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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
311/800

311食目 アシュラ・インパクト

 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


 戦士ブルトンが咆えた。

 吐き出した両拳から解き放たれたのは力ある闘気。

 あるいは破壊の意思か。


『マイク! 桃力でアレを止める!』


『あいよぅ! もう準備は終わってるぜ!

 桃力特性〈固〉発動、調整は任せてくれ、ブラザー!』


 迫り来る破壊の衝撃……それは大地を抉り粉微塵にしながら我に迫っていた。

 その速度は早く回避は困難。

 よって、桃力による防御を選択したのである。

 

 我はタイミングを狙い桃力をぶつける。

 外したら無事では済まないだろう。

 それほどの決意と覚悟を持った一撃だ。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 我の口より放たれた桃力が破壊の衝撃を固める。

 いや、固まりきっていない!?


『おいおい、冗談きついぜ! なんなんだよ、このパワーは!?

 子供の放つ威力じゃねぇよ!

 予測値を大きく上回り過ぎだ! ちくしょうめ!』


『マイク、桃力の力を上げろ!』


 我の中の桃力が高まってゆく。

 マイクの予想を遥かに超える力は、

 桃力の特性をもってしても完全に止めるには至らず、

 少しずつ押し込まれてしまったのである。


 慌てて桃力の出力を上げ、なんとか固定することに成功するも、

 回復した桃力の残量は心もとないものとなってしまった。

 なんという恐るべき力を持った戦士であろうか。


『あぁもう、折角補給した桃力がパーだぜ! ファック!』


『だが、これで衝撃波は……』


 ゴンッという激しい音が鳴り響く。

 それは、我らの背筋を凍りつかせる光景が展開していたのだ。

 確かに戦士ブルトンが放った衝撃波は止まっている。

 だが……そのすぐ後ろに、もう一つの衝撃波が重なり、

 固まったはずの衝撃波を押し込んでいるではないか。


「なんだと!?」


「我が拳には異形の神〈阿修羅〉が宿っている。

 阿修羅神の腕は六本。

 即ち、俺が放つ〈アシュラ・インパクト〉の残弾は後……四発!」


 三度、激しい音が鳴り響き、

 戦士ブルトンから〈アシュラ・インパクト〉が放たれる。

 それは二撃目同様に重なり、その威力を増幅させた。

 桃力が細かい粒子となって消えてゆく。

 このままでは固めきれない!!


『マイク! 出し惜しみをしている場合ではないぞ!』


『無茶言うな! これ以上桃力を使ったらブラザーが死んじまうよ!!』


 桃力は魂の力。

 我の魂を消耗して繰り出す奇跡の力である。

 故に桃力を出し尽くすということは、直接的な死と同じである。


 くそっ! これが我の限界だというのか!?

 何一つ約束を果たせぬまま朽ち果てるのか!!


 いや、諦めるな……諦めるのは死んだ後でもできるはずだ!


『クールに行こうぜ……相棒』


 その時〈シグルド〉の言葉が我の頭を過った。

 そうだ、熱くなるな。

 頭は冷静に、されど闘志は熱く……! 一筋の可能性に全てを賭けろ!


『マイク、我の桃力の特性は〈固〉であったな?』


『え……あ、あぁ、そうだぜ、ブラザー。急にどうしたんだ?』


 ならば、やってみるか。

 これは賭けだ。決まれば我の勝ち、しくじれば我の負け。

 チップは我の命……もちろん全賭けだ!


「ぬぅりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 我は右前足を最初の衝撃波に突き入れた。

 砕け散る我が右前足と衝撃波。

 度し難い痛みが我に襲いかかる。

 前足は完全に失われることはなかったが、傷口からは白い骨が見えていた。


 我の狙いはもう一つ。

 衝撃波に接触した際に起こる爆風は、

 思惑どおり砂煙を巻き起こし、両者の視界を一瞬塞ぐことになった。


『ジーザス! ブ、ブラザー!? なにやってんのぉ!?』


『マイク! 砕けた我の前足を桃力で固めろ!

 血が流れなければいい! 急げ!!』


 前足の固定をマイクに託し次の行動に移る。

 衝撃波がなくなったことにより桃力は全て攻撃に使える。

 だが、〈アシュラ・インパクト〉の残弾は、

 戦士ブルトンのいうことを信じるのであれば後三発!


「……まだ終わりではない! 受けよ、阿修羅の拳を!!」


 次が来る! 恐れるな!

 放たれる前に我の一撃を決める!

 このチャンスを逃せば、もう我に後はない!


『オーマイガッ! クレイジーにもほどがある!!』


『苦情は後で聞く!』


 我は全力で跳躍を試みた。

 相手が上空からの奇襲に備えていれば我の負けだ!

〈シグルド〉よ、月よ、我に勝利を与えたまえ!!


「……なんだと!? 上から!!」


 それは完全な博打だった。

 我はほぼ直感で跳躍し戦士ブルトンに迫った。

 ブルトンが選択した攻撃は、真っ直ぐ衝撃波を撃ち込むであったのだ。

 放たれた衝撃波の回避に成功した我は、彼に肉薄するという結果を勝ち取った。


『あぁもう! 破損組織を桃力で固定! 痛覚遮断!

 ホワッツ!? 完了まで三十秒!?』


『三秒でやれ!』


 もうオークの戦士の目前だ。

 ブルトンの突き出した両腕からはおびただしい量の出血。

 彼もまた、限界を超えて技を放っていたのだ。


 我もまた耐えがたい激痛で意識が朦朧としている。

 まだ、意識を手放すわけにはいかない!


「……シグルド!!」


 我はあえて傷付いた右前足を戦士ブルトン目がけて振り下ろす。

 吹き出す赤い血と耐えがたい痛みは、我の朦朧とする意識を呼び戻した。


「ブルトン!!」


 激痛をねじ伏せ、我は勝利への一撃を放つ。


「……南無三!!」


 ブルトンが迎撃しようと傷だらけの両拳を突き出した。

 だが、我の方が一歩早かった。

 我の鋭利な爪はブルトンの左肩に命中し肉と骨を吹き飛ばす。


「……まだ終わったわけではない!!」


 しかし、ブルトンはまだ動く右腕で〈アシュラ・インパクト〉を放ってきた。

 なんという執念であろうか。

 だが、その崩れた姿勢では本来の威力は出なかった。

 直撃を受けたが、我の金色の鱗を傷付けることなく霧散したのである。


 勝った! 我の勝ちだ!!


 それは強者に勝ったと思い込んだ我の油断。

 なんという迂闊な思い込み。


『ブラザー! 回避!!』


「っ!?」


 戦士ブルトンの目はまだ死んでいなかったのだ。

 それに気が付いた時、彼は既に最後の攻撃の構えを取っていた。


 技でもなんでもない、己の力を残った拳に全て込め繰り出そうとしていたのだ。

 筋肉の膨張により、彼の上着は弾け飛び強靭な肉体が姿を現す。

 芸術といってもいいくらいに鍛え上げられた肉体だ。


「……俺は貴方と戦えたことを誇りに思う!」


「戦士ブルトン!!」


 致命的……! 油断していた我に回避できるような攻撃ではなかった。

 その拳はが放たれれようとした時、それは起こった。


「プリエナ!!」


 彼らの仲間の一人が我らの戦いの余波で吹き飛び、

 深い渓谷に向かっていったのだ。


 戦士ブルトンはその瞬間、戦士ではなくなった。

 我を仕留めるか仲間を救出するかの選択において、

 迷わず仲間の救出を選んだのである。


「……ぐ!? この程度の傷で!!」


 彼の伸ばした手は後一歩届かなかった。

 狸の獣人の少女は悲鳴を上げながら渓谷に落ちてゆく。


 誰もが呆然と見つめるしかない中、

 赤い人影が勢い良く渓谷へと飛び込み、

 狸の獣人の少女を空中で抱き寄せ姿を消した。


「チゲ!? なんて無茶をしやがる!!

 ゴードン! ロープを解いてくれ!」


「今やってる! くそっ! 突風の余波で固く結ばさっちまった!」


『ブラザー! ここを突破するのは今を置いてねぇ!

 渓谷を越えて先に進むんだ! ハリー!』


『マイク! しかし……くそっ!!』


 相手が混乱している隙を突いて、我は渓谷の向こう側へと跳躍した。

 無論、一度の跳躍では渡りきれない。

 桃力で足場を作り、渓谷を渡りきることに成功したのである。


 渓谷の向こうでは、仲間のために慌ただしく動いている子供達の姿が見えた。

 その姿を見て我の心に影が差す。


「……後ろめたい決着になってしまった」


『何度も戦っていれば、こういうこともあるさ。

 それよりも、無茶をしたせいで肉体の損傷が激しい。

 一度、応急処置を施すから、身を隠せる場所に移動してくれ』


 マイクの声色から、我は相当にダメージを負っているようだ。

 現在は痛覚を遮断されている状態なので痛みはないが、

 それでも前足に違和感を感じる。


 時間がもったいなくもあるが、治療を受けておいた方が良さそうだ。

 我はマイクの指定した場所に力なく向かうのであった。

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