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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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306食目 封印の魔縄

「協力する代わりに、ここを通してもらうぜ?」


 マイクの条件とは、この場を通してもらうというものであった。

 我らとしては当然の要求である。


 虎の少女は少しばかり困惑した顔を見せたが、

 すぐに表情を引き締め、こちらの要求を飲んだ。


「よぉし、話しは纏まったな。

 じゃ、後はよろしく、ブラザー」


「まったく……気楽なものだな、おまえは」


 言うことを言って引っ込んだマイクに少々呆れる。

 しかし、頼りになる存在であることに違いはない。

 それに彼の言うとおり、実際に事を進めるのは我であるのだから、

 我は文句の言いようがない。


「虎の少女よ、力を貸そう」


「すまない、私は景虎だ」


 虎の少女名はカゲトラというようだ。

 我もシグルドと名乗り彼女との協力体制に入る。


「見てのとおり、咲爛様には封印の魔縄まじょうが巻き付けられている。

 アレは専門ではない大殿が施した封印だが、それでも強力なものだ」


「あぁ、こちらでも確認しているぜ。

 強力な封印縄だ。是非とも生成の仕方を教わりたいね」


 マイクがそのように言うからには、余程強力な縄なのだろう。

 しかし、その強力と評価された紫色に輝く縄は、

 サクランが動く度にボロボロと朽ち果てていく。

 それは、まるで長い年月を経てきたような状態であった。

 このままでは、封印とやらが完全に解かれるのも時間の問題だろう。


「もう、時間がない感じか? カゲトラちゃん」


「あぁ、もう時間がない。

 私の見立てでは、後十分程度で破られてしまうだろう」


「ならばゆくぞ。

 もたもたしていては、封印とやらが破られるのだろう?」


 我はサクランに対し姿勢を低くして身構える。

 問題はこの状況下において、どうやって彼女に接近するかだ。


 現在、我は桃力の特性によって、大口の吸引を免れている。

 他の者は地面に武器を突き刺したりして難を逃れている状態だ。

 我はともかく、他の者では移動することも困難だろう。


『やっぱ、桃力で接近するしかないぜ、ブラザー』


『やはり、それしかないか』


 部分部分に桃力を生成し、それに掴まって移動する。

 ただ、それでは時間がかかってしまう。

 限られた時間がある以上、効率の悪い行動は避けたい。


『かなり桃力を消耗しちまうが〈道〉を作るしかねぇな』


 マイクは桃力で道を作ることを提案してきた。

 我もソレを考えていたところだった。


 しかしながら、我の桃力の総量では幅と距離、共に大きな物は作れない。

 それに、後々のことを考えれば、

 ここで桃力を使い果たすわけにはいかないのだ。


 サクランとの距離はそう離れてはいないが、

 それでも桃力の道がとどく距離ではない。

 彼女をもう少し、こちら側に引き寄せる必要がある。


 さて、問題はどうやって引き寄せるかだ。

 彼女は平気で斬撃を飛ばして攻撃してくる。

 つまりは移動を必要としないのだ。


「せめて、後一メートル近付けば〈道〉がとどくのだが……」


 光の道は現在七メートル程度で限界だ。

 それ以上作りだせば命にかかわる。

 何故ならば、桃力は我の魂の力であるからだ。


「後一メートルだな? わかった、私達でなんとかしよう。

 残った仲間達にも〈テレパス〉で事情を説明して協力を得た。

 シグルドは、その不思議な力で咲爛様を動けなくさせてくれ」


 そう言うとカゲトラは行動を開始した。

 短刀……〈苦無〉と呼ばれる物を地面に突き刺し、

 這うようにサクランの下へと移動する。

 器用なものだ。


 彼女の仲間達も一斉に動き始める。

 といっても、その場から動ける者はいない。

 重鎧で身を固めた少年は鉄球を持った少女を支え、

 その少女は鉄球をサクランに向けて投げ付けたのだ。


 上手い手だ。

 全てを飲み込む大口はサクランの正面にある。

 鉄球は大口に吸引される形で、彼女へと向かっていったではないか。

 後ろから来る鉄球にサクランは気が付いた様子はない。


 だが、彼女はそれが当たる直前に気が付き、

 巨大な鉄の固まりを切り払った。

 気配察知能力が高い、これでは不意打ちもあまり効果がなさそうだ。


「なんと!?」


 しかし、我は驚かされる結果となったのだ。

 誰しもが、サクランの斬撃で巨大な鉄球は切り裂かれた、と思っただろう。

 しかし、鉄球は切り裂かれることなく彼女に衝突した。

 そして丁度一メートルほど、こちら側に押し出される形になる。


「上手くいった……個人スキル〈衝撃吸収〉。

 きちんと発動してくれたか」


 その鉄球には、なんらかの能力が仕込まれていたらしい。

 カゲトラが胸をなで下ろす仕草を見せるも、

 すぐさま次の行動に移った。


 彼らは結果を出した、今度は我が結果を出す番だ。


『いくぞ、マイク!』


『あいよ、ブラザー!』


 我は勝利を掴むための輝く道を作り出す。

 それはぴったりと、サクランの下にまでとどく道となった。


『オーケー、いい感じだ! ブラザー、いつでもどうぞ!!』


 マイクの掛け声に合わせ、我は光の道を駆けサクランに突進する。

 姿勢を崩している絶好の好機だ。

 彼女を封じ込めるには今しかない。


「おのれ、この余をなんと心得るか!?」


 サクランは姿勢を崩しながらも悪態を吐くが、

 それがささやかな抵抗だということがわかった。

 このタイミングであれば、我の攻撃は必ずやとおる。


「ひほほほほほ! この金ピカトカゲ! よくもお兄様をやってくれたわね!

 はらわたを引きずり出して、グチャグチャにしてくれるわ!!」


 しかし、それを阻止せんと、

 鬼気迫った表情の女剣士が間に割って入ってきた。


『ファ~ック!

 とんでもないタイミングで割り込んできやがったな!

 このお嬢ちゃんはYO!!』


 マイクの文句に、我も同意せざるを得ない。

 最悪のタイミングだ。

 この黒髪の女剣士は、カゲトラの説明を聞いていなかったのだろうか?


「ランフェイ! 抑え込むのは咲爛様の方だぞ!」


「ひほほほ! こいつをやってから抑え込んであげるわ!

 私のスキル〈不変〉は無敵スキルよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 この涎を撒き散らしながら我に剣を振りかざす女剣士ランフェイも、

 どうやら特殊な能力を持っているらしい。


「私の力をもってすれば、このような次元の裂け目など児戯に等しいわ!

 不変、それは変わりなきこと! そう、私のお兄様に対する愛のごとく!

 ひほほほほほほほほ!

 死ねぇ! くそトカゲ! お兄様を傷付けやがってぇ!!」


 もう、無茶苦茶な思考だ。

 性格も破城していると思われる。

 丁度、カゲトラも封印を施すと言っているのだ、

 この少女の性格も封印してもらうことにしよう。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 咆哮までゆかぬ裂帛の叫びに、

 桃力〈固〉を載せ二人に叩き付ける。


「ひほっ!? な、何……これ?

 私のスキルを無視して発動している! どういうこと!?

 女神マイアスに頂いた無敵スキルがっ!」


「うぬっ!? なんだこれは! くそっ、刀が振れねば切ることも叶わぬ!」


 桃力で動きを封じられた二人は悪態を吐いた。

 それは対象が一人増えて、完全に固めることができなかったからだ。

 その結果、口だけは動くようになってしまったのだ。


「女神マイアスか……残念だったなお嬢ちゃん。

 俺達の桃力は、もっと上の神様に授けられた能力なんだわ」


 我の口からマイクの声が発せられるも、

 その内容は衝撃的なものであった。

 桃力は我らの主神よりも上位の神が与えし力だというのだ。


「元祖桃太郎の力は、おたくらの主神様より上だってだけの話さ。

 さぁ、チェックメイトだぜ……カゲトラちゃん?」


 マイクの声に反応するように、カゲトラが立ち上がり封印の魔縄を構える。

 その際、器用にも足の指で地面に突き刺した苦無を挟み込み、

 自分の身体を固定していた。


「さぁ、これまでです! 咲爛様、お気をお静めください!」


 そう言うと、カゲトラは魔縄をサクラン目がけて投げ付けた。

 それは実体がない縄なのだろう。

 大口に吸い込まれることなくサクランへと向かっていった。


「うがぁ! 私が元上級貴族でなかったら死んでいたぞ!」


 それは大口から這い出てきた紫髪の少女を巻き込み、

 更にはランフェイをも取り込んでサクランを捕縛するに至った。


「えっと……こんなはずじゃなかったんだが。

 えぇい、やむを得ん、纏めて封印だ!」


 我もそうした方が良いと思う。

 幸いにも絡め取られた者は性格に難のある者ばかりだ。

 少しはまともな性格になってくれるだろう。


「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 バチバチと激しい光と音が鳴り、

 三人はぐったりとして動かなくなった。


「あ、あれ? 間違えたかな?」


「ぴよ~……」


 ぶすぶすと黒い煙を上げて痙攣する三人を見つめ、首を傾げるカゲトラ。

 何はともあれ、こうしてサクランと他二名の封印は無事に完了したのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >我もそうした方が良いと思う。 序盤の凶悪なボスキャラがまさかこんな事になるなんて誰が予想しただるるぉ? そしてやはりギャグ補正は無敵だった…
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