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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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304食目 オワリノケン

 早い……だが、かわせぬほどではない!


 剣の軌道が見える。

 これは〈シグルド〉が我に与えし経験。

 真・身魂融合にて、我は彼の全てを受け継いだ。

 つまり、実戦の中で鍛え上げられた〈シグルド〉の強さは、

 余すことなく全て我に宿っている。


 無論、多少の修正は必要になる。

 人間と我とでは体の大きさが違い過ぎるからだ。


 最小限の動きで刃をかわし反撃に移る。

 危険を伴うが〈シグルド〉の最も得意とした戦法である。

 この方法で数多くの敵と渡り合ってきたのだ。

 

 刃が目の前まで迫る。

 焦ってはいけない、ギリギリまで引き付け最小限の動きでかわす。

 刃が鱗とわずかに接触するも、無事に回避を成功させた。

 ここから反撃に移る。

 しかし、攻撃は断念せざるを得なくなった。


 普通であれば体勢を崩しており、こちらの攻撃を命中させれるタイミングだ。

 しかし、既に第二波が迫ってきていたのである。

 反撃を諦め、回避に専念する。


 敵は二人、しかも双子の剣士で実力もほぼ同等、意思疎通も完璧。

 みごとなものだ、この勝負……焦った方が負けるだろう。


『こちらは、焦る要素たっぷりだけどな』


『黙ってろ、マイク』


 確かにマイクの言うとおりだ。

 我らには時間制限がある。

 ゆっくりし過ぎれば、我を冥府に導こうとする死神がやってくるのだ。

 だが、どうやってこの連携を乱そうか。


「ひほほほほほ! はぁはぁ! さっさとバラバラになっておしまい!」


「ランフェイ、もっとお淑やかにだな……」


 涎を撒き散らしながら剣を振る片割れを窘める、

 まったく同じ姿の少女(?)は漫才のようなやり取りを交わしながらも、

 正確無比の斬撃を放ってくる。

 ふざけているにもかかわらず、

 まったく乱れが生じないのは正直なところ見事だ。


『う~ん、崩しにかかるなら、

 ランフェイと呼ばれたクレイジーガールだが……』


『イカレてはいるが、崩せんだろうな。

 狂気に近い信念を感じる』


 こういう手合いが一番厄介だ。

 目標を決めたら、それに向かって一直線に進んでいく。

 嫌いではないが一番敵に回したくない存在である。


「ぶはぁ! よくもやってくれたのう! さぁさぁ、余とも死合おうぞ!」


 うぬ、黒髪の少女……サクランといったか、が戦闘に加わってきた。

 流石に三人の刃をかわすのは、きついものがある。

 徐々に攻撃が当たり始めてきた。

 このままでは、直撃を受けかねない。


 三人が使う武器はいずれも業物のようで、

 我の鱗をもってしても完全に防ぎきることはできない。


 特にサクランの刃が危険だ。

 黄金に輝く自慢の鱗が、まるで紙切れのように切り裂かれてしまっている。

 武器もさることながら、その腕前も相当なものであるようだ。


『ブラザー、ピンチだけど、これはチャンスでもある!

 まったく乱れのなかった双子ちゃんに、

 僅かながらズレが生じてきてるぜ!』


 確かに、双子の剣士の連携がほんの僅かに乱れ始めている。

 これはサクランの我が強過ぎるせいだろう。


「うぇあっ!!」


 だが、その強い我はそのまま剣の強さに反映していた。

 荒々しくも鋭い剣の閃き、

 それは夜空を流れる流星のごとく、一瞬輝き溶けるように消える。

 瞬きなどしてはいられない、した時が我の頸が刎ねられる時なのだから。


「ひほっ! ちょっと、サクラン前に出過ぎよ! 

 どいて、そいつが切れない!」


「ランフェイ、落ち着くんだ! 連携が乱れている!」


 どうやら、双子の剣士達も己の連携の乱れを気にし始めたようだ。

 崩しにかかるなら今しかない。

 

 我は己の身体の大きさを活かした、捨て身の体当りを実行した。

 これが当てれば儲けもの、かわされたとしてもそれでいい。

 目的は連携を大きく乱すことなのだから。


「うっ!? 危ない、ランフェイ!!」


 攻撃は双子の剣士の一人に命中した。

 体当りを避け損なった、もう一人の双子を庇ったのだ。


「ひほっ!? お、お兄様!!」


 吹き飛ばされた片割れの下に、慌てて駆けてゆく双子の剣士。

 これで、残るはサクランだ!


「やるではないか! だが……その思い切りの良さが命取りよ!!」


 ゆらりとサクランが剣を構えた。

 それは上段の構え、手にした剣を天に突きさすように掲げる。

 捨て身の技を放った今、我は通常よりも体勢が崩れてしまっている。

 回避は難しい、放たれた斬撃を受けるのも遠慮願いたい、

 何か活路はないか!?


「咲爛様! いけませぬ! その技は危険です!」


「ぴよ!」


 虎の少女がサクランを制止しようとするも一歩遅かった。

 彼女は振り上げた刃を、無慈悲にも振り下ろしたのである。


「奥義〈オワリノケン〉!!」


 集中力が極限まで高まる。

 幼き頃、一度死にかけた時にこれと同じ体験をしたことがあるが、

 今まさに我は死と直面している、ということに他ならないのだろう。


 サクランから放たれた斬撃は、全てを切り裂きながら我に向かってきている。

 確かに早いがかわせないほどではない。

 いったい、これのどこが奥義と言えるのであろうか?

 ただの遅い、衝撃波にしか……。


『ブラザー! アレを受けちゃダメだ! 全力で回避! 回避!!』


 マイクがカタカタと何かを叩きながら、我に回避することを必死に訴えた。

 我は何も疑わず、回避することをのみを頭の中に思い浮かべ実行した。


 崩れた体制のまま、強引に斬撃の範囲から逃れようと飛び退く。

 手足の関節が悲鳴を上げ、解しがたい痛みが襲いかかってくるも、

 それを強引にねじ伏せ回避を成功させるべく必死に距離を稼ぐ。


「うぬおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 激しく地面に倒れ込み無様な姿を晒すことになった。

 その甲斐もあって、放たれた斬撃を回避することに成功する。


『ブラザー! 桃力で自分を空間に固定するんだ!

 早く! ハリー、ハリー、ハリィィィィィィィィィィッ!!』


 我は捲し立てるマイクの指示に従い、空間に自分の身体を固定した。

 あまり多くの桃力を使うわけにはいかないので、必要最小限の使用に留める。

 固定が完了した直後、それはやってきた。


「な、なんだと!?」


 サクランが放った衝撃波は〈全て〉を切り裂いていた。

 それは草木や地面などの物質だけではなく、空間までもを切り裂いていたのだ。

 切り裂かれた空間は奥が見通せないほど暗く不気味であった。


「〈オワリノケン〉の真骨頂はここからよ。

 さぁ、慈悲なきあぎとによって貪り食われるがいい!!」


 生物が受けた傷は時が経てば塞がり癒える。

 それは、この世界の空間にも当てはまるのだ。


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 空間が傷を癒そうと、切り裂かれた部分を閉じ始める。

 すると、それは全てを飲み込み始めたではないか。

 草木は根こそぎ引き抜かれ、

 我よりも重いと思われる巨石でさえ飲み込まれ、暗闇の中へと消えてゆく。


 それはまるで、全てを食らう大口。

 なんというものを作りだしたのだ、この少女は!!


「なんてことを! 太郎や、急いで結界を!」


「ぴよっ、ぴよっ!!」


 慌ただしく動き始める虎の少女と、その頭の上の雛鳥。

 サクランの仲間達も岩や木にしがみ付いてはいるが意味はない。

 根こそぎ吸い込まれてゆくのだから。


「あ~れ~」


 厚底眼鏡をかけた少女が、くるくる回転しながら大口に吸い込まれてゆく。

 敵も味方もあったものではない。

 サクランには慈悲はないのであろうか?


「ウルジェ! 鉄球を!!」


 重装備の騎士が手に持った盾を差し出す。

 そこに向けて眼鏡の少女は鉄球を投げつけ絡ませる。


「た~す~か~り~ま~し~た~」


 やけに間延びした言葉使いの少女は間一髪、危機を免れた。 

 大口は徐々に小さくなってはいるが、当分なくなりそうもない。

 最早これは災害といっていい事態だ。


 サクランは、このような状況下でも悠然と歩いている。

 この少女の言ったことが正しければ、

 彼女は自分に対する、大口の吸引力を切り捨てたということなのだろうか?

 理解しがたい能力だ。


「ふはははは! 余に切れぬものはない!

 空間も、重力も、引力も、全てを切り裂くことができるのだ!

 黄金の竜よ! そなたの想いも、余が切り裂いてくれよう!」


 我の下にゆっくりとたどり着いたサクランは、

 月夜に照らされるその刃を、我に振り下ろそうと構えた。


「サクラン! 汝はいかなるものをも切り裂けるというが、

〈我ら〉の想いを切り裂くことなど決してできぬ!」


 少女が言い放った最後の言葉に、我は血液が逆流したような感覚を覚えた。

 絶対に許さぬ……

 我と〈シグルド〉とマイクの想いを壊さんとする者は絶対にだ!!


「我らに立ちはだかる全ての愚かなる者に……我は純然なる怒りを解き放たん!」


 その瞬間、我の意識が爆ぜた。

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