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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
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291食目 ライオンハート

 ◆◆◆ ライオット ◆◆◆


「大変だよ! 食いしん坊が食べられてしまった!」


 一瞬の隙だった。 

 地面から飛び出してきた無数の触手に掴まれ、

 エルがあっという間に鬼に食われてしまったのだ。


「わかってる! プルル、援護してくれ! 俺が行く!!」


 プルルは魔導ライフルを連射し、懸命に触手を打ち落としているが、

 そのあまりの数に効果は表れていない。

 これでは、エルのところまでいけるかどうか?


「行くって言ったって、鬼に触れただけで接触部分が食べられるんだよ!?

 僕達は桃使いじゃない、食いしん坊のように鬼に抵抗できる、

 強力な陽の力は持っていないんだ! 危険だよ!」


 プルルの言うことはもっともだ。

 確かに俺達ではまともに鬼に触れることは叶わないだろう。

 それでも、やらなくてはならない時があるんだ。


 特に俺にとっては……!


「場所はわかっている! エルの気をまだ感じるからな!

 プルル、その装備で俺を抱えて飛べるか!?」


「いけないこともないけど……本気かい?

 行ったら戻ってこれないんだよ!

 僕の装備は跳躍はできても、飛行はできないんだ!

 回収なんてできないんだよ!!」


 プルルが泣きそうな顔をしている。

 でも、この場には俺達しかいない、俺達がやるしかないんだ!

 エルを……俺達の希望を失うわけにはいかない!


「プルル、俺を信じろ! 必ずエルを助け出してみせる!」


「ライオット……!」


 彼女は一瞬目を伏せて考え込む素振りを見せるも、

 すぐに俺の方に向き直り穏やかな笑顔を見せた。


「うん、わかったよ。

 ライオットがそう言ったら、テコでも引かないからね」


 そう言うとプルルはしゃがみ込んだ。

 背中に乗れということだろう。

 俺は彼女の背にある箱のような部分に乗り合図を出す。


「いいぞ! 行ってくれ!」


「うん、いくよ! ライオット!!」


 プルルの背中の箱とスカート部分、

 そして足の裏からとてつもない力が放たれ、俺達は天高くへと飛び上がる。

 一瞬にして真下に巨大で醜悪な鬼の姿が確認できた。

 頭部と思われる先端部分の浅いところに、エルのオーラがぼんやりと見て取れる。


 一度きりの博打だ、失敗すれば命はない。

 絶対に成功させる!!


 だが、俺達に気が付いた鬼が邪魔をさせまいと大量の触手を放ってきた!


「行って! ライオット! イシヅカ、サポート!」


 プルルが魔導ライフルで触手を迎撃するも、数が多過ぎて撃墜しきれていない!

 このままでは、プルルも危ない! どうするっ!?


「早く、行って!! ライオット!!」


 プルルは魔導光剣を抜き、触手を迎え撃つ構えを見せた。

 その姿を見て俺も腹を括る。


「プルル、行ってくる!! おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は気合いと共にプルルから飛び降り、

 エルのオーラを目印に『獅子咆哮波』を放つ。

 鬼の触手を吹っ飛ばせるほどの威力だ、

 これならばエルを覆っている鬼の肉を吹き飛ばせるだろう。


 俺の思惑はそのとおりにゆき、鬼のぶよぶよした肉を吹き飛ばす。

 そしてエルの姿が見えたのだが……。


「エルっ! くそっ、再生が早過ぎる!」


 一瞬にして醜い肉は再生果たし、再びエルの姿が隠れてしまった。

 その上「獅子咆哮波』の反動で落下速度が遅くなり、

 触手にとっての良い的になってしまっている。

 当然のごとく、大量の触手が不規則な動きで俺を迎撃してきた。

 俺には空中を移動できる手段はなく、魔法も苦手でまともに扱えはしない。

 しかも、その動きは不規則で狙い難い。


「にゃ~~~~~~~~~~~ん!」


 その時のことだ、ツツオウがたてがみを放出して、

 向かってくる触手を迎撃し始めた。

 シシオウの遠隔操作砲台だ。


 頭に生えているタンポポがピンク色に光り輝いている。

 このタンポポもまた、俺達の仲間であるのだ。

 俺の危機に反応し、秘めたる力を解き放ってくれたのだろう。


「ライオット! この、邪魔をしないでおくれ!」


 続けてプルルが魔導ライフルで触手を打ち落としてゆく。

 だが鈍い衝突音がし、プルルのGDの背中の箱部分と、

 レッグアーマーが破損し煙を上げている。


「あうっ!? くっ、イシヅカ! 姿勢を整えて! まだやられるわけには!」


 プルルのカバーにムセルが入る。

 手に持った狙撃銃で、触手を纏めて三本撃墜するという荒業を披露するも、

 とにかく数が多過ぎる。

 このままでは、物量で押し潰されるのも時間の問題だ。


「えぇい! 迷うな、俺! もう一度、『獅子咆哮波』だ!」


 本日三度目の『獅子咆哮波』。

 正直な話、これは既に限界を超えた回数だ。

 大量の『気』を消耗する『獅子咆哮波』は、一日に撃てて二発。

 俺は今、限界を越えようとしている。


 だが、迷っている時間はない!

 このままでは、エルどころか……プルルすら危ういんだ!


 全身から残った僅かばかりの『気』を掻き集め、

 もう一度エルのいる部分に向けて『獅子咆哮波』を放つ。


 体中から『気』が抜けたことにより、

 一時的な憔悴状態になり意識が飛びかけるが、

 気合いでもって意識を繋ぎ止める。

 まだ、意識を手放すわけにはいかない。

『獅子咆哮波』が鬼に着弾し、そのぶよぶよの肉を吹き飛ばす。


 ここからだ! もうチャンスはない! いくぞっ!!


「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は迷うことなく吹き飛んだ肉の部分に両腕を突き入れ、

 再生を果たそうとする、ぶよぶよとした肉を無理やりこじ開けた。

 途端に感じる両腕の痛み。

 いや、触れている部分の全てに痛みを感じる。


 食われているのだ、鬼に触れている部分が。

 両腕からは血が溢れ出し、

 分厚い皮で覆われた足の裏でさえ血が溢れ出してきた。

 俺はその痛みに耐えながら、エルを引っ張り出そうと肉をかき分ける。


「エルッ! 生きているなら返事をしろっ!」


 俺の声にエルが応えた。


「バカ野郎、無茶しやがって! そのままじゃ、おまえが持たねぇぞ!」


 僅かに見えるエルの身体には、大量の触手が纏わりついている。

 どうやら桃力を体中に纏って食べられるのを防いでいるようだ。

 それでも、こんなことがいつまで続けれるかわかったものじゃない。

 顔には出していないが、相当な無理をしているはずだ。


「いま……そこから引っ張り出してやるからな!」


 もう手の感覚が殆ど残っていない。

 指も何本かなくなっているのかもしれない。

 それでも……俺は諦めることはしなかった。


 エルを護る……そう、この拳に誓ったからだ。


「ライオット! 触手がそっちに行ってる! ダメ……落としきれないよ!

 避けて……避けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「にゃ~~~~~~~~~~~~~ん!!」


 プルルの悲鳴に近い警告。

 そして、魔導ライフルの発射音と、シシオウの遠隔操作砲台の射撃音。


 きっと、撃ち漏らした触手が俺に向かってきているのだろう。

 でも、俺はここから動くわけにはいかない。

 今ここを離れたら、エルを救うことは叶わなくなる。


「はぁ、はぁ、エル……! 掴まれ! ぐっ!?」


「ライ……!」


 俺の手を掴んだエルの眠たそうな目が見開かれた。

 何故なら……。


「ごぼっ、その手を……放すんじゃねぇぞ!!」


 俺の胸から数本の触手が生えていたのだ。

 正確には背中から貫かれたのだが、今はどうだっていい!

 後はエルを引き抜くだけだ!!


 俺は渾身の力を振り絞り、エルを引き抜こうとした。

 だが、身体に力が入らない。

 その代りに口から大量の血を吐き出してしまう。


 これは、まずいかな……?


「ライオット! このっ! やめて! ライオットが死んじゃう!!

 イシヅカ、ライオットに向かってくる触手を狙い定めて!」


「にゃ~~~~~~~~~~~~ん!!」


 どうやら、もう数本の触手が向かってきているようだ。

 俺の身体が動かなく前に、エルを引き抜かなくちゃ。

 頼む、俺の身体よ、もう少し俺に付き合ってくれ。


 エルを……助けたいんだ……よ。




「あれ? ここはどこだ?」


 突然視界が真っ暗になり、俺は何もない場所に放り出されてしまった。

 いや、正確には『何も見えない』だ。

 そこは闇が充満しているだけの奇妙な空間だったのだ。


「俺……何をしていたんだっけ?」


 自分の身体の感覚を確かめようとしたが、何も感じることはできなかった。

 まるで、自分の身体がなく魂だけがふわふわと浮いているような状態だと、

 漠然に思っている自分がいた。


「俺は誰だっけ?」


 この暗い空間にいると、段々と心細くなってきた。

 自分が何者で何をしていたのかすら思い出せない。


「どうして、こんなところにいるんだろう?」


 何も思い出せないまま、俺は無意識の内に闇の中を真っ直ぐに歩き始めた。

 歩いているつもりで闇の中を進んでいる、と言っていいだろう。

 どこまでも、どこまでも同じ光景しか見えないので、

 歩いているというのも怪しいくらいだ。


 どのくらい歩き続けたのだろうか?

 一分? 十分? 一時間? それとも丸一日だろうか?

 わからない、俺はなんのために歩いているのだろう。


 焦燥感が俺を突き動かす。

 こんなことをしている場合ではない。

 だが、肝心のするべきことを思い出せないでいる。

 その矛盾が俺を焦らせ、悩ませ、苛立たせた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 闇の中、どうしようもなくなり咆えるも、

 全ては漆黒の闇の中に吸い込まれて消えていった。

 俺もやがて、この底の見えない闇の中に消えてゆくのだろうか?

 再び俺は歩き出す、自分のことも目的も思い出せないまま。


 もう、どのくらい歩いたかわからなくなって来た時、

 俺はどこよりも深い闇の中に、光り輝く小さな……小さな動物を発見した。


「こんなところに生き物が?」


 俺はその小さな生き物に近付いた。

 目を閉じ眠っていたそいつは、ゆっくりと目を開けた。

 つぶらな目に輝くのは黄金の瞳だ。


 俺は……この目を知っている気がする。

 どこで見たんだろう?


『やぁ、やっと会えたね。

 こうして、きみに会うのは初めて……いや、二度目かな?』


 その小さな生き物は、光り輝く子猫だった。

 いや、猫にしては少しばかり違和感を感じる。


「おまえはなんだ?」


『ぼく? ぼくは「きみ」さ』


 その返事はまるで謎かけのようだった。

 頭の悪い俺には少々手に余る。


「俺? おまえが?」


『そう、ぼくは「きみ」だ』


 段々と頭が混乱してきた。

 この子猫は何を言っているのだろうか? 俺は俺だ、子猫じゃない。


『いや、きみは「ぼく」だ。

 きみは無意識の内に力を求め、『心の回廊』を独りで歩いてきたんだ』


 そう言った子猫は俺に飛びかかってきた。

 それを俺は慌てて『手』で受け止める。


「っ!? 手の感触が!」


『ここは「生と死の狭間」でもある。

 ほら、見てごらん……きみの手を』


 俺の手は傷付き血に塗れていた。

 何故、このようなことに? 俺は何をしていた?

 血に塗れた傷だらけ手がズキリと痛む。

 その痛みが、靄のかかったような思考を打ち払ってくれた。


「そうだ、俺は……エルを救おうとして……!

 なぁ、俺は死んでしまったのか?

 まだ、やらなくちゃならないことが残ってるんだ」


 光り輝く子猫は何も語らない、目を閉じ沈黙をとおしている。

 それはまるで、俺を試しているかのようでもあった。


「俺は誓ったんだ! この拳に! 

 エルを、エルティナを護りとおすって!!」


 そうだ、俺はこんなところで終わるわけにはいかない。

 今、エルを助けれるのは俺しかいないんだ!


 俺の心が熱くなってゆくのを感じた。

 胸の部分が燃えるように熱くなってゆく。


「たとえ、この身が朽ち果てようとも、俺はこの拳に懸けて誓いを果たす!

 それが、獅子の獣人として生れた俺の定めだからだ!!」


 やがて、それは全身に行き渡り、失われた感覚を俺は取り戻すことができた。

 胸が熱い、まるで胸だけが燃え盛っているかのようだ。

 それだけじゃない、全身を溢れんばかりの『気』が巡っている。

 こんな感覚は初めてだ!


『獅子の心、『ライオンハート』を覚醒させることができたようだね。

 そう、ぼく達は最強たる『輝きの獅子』だ。

 あらゆる困難にも、怯まず立ち向かう雄々しき者。

 さぁ行こう、もう一人のぼく。

 ぼくの名は……」


 光り輝く獅子の子……いや、『もう一人の俺』の名を聞き届けた俺は、

 エルティナを救うため、静かに深き闇から目覚めるのだった。

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