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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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316食目 ダミー

 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


『ブラザー、そろそろ行こうか。

 本当はもっと休ませてやりたいところなんだが、

 クレイジーガールが近付いてきているもんでな』


「ユウユウか……彼女とも、どこかで決着を付けねばなるまい」


 現段階に置ける我が必殺の一撃を以ってしても倒せなかった者……

 ユウユウ・カサラ。

 彼女は更なる能力を解放して、我を追いかけてきているのだ。

 このまま先を急いでも、どこかで捕まることは明白。

 それならば、いっそ……。


『HEY、ブラザー。短気なことを考えるんじゃないぜ。

 ユウユウのお嬢ちゃんとの戦いは、

 本当に勝利がどちらに転ぶかわからないんだ。

 できるなら、疲弊した今のブラザーを戦わせたくはない』


「マイク、しかし、いずれ追いつかれることになる。

 それならば、余力が残っている今を置いてないのではないか?」


 このまま疲弊してから戦うよりは、まだマシな戦いができるはずだ。

 あれだけの戦士に、弱り果てた我の姿を見せたくはない。

 時間が経つにつれて、そのような想いが強くなっていた。


『ブラザー、まず結論から言うぜ。

 俺っちはもう、ブラザーとユウユウの嬢ちゃんを戦わせるつもりはない』


「それは無理だろう。

 彼女は我をなんらかの方法で認知している。

 現に真っ直ぐ我の下にむかっているのだろう?」


 そう、彼女はどういうわけか、我の下へと真っ直ぐに向かってきているのだ。

 マイクのように周囲の状況がわかるとでもいうのだろうか?

 いずれにせよ、彼女からは逃れることができるとは思えない。


『あぁ、きっとブラザーのオーラか魔力でも感じ取っているんだろう。

 両方ともだだ漏れだからなぁ』


「す、すまぬ」


 我は気や魔力を抑えるなどの行為が苦手であった。

 今までそのようなことをしたことがない、ということもあるが、

 マイクの指導を扇いでもまったく上達することはなかった。

 要はそういった調節をするという才能がないようなのだ。


 このことにより、いっそ開き直ってそのままで行こうということになった。

 今回はそのことが悪い目で出てしまっているようだ。


『そこでだ、それを利用してダミーを作ろうと思うのさ』


「ダミー? 偽物のことか。

 そのような物など持ってはおらんぞ」


 そもそもが、我は物を持ち合わせるということがない。

〈フリースペース〉の存在も先ほど思い出したくらいなのだから。

〈シグルド〉の記憶の中にも、そのような物をしまっている記憶はない。


『HAHAHA! そいつを今から作ってばら撒くのさ。

 俺の桃力の特性は『散』。

 これはあらゆるものを散らせる特性だ。

 俺っち自身の桃力じゃないから、

 戦闘中のエネルギー弾を散らせるような強力なことはできないが、

 ブラザーの桃力を使って細工を施す程度ならできるんだぜ。

 まぁ、見てなって!』


 実際には戦闘中でも使用は可能らしい。

 しかし、憑依者であるマイクが我の桃力を使用して特性を発揮すると、

 我の負担が尋常ではなくなるそうなのだ。

 それを数値で教えてくれたのだが、通常の五倍程度の消耗になるらしい。

 ブルトンの放った〈アシュラ・インパクト〉レベルになると、

 衝撃波を散らせる前に、我の命が散ってしまうそうだ。


『始めちょろちょろ、後ぱっぱてな』


 マイクは我の桃力を使用し、大きな桃力の塊を作りだした。

 その桃力の塊には所々、青白い部分と、黄色く輝く部分が混じっている。


「よ~しよし、いいぞ。

 後はよく混ぜて……桃力『散』! 

 GOGO! いってらっしゃ~い!」


 マイクが力ある言葉を我の口を利用して発した。

 すると桃力の塊はいくつかの欠片となって弾け飛び、

 いずこへと飛び散っていった。


『よし、これでいいぜ。

 後はユウユウの嬢ちゃんが引っかかってくれるのを祈るだけさ』


「結局は運頼みなのか」


 マイクの話によると、あの大きな桃力は我の魔力と気を桃力内に固定し、

 完全に混ざらないようにしたものを、彼の特性『散』で細かくし、

 デクス山周辺に撒き散らしたのだという。


『これで遭遇率は減ったんだ。やらないよりはマシだろう?

 それに、上手くいけば戦わずに済む可能性もある。

 なんたって、この山は入り組んでいて遭難しやすいからな』


「そう、上手くいけばいいのだが」


 我は体を起こし立ち上がった。

 若干、疲労が蓄積しているだろうか?

 戦闘中にはわからなかったが、少し身体が重く感じる。


『ブラザー、幾ら強靭な肉体だとしても精神はそうじゃない。

 連戦は確実に疲労を蓄積し精神を削ってゆく。

 かつて最強と呼ばれた桃使いも、連戦を繰り返して倒されたこともあった。

 それに加えてブラザーは実質一人で戦っている。ここからは慎重に行こう。

 回避できる戦闘は回避して、確実に進んで行くんだ。

 なるべく余力を残して、エルティナの嬢ちゃんとの戦いに臨もうぜ』


「……そうだな、我の目標はエルティナただ一人。

 戦う前に倒れてしまっては本末転倒であったな」


 やはり精神が消耗しているのだろう。

 このような、簡単にわかるであろう答えも出てこなくなっていた。

 姿なき兄弟に諭され、我はようやく目的を思い出したのである。


『さて、ブラザー。

 ここから先は道が二つに分かれている。

 当然、両方に防衛線が張られているぜ』


「どのような戦力か判別できるか?」


『あぁ、少し待ってくれ⋯⋯OK。

 右の道が二人、左の道は四人だ。

 右は目的地から少し遠のくな。

 逆に左は距離的に最短ルートだぜ』


 さて、どちらを選ぶべきか。

 最短ルートには多くの戦力が割かれているのは明白。

 かと言って遠回りになるルートは我の体力が消耗してしまう。


 いや、戦闘による消耗を重く見るべきか。

 きっと、待ち構える者達はいずれ劣らぬ強者に相違ない。


「よし、右を行こう」


『OK、右はかなり険しい道だぜ。

 崖から転落しないように気を付けてくれよ』


 我は右の道を選択した。

 人数は二人……戦力としては少ない。

 それはルート的に険しいからだろうか?

 それともか、二人で十分な戦力だからであろうか?

 いずれにせよ、対峙してみなければわからない。


「想像以上に険しいな」


『言ったじゃん、険しいって』


 その道は想像をはるかに超える険しさであった。

 道幅が我の体ギリギリであるのだ。

 こんな場所で襲われたら対処に困る。

 翼があればどうということはないのだが、

 現在は失われてしまっている。


「普段使えるものが使えぬ、というのは難儀なものだ」


『まぁな、俺っちもブラザーの戦闘中に思わず手が出ちまうよ。

 お陰で突き指をしちまった。おー痛い』


 それは、我のせいではないと思うのだが⋯⋯。


 幸運にも、この険しい場所で襲われることはなかった。

 険しい場所での戦闘は、彼らも望むものではないのだろう。


『どうやら、お出迎えのようだぜ』


 マイクが警告をしてきた。

 注意深く前方の闇の中を見る。


 やがて黒い雲が、抱きかかえていた月を解放すると、

 冷たい月の輝きが、二人の人影を照らし姿をあらわにした。


 一人は黒いドレスを身に纏った可憐な少女。

 もう一人は黒いタキシードに黒いマントを羽織っている男だ。


『へぇ⋯⋯あいつらヴァンパイアだぜ。

 俺っち見るの初めて! 地味に感動してるぜ』


「ヴァンパイア⋯⋯不死者か」


 立ち塞がるは月に祝福されし者。

 夜の支配者。血に飢えし者。


 彼らヴァンパイアとの戦闘経験はない。

 果たして、どのような力をもっているのか。

 並々ならぬ覚悟を持った表情の吸血鬼に、

 我は激闘の予感を禁じ得なかった。

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