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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
285/800

285食目 プランB

 地下道を歩くこと数分、前方に人影を確認した。

 グラシであろうか? 鬼となった今では人型を保っているかどうかすら怪しい。

 声を掛けるべきか? 否か?


『エルティナ前方に生命反応……エドワード、クラーク、ロン兄妹を確認』


 さすがは桃先輩だ、こういった場合は非常に頼りになる。

 相手の正体がわかった俺はエドワードに声を掛けた。


「おいぃ、エド!」


「エルッ!? ダメだ! こっちに来てはいけない!」


 俺はエドワードの下に駆けつけようとしたが、

 それは彼本人に止められてしまった。

 いったいどうしたんだ!?


「確認しないことには始まらん。

 ザイン、ルドルフさん援護を!

 ミカエル達はいつでも攻撃できるように構えて!

 後の面子は自己判断に任せる! ユクゾッ!」


『エルティナ、この先は広い空間だ。

 そのことを覚えておけ』


 桃先輩が突入前に、そのようなことを警告してきた。

 どういうことであろうか?


 俺達は異変に巻き込まれているであろうエドワードの下へと向かうと、

 頭上で輝く『ライト』の光がその異様な光景を露わにした。

 それを見た俺達は絶句してしまう。

 何故なら、あってはならない光景だったからだ。


「ぶるひぃ……ぶるひぃ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 そこは広い空間『だった』場所だ。

 そこにはグラシと思われる肉片が大量にこびり付いて、 

 異様な空間へと変貌を遂げてしまっていた。


 そう、俺達が戦ったグラシが融合し、

 辺り一面を覆い尽くしていたのである。

 その全ての顔には苦悶の表情、怒りの表情、悲しみの表情があった。

 いずれも負の感情である。


 贅の限りを尽くし、女を貪り、何不自由なく生きてきたグラシが、

 鬼に堕ちてしまう理由がわからない。

 それを問うても、グラシは応えてはくれないだろう。

 今の彼は……生ある者全てを憎む、悲しい存在となってしまったのだから。


 そして、無数の触手に絡めとられているルーフェイの姿が確認できる。

 それを見て興奮している双子の妹の姿もだ。

 やはり、ランフェイは手遅れだったようである(白目)。


「エルティナ様! 来てはなりません!

 この鬼には『攻撃』が通用しないのです!

 斬撃、打撃、突撃、各属性魔法も効果が見られません! ぐっ!?」


 クラークがエドワードに放たれた触手の鋭い突きを、

 分厚く頑丈な二枚の盾でもって見事に防いだ。


 彼が言うことが本当であれば、ルーフェイを救出することが難しい。

 全ての攻撃が効かないのであれば、こちらは防戦一方になってしまうからだ。

 しかも小賢しいことに彼を盾にして一方的に攻撃をしている。


 いかん……このままでは、ルーフェイが皆に見せられないような、

 超エロい行為をされてしまうだろう。

 若干、それを期待している腐女子がいるようだが(遠い目)。


 いや待て、まだ試していない属性があるだろう。

 こいつは『桃の祝福』とはわけが違うぞ!


『桃先輩!『桃光付武とうこうふぶ』を使う!』


『了解した、対象をこの場にいる全員に指定……いけるぞ、エルティナ!』


「桃戦技!『桃光付武とうこうふぶ』! 邪を退ける陽の力よ! 我らに力を!!」


 俺は高濃度に圧縮した桃力を、この場にいる仲間達全員の武器に付与した。

 そのせいで、かなりの量の桃力を持っていかれたが、背に腹は代えられない。


「皆、攻撃だ! その桃色の光は魂の輝き、陽の力を纏わせたものだ!」


 いち早く理解したザインが、

 ルーフェイを捕らえている部分のグラシに切り掛かった。


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 桃色に輝く刀は易々とグラシの肉体を両断し、

 その身を桃色の光へと変換させたのであった。

 やはり、鬼を倒すには高濃度の桃力が必要不可欠のようだ。


 戒めを解かれたルーフェイをクラークが受け止めた。

 そして、それを見て舌打ちをする残念な娘。

 そろそろ仕事をしてくれませんかねぇ?(苦情)


 幸いにもルーフェイは思ったほどの負傷はしていない様子であったので、

 治療はチユーズ達に任せ、俺はグラシに集中することにした。


 ザインの一撃が切っ掛けになり、エドワード達も攻撃に打って出た。

 確かに彼らの攻撃は効いているようだが……何かがおかしい。

 嫌な予感がする。


 何故なら、俺の大きなお耳がまたしてもピクピクと痙攣しているからだ。


 俺は急いで『フリースペース』から、シートを取り出して敷き、

 モンちゃんお手製のちゃぶ台を出して席に着き、

 パーティー会場で拝借した大量の鶏のから揚げを取り出し、

 ムシャムシャと美味しく食べ始めた。


 これは決してさぼっているわけではないと、声を大にして言いたい。

 失われた桃力を補給しているのであって、小腹が空いたとかではないのである。

 決して誘惑に負けたとかではない。


 サクッ……じゅわぁぁぁぁぁぁ……。


 くそっ! パリッパリの衣が歯を喜ばせやがる!

 肉に到達すると衣では味わえない弾力が、

 歯を優しく出迎えてくれるじゃねぇか!

 しかも、肉汁が溢れ出た上に舌に纏わり付いて離さねぇ!

 ちくしょう! ちくしょう!! これが至福……! 圧倒的、至福!!


 ぐ……くそったれめ! マヨネーズに伸びる手が止まらねぇ!

 誰だよ! 唐揚げにマヨネーズを付け始めたのは!

 相性が良過ぎて手が止まらなくなるじゃねぇか!


 うぅっ! しまった! レモンだ!

 こいつのさわやかな酸味が、加速度的に鶏のから揚げを食べさせてしまう!

 有り得ないほどの相性の良さ! 絶望的だ! 手が止まらない!


 ぎぎぎ……もうお終いだ! ホカホカのご飯が目の前に出てきてしまった!

 ジューシーな唐揚げから溢れる肉汁と脂と合わせるご飯の美味さは、

 この荒ぶる食欲を抑えることなどできやしない!

 敗北……! 否定できないほどの敗北っ!!


「ふぅ……ごちそうさまでした。げふぅ」(にっこり)


「敵前だというのに豪快な食事ですね?」


 あのムー王子も、流石に苦笑いで話しかけてきた。

 しかし、これはあくまで回復行為であって、

 サボっているわけではないのだ(真顔)。


「腹が減っては戦はできぬっ!」


 俺はそうムー王子に釈明しておいた。

 微妙な言い分であるが、まぁ構わないだろう。


 桃力の回復量が微妙だが、

 食べ物はもうないので現状の桃力でなんとかするしかない。


 皆も果敢にグラシに攻撃をしているが、

 グラシの方はまるで堪えている気配を見せなかった。

 やはり、桃力をもってしても効果が薄いのであろうか?


「エルティナ、グラシが地上の生物兵器の死骸を吸収し始めた。

 それによって、グラシの体積が大幅に増加しているようだ。

 このままではフィリミシア城が倒壊する恐れがある。

 よって、作戦を変更だ」


「プランBだな! ……で、プランBってなんだっけ?」


「重要なことくらい覚えておけ、バカ者」


 桃先輩の声に呆れが混じっていた。

 そこまで呆れなくてもいいじゃないか(深い悲しみ)。


「グラシをフィリミシア城の外へと誘導、指定箇所はモウシンクの丘だ。

 桃力の残量が少ないが……やれるな?」


「当然だぜ、桃使いである俺がやらなくて誰がやるんだ!」


 問題はどうやって誘導するかだ。

 鬼は陽の力に反応するというから、桃力を餌にしておびき寄せるか?


『その方法しかあるまい。

 だが、その場合はエルティナ、おまえ一人での行動になる。

 この質量の存在を城の外に誘導するには、

 フィリミシア城の北側部分を爆破して巨大な通り口を作るしかないからな』


 なんともデンジャラスな作戦である。

 つまりは、俺がグラシを惹き付けつつ爆破地点まで赴き、

『ファイアーボール』で城の一部を爆破しろということなのだ。


 そして、この作戦には同行者を就けることができない。

 俺の『ファイアーボール』に巻き込まれたら、ただでは済まないからだ。


 俺と密着すれば爆発を免れるが今度は威力が落ちてしまい、

 城の一部を爆破できなくなってしまう可能性がある。

 よって、俺はこの先一人で行動しなくてはならないのだ。


「ザイン、皆を連れてここから脱出してくれ」


「お、御屋形様!? なりませぬ!

 お独りでゆかれるなど、危険極まりないではありませぬか!」


 やはり、ザインは納得してくれないようである。

 しかし、これは桃使いである俺がやらなくてはならない。


「ザイン! これは『命令』だ! 頼む、俺を信じてくれ」


 俺は友人であるザインに、このようなことを言いたくはない。

 でも、心を厳しくして言わなくてはならない時があるのだ。

 それが……今であるのだから。


「……っ! しょ、承知! 否、御意!」


 ザインが唇を噛みしめて指示に従ってくれた。


 すまない……ザイン。

 必ず生きて戻るから皆と待っていてくれ。


 俺は皆に背を向けて爆破地点に向けて駆け出した。

 ルートは桃先輩が指示してくれるので迷うことはないだろう。


「えぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅてぃぃぃぃぃぃなぁぁぁぁぁぁっ!!」


 グラシが強烈な憎悪を撒き散らしながら俺を追ってきた。

 やはり、桃力に反応しているようだ。


 さぁ、行こう……大切な人達を護るために!


 俺を護ってくれる者は一人もいない、

 遂に俺は一人で鬼と戦うことになったのであった……。

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