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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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298食目 僕が護るべき女性

 デクス山……ラングステン王国首都フィリミシアから、

 北に位置する大きな山脈である。

 そこの自然は人の手に付けられず、自由気ままに生を謳歌していた。

 希少な植物や動物、あるいは精霊達もが、

 人の手による搾取を免れていたのである。


 そんなこともあってか、この山の通行は非常に厳しいものがある。

 何しろ人が通る道はなく、獣道のようなものがあるだけなのだ。

 そのように人の手が付けられず、

 自然が多く残る稀有な山であるのには理由があった。


 この山の向こうには、『魔族』が支配する大陸が存在するのである。

 言わば、このデクス山は魔族の国との、

 バリケードの役目を果たしてくれているのだ。


 そんな理由もあってか、この山に近付く者は滅多にいない。

 一応は騎士団が駐屯して魔族を警戒してはいるが、

 ここ最近は目立った行動をしていないらしく、

 魔族の目撃例はほぼ皆無であった。


 首都フィリミシアは元々はラングステン王国の南寄りにあったのだが、

 魔族とのいさかいが激化していく過程で、

 新たにデクス山の近くに建設された比較的新しい町である。

 とはいえ、建設から既に二百年ほど経過しているのだが。


 その建設理由はもちろん、魔族への牽制である。

 当初は町の住人は全てが騎士や冒険者達であったと聞く。

 住民全てが、戦える戦士であったのだ。


 フィリミシア城が町の北側に位置しているのは、そういった理由が大きい。

 フィリミシア城はいわゆる、ラングステン王国を護る最大の砦であったのだ。


「はぁ、はぁ……馬くらいは用意しておくべきだったかな?」


「いえ、あの竜を見てしまっては使い物にならなかったでしょう」


 クウヤがユウユウとガルンドラゴンが戦っているであろう方角を見て、

 馬は使い物にならなかっただろうと言った。


 確かに、馬は臆病な生物だ。

 ガルンドラゴン、そしてユウユウを見てしまっては固まって動けなくなるか、

 最悪失神してしまうことだろう。

 

 普段、彼女を見慣れている僕達はなんともないが、

 見慣れていない者達は彼女を見た途端、悲鳴を上げて逃げ出したり、

 泡を吹いて卒倒したりしている。

 

 やはり、ユウユウは普通ではない、と考えた方がいいのだろう。

 とてつもなく失礼ではあるが、

 僕の危機感がそうしろと言っているのでそれに従う。


「エドワード殿下、戦士達が到着したようです」


 クウヤのいうとおり、デクス山に到着したフォクベルト達の姿があった。

 どうやら、彼らは野生の『ランナー』を捕らえて、

 その背に乗って来たらしい。


「どう、どう、よくがんばってくれたね」


「ヴォキー、ヴォキー!」


 フォクベルトが息を切らせているランナーを労い、

『フリースペース』から干し草と少々の岩塩を取り出しランナーに与えた。


 このランナーは、フィリミシア全域に生息するロバのような生物だ。

 草食動物であり気性も穏やかで、

 背に乗った者の指示に素直に従うという性質を持っている。


 とはいえ、その走る速度は馬には敵わず、

 また体力も馬の半分程度であることから、

 あまりランナーを利用する者はいないのが現状だ。


 しかし、僕らのように子供が乗るのであるなら話は別だ。

 体重が軽い分、彼らの走る速度は大人を載せた馬の速度に匹敵する。


「エドワード殿下、フォクベルトただいま到着いたしました」


「あぁ、よく来てくれた。面子はどうなっているんだい?」


「はい、僕とガンズロック、リンダにガイリンクードです。

 残りのクラスメイトはランナーを捕らえ次第、

 こちらに向かってくるので……

 後二十分程度で主要な面子は揃うかと思われます」


 彼の答えは僕を満足させるには充分であった。

 問題は勇者タカアキ達だ。


 彼らにも連絡を入れたのだが到着が遅い。

 空を駆けることのできる彼らは、

 誰よりも早く到着できるできるはずだというのに、

 いまだに一人として到着していないのである。


 僕の要求を無視したとは考えにくい、これは何かあったと考えるべきだろう。

 でも、彼らを阻むことができるほどの存在なんているのだろうか?


『エドワード殿下、現場のタカアキです。

 現在、我が友フウタとアルフォンスさんと共に、

 カオス教団八司祭、土石流のガッツァ、濁流のベルンゼ、

 獄炎のモーベンと交戦中です。

 理由はわかりませんが、どうやら我々の足止めが目的のようです。

 そちらに合流できるかは、わからなくなってきました』


 勇者タカアキから『テレパス』による連絡が送られてきた。

 その内容は耳を疑うようなもので、カオス教団の八司祭の内の三人が、

 このラングステンに侵入しているのだという。


 流石に、これは放っておける事案ではない。

 その三人の司祭は彼らにしか対抗できないだろう。

 これで、勇者タカアキ達に頼ることはできなくなった。

 でも、僕達にはまだ多くの仲間達がいる。

 大丈夫、エルティナを護るには充分過ぎる戦力だ。


『うん、わかった。タカアキは司祭の撃退に集中してほしい』


 そう告げて僕は『テレパス』を終えた。

 しかし……何故、カオス教団の八司祭が三人もこのラングステンに?

 彼らが求めるものが、この国にあるのだろうか?


 聖女であるエルティナを攫うのであれば、ここに向かってくるはず。

 なのにそれをせず、タカアキ達の足止めを優先する……

 いったい、何を目論んでいるのだ?


 いや、今はそれよりもガルンドラゴンのことだ。

 最初の援軍が到着して、そろそろ十分は過ぎようとしている。

 面子もクラスの半分は集合した。

 僕らはそろそろ山頂を目指すことにしよう。


「フォクベルト、僕らはそろそろ山頂を目指す。

 ガルンドラゴンと交戦する際は、翼を狙って飛べないようにさせてくれ」


「了解しました。ユウユウがやってくれればいいのですが……

 最悪、空を飛んで山頂に向かわれてはどうにもなりません」


 その可能性は大いにある。

 そのために、僕らがエルティナの護衛に就くのであるのだが。

 一応、ユウユウにガルンドラゴンの翼を狙ってほしいことを告げておこう。


 僕は彼女に『テレパス』を送った。


『エドワードです。ユウユウ、一つ頼まれてくれないかな?』


『今はお楽しみの最中よ? まったく不粋なんだから……

 で、用件は何かしら? 早く言ってちょうだい』


 戦いの邪魔をされる形になった彼女は不機嫌になってしまったが、

 どうやら話は聞いてくれるらしく、

 僕はガルンドラゴンの翼を使用できないようにしてほしい、

 と告げることができた。


『用件はそれだけかしら? それじゃあ切るわよ』


 ユウユウは、有無を言わさずに『テレパス』を終了させてしまった。

 取り敢えずは要件を伝えられたので良しとしよう。


「エド、俺をここに置いてゆくんだぁ。

 俺とシグルドの戦いは宿命付けられているから、

 絶対に回避はできないんだぜ」


「それでもダメだよ。

 それに、回避できないのであれば、その宿命を粉砕するのみさ」


 僕はエルティナを抱きかかえ、デクス山を登り始めた。

 成長し少しばかり大人になった彼女の姿に胸の鼓動が速まる。

 絶対に護ってみせる、どんな手を使ってでもだ。


「ふきゅん、頑固者めぇ」


「お互い様だろう?」


 そんな軽口を交わす。

 エルティナはもう抵抗する気はないようで、

 大人しく僕の腕に抱かれて頂上に運ばれている。


「シグルド……俺は天辺で待つ。

 おまえの覚悟が本物なら、全てをねじ伏せて来てみやがれ。

 その時は俺も全力で戦ってやる」


 ガルンドラゴンとユウユウが戦っているであろう場所を見つめ、

 エルティナは呟いた。


 彼女がもしも男であったならば、僕はその男気に惚れこんでいただろう。

 しかし、エルティナは女の子だ。

 いくら男前の性格をしていようが、基本的に戦ってはいけない存在である。

 それに、彼女はもう十分傷付き悲しんだではないか。


 これ以上、傷付かせてなるものか。

 これ以上、悲しまさせてなるものか。


 エルティナは僕が護る。

 彼女は僕が護るべき女性ひとなのだから。

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