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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
303/800

303食目 偽りの槍

 我を取り囲む八人の少年少女。 

 それに対し、動けない我を同族の者が見れば嘲笑うであろう。

 何故、このようなちっぽけな存在に怯えるのかと。


 そのように侮った者は例外なく、この世に別れを告げることとなろう。

 彼らは、それだけの力を秘めている者達で構成された集団なのだ。


『それでいい、ブラザー。

 様子を窺う時は臆病なくらいで丁度いいのさ』


『だが、いつまでも睨み合っているわけにはいかぬ。

 強行突破しようにも、道を塞ぐあの二名……特に厄介な相手だと推測する』


 デクス山に入るための道を塞ぐのは、

 鎖付きの巨大な鉄球を携えた眼鏡の少女と、

 大きな盾を両腕に装着した少年騎士だ。


 特に眼鏡の少女からはユウユウに似た雰囲気を感じる。

 あの少女の笑顔は非常に危険だ。


「ふん、怒竜ごときに何を怯えているのだ。

 私が今から手本を見せてやる……竜退治のな!」


 紫髪の少女が我に素手で殴りかかってきた。

 この少女は武闘家なのだろうか? まったくそうには見えないが。


「あ、おい! 止せ、シーマ!」


 短い黒髪の少年がシーマと呼ばれた少女を止めようとするも、

 彼女の拳は我の右前足に命中した。


「ひぎぃ!?」


 もちろん我に損害はない。

 強固な鱗の前に少女の拳は通じず、逆に赤く腫れ上がった。


 ……昔、これと同じようなことがあったような気がする。

 気のせいであろうか?


 まぁいい、取り敢えずこの少女は仕留めておく。

 我は右前足でもってシーマを叩き潰した。

 轟音と共に地面にめり込む紫髪の少女、シーマ。


「シ、シーマァァァァァッ!」


 まずは一人、そう思った時のことだ。


「く、元上級貴族でなければ死んでいた」


 ヒキガエルのように潰れたと思われた少女が、

 何事もなかったかのように立ち上がったではないか。


 地面には彼女のめり込んだ痕跡がしっかりと残っており非常に滑稽だ。

 流石の我も、これには唖然とするしかなかった。


「新たな痛みがなければ、ショック死するところだったぞ」


「そんなことを言えるのは、おまえだけだ。

 しかも、ガルンドラゴンの攻撃の方が強烈だったろうに」


 弓を構えるの坊主頭の大柄な少年はシーマに対して呆れていた。

 確かに、我の一撃の方が痛烈なダメージを与えていたはず。

 いったい、この少女はどういう体の仕組みをしているのだ?


『ブラザー、あの少女は〈ドM〉なのかもしれない。

 あの歳で目覚めちまうとは……かわいそうに』


 マイクがよくわからない単語を用いてきた。

 こいつは、我の知らぬ単語をよく使うので返答に難儀する。


『マイク、〈ドM〉とはなんだ?』


『あ~、殴られると喜ぶ人種かな?』


 ただの変態ではないか。

 何かの特殊能力か、と思ったがそうではないらしい。


 ええい、時間を無駄にした。

 こうしている間にも、ユウユウが近付いてきている。

 この場にいる彼らと挟み撃ちにされては、万が一にも勝機はない。


『時間がない、危険は承知の上で強行突破する!』


『ブラザーならそう言うと思ったよ! こっちも準備万端だ!

 いつでも行ってちょ~だい!』


 我は賭けに出た。

 形振り構わず前に出たのである。


「来た……準備はいいか、ランフェイ!」


「ひほほほ! よろしくってよ、お兄様!!」


 黒髪のよく似た二人の少女、双子であろうか……?

 が我の前から横っ飛びでその場から離脱した。


 その行動は、過去に経験したある記憶を蘇らせる。

 何度も不覚を取ったあの罠。


「ひほほほほほ!〈不変〉解除!」


 やはり何か仕かけていたようだ。

 我は咄嗟に地面を警戒する。


 変化はない……いや、ある! 地面に映る多数の黒点……上か!?


『上空から多数の水の槍が落ちてくる! ブラザー回避だ!』


『水の槍程度、問題ない!』


 だが、それは我のおごりだった。

 その水の槍は普通の水ではなかったのだ。


 確かに、身体に命中した多数の水の槍は、

 我にとって有効的な打撃を与えることはなかった。

 しかし、その中の一本は水の槍ではなかったのだ。


 我に着弾した、その水の槍……それは〈スライム〉であった。


「油断しましたね? さぁ、チェックメイトです! ぷるぷる」


 そのスライムが我の鱗の隙間から肉体へと侵入してきた。

 その途端に、経験したことのない激痛が身体を駆け巡る。


「ぐぬぅ!? いったい何を!!」


「私の溶解液を、貴方の身体に注入しているんですよ。

 例え鉄壁の鱗を持とうと、体内は柔らかいものです。

 こうして内部に入ってしまえば、抗うこともできないでしょう?」


 しまった、固い鱗に過信し過ぎたせいで、

 最も厄介なタイプの敵に纏わり付かれてしまった。


「固定の姿を持たない私は、

 ほんの小さな穴があればどこへでも侵入できるのです。

 ただ、こうして対象に密着する必要があるので、

 非常に危険を伴いますがね。

 さぁ、内部に侵入して本格的に壊して差し上げます。ぷるぷる」


 冗談ではない、このままでは一方的にやられる!

 なんとかしなくては!!


『マイク、何か策は!?』


『ブラザー、とにかくそいつを固めちまえ! 

 体内に入りこまれたらアウトだ!!

 あぁもう、想定外の攻撃ばかりしやがって! ガッデム!!』


 我は急いでマイクの指示に従い、桃力でもってスライムを固めに入る。

 口元に桃力の光が集まってきた。


「サクランをやったあの光だ! やらせるかよ!

 スラック、アカネ! 行くぞ!」


「おう!」「任せるさね!」


 我の口元に発生した桃力に向けて、

 三人の騎士見習いと思われる少年少女が風属性の攻撃魔法を放ってきた。

 その攻撃魔法を吸収した桃力が、大きく膨らみ爆ぜてしまう。


「うぬっ!? おのれ!」


『ブラザー、落ち着け! 桃力は口からだけじゃなく、

 体のどこからでも出せるって教えただろうが!

 直接スライム坊やに叩き込んでやれ!』


 そうであった、気が動転してすっかり忘れていた。

 我は焦る心を静め、桃力を体内に侵入しようとするスライムに流し込んだ。

 汝も侵入される恐怖を味わうがいい。


「が、がががが!? 身体が……固まって……ぷる、ぷる」


 鱗の間から力なく、ポトリと落ちた青い色のスライム。

 どうやら、効果があったようだ。


「ゲルロイド様! 野郎、やってくれたな!?」


「ロフト、こうなったら俺達でやるしかねぇ!」


「特訓の成果を見せてやるさね!」


 三人組が一列に並び我に突撃を敢行してきた。

 三位一体の協力技であろうか?

 乱れもなく息の合った突進。

 相当に修練を積んできたことがわかる見事な動きだ。


「行くぞ!〈ストライクフォーメーション〉!」


 前列の黒髪の少年が光の爆弾を放ってきた。

 これは以前に受けたことのある我は対処法を知っている。

 我は咄嗟に前足で目を覆い、嗅覚を頼りに相手の位置を把握する。

 爆弾が爆ぜた、強烈な光と爆音が視覚と聴覚を潰しにきた。


 相手は……我の真横! 尾が届くであろうか!?

 しかし、彼らは我に攻撃をしてこなかった。


「ゲルっち確保さね~!」


「よし、野郎共! ずらかれ~!!」


 彼らはスライムを回収すると、そのまま一目散に逃走してしまった。

 その様に我は呆気に取られてしまう。


「汝達には誇りはないのか!?」


 次第に呆れは怒りへと変わってゆき、

 逃げた少年達を罵倒するものになった。

 しかし、少年達はそれをものともせずに逃走する。


「はん、誇りなんざ自宅で埃を被ってるぜ!」


「お? ロフト、なかなか良い駄洒落じゃねぇか」


「三十点てとこさね~」


 そのまま戦闘範囲から離脱に成功する少年達。

 やられた、彼らの目的は我との戦闘ではない。

 負傷者を速やかに戦闘範囲から逃がし、治療するのが役目なのだ。

 治療が済んだら、またあの厄介なスライムが戦闘に加わってくるだろう。

 仕留めれなかったのが悔やまれる。


『シット! 良く訓練され過ぎだろ、あのガキンチョ共!』


「やってくれる……そこまで役割を決めていたか」


「彼らの役割に気が付いたようだな。

 だが、もう遅い。

 おまえはここで、私達に葬られるのだから」


「ひほほほほほ! 私とお兄様の伝説に花を添えなさい」


 端正な顔立ちの美しい少女と、

 狂気に満ちた顔をした双子の姉妹が我に襲いかかってきた。


『片方は、お兄様って言われてなかったか? ブラザー』


『知らん、今はこいつらを片付ける!』


 先程離脱した三人組の息の合った行動も見事であったが、

 この双子の動きはそれの比ではない。

 思わずタメ息が出そうになるほど、一糸乱れぬ動き。

 まるでそこに映し鏡があるがごとくである。


「私達兄妹の動き……見切れるか!」


 双子の剣士の斬撃が、ほぼ同時に我に放たれた……。

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[良い点] >「く、元上級貴族でなければ死んでいた」 鼻水吹いた ティッシュを要求する! ギャグ補正って無敵だよね
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