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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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319食目 父と子と

「いつもすまないねぇ、ブランナ。ごほごほ……」


「そうと思うなら、あと少しがんばってくださいまし!

 お父様の拳でしか、あの堅固な鱗を砕けないのですから!」


 そう、わたくしの鎌ではあの鱗は砕けない。

 であるならば……お父様に砕いていただいて、

 剥き出しになった肉を、わたくしが切り裂けばいいのだ。


「行きますわよ、お父様!」


「うむ、そろそろ本気の中の本気を見せてやろうじゃないか!」


 再び左右からの同時攻撃を仕かける。

 先ほどと同じく右がお父様、左がわたくしだ。


「うぬ、同じ手とは舐められたものだ!」


 先ほどと同じ戦法は、どうやら彼のプライドに障ったらしい。

 願ってもない効果だ。

 怒りによって冷静な判断ができなくなることを祈りつつ、

 私はこっそりと呪詛を発動させる。


 発動させるのは呪詛〈悪寒〉。

 上手く決まれば儲けもの程度で発動させる。


 この呪詛は一時的に、対象に風邪の症状を付与するといたものだ。

 地味にいやらしい効果であるので、わたくしは割と好きだった。

 それに、これはレジストができないのも特徴である。

 ただ、効果が出る確率は極めて低い。


「喰らえ! 五百ある必殺技の一つ、ブラドーぱんち!」


 お父様の五百ある必殺技の一つ、ブラドーぱんちが放たれた。

 実は先ほどのパンチとなんら変わりはない。

 ただ単にネーミングが違うだけなのである。

 しかしながら、本人は名前によって威力が違うと豪語していた。

 他の者にはわからない微妙な威力の違いがあるらしい。


 しかし、何度見てもただのパンチにしか見えない。

 それならば、いつも薪割りで見せてくれる、

 手刀の方が良いのではないだろうか?


「何度もその手は喰わぬ! 桃力〈固〉!」


「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!? パンチが届かない!

 というか、このピンク色の光に手がくっ付いて離れないんですけど!?

 しかも動かない! パパ、だいぴんちっ!」


 シグルドが放ったピンク色の光は……恐らくは桃力。

 エル様とはまた違った能力を持っているに違いない。

 あの様子から見て、触れた物を空間に固定する能力だろうか?

 いずれにしても危険な組み合わせだ。

 動けなくなったら、即死級の攻撃を確実に受けるハメになるのだから。


「うぇやぁっ!!」


 私は固定されたお父様の腕をブラッディクレセントで切断した後、

 素早くその大きな身体を抱えて飛び退いた。

 その直後だ、地面が陥没するくらいの掌底が飛んできたのは。

 繰り出した腕は右。やはり、骨は砕けてはいなかったか。


「あぁん、娘の愛が痛~い!」


「あの光は桃力! 油断なりませんわ、お父様!」


 すぐさま再生する右腕の感触を確かめながら、

 お父様は主を失い宙にぶら下がる右腕を見つめた。

 その後、チラリとわたくしを見る。

 そして、大袈裟な仕草を取って語り始めたのだ。


「おぉ、なんということだ~! 私の自慢の右腕がとれてしまった~!」


 演技が下手過ぎますわ、お父様。


「しかしながら、私はもう右腕が再生している~!

 その腕はきみに差し上げよう~!」


「なんだと!?」


 お父様の発言に驚く黄金の竜。

 すかさずお父様は再生したての右手で指を鳴らす。


 カスッ……。


 指は鳴らなかったが、きちんと効果は出た。

 虚しく宙に浮いていた右腕が爆ぜ、大量の血をバラ撒いたのである。

 そして、それは幸運にもシグルドの目に入り込み視界を潰すことに成功した。


「さ、最高の見せ場だったのに……ぐすん」


「最高の演出でしたわ、お父様! さぁ、怒竜のシグルドにとどめを!!」


 わたくし達は身動きの取れない黄金の竜に突撃した。

 今の彼なら攻撃を成す術なく受けざるを得ない。

 この勝負、わたくし達親子が頂きましたわ!


「ブラッディクレセント! 血の力を解き放て!」


 現在、ブラッディクレセントはお父様の血を吸っている。

 闇に属する者の血を吸った赤い鎌はその身を砕き、

 紫色の光り輝く刀身へと変貌した。


 実体なき刃は黄金の鱗を容易く切り裂き、

 その肉を抉り血を吹き出させる。


 とてつもない威力だ。

 吸血鬼の血を吸ったブラッディクレセントがここまで強くなるとは。

 仕方なく切断したお父様の腕であったが、

 思わぬ幸運が転がり込んできたものだ。


「うぬっ! まだだ!」


 闇雲に攻撃を放っても無駄だ。

 わたくし達は既に後ろ側に回り込んでいる。

 長かった戦いも、これで終わりにして差し上げますわ。


 わたくしは、ブラッディクレセントが吸ったばかりの怒竜の血を解放させる。

 今度は刀身が黄金に輝く巨大な矛となった。

 それはまるで、怒竜の鋭い鱗を矛にしたような物だ。


「これなら……きっといける! 覚悟っ!!」


 わたくしは鋭い光を放つ矛をシグルドに突き入れる。

 その一撃は決まったと思った。

 しかし、彼は紙一重で避けたのである。


 わたくしは何かの間違いであると信じ、

 何度も矛を繰り出すも、その全てが避けられてしまうという結果で終わった。


「HEY、お嬢ちゃん、俺っちのこと忘れちゃいけないぜ?

 これくらいは俺っちのサポートでどうにでもなるのさ!

 さぁ、ブラザー! 反撃の時間だ!!」


 振り向いたシグルドの口元にはピンク色の光が輝いていた。

 またあの厄介な能力を持った桃力だ。

 こんなものをまともに受けてしまっては勝負にならない。

 なんとしても、回避しなくては!


「受けよ、我が必殺の一撃を!!」


 黄金の竜の目がゆっくりと開かれ、わたくしの姿が映った時、

 凶悪な威力を秘めているであろう光の玉が放たれた。


 全てを飲み込み迫り来る巨大な光の玉。

 わたくしはその異様な光景に恐怖し動けなかった。

 このようなことは初めてだ。


「ブランナ!!」


 お父様の声が耳に入ってきた。

 それすらもどこか遠くの出来事に感じてしまうほど、

 わたくしは迫り来る破壊の光球に恐怖していたのだ。


 死を届けに来た光の玉に触れる直前に、

 お父様の大きな体がわたくしを包み込んだ。


「お、おとうさ……ま……」


 その温もり包まれ安堵してしまったわたくしは、

 愚かにも意識を手放してしまった。





「う⋯⋯わたくしは、そうだ、お父様は!?シグルドは!?」


 ぼやける視線、歪んで見える光景は轟音によって耳をやられたせいか?

 ひどい光景であった。

 大地は抉れ、なけなしの木々は全てへし折れており、

 あの光の玉の威力を無言で物語っている。


 黄金の竜の姿は見えない。

 どうやら、意識を失ったわたくしを無視して先に進んでしまったのだろう。

 完敗であった。

 親子で臨んだ戦いで結果を残せなかった悔しさで涙が溢れてくる。


「お父様⋯⋯」


 私はふらつく足で立ち上がりお父様を探した。

 あの時、確かに私を庇って抱き締めたのはお父様だ。

 もし、庇ってくれていなければ、私は消滅していたかもしれない。

 月夜の吸血鬼と言えども、

 全身を砕かれた状態で陽の力を受ければ滅びを免れることはできない。


「お父様!!」


 お父様を呼ぶも返事がない。

 嫌な予感は加速し、胸の鼓動が早まって行く。


「お父様、お父様!!」


 返事が返ってこない。

 聞き慣れたあの優しい声が聞こえない。

 このまま、使命を果たせず最愛の肉親まで失ってしまうのか?


「いや、嫌よ⋯⋯お父様、返事をしてよぉ⋯⋯」


 遂に足の力が入らなくなり、わたくしはその場にしゃがみ込んでしまった。

 もう、あの声は聞くことができないのだろうか?

 そう思うと涙が止まらなかった。


「成長したな⋯⋯ブランナ」


「⋯⋯えっ!?」


 その声はわたくしのすぐ足元からだった。

 丁度、しゃがみ込んだ瓦礫の下にお父様の顔が見えていたのである。


「その膨らみなどリアンナに瓜二つだ。

 我妻よ娘は立派に成長しているぞ」


 ギュム!


「もぎょっ!?」


「どこを見て成長しているといっているのですか!?」


 お父様は事もあろうに、わたくしの股間を見てそう言ったのである。

 いくら親子とは言え、これはあんまりだ。


 取り敢えず私の靴の跡が付いたお父様の顔面を掴み引っこ抜く。

 その姿にわたくしは息を呑むハメになった。


「痛たた……ブランナ。おまえは身体に損傷部分はないか?」


「は、はい。お父様のお陰ですわ」


 お父様の半身は砕け散ったまま再生していなかったのだ。

 内臓がグチャグチャに飛び出し、目も当てられない状態であった。


「う~ん、してやられたなぁ。

 きっとあの光の玉には、傷口を固める効果を付与していたのだろう。

 これではしばらくの間、パパは戦えない。

 ブランナ、おまえはすぐにエル様の下へ向かいなさい」


「しかし、その傷では!!」


 しかし、お父様はやんわりとわたくしを窘めた。


「家臣は主君を優先すべし⋯⋯だ。行きなさい、ブランナ」


 そう言われたわたくしは、再び溢れ出していた涙をぬぐい、

 蝙蝠の羽を背から生やして、エル様の下へと急ぐのであった。

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