きを止めることなく戦っていた。

 動きを止めれば、その瞬間に命を狩られることを理解しているためである。


 そして、俺達も流れ弾を回避するために必死に動き回っていた。

 要領の良いダナン辺りなら、さっさと逃げているのだろうが、

 その辺が妙に不器用な俺達は、この戦いの結末を見届けようと決めたのだ。


 ユウユウが怖かったという理由もあるが、

 一応仲間である彼らを見捨てて逃げるわけにもいかない、

 と思ったことも理由の一つである。


「教えてくれ、アマンダ。

 俺は後、何十分流れ弾を回避すればいいんだ?」


「知らないわよ。いい加減に決着つかないかしら?

 流石に疲れてきたわ」


 だが俺達の心配を他所に、その時は前触れもなくやってきた。


「小僧、一気に決めるぞ!」


「好き勝手やりやがって! ありったけだ……持っていけ!」


「ブラザー、ここが勝負どころだ!」


「わかっている!」


「あははははははははっ! 素敵よ貴方達!

 とっておきの一撃をあ・げ・る!!」


 いやな予感しかしない。

 三者の最大の一撃がぶつかり合おうとしているのだ。

 この翼で飛べたなら、迷うことなく飛んで逃げていただろう。


「アマンダ、覚悟はいいか? 俺はできていない」


「できているわ……って、できていないの!?」


 こんなの覚悟以前の問題だ。

 もう助かる光景が想像できない。

 たぶん、攻撃の余波でバラバラに吹き飛ぶんじゃねぇのか?


 あぁ……短けぇ人生だったなぁ。


「くたばれぇ!〈ディープブルー〉!!」


「暴虐の音玉!!」


「喰らいなさい!〈メイス〉!!」


 悪魔からはドス黒い水の槍が放たれ、黄金の竜からはピンク色の光の玉、

 そして、狂戦士は拳を握りしめ、それらに向かって振り下ろした。

 この世の終末としか思えない光景であったのは間違いない。

 俺もアマンダも、エルティナのような遠い目で、それを眺めていたのだから。


 やがて、眩いばかりの閃光が世界を包み俺達は意識を失った。




「おっつつつ……俺、生きてる」


 どれくらい時間が経ったのだろうか?

 俺は奇跡的に生きていた。

 というか、ケガひとつ負っていない。

 毎日地面に激突しているせいで、無駄に頑丈になってしまったのだろうか?


「それよりもアマンダは……ぶっ!?」


 彼女は頭から地面にめり込んでいた。

 ピクピクと痙攣している辺り、どうやら生きているようだ。


「ふっ……赤に緑か。鮮やかな色合いだな」


 そう格好付けながら地面にめり込み、

 スカートが捲れて薄い緑色のパンツが丸見えになっているアマンダを、

 急いで引き抜いた。


「ぶはぁっ! 死ぬかと思ったわ!?」


「あぁ、お互いにな」


 俺達は三人の戦いがどうなったかを確認するために、

 崖の下を恐る恐る覗いた。


「うわぁ……」


 もう「うわぁ」としか言えなかった。

 そこには元の原型を残さないほど形を変えた地形があったからだ。


「あ、あそこにガイリンクード君がいるわ! どうやら生きているみたい」


「あぁ、ユウユウもいるな」


 そこには満身創痍になったガイリンクードと、

 傷だらけになったユウユウの姿があった。

 彼の右腕は元の腕に戻っている。

 恐らくは悪魔の姿を維持できなくなって戻ってしまったのだろう。


 そしてユウユウもまた体力を使い果たしたのか、

 ガイリンクードに抱きかかえられ、すぅすぅと寝息を立てていた。


 しかし、ガルンドラゴンの姿は見えない。

 あの攻撃で消し飛んだのだろうか?


 俺達は急いで崖下へと向かった。

 無論、崖から飛び降りるという無茶なマネはしない。

 あんなこと、できるわけがないからな。


「ガイリンクード! 大丈夫か!?」


「よぉ、オフォール鮮血レッドウルフ

 大丈夫……とは言えねぇな。

 しかしまぁ、大暴れしてくれたもんだ、恋乙女ユウユウも」


 疲れた表情で微笑む彼はユウユウの乱れた髪を整えると、

 彼女を静かに横たわらせ立ち上がった。


「……っく!」


「おいおい、無茶すんな。とても歩ける状態じゃねぇだろ?」


「だが、行かねぇとならねぇんだ。

 怒竜ガルンドラゴン聖女ホーリーレディの下へと行っちまった」


「なんですって!?」


 俺とアマンダは互いの顔を見合わせた。

 あの激しい衝撃にもかかわらずガルンドラゴンは生きており、

 尚且つエルティナの下へと向かったのだという。


「あぁ、やられたぜ。

 俺達は攻撃アタック衝撃インパクトをまともに喰らったが、

 あいつは衝撃インパクトそのものを、ピンク色の輝きで止めちまったのさ。

 最初からそれが狙いだったんだと思う。

 あんななりをして、とんでもねぇ策士ちえものだぜ……痛ぅ……!」


「それ以上は無理よ! それに、悪魔はどうしたの?」


「あいつは……攻撃アタックを喰らって失神のびちまったよ。

 攻撃アタックをまともに喰らっていたからな。

 ユウユウもまともに喰らっていたが……そっちは体力スタミナ切れだな。

 まったく、可愛い顔して眠りやがって」


 ユウユウは満足した顔で眠っている。

 先ほどの狂気に満ち溢れていた顔と同じものだとは到底考えられない。


「あ、そうだ……これをユウユウに返しておかないと」


 俺は彼女が外して投げ捨てた髪飾りを、彼女の髪に着けてあげた。

 ……あれ? 左右の長さが合わない!?


「不器用過ぎるでしょうが、貸しなさいよ」


「うぐぐ、男なんだから仕方がないだろう?」


 アマンダは器用にユウユウの髪を纏め上げて、

 俺達がよく知る彼女の姿へと戻した。

 やはり彼女はこの姿が一番似合っている。


「ここを突破されたってことは、

 エルティナへの道を遮る者はいなくなった……ってことだな。

 俺じゃあ、どうにもならねぇかもしれねぇが、

 一応エルティナの下に駆け付けるか」


「ユウユウさんをお願いね、ガイリンクード君」


「すまねぇ、後は任せた」


 俺は背中にアマンダを載せて……って!


「なんで俺の背中に乗ってんだよ!?」


「だって、そっちの方が早いでしょう? それいけ、オフォール号!」


 俺は彼女を振り落とすほどの気力は残っていない。

 もう面倒になったので、そのまま走り出すことにした。


 ガルンドラゴンとの戦いは終局に突入しようとしている。

 俺達はエルティナを護ることができるのだろうか?

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