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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
299/800

299食目 暴虐の音玉

 ◆◆◆ シグルド ◆◆◆


 この少女は、果たして人間なのだろうか?

 そう思ってしまうほど、異常な身体能力の持ち主であった。

 我の攻撃が直撃すれば、必ずや倒せると信じて疑わなかったのだが……。


「つあぁっ!」


 我の尾による薙ぎ払いが腹に直撃し、緑髪の少女のを吹き飛ばした。

 彼女は少し離れた位置にあった岩に激突、

 その岩を粉々に破壊して瓦礫に埋もれてしまう。

 この状況、誰しもが我の勝利を疑わないであろう。


 だが……違うのだ。


「うふふ……いいわ、いいわよ、貴方。

 最高だわ、久しぶりに『痛い』と感じることができるなんて」


 緑髪の少女を埋め尽くす大小さまざまな瓦礫を吹き飛ばし、

 彼女は何事もなかったかのように立ち上がってくる。

 目に見える傷などどこにもついてはいない。

 最早、恐怖以外の何物でもなかった。

 以前の我なら、心が折れそうになっていたかもしれないだろう。


「そう言っていられるのも、今の内だけだ」


 しかし、今の我はかつての我ではない、

 我が友『シグルド』の名を継ぎ、兄弟と呼ぶ漢と共にあるのだ。

 我の牙は二度と折れたりはせぬ……決してだ!!


「私の名はユウユウ・カサラ。

 殺す前に、貴方のお名前を聞いておいてもよろしくて?」


 ユウユウと名乗った緑髪の少女から放たれる殺気の質が変わった。

 どうやら、本気になったようだ。


「我が名は怒竜ガルンドラゴンのシグルド。世界最強になる男の名だ」


 我とユウユウの間にある空間が、悲鳴を上げているかのように軋んだ。

 世界は広い。

 このような少女が、この域にまで自分を高めているとは……

 種族の優位性などあてにはならぬ。


『HEY、ブラザー、楽しんでないかい?』


『すまぬ、そのとおりだ。

 我は井の中の蛙だったことを思い知らされている』


 マイクの鋭い指摘に我は素直に今の心境を伝える。

 こいつに隠し事など通用しないからだ。


『おいおい、ワクワクするのもいいけど、

 先はまだ長いんだぜ? もたもたしていたら、増援を呼ばれちまう』


『ふん、ならば全てを薙ぎ払って進むのみよ!

 最早……我に後退の文字はない! ただ、ただ前に進むのみ!!』


 そう、我らはただ、前に進むのみだ。


「ゆくぞ、強き少女ユウユウ・カサラ!」


「クスクス……来なさい、怒竜ガルンドラゴンのシグルド!」


 我らの間にある空間が、ぶつかり合う殺気に耐えられなくなり遂に弾けた。

 それは、我らが仕掛ける合図だ。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 我は弾けるように前へ出る。

 その眼前には、既にユウユウの姿。


 早い! 我が弾けるように前へ出るのに対し、

 彼女は爆ぜるように踏み込んでいたのだ。


 事実、ユウユウが踏み込んだ箇所は、

 その衝撃により跡形もなくなっている。

 ぬかった! これほどまでの瞬発力を持っていたとは!?


 ユウユウが右腕を振りかぶった。

 あの『手刀』が我にふり降ろされようとしているのだ!

 これを受けてしまったら致命傷になりかねない!


『ブラザー! 桃力だ!』


 マイクが呆気に取られていた我に指示を出す。

 その声に反応し、彼と何度も練習した桃力の特性『固』を発動させる。


 対象はユウユウの『右肘』だ。


「桃力……特性『固』!!」


 我の口より放たれたピンク色の光が、彼女の右肘に纏わり付いた。

 この光は我が狙った箇所へ勝手に飛んで行き、対象に命中するまで追い続ける。

 そして、その光は彼女の右肘に命中した。


「この光は……なっ!? 肘が曲がらない!!」


 当然だ、我の桃力の特性は『固』。

 その特性をもってして右肘を『固定』したのだから。


 しかし、ユウユウは不格好な状態で、強引に手刀を振り降ろしてきた。

 威力は半分以下になっているであろう。

 それでも、彼女の手刀は空を引き裂き大地を割るに至った。


 攻撃範囲が狭まったことにより、我は難を逃れることができが、

 マイクの咄嗟の呼びかけがなければ、

 この攻撃で我は絶命していたかもしれない。


『ファック! 肘を封じてもあの威力かよ!?

 あのお嬢ちゃんドーピングでもしてんじゃねーの!?』


『そんな薬に頼るような感じの少女ではない』


 その時、背中に鋭い痛み。

 いや、背中ではない……これは翼か!?


 ドサリと落ちる我の左翼。

 かわしたと思っていたが、どうやら命中していたらしい。

 これで、我は空の移動手段を失ったことになる。


『ブラザー!?』


『問題ない。暫くすれば、また生えてくる。

 それよりもマイク、『あれ』を使う。

 このチャンスを逃すつもりはない』


 我が使うというのは、マイクと共に練習していた『必殺技』のことである。

 その技の名はマイクが決めたため、酷く長く滑稽な名前になってしまった。

 故に我は『あれ』と呼ぶことに決めたのだ。


『おいおい、ブラザー。

 きちんと技名を言っておくれよ?

 俺っちが命名した、すんばらしぃネーミング、

「スーパー・デラックス・ワンダーボイス・ボール・アタック」

 ていう名があるじゃねぇか」


『断る』


 もう二度と、こいつに命名させることはないだろう。

 ただ、威力は申し分ない。 


 ユウユウ、おまえが初めての使用対象だ。

 我は汝に敬意を表し、汝に最高の一撃を捧げる!!


「ゴヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 咆哮、この技はそれから始まる。

 この時、咆哮に桃力を混ぜ込む。


「そんな咆哮くらい……足が地面から離れない!?」


 そう、桃力の特性でユウユウの足と大地を固定したのだ。

 すかさず彼女は、動く左腕で大地を砕こうとした。

 だが、不格好な姿勢と桃力によって広範囲に『固定』された大地は、

 ユウユウの剛力でもっても、亀裂一つ入ることはなかった。


「うそ……!? こんなことって!」


 彼女の驚愕する顔が我に向けられる。

 既に我は必殺技の最終工程に入っていた。


 我の口の前には、ピンク色に輝く桃力の玉。

 それが、どんどんと大きくなっていく。

 この玉は桃力の特性『固』で作ったものだ。

 そして、その中にいれているのは我の『咆哮』。


 放つ際、拡散し威力が落ちてしまう我の咆哮を、

 一つに凝縮させ威力を最大限まで上げる、というのがマイクの考えであった。

 試行錯誤の末に出来上がったこの必殺技は、

 今まで我が放ってきた、どの攻撃よりも威力がある。

 まさに、必殺技と呼ぶに相応しいものとなったのだ。


「我は汝に敬意を表する! 受けよ! 我が必殺の一撃を!!」


 我の咆哮を限界まで詰め込んだピンク色の大玉は、音もなく静かに放たれた。

 それは、まるで穏やかな海。


 我が何度となく、ゼグラクトの古びたドックから眺めていたそれと、

 同じだと感じたのである。

 だが、着弾すればその考えは一変するだろう。


 ゆっくりと、光の玉がユウユウに着弾した。


「ぐっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 光が爆ぜ、凝縮された我の咆哮が解き放たれた。

 それは大気を震わせ、大地を砕き、景色をも歪ませたのである。

 それは、まるで荒れ狂う海。


 我が幾度となくマーベットを連れて、

 古びたドックを離れた時の光景と重なった。

 いかなる者をも無慈悲に葬り去る、自然が作り出す暴虐の力。

 その力に酷似したものが、ユウユウに『直撃』したのである。


 暴虐の音の爆弾が全てを飲み込み爆ぜた後、そこには何も残ってはいなかった。

 辛うじて、何か起こったであろう痕跡が見て取れるだけである。


「我の勝ちだ」


 聞く者もいないであろうが、我は己の勝利を宣言した。

 それが、戦士としての礼儀だと思ったからである。




 恐るべき戦士を退けた我らは、小さき強者エルティナの下へと急ぐ。

 その先に待ち構えるのは幼き戦士達。


 だが、決して油断はできぬ。

 かれらは、ベテランの冒険者に引けを取らないであろう強さを持つ、

 と予感がしたからだ。


 先ほど彼らが油断していた時に、

 まとめて仕留められなかったのが悔やまれる。


『幸先の良いスタートだと思いたいねぇ、ブラザー』


『あぁ、翼をやられたのは痛いがな』


 一キロメートルほど先に、エルティナが連れて行かれたデクス山が見えてきた。

 我と彼女の決戦の場所である。


「雌雄を決めるに申し分ない場所だ」


 我らは臆することなく突き進んだ。

 最強を目指す我らが、超えなくてはならない者を討ち果たすために。

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