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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第一章 珍獣と聖女と仲間達
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30食目 エティル家

いや~びっくらこいた!


どうも、突然パパンとママンができた二代目です。


あの話の後、突如暴走したヤッシュさんが俺を抱えて屋敷を爆走し、

居間でお茶を楽しんでいたヤッシュさんの妻の下に辿り着くのだが、

慌ただしく登場したヤッシュさんを、「なんですか、騒々しいですよ!」

と言って、俺ごと張り倒してしまったのだ。


このパワフルな女性が、初代エルティナの母、ディアナさんである。

記憶では金髪碧眼の落ち着いた美女……だったはず。


だが実際は違った。

スタイル抜群の細い体から、強烈なビンタが繰り出されたのだ。

大人の男性を、しかも大柄な体な部類に入るヤッシュさんを、

平手打ちでぶっとばす彼女のパワーに圧倒される。


くるくると回転しながら宙を舞っている間に、そんなことを思っていたのだ。

あぁ、それはもう見事に舞っていたさ。

人生で初めての経験だろう。


ぶっ飛ばされ、顔から壁に激突したヤッシュさん。

しかし、日常茶飯事なのだろうか? 

何事もなく立ち上がり、興奮気味に妻にこれまでのことを話した。


ラングステン王国に突然現れた聖女が、

実は自分達の亡くなった娘の知識と記憶を継承した白エルフの子供で、

その事実を伝えに来たと。

娘の遺言を伝えてくれたこと、自分達の娘になってくれたこと。

それを聞いたディアナさんは、驚き目に涙を浮かべた。


そして、俺は……大きい観賞魚の水槽に沈んでいた。ごぼごぼ……。


『……お前、苦労しそうなヤツだな』


『わかるか? 魚君』


それ以上の言葉は要らなかった……。

俺は水槽の魚君と友達になれた気がした。


「ごめんなさい……小さ過ぎてわからなかったわ」


ディアナさんが、水槽にプカプカ浮いていた俺を発見し、

慌てて引き上げてくれた。


「これはいかん。すぐに体を洗わないと!」


びしょ濡れになった俺を見て、慌ててメイドを呼ぶヤッシュさん。

メイドさんが小走りで部屋に到着した。


俺はメイドさん連れられて浴場に向かい、

彼女の手により綺麗に体を洗われた後、

昔に初代が着ていたという服を着せられた。


尚、メイドさんは若くて綺麗だ。

スタイルは控えめだがバランスが取れているので、とても上品に見える。

完全にティファ姉の上位互換だ。


……で、俺が着せられた初代の服とは!

 

「ゴスロリェ……」


そう、ゴシックロリータだ。

ちなみに俺も一着購入させられている。

俺が買ったのは黒地が多めの服で、

今着せられているのは白地が多めのようだ。


「よく似合うわよ。昔を思い出すわ……」


遠い目をするディアナさん。

きっと……初代との思い出が蘇っているのだろう。

生憎と俺がこの服を着ると、真っ白な姿になってしまった。

まあ、初代は似合ったんだろうけどなぁ……。


着替えが終わり、食事を一緒に摂ることになった。

そこには、長男のリオット、次男のルーカスがいた。

わかるのはもちろん、初代の記憶から情報を引っ張り出しているからである。

引っ張り出し過ぎて、あのクソ野郎を思い出してしまうが仕方がない。

我慢、我慢……。


二人の兄弟は、いずれも父親譲りの赤髪で母親似のハンサムフェイス。

スマートな体型で女受けする美男子だ。

父親似のところなんて赤い髪くらいなものだ。

ヤッシュさんは泣いていい。


お家騒動が常の貴族社会において、無類の兄弟愛を誇るエティル家。

それが長男リオットと次男ルーカスである。


リオットさんは既に結婚し、子供もいるが

ルーカスさんは生涯長男を支えると言って、執事紛いのこともやっている。

その仕事振りは完璧で、

他の貴族からお呼びがかかるほどであるらしい。


兄弟愛ここに、極まれり……。


「いらっしゃい……いや、お帰りか、エルティナ」


ちょっと涙ぐんでるリオットさん。

優しげな表情に甘いマスクの長男。

結婚前はモテモテだったと記憶にある。


「聖女様……エルティナ。……確かに別の姿。

 しかし、間違いなく愛しい妹と感じることができる。

 不思議なものだ。これが、継承の魔法の効果か。

 よく我々の下に帰ってきてくれたね……エルティナ」


ルーカスさんが感極まった、とばかりに俺を抱きしめる。

生真面目そうな顔に凛々しい容姿の次男。

彼は結婚していないので、今でもモテモテだ。


ちなみに、この家の方々は抱き癖があるのか、すぐに抱きつくらしい。

きっと、ヤッシュさんのせいであろう。間違いない。


……でも、嫌じゃない。

彼らに抱きつかれるのは。


きっと、初代の記憶を継承してるからだろうか……?

あるいは俺が人の温もりを求めているからか?

殆どの記憶を失ってる俺ではわからん……でも、嫌じゃないからいいや。


取り敢えずは、彼らを本当の両親と兄弟と思うことから始めよう。

親父、お袋……は流石にまずいか。

よし……パパン、ママンと呼ぶことにしよう。


大きなテーブルに美味しそうな食事が沢山置かれていく。

どれもこれも美味しそうで、とても手の込んだ料理ばかりだ。


香ばしい匂いが俺の鼻に飛び込んできた。

それに反応したのが俺の腹だ。

『くぅ』と音を鳴らし、早く美味しそうな物を入れてくれと急かしたのだ。


「さあ、食事にしよう! エルティナも沢山食べなさい!」


ヤッシュパパンの顔がニッコニコである。

まあ、俺も美味しそうな料理が出てきてニッコニコなんだが……。


「あらあら、そっくりな表情ね」


ディアナママンが微笑み。


「これは料理長の自慢の一品だよ?」


とリオット兄が料理を教えてくれ……


「ほっぺに付いてるぞ? ふふ……相変わらず……いや、だからこそか」


一人何やら納得しながら、俺の世話をしてくれるルーカス兄。


なんだ? この空間はっ!?

満たされる……俺の心が! これが、家族というものかっ!!


満たされたのは腹だけではなかった。

心までもが満たされたのだ。

フィリミシアにきてからの初めての経験。

俺は少し戸惑いながらも、ある言葉が口から自然に出た。


「ありがとう」


飾りも何もないが、最大限の感謝の言葉を自然と口にしていた。

これ以上何かを付け足せば、それこそ蛇足となるだろう。

それで十分だったのは、家族の顔を見れば一目瞭然であった。


腹が一杯になった俺は、家族にお暇することを伝えた。

この家に住めばいい、と言ってくれたが……

俺には帰る場所があるし事情があった。


ヒーラー協会。

俺が最初に厄介になった場所。

最初の大きな面倒事を抱える切っ掛けになった場所。

大切な仲間を得ることができた場所。


後は学校の件。

俺は色々と秘密を抱えながら登校している身だ。

ぶっちゃけ歩く国家機密である。ふきゅん!


なので、色々バレると面倒なことになる。

俺は面倒が嫌いなんだ……(震え声)。


また来ることを約束し、俺はヒーラー協会へと続く道をネーシャさんと歩く。

今日……思いきってエティル家に行って良かった。

初代が愛されてると知れて良かった。


だから……迷いなく、あのクソ野郎をぶちのめせる。

あいつらは絶対に許さん。


「見てろよ……絶対に! 奥歯ガタガタ言わせてやる!!」


俺は月夜に吠えた。

隣にいたネーシャさんがビックリしていたのは内緒な?(約束)




「ふむぅ……これで粗方、抱えていたものが解消されたわけだ」


自室のベッドの上で、これまでのことを思い出していた。

相変わらず俺の腹の上には野良にゃんこが丸くなっている。


初代のこと。アルのおっさんのこと。エレノアさんのこと。

ミランダさんのこと。デイモンド爺さんのこと。

ビビッド兄とティファ姉のこと。

ヒーラー協会の仲間達のこと。


そして、戦争にかかわった人達のこと。


「一区切りか……」


取り敢えずは、自分のことに専念できる……といったところか。

まずは力を付けることは急務であるが……。


「身体能力は絶望的だな」


そう、物理は無理であった。

レベルうんぬんとかいう次元ではない。

腹で丸くなっているにゃんこと戦っても勝てる気がしないのだ。


「かといって魔法もなぁ……」


魔法も酷いものだった。

発動できても飛ばせない上に、即座に俺を巻き込んで爆発。

あるいは変な状態になるのだ。


「日常魔法は上手くできるのになぁ……」


そこまで、言いかけ……ティンときた!


「上手く使えば……あるいは!?」


いけるのではないか!?

昔読んだ漫画の中にヒントは沢山ある!!

強力な必殺技は、単純な日常生活に潜んでいることが沢山あるのだ!


「うおぉぉ……俺は今! 猛烈に感謝している!」


俺はこの日ほど漫画達に感謝したことはない。

希望が見えた気がしたのだ。


次の日から俺の秘密の特訓が始まることになる。

別に血の汗流したりするわけじゃない。

必要な道具を集めたり、試しに発動するだけである。


ただ唯一つ……絶対にやりたくないと思っている魔法がある。


初代が創った……禁呪。

正確には『術式』と呼ばれる魔法のオプションパーツみたいなものだ。

単体では効果はないが魔法と組み合わせることによって効果を発揮する。

初代が作った術式の名は『多重連結発動術式』という。


これは初代と仲間が構想、試作し……計算したところ、

とんでもなく無茶であったため、即座に封印したものである。


初代達の構想は十人がかりでの発動であったが、術式に欠陥があったらしく、

一人が全ての魔力を負担することになってしまったらしい。

そんなこともあり、泣く泣く封印となったわけだ。


こいつは十倍の威力の魔法を、一瞬で十個作り出す術式だ。

単純計算で百倍の魔力を、一瞬で消費する計算になる。

並みの魔力の持ち主では自殺以外の何物でもない。


しかし、俺は『多重連結発動術式』を使い魔法を発動できる自信があった。

それは魔力保有量が桁外れに高いことを自覚しているからだ。


でも……ぶっぱなすのは無理だろう。

ファイアーボールでさえ飛ばせないのだ。

壮絶な自爆にしかならない。

普通のファイアーボール一発でとんでもない威力なのに、

その百倍の威力の爆発が起こるんだぜ……?


……核爆発かな?(てぃると〇うぇいと)


「……使えんなぁ」


しかも、これ対人用じゃなくて対ドラゴン用だしね!

……フラグじゃなければいいけど!(震え声)


なにはともあれ、目標は決まった。

後はただ行くのみ! 


うおぉぉぉぉっ! やってやるぜぇぇぇっ!!


俺はベッドの毛布に包まりながら拳を突き上げた。


ごすっ!


壁を強打し悶絶する俺。

にゃんこが慰めてくれなかったら、即座に挫折していたことだろう。

しくしく……。

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