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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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308食目 紛れ込んでいた者

 ◆◆◆ ダナン ◆◆◆


『……ダナン……第一陣が突破された……』


 俺達〈別動隊〉に、ララァからの〈テレパス〉が送られてきた。

 相変わらずのハスキーボイスで囁いてくるため、

 耳がこそばゆい感覚になる。

 その〈テレパス〉の内容であるが……およそ聞き入れたくないものであった。


『マジかよ!? こっちは、まだ準備終わってねぇんだぞ!』


 別動隊は、ガルンドラゴンとの戦闘に耐えられない人員が集まった部隊だ。

 主に戦闘部隊のサポート及び、

 ガルンドラゴンの進行の妨害を任務としている。


 メンバーは俺、プリエナ、モルティナーナ、グリシーヌ、アルア、ケイオック、

 キュウト、メルシェにフォルテだ。


 キュウトとフォルテは十分戦えるのだが、

 俺達の護衛として別動隊に引っ張ってきた。

 ドラゴンなんかと、まともにやり合えるわけがない。

 吹き矢でどうにかできるなら、俺が一騎打ちを挑んでいる。


「おい、皆! 第一陣が突破された!

 ガルンドラゴンがこっちに来るぞ!!」


「ぶはっ!? おい、おい! マジかよ!! 早過ぎんだろ!?」


 ゲルロイドを搬送し、休憩中のロフトが飲んでいた水を盛大に吹き出した。

 彼の気持ちもわからないでもない。

 このような情報を聞けば、俺も同じリアクションをしていただろうから。


「キュウトちゃん。ゲルっちは、まださね!?」


「きゅおん! キュウトちゃん言うな! まだ時間がかかる!

〈クリアランス〉ですぐ治んないなんて普通のスキルじゃないぞ!?

 まさかエルティナに教わった〈手揉みヒール〉が役に立つ日が来るなんて……」


 アカネに治療を急かされたキュウトは、

 身体がカチカチに固まったゲルロイドをマッサージしているところだった。


 身体を優しく揉まれている彼はとても気持ちが良いらしく、

 うっとりとした表情を浮かべている。


「あぁ、そこです……はふぅ、良い気持ちですぅ、ぷる、ぷる」


 ぷるぷるにキレがないことから、完全回復までにはまだ時間がかかりそうだ。

 ここは俺達で時間を稼ぐしかない。

 というか、嫌がらせで相手を妨害して進行を遅らせることしかできないのだが。


 情けないとは思うが己の力以上のことをしても、

 かえって悪い結果しか出ないのが常だ。

 己の力を知り相手の力を知れば、最高の結果が出るはずである。


 問題は相手の力がわからないということなんだよなぁ……。

 それを調べるのも俺達の仕事なんだが。


「来ちまうものは仕方がねぇ、俺達で時間を稼ごうぜ。

 ロフト達とフォルテは、ここで俺と罠を張るのを手伝ってくれ。

 他の皆は、この先の渓谷に行って罠を仕かけておいてくれ」


 俺の指示に皆は頷き、迅速に移動を開始した……って。


「まてまて! なんでここに、チゲが混じってんだよ!?」


「だなんくん、さいしょっから、ちげちゃんはいたよぉ?」


 狸少女プリエナのツッコミで、

 巨大ホビーゴーレムのチゲが、

 最初から別動隊に紛れていたことが発覚した。


 こいつは、エルティナのところに居候している奇妙なホビーゴーレムだ。

 とても身体が大きく二メートル近くあるのだが……

 その反面、非常に気が小さく臆病。

 しかも、通常のホビーゴーレムのゴーレムコアを内臓しているため、

 出力が足りず巨大な身体を動かすので精一杯ということらしい。


 この間も自分よりも遥かに小さいホビーゴーレムに、

 苛められている姿を目撃している。

 ムセルに助けられなければ延々に苛められていたのではないだろうか?


 尚、俺が止めなければ、エルティナが爆破処理をおこなうところであった。

 俺は町を救ったといってもいいだろう。


 そのチゲは大きな手をわたわたさせて、

 必死に戸惑ったジェスチャーをおこなっている。

 彼は声を出せないので、身体をいっぱいに使って意思を伝えてくるのだ。


「チゲ、おまえなんかがガルンドラゴンの攻撃を受けたら助からないぞ!

 今の内に町に戻って、エルティナが帰って来るのを待ってろ!」


 普段は素直にいうことを聞くチゲが、

 この時に限ってはイヤイヤと乙女チックに首を振って拒絶した。

 それほどまでにエルティナが心配なのだろうか?


「ダナン、説得している時間はねぇぞ!

 早く罠を仕かけねぇと、ヤツが来ちまう!」


 スラックが既に罠のツールを手に持ち仕掛けを設置し始めている。

 確かに……迷っているような時間はない。

 俺達がここで罠を仕かけ時間を稼がなくては、

 渓谷に向かう連中をかえって危険な目に合わせてしまう。


「くそっ、チゲ! ここまで来たからには皆を護ってくれ! 頼んだぞ!」


 決して期待はしない。

 でも、そうでも言わないと臆病なこいつは、

 いざという時に足が竦んで動けなくなるだろう。

 壊れて動かなくなったチゲを、エルティナに見せるわけにはいかない。


 俺の言葉にチゲはブンブンと頷き、任せろとガッツポーズを取った。

 まったく……エルティナ同様に手間のかかるヤツだ。


「行ってくれ! 俺達も必ず追い付くから!」


 俺の指示で、今度こそ出発するプリエナ達。

 さぁ、残された時間はそれほどない。

 急いで罠を仕かけよう。


 俺はロフト達の下に駆け付けともに罠を仕かけるのであった。




 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


「なん……だと……!?」


「エル、まだ何も言ってないよ?」


 鋭いエドワードのツッコミに、俺は沈黙をせざるを得なかった。

 長い間喋っていなかったので取り敢えずセリフを口にしたのだが、

 このセリフはタイミング的に合っていたようだ。


 その証拠にエドワードの顔色が良くない。

 恐らくは第一陣が突破されたとの報告だろう。


「エル、サクラン達が負けたみたいだよ。

 今、ララァから〈テレパス〉で連絡があった」


「ふきゅん……そうか。

 やはり、以前とは比べ物にならないほど、

 シグルドのヤツは強くなっているようだな」


 とういうものの、

 ハッキリ言って第一陣はチームワークがちぐはぐな部分があるのが、

 目を瞑ってもわかるくらいに酷い。


 特にサクランが最大のネックだ。

 後、最近本性を現したランフェイも危険だ。いろいろな意味で。


 きっと二人が足を引っ張り合ったのだろう。

 うん、そうに違いない。


「次にぶつかるのはマフティ達か。

 ブルトンとリックに期待しよう」


 第二陣はマフティ、ゴードン、ブルトン、リックの四名。

 少ない人数であるが、

 その前にダナン率いる別動隊が、シグルドに攻撃する算段になっている。

 ヤツが弱ったところで止めを刺すという作戦だ。


 ブルトンは渋っていたが、

 マフティが諸手を上げて賛同したため、彼は大人しくそれに従った。


 最近のマフティはヒーラー活動に積極的なので、

 仲間が傷付くことに抵抗が出てきているようだ。

 やはり、これもヒーラーのサガというものだろう。


 ふっきゅんきゅんきゅん……計画どおり。

 このままキュウトのヤツも、

 ヒーラー道にずっぽし浸からせてくれるわ!(暗黒微笑)


 おっと、それよりもだ。


「エド、そろそろ休憩をしろ。

 俺を担いだまま走っていたら頂上まで持たないぞ?」


「でも……いや、その方が効率的か。

 わかった、五分ほど休憩しようか」


 最近のエドワードは指揮官として成長していっている、

 と桃先輩は言っていた。

 とはいえ、まだまだ穴があると厳しい評価ではあるのだが。


「ふきゅん、ささ、この隙に腹に物を入れておくのだぁ……!」


 俺はすかさず〈フリースペース〉からエビフライと塩おむすびを取り出し、

 エビフライをおむすびに突き刺した。


 ちょあ~! ブスッ!


 そして、おむすびの上にタルタルソースを載せれば完成だ。

 超お手軽コラボ料理である。


「ちょ!? エル、行儀が悪いよ?」


「ふっきゅんきゅんきゅん……このコラボは食べてみればわかる。

 それに、ここは戦場だ。

 手軽に食えた方が良いだろう?」

 

 エド、男が戦場でお上品に食事を摂るんじゃない!

 食材に感謝を込めて、ワイルドに食らうのだっ!!

 それが男の食事というものだろうが!(偏見)


 俺は問答無用でエビフライむすびに食らい付いた! はむっ!

 ……しかし、口が小さくてワイルドには程遠いのであった。がっでむ。


「あぁ、もう。

 エルは本当に男らしいというか、大胆というか……でも、まぁわかったよ」


 エドワードは手袋を外し、エビフライむすびを受け取ると豪快に食らい付いた。

 シーマ辺りが見ると卒倒しそうな姿だ。

 しかし、なかなかに様になっている食い方である。


「んぐんぐ、うん……バカにできないね。

 エビフライのサクサク感と白米のもっちり感。

 タルタルソースの塩味と酸味……それが一体になって舌を喜ばせてくれる。

 欲を言えば辛みも欲しかったかな?」


「エドは欲深いんだぜ」


 辛いのが苦手な俺は、あまり辛みが強い物は作らない。

 対してエドワードは辛い物が大好きであった。

 俺ももっと成長すれば辛い物も平気になるのであろうが、

 現段階ではお子様の舌であるので、どうしても甘めの味付けになってしまう。


「俺には丁度良い味付けになっています。

 料理が上手なのですね」


「いや、ただ単に……いや、うん。ありがとな」


 クウヤが心底美味そうにおむすびを食べ感謝の言葉を送ってきた。

 ただ単にエビフライとおむすびを組み合わせただけの料理なのだが、

 あまりに幸せそうに食べるもので、言うのも阻まれてしまったのだ。


「エル、お代わり」


「ライ、それで打ち止めだ」


 どうせライオットはいっぱい食べると思ったので、

 俺の顔ほどある量の米を全て使って巨大なおむすびにし、

 それに残った十五本ものエビフライをヤケクソ気味に突き刺し、

 余ったタルタルソースを全てぶちまけた物を、

 こいつはものの数秒で完食してしまった。

 その上、お代わりを要求する始末である。


 彼の凶悪な行為に、俺は白目痙攣をするしかなかったのであった……。

◆ チゲ ◆


フレイムドール(ホビーゴーレム)。男? ?歳。

二メートル近くある巨大な赤い身体。

顔はなくのっぺらぼうで、

エルティナに買ってもらったスマイルマスクを常に着けている。

非常に気が弱く臆病であるが思いやりのある性格。

巨大な身体であるが、

ゴーレムコアがホビーゴーレム程度の出力しか出せないため、

まったくその利点を活かせないでいる。

最近、裁縫の腕が上達中。

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