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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第七章 逆襲のガルンドラゴン~シグルドの挑戦~
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296食目 立ち塞がりし者

「ガルン……ドラゴン!!」


 眼前に降り立った巨大な黄金の竜。

 その姿は以前戦った時とは違っていた。


 まずは、体が小さくなってしまっている。

 いや、これは小さくなったというよりは、引き締まったというべきか。

 余計な脂肪は全て筋肉に昇華され、洗練された肉体へと進化を遂げていた。


 小さくなった体だが翼の方は以前の大きさを保っている。

 だから、飛行が安定していたのだろう。


 何よりも目に付くのは額に刻み込まれた大きな傷跡。

 ただ目立つだけじゃない、そこから感じる大きな力。


 それは大いなる意思、揺るがない決意、

 そして……断ち切れない絆のようなものさえ感じる。


『エルティナ、その考えは正しい。そして最悪の状況だ』


 桃先輩の声に戦慄の色が混じっている。

 その言葉を聞き、俺も確信に至った。


『真・身魂融合……英雄の傷跡』


『そうだ、あの額の傷は「英雄の傷跡」によってできたもの。

 どういう経緯かわからないが、

 あのガルンドラゴンは己の大切な存在との「真・身魂融合」を果たしている。

 つまり、ヤツがこの世界のもう一人の「桃使い」だ』


 なんということであろうか?

 カーンテヒルに生まれたもう一人の桃使いが、

 こともあろうか最強最悪の宿敵であったとは!


「小さき強者よ、我が名はシグルド! 怒竜ガルンドラゴンのシグルドだ!

 我は汝に決闘を申し込む!」


 その黄金の竜の目には怨恨や憎悪はない。

 あるのは闘志、強者に挑む挑戦者の目付。

 この俺を強者と認め、わざわざ真正面から決闘を申し込んできたのだ。

 なんという、バカで真っ直ぐな漢なのだろうか。


 俺とこいつがやっていたのは野生の戦い。

 反則も何もない、相手を食らった方が勝者の情け無用の勝負だ。

 不意打ちで勝利しても誰も文句は言えない。

 油断していた方が悪いのだ。

 それが野生の戦い。


 しかし、こいつは不意打ちを捨て、堂々と俺と向かい合い宣言した。

『自分と戦ってくれ』と。


「受けて立つ! 俺の名はエルティナ! 白エルフのエルティナだ!」


 俺は迷うことなく決闘を受けた。

 何故なら、俺はこいつに勝った王者であるからだ。

 その王者が逃げてどうする!


 俺はこのガルンドラゴン……

 いや、シグルドと再び戦うために、今まで己を鍛えてきたのだ。

 今こそ、魔法技『禁じ手』を解放する時がきたのである。


『まったく、おまえというヤツは……どうなっても知らんぞ』


『さーせん』


 桃先輩は呆れはしたものの、決闘自体は止めなかった。

 いつか、こういうことになることを、予感していたのは俺だけではないのだ。

 彼もまた、俺に協力を惜しまず、

 魔法技の完成に協力してくれた一人であるのだから。


「ガルンドラゴンのシグルド。俺の名は桃先輩のトウヤだ。

 そちらの桃先輩と話がしたい」


 俺の口から桃先輩の声が発せられる。

 そして、シグルドの口からも別人の声が発せられた。

 これで間違いない、シグルドは桃使いだ。


「ひゅー! こいつは、おったまげたねぇ?

 まさか、ブラザーの宿敵が桃使いで、

 パートナーが『音無しのトウヤ』とはなぁ?

 HAHAHA! 笑えねぇよ」


 シグルドには似つかわしくないほど、甲高く軽い声が発せられる。

 その姿と相まって違和感が半端ではない。


 え、俺? 気にするな!!(緊急回避)


「その声……第二支部のマイクか!?」


「ピンポーン! 正解~。

 久しぶりだね~決戦の時以来か?

 やっぱり、戦闘部隊から外されたって本当だったみたいだなぁ」


 どうやら、二人は知り合いのようだ。

 ただ、仲が良いかどうかはわからない。

 この二人、性格が正反対の様子だからである。


「マイク、桃アカデミー本部はこの戦いを憂いている。

 回避はできないのか?」


 桃先輩の言葉を聞いたマイクという桃先輩は暫し沈黙した。

 桃先輩が再び話しかけようとした時、

 マイクは「ぶはっ」と吹き出した。


「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!

 おいおい、笑わせないでくれよ!?

 回避だぁ? バカ言うんじゃないよ!

 男が命を懸けて勝負を挑みにきたんだぜ?

 それを桃アカデミーの本部様が憂いているから止めます~、

 だなんて言えるわけないだろうが! ファッキン!」


「しかし、このままでは貴重な桃使いの内、一人が命を落とすぞ」


「そうかい、だったら……

 残った一人が全てを受け継いで、鬼と戦えばいいじゃねぇか。

 俺達は既に覚悟が完了しているんだぜぇ?」


 マイクという男の言葉から軽さが消えた。

 この男もまた決意と覚悟を決めている。

 もう、言葉は無粋になるだけだ。


「是非もなし」


 俺はその一言を言い放ち、両者の会話を終わらせた。


「は~、そっちの嬢ちゃんの方がよっぽど覚悟が決まってるねぇ?

 俺っちはマイクってんだ! 短い付き合いになるとは思うがよろしくな!」


「エルティナだ。確かに、短い付き合いになりそうだ。

 勝つのはこの俺だからな……!」


 俺の闘志がマイクの挑発によりムクムクと増大してゆく、

 戦士として経験を積んできた俺は、

 挑発を闘志に変える術を会得していたのである!

 もう挑発なんぞに、うっかりと乗らないのだ!


 ……たぶん。


「あ~、すまない。

 きみ達は盛り上がているようだが……

 決闘だなんて僕達が許すとでも思っているのかい?」


 ここで横やりを入れてきたのはエドワードだった。


「知ったことではない。

 邪魔をするのであれば、何者であろうと滅ぼすのみ」


 シグルドは鋭い眼光をエドワード達に向けた。

 その目は並みの戦士であれば腰を抜かすほどの威圧感がある。

 ただ、ここにいるのは並みの戦士ではない。

 幼いにもかかわらず、幾多の戦いをくぐり抜けてきた者達なのだ。


 クウヤはどうかわからないが、腕前を見たところ、

 エドワードと遜色がないほどの強さを持っているように思われる。


「へ~、そうかい。

 じゃあ、エルとやり合う前に……俺達を倒してみせろよ!」


「にゃ~~~~~~~~~~~~~ん!!」


 ライオットが戦いの構えを取った。

 肩に載るツツオウもやる気だ。


「おまえは……そうか、汝も我に立ち向かいし者であったな」


 シグルドの闘気が体から溢れ出す。

 俺の想像よりも遥かに巨大で猛々しい。

 どれだけパワーアップして帰ってきたんだ……こいつはっ!?


「エルティナ、そこで待っていろ……すぐに片付ける」


 そう言って、シグルドが動いた。

 右前脚をライオット達に向けて振り下ろしたのである。

 その動きは無駄がなく、かつ恐るべき速度であった。


 シグルドの攻撃に反応できたのはライオットだけであり、

 他の二人は反応が遅れてしまった。

 咄嗟にライオットは、シグルドの攻撃を受け止める構えを見せる。

 しかし、『輝ける獅子』の状態ならまだしも、

 通常の状態の彼でシグルドの巨大な前足を受け止められるであろうか?


 猛烈な地響き。

 シグルドが振り下ろした右前足が大地を揺るがしたのである。

 なんという威力なのだろうか。

 これでは、ライオット達もひとたまりもないかもしれない。


「クスクス……面白いことをしているわね。

 私も混ぜてくれないかしら?」


 少女の凛とした声、その後にシグルドの右前足が徐々に上がってゆく。

 砂煙舞う前足の下にいたのは、可憐なる華の乙女。


 片手で黄金の竜の前足を涼しい顔で上げてゆくのは、

 深緑色の美しい髪をツインテールにし、

 真っ赤なバラを模ったドレスを身に纏った美少女。

 我がクラスの絶対強者、ユウユウ・カサラであった。


 その足元にはダチョウの鳥人……もとい、鷲の鳥人オフォールが転がっている。


「ご苦労様、オフォール」


「ぜひー、ぜひー、ど、どういたしまして……げふっ」


 ムチャサセヤガッテ。


 どうやら、驚異的な脚力を誇るオフォールに乗って、

 恐ろしいほど足の遅いユウユウがやってきたらしい。

 彼女のオフォールの扱いは、彼の惨状を見ればわかるだろう。

 どうか安らかに眠ってほしい。


「まだ、死んでねーからっ!?」


「ふきゅん!?

 俺の心を読んでツッコミを入れるのは、やめてくれませんかねぇ?」


 そんなオフォールとのやり取りを当たり前のように無視して、

 ユウユウとシグルドは対峙した。


 突如現れた強者に警戒を強めるシグルド。

 一方、ユウユウはかつてない強者との対面に、

 彼女はこれ以上ないほどの笑顔を見せたのである。

 しかも、その笑顔は見る者を惹き付け離さないほど美しかった。


 あ……でも、この笑顔は見たら死ぬ笑顔だ(確信)。


「クスクス……貴方なら、私を満足させてくれそうね」


「……汝では、我を止めることは叶わぬ」


 両者の激突は必至であった。

 ここに、絶対強者と絶対強者がぶつかり合う、

 という非常事態が発生したのである。


 そして、俺の立場がなくなったことに、

 深い悲しみを覚えたのであった。がっでむ。

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