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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
284/800

284食目 チユーズ

 地下への侵入を拒む生物兵器達。

 果たして、そのように命令されているのであろうか?


 答えは『NO』であろう。

 それは彼らの必死さから窺えた。


 彼らの顔にあるものは『恐怖』だ。

 相当に恐ろしい目に遭い、地下から命からがら脱出したものの、

 ここが、どこだかわからなくて途方に暮れていたのだろう。


 そこに、俺達が突入してきてパニック状態になり襲いかかってきた……

 といったところだろうか?


 いずれにせよ……可哀想ではあるが、

 この生物兵器達を見逃すわけにはいかない。

 一旦、彼らの生を終わらせて輪廻に帰し、

 きちんとした形の命として再び産まれてもらう。


『歪んだ命を正す』、これもまた桃使いの使命であるのだ。


「くっ、後から後から、

 地下の入口より増援がやって来るのできりがないでござる!

 御屋形様! 無理は承知で突撃いたしましょうぞ!」


 確かにザインの言うとおりだ。

 このままでは無駄に時間と体力を費やしてしまうだろう。

 リスクを承知で無理やり突入する方がいいのかもしれない。

 でも、失敗したら悲惨な結末が……。


 いや、突入だ! リスクを恐れるな!

 リスクの先に本当に価値のある結果が待っている!


 俺は覚悟を決め、パーティーメンバーに突撃の号令を発しようとした。

 その時のことだ、城側の通路から侵入してきていた生物兵器達が、

 五体ほど纏めて吹っ飛んだのである。


「……食いしん坊! ここは任せろ!」


 ブルトンであった。

 彼の大柄な肉体による『ぶちかまし』により、

 筋肉ダルマ達が抵抗する間もなく壁に叩き付けられ、

 バラバラに砕け散ったのである。


 相当な速度と威力だったのだろう。

 体当りを敢行したブルトン本人はまったくの無傷だ。

 流石はユウユウと渡り合うだけのことはある。


 普段は目立たず控えめで思慮深いが、

 ここぞという時は前に出てくる彼は非常に頼りになる存在だ。


「いけ! ここは俺達が引き受けた!」


「けけけ、忙しいことだな」


 続いてマフティとゴードンがブルトンの援護に入った。

 悪たれ三人組のいつものフォーメーションだ。

 今ではそれにてっちゃが加わり、コンビネーションは更に進化している。


 てっちゃの攻撃魔法はバカにできない威力だ。

 特に光属性下級攻撃魔法『レーザーショット』は、

 とてもホビーゴーレムが扱うような威力の魔法ではない。


 現に彼女の『レーザーショット』は、

 筋肉ダルマ達を一撃の下に葬り去っているからだ。


 ただし、この魔法は貫通力が高いので扱いが難しい。

 

 ビゥン!


 このように、容赦なくこちら側に貫通してくるのである(白目痙攣)。


「よし、ここはブルトン達に任せる! いくぞ! 突入だ!!」


 俺達は後方の生物兵器を押さえていたクウヤ達の火力を前衛に加え、

 地下への強行突入を敢行した。


 彼らを加えた前衛の火力は凄まじく、

 生物兵器達は抵抗することもできずに切り伏せられ、

 その無残な姿を晒してゆくことになる。

 そして、遂に俺達は地下への侵入に成功したのである。


 地下道はやはり暗く、まったく明かりがないような状態だ。

 そこで、俺が光属性日常魔法『ライト』で周辺を照らし視界を確保した。


 俺は暗視能力ナイトビジョンがあるので暗闇であっても遠くまで物が見える。

 よって、『ライト』の光が届かない範囲に居る敵の存在を、

 パーティーメンバーに伝える役割を受け持った。


 そして、火力にものを言わせて奥へと侵攻する。

 入り口付近に残った生物兵器達は城への侵入を選択したようで、

 俺達を追ってくることはなかった。


 彼らにしてみれば脱出であるのだが、

 その先には『ブルトン』という名の『地獄』が待っているので、

 どうあがいても絶望しか残ってない。

 彼らには心から同情する。

 

 せめて……来世では幸せな生を送ってほしいものだ。




「はぁっ!」


 クウヤの日本刀により、

 この周辺に集まっていた最後の生物兵器の命は絶たれた。


 桃先輩のレーダーにも生物兵器の反応はないもようなので、

 ここいらで一旦、休憩及び治療をおこなうことにする。


 流石の猛者達も、連戦に継ぐ連戦では負傷を免れることはできない。

 小さなケガだと侮ってはいけないのだ。

 その小さなケガが致命的になる場面はない、とは言えないのだから。


 しかし、俺は鬼との戦いまでに、

 さまざまなものを温存しなくてはならない。

 桃力に始まり、魔力、体力、そして気力すらも温存しなくてはいけない、

 と桃先輩にきつく申し付けられている。


 そこで、俺は治癒の精霊にお願いして、

 最小の魔力による治療をおこなうことにした。


 さぁ、頼むぞ!『チユーズ』!


『まかせて~』『なおすよ~』『いけいけ~』『ひゃっは~ちりょうだ~』


 俺の身体から俺に良く似た小人達が青白く輝く光の玉を手に持ち、

 ふわふわと飛び出してきた。


 そう、この子達こそが『治癒の精霊』であるのだ。

 この世界に置いて精霊とは姿形が見えなく、意思疎通は不可能であり、

 対話などは不可能である、と魔法学会で定められていた。


 しかし、治癒魔法の細分化に行き詰まっていた俺は、

 ありとあらゆる方法を実行したのである。


 それが……『治癒の精霊との対話』であったのだ。


 俺は試行錯誤を繰り返し可能性を模索した。

 奇行をおこなうのはいつものことなので、

 ヒーラー仲間達は生暖かい目で見守ってくれたが、

 考え自体は理解してくれなかった。


 彼らもまた、精霊とはそこにただあるだけで、

 利用はできても互いにわかり合うことなど不可能であると信じ切っていたのだ。

 しかし、俺はへそ曲がりな上に反骨精神が旺盛であったので、

 この定説に真っ向から挑んだ。


 毎日毎日、俺は治癒の精霊達に語りかけたのである。

 それを理解し見守ってくれたのは、レイエンさんとスラストさんであった。


「おまえがそう思うのであれば、

 治癒の精霊とわかり合える日がくるのだろうな。

 諦めるな、おまえが諦めない限り、

 治癒の精霊は必ずおまえの声を聞いてくれるはずだ」


 今にして思えば……スラストさんは俺よりも早く、

 治癒の精霊の声が聞こえていたのだろう。


 しかし、立場上魔法協会と対立するわけにはいかないので、

 精霊に意思はありわかり合える、とは大きく言えなかったのだ。


 魔法世界に置いて魔法協会は絶大な権力を持っている。

 その力はヒーラー協会など足元にも及ばないほどだ。


 だがそれは、俺がヒーラー協会に加入する前の話である。

 現在では治癒魔法に革命を起こしまくっているヒーラー協会の権限と権力は、

 おかしなくらい高まっており、

 魔法協会の権力を脅かすまでに成長しているのだ。


 さて、この治癒の精霊達なのだが、

 通常ヒーラーには十体ほどの治癒の精霊が纏わりついている。

 それぞれに宿り主に合わせて姿や性格、そして数が変化するらしい。


 治癒の精霊達との対話に成功した俺は、精霊達の姿が見えるようになっていた。

 そして、その姿と性格を知り大いに驚いた。


『ふきゅん』『ふきゅん』『おなかへった』『ごはんまだ~?』


 まさに、その姿と性格は俺そのものであった。

 金髪碧眼の眠たそうな目をした小人サイズの珍獣が、

 ふよふよと俺の周りを漂っていたのだ。


 その数、なんと五十体! 多過ぎぃ!!


 流石に五十体全てに名前を付けるのは難しいし、

 どいつもこいつも似たような顔なので誰が誰だか把握できない。

 そこで、こいつらのことを纏めて『チユーズ』と名付けることにしたのだ。


 治癒の精霊達との対話が出来るようになってからというもの、

 治癒魔法の細分化作業は劇的に変化した。


 まず、チユーズ達の好みを知ることによって、

 意図も容易く細分化に成功するようになったのだ。

 これにより、『ヒール』や『クリアランス』の細分化は既に完了している。

 そして、俺は『医療魔法』という新たな分野の魔法を、

 治癒の精霊達と共に作り出したのだ。


 というのは治癒の精霊達の治療の腕前は、

 宿るヒーラーの体に対する知識が物を言うらしいのだ。


 いくら、魔力が高くても体に対する知識がなければ、

 治癒の精霊は無駄に魔力を使い強引に治療をおこなってしまう。

 その結果、治療後に息を引き取る患者も少なくなかったのだ。


 そこで、身体の異常個所のみを、

 詳しくデータ化し表示する『メディカルステート』

 体内の内部を詳しく見ることのできる『メディカルスコープ』

 患者の痛覚を遮断しショック死を防ぐ『ペインブロック』といった、

 医療魔法を開発し、少しでも死亡率を減らして、

 尚且つヒーラーの体内構造の知識の拡大を狙ったのである。

 それは成功を収め、大幅に治療事故を減らす要因になったのだ。


 そして、なんといってもしっかりとした体の構造の知識を得たことにより、

 宿る治癒の精霊が賢くなり、

 最小限の魔力で治療をおこなえるようになったのが大きい。


 これは、治癒の精霊と対話が出来ていない者も感じることであり、

 ヒーラーが成長すれば、宿る治癒の精霊もまた成長することの証でもあった。

 いずれはヒーラー協会に所属するヒーラー全員に、

 治癒の精霊との対話を実行させたい。


 必要最小限の魔力を手に持った『チユーズ』達が手分けをして、

 負傷者達の周りに集まり負傷箇所の治療を開始し始めた。


 切り傷などの目に見える部分は軟膏を付ける要領で治療、

 骨に入ったひびや骨折部分などは、直接体内に入って修復してゆく。

 肉体を持たない彼らにとって、このようなことは朝飯前なのである。


『なおった~』『なおったよ~』『どや~』『ほめて』『ほめて』


 やがて、完璧に治療を終えたチユーズはおねだりを始める。

 彼らにとって、褒められることが生きる糧であるのだ。

 偶にこっそり、魔力をつまみ食いしているが微量なので問題ないだろう。


 うん、うん、えらいぞ……よくやってくれたな。


『わぁい』『ほめられた』『ほめられた』『きゃ』『きゃ』


 俺に褒められたチユーズ達は、

 満面の笑みを浮かべて俺の体の中へと帰っていった。

 彼らにとって俺の身体は家でもあるのだ。


 ご飯の貯蔵庫でもある(遠い目)。


「これは……いつの間に治療を?」


 気が付かない内に治療が終わっていたことに、

 驚きの声を上げるムー王子。

 これも治癒の精霊による治療の特長である。


 通常であれば手に魔力が集まり治療することが確認できるが、

 治癒の精霊達による治療はピンポイントであり、

 最小の魔力しか使わないので青白い魔力が見えないのである。

 尚且つ、魔力のチャージが必要ないので発動までの僅かな時間も発生しない。

 しかも、再発動までのディレイタイムすら発生しないという完璧さだ。


 これは術者が術式を用いて治療していないからである。

 実は術式は使用者に肉体的、精神的負担を瞬間的に掛けてしまうのだ。

 そのために術式には僅かな時間、

 発動できないようにリミッターが施されている。

 そのため、治療が間に合わないことが多い。


 しかし、術式に頼らない治癒の精霊達に待機時間などないのだ。

 宿主の魔力がある限り、タイムロスなしでガンガン治療できてしまう。


 やはり、人の知恵だけでは限界があるのだ。

 人と精霊は共に手を取り合い生きてこそ自然な状態だと言えると、

 治癒魔法の真実を知った時に強く思った。


「うん、今治癒の精霊達にお願いしたのさ」


 俺がそう言うとムー王子達は首を傾げたが、

 ザインとルドルフさんは納得したように頷いてくれた。


 ……この二人は、俺の奇行を間近に見ているからなぁ(珍獣桃言語)。




 俺達は五分ほど体を休め、再び地下道の奥へと進んだ。

 奥から流れ込んでくる空気に、陰の力が混ざり始めていて不快だ。

 きっとグラシはこの先に居る。


 果たして、俺達はグラシを輪廻の輪に帰すことができるのだろうか?

 先の見えない暗闇が、俺達を飲み込もうとしているように見えたのだった。

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