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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
320/800

320食目 シャドウガード

 ◆◆◆ グレイ ◆◆◆


「あら~、また突破されちゃったって」


「あー!? マジかよ! あいつら、下手をしたら俺らより強いんだぞ!?」


 デクス山中腹にて、

 罠を張り巡らせている我々〈シャドウガード〉の下に凶報が届いた。

 正直な話、洒落になっていない。

 ガルンドラゴンの名前が出た時点で、

 仮病を使ってでもフィリミシアに残るべきだったのだ。

 くそっ、原稿の締め切りも迫っているというのに……。


「愚痴るな、グレイ。

 最悪、我々で片をつけなくてはならないのだからな」


「うへぇ⋯⋯考えただけで胃が痛くなってきた」


 ホルスート隊長の眉間のシワが深くなる。

 これは受け持ったミッションの困難さを物語っていた。

 オレ達〈シャドウガード〉は聖女エルティナ専属の護衛隊であるが、

 あくまで対人戦闘を重視、

 もしくは専門におこなってきた者で構成されている。

 それがいきなり竜と戦うことになってしまったのだ。

 あのお嬢ちゃんと関わった時点で、

 ある程度の覚悟を決めてはいたが酷いものである。


「グレイ、配置の方はどうなっている?」


「現在、B班、C班が配置終了。D班が少々遅れてます」


 俺の報告に少し考える仕草を見せた後、

 ホルスート隊長は全シャドウガードに通達した。


『作戦の変更を伝える。

 ガルンドラゴンの妨害から、討伐に変更だ。

 各員は持ちうる力を全て使いこれを撃破せよ』


 本当に胃に穴が開きそうである。

 どうやら彼はこちらに向かってきている怒竜を、

 我々シャドウガードでもって仕留める気なのだ。

 これは恐るべき力を持つと言われている少年少女達が、

 ことごとく撃破されてしまっている事を考慮した結果であろう。

 マジに勘弁して欲しい。


 いくらシャドウガードが手練れで構成された特殊部隊だとしても、

 たった十二人しかいないのだ。

 ガルンドラゴンを討伐するのには、最低でも百を超える人数が必要になる。

 ハッキリ言って俺達に死ねと言っているようなものだ。


「あらあら~、今日はお肉が食べられるのね〜?

 暫らく食べていなかったから、とっても楽しみだわ~」


「おまえなぁ⋯⋯」


 えらく呑気な事を言っているのは、同僚の黒エルフのフォリティアだ。

 彼女は素早く動けるようにと水着のような戦闘服を好んで着込むのだが、

 その見事な肉体は見る者を困らせることになる。


 顔を見れば「惚れた?」とからかわれ、身体を見れば「スケベ」と言われる。

 彼女は絶対に確信犯であるが、

 それを言えるだけの美貌を兼ね備えているのが厄介だ。


「だって、お肉よ、お肉」


「ブッチョラビの肉でもいいじゃねぇか」


「いやよぉ、私は竜のお肉が食べたいんですぅ~。

 あ、もしかして~、グレイ君はガルンドラゴンが怖いのかな~?」


 彼女は舌をペロッと出しておどけて見せた。

 その仕草が可愛らしくて怒るに怒れなくなる。


「バカ言うんじゃねぇよ。

 ガルンドラゴン討伐なんざ、

 ベッドの上で女をヒィヒィ鳴かせるよりも楽勝だぜ」


「ほぅ、大きく出たな。その証拠を見せてもらおうか?

 そぉら、姿が見えてきたぞ」


「あ、すんません。ウソです勘弁して下さい」


 暗闇の中、月の光に照らされて黄金に輝く者の姿が見えてきた。

 言うまでもなく、それはガルンドラゴンであった。

 身体には無数の傷痕が確認できる。

 これまでおこなわれた戦闘は四回だと聞き及んでいるが、

 それにしてはケガの度合いが軽い。

 何か回復の手段を持ちえているのだろうか?


「来たな⋯⋯小振りなガルンドラゴンだ。まだ子供なのか?

 いずれにしても、脅威であることには変わりはない。

 ここで仕留めて禍根を絶つぞ」


 ホルスート隊長が先陣を切る。

 結構な歳であるにもかかわらず、元気なことだ。

 俺はそんな彼の背後にしっかりとついて行く。

 フォリティアも同様に走り出す。

 ブルンブルンと躍動する豊かな乳房に目が行くも、

 今は戦いに集中するべく意識をガルンドラゴンへと向けた。


 確かに小さい。

 子供であるとホルスート隊長が言うのも理解できる。

 俺達がこれから戦う黄金の竜はおよそ四メートルほどのサイズでしかない。

 大人になったガルンドラゴンの体長は八メートルにも及ぶが、

 それに対して半分の大きさでしかないのだ。

 子供とみても間違いではないだろう。


 だが、その目は決して幼き者がするような目ではなかった。

 折れることなき意思と、やり遂げる決意を持った者だけが持つことを許される、

 力強い眼光を携えていたのである。


 それを見抜けぬホルスート隊長ではない。

 小さく舌打ちをしたのを俺は見逃さなかった。


「厄介な相手だぞ。下手をすれば大人の怒竜よりも遥かに強い」


「えぇ、そうでしょうよ。

 あの野郎……なんて目をしてやがる。

 まるで、魔族戦争でやりあった魔族共と同じじゃねぇか」


 そうだ、魔王のために自らの命を顧みずに戦い散っていった魔族兵と同じ目だ。


「ちょっと、違うわ。

 だって……あの子、死ぬつもりなんてなさそうよ?

 あの目の輝きは……そう、エルティナちゃんにそっくりだもの」


 そう言うとフォリティアが加速し、

 一気にホルスート隊長を追い越してガルンドラゴンに躍りかかる。


「だからこそ、あの子の下へは行かせない!

 貴方の行く末は、私のお腹の中よ!」


 本気で食べる気満々だった。

 それは地面を砕くほどの爆発力を持った跳躍が物語っている。

 彼女は背中に背負っていたツーハンドソードを引き抜きそのまま切り掛かった。


 彼女の持つ幅広のツーハンドソードは、その長さ実に二メートル五十センチ、

 刃の厚さ三十センチ、重さ三百キロの化け物、

 通称〈クレイジー〉と呼ばれるバカげた巨大剣だ。

 それを彼女は自分の手足のように操るのである。


 この時点でなんらかのスキルが発動していると思われるが、

 実は彼女の個人スキルは肉体強化ではない。

 彼女の個人スキルは自身の〈魔力強化〉。

 つまり、黒エルフであるフォリティアにとって死にスキルであるのだ。


「う~る~あ~!」


 なんとも間の抜けた雄叫びを上げる彼女。

 これでも、最大限の気合いが込められているらしい。

 事実、巨大剣クレイジーは恐るべき速度で、

 黄金の竜に向かって振り降ろされたのだ。


「っ!?」


 これに反応できる者はそうそういない。

 大抵は自分が何をされたか知る前に、この世を去ってしまうからだ。

 しかし、このガルンドラゴンは、

 自分が何をされたかを知る数少ない者となってしまった。


「桃力〈固〉! 汝の剣は我には届かぬ!」


 ピンク色の光に阻まれ、必殺の威力を持った巨大剣が止められてしまったのだ。

 流石にこの異様な光景を見ては、

 情報が正しいものだったと認識せざるを得ない。

 聖女エルティナと同じ、桃使いという妙な存在であると。


「と~ど~か~せ~る~!」


 ここで彼女の素質のことを思い出だす。

 彼女ら黒エルフは魔法が使えない代わりに、

 肉体や武器を扱う素質が優れていることが挙げられる。

 だが、やはり例外は存在するのだ。

 それがフォリティアである。


 彼女の素質はなんとオールEであるのだ。

 何をやっても人並みのことができない彼女は生きるために、

 妹を護るためにありとあらゆることをおこなってきたという。

 詐欺やスリ、盗賊まがいのこともやったそうだ。

 肉体を鍛え上げるために相当な無茶をしたとも言っていた。


 本当に苦労したのは食料だと聞く。

 生きるために泥をすすり、木の皮すら口にしたというのだから驚きだ。

 まともな食べ物は全て妹に与え、

 自らは空腹を満たすため得体のしれない物を食べ続けた、

 と彼女は笑って語った。


「ブラザー、回避だ! 強い意思に桃力が悲鳴を上げている!」


「うぬっ!!」


 その巨大剣はピンク色の光を断ち切った。

 しかし、何者かの声に助けられた黄金の竜は間一髪のところで回避に成功し、

 その巨大剣は大地を大きく粉砕するに留まる。


「バカな……!? 桃力を切り裂くだと!」


 驚愕するガルンドラゴン。

 どうやら、あの光はガルンドラゴンの力の拠り所であったらしい。

 かなりの精神的なダメージがあったと見える。

 一気に畳みかけて、速攻で撃破を狙うか?


「次は当てるよ~?」


 フォリティアは不敵な笑みを浮かべ、再び巨大剣クレイジーを構えた。

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