28食目 武具と俺
ぼんじゅ~る、ラングステンの『もちもちんじゅう』白エルフのエルティナだ。
今日の授業はグラウンドにて武器を使った戦闘訓練だ。
各自、得意な武器を持って、的に向かい攻撃するのである。
的と言っても、太い丸太を突き立てているだけの簡素なものだ。
尚、武器は刃の部分を潰したり丸くしているので比較的安全だ。
とはいえ、十分に気を付けて扱わないといけないのは変わりない。
訓練用に用意された武器は様々な物があった。
中には明らかに武器じゃないものまであったりしたのだが……。
「俺は折角だから、この武器を選ぶぜ!」
そんな中、俺が選んだのは斧! しかも両手用の巨大な物だ。
こいつは男のロマンだぜぇ……!(確信)
「エルじゃあ、持てねぇだろぉが……」
ガンズロックが心配そうな顔で俺を見ている。
へへ、まぁ見てな!? 見晒せ! 俺のフルパワー!!
「うぎぎぎぎ……ふきゅーん、ふきゅーん! ……あふん」
残念ながら、俺はロマンを持ち上げることができなかった!
なんということだ、俺はロマンに拒絶されてしまったのだ!!
「まぁ、斧を選ぶってぇのは理解できるがよぉ……持てなきゃなぁ?」
両手斧を『片手』で持ち上げるガンズロック。
とても六歳児の筋力とは思えない。
いったい、どういうことなんですかねぇ?
「ドワーフはよぉ、俺の歳でもよぉ、人間の大人より筋力があるのさぁ」
ニカリと笑って斧を肩に担ぐガンズロック。
そのさまは、かつて俺がやっていたテレビゲームのキャラクターに、
そっくりであった。
いい絵柄が見れたとほっこりした半面、
斧が持てなかった悔しさも、俺の心の中で阿波踊りをして、
必要以上に心を掻き乱した。
「くやしいのう、くやしいのう……」
俺は激しく阿波踊りをする悔しさを制圧し、次の武器を物色することにした。
すると、気になった武器が隅っこの方にポツンと残されていたではないか。
選ばれなくて、さみしそうにしていた武器を取り上げて、
試しに使ってみることにした。
「鞭だー! ビシバシいくぜ!!」
俺が手に取った武器は鞭である。
某ヴァンパイアハンターが使っていることで有名な武器だ。
これなら軽いし、ひょっとしたら使えるかもしれない!
……そう、思っていた時期がありました。
俺は鞭を振り回すと、鞭は俺から離れたくなかったのか、
体に巻き付いてしまい、あっという間に『芋虫状態』になってしまった。
随分と、さみしん坊な鞭であったようだ……ふきゅん。
「エルちゃん……鞭は難しいよ?」
リンダが絡まった鞭を外してくれながら説明してくれた。
特殊武器の素質がCからでないと、まともに使えない特殊武器だそうだ。
「ごめんな……鞭。
俺じゃ、おまえを扱ってやれそうにないんだぜ」
俺は鞭に謝り、そっと箱の中に戻した。
やはり、この世界は素質の世界なのだろうか?
俺の武器の素質はオールEだ。
これでは、殆ど武器をまともに使えないことになってしまう。
いや待て……ふむ! ならばいっそ、使わないって手もあるな!
「俺は拳を極めるぜ……」
「お? じゃあ、俺と勝負すっか!?」
と獅子の獣人であるライオットが、物凄いスピードで突きや蹴りを放っていた。
流石、獣人だけあって子供でも規格外の身体能力だ。
はっきり言って、何をしているのか殆ど見えない。
俺は即座に引退を決意した。
おまえに勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!!
俺は練習を一端中止して、
クラスの皆がどのような武器を使っているか見学することにした。
それからでも武器を選ぶのは遅くないはずだ。
そんな中、珍しい武器を使っているヤツを発見した。
ダナンが吹き矢を使用して的に攻撃していたのだ。
なんという予想外の武器を……。
「俺は商人志望だからな、戦うより生存率を上げる方に特化する予定さ」
更に「吹き矢は、各種の毒も使えるしな」と付け加える。
成程、そういう方法もありか。
俺も試しに吹き矢を使ってみよう。
「ユクゾッ……ふひっ!」
ポトリ……と矢が俺の足下にコロコロと転がった。
肺活量が足りなくて、矢がまともに撃てなかったのである。
本来の役目を果たせなかった矢は、悲し気に俺を見つめていた。
やめてっ! そんな目で俺を見ないでっ!(悲しみ)
「おまっ、酷いな……うはっ、ぷよぷよじゃないか。
こりゃ、吹き矢は無理だぜ」
ダナンにお腹を触られた上にダメ出しを受けた。
取り敢えず俺式『ウィンドボール』でダナンをぶっ飛ばしておく。
セクハラだめ、絶対!
ヒュリティアはツーハンドソードと言われる、巨大な両手剣を選んだようだ。
褐色の肌に煌く白銀の刀身が眩しい。
ビューリフォー! おお……ビューリフォー!!
「どれどれ、試しに俺も……」
試しに俺も使おうと思ったが、やはり持てなかった。
隣ではクラス委員長が両手剣に挑戦していたが……
持ち上がっているのは自分のお尻だけで、剣は一ミリも動いてない様子だった。
気を取り直し見学を再開することにする。
エドワードは当然、貴族の嗜みであるレイピアを使用……していなかった。
「ふしっ……はぁっ! シャオッ!!」
とか言いながら、鉤爪付きの手甲を使い、
目にも止らぬ速度で的をバラバラに引き裂くエドワード。
その洗練された動きは、まるでダンスを踊っているようでもあった。
「エドワードのセンス良いぜ。
へへ……なんだか、ワクワクしてきやがった!
手合わせしてくれねぇかなぁ?」
獲物を見つけた野獣の表情を見せるライオット。
二人は良いライバルになりそうである。
俺も試したが、的に爪が食い込んで抜けなくなったので小手を外して放置した。
おまえなんか嫌いだ! ふんっ!!
銀ドリル様はレイピアを使って訓練をしていた。
恐らく実家で習わされていたのだろう。
一つ一つの動きが機敏であり、かつ優雅ですらあったのだ。
エドワードが肉食獣の荒々しさを秘めたものであるならば、
クリューテルは草食獣のしなやかさを秘めていると感じた。
「見事なレイピアだと感心するが、どこもおかしくはない」
「あら、エルティナさん……見学ですかしら?」
俺は銀ドリル様に事情を説明する。
納得してくれた彼女は俺にレイピアを進めてきた。
理由は軽さと、ピンポイントで急所を狙うことができるその鋭さだ。
「なるほど……試しに使ってみるか」
先ほどの銀ドリル様の動きを真似てレイピアを扱ってみた。
持てることは持てるが、やはり俺には重たかった。
それでも、へっぴり腰ではあったが、なんとか使うことができるようだ。
「もう少し筋肉が付けば、扱えるようにはなりますわね」
「うん、そうだな。
候補に入れておくよ、ありがとなクー様」
ようやく候補を一つ見つけた俺は、再び見学をすることにした。
まだ、俺に適合する武器がないか調べるためだ。
フォクベルトは……なんだあれ? 見たことのない武器だな。
何か棒のような物を握っている。
「ああ……これは、こう使うんですよ」
シュイィィィィン! と音を立て光り輝く刀身が現れる。
モシカシナクテモ『ライト〇ーバー』であった。
おまえぇ、ジェ〇イの騎士かよ!?
ヴゥン、ヴゥゥン! と音を立て、フォクベルトは丸太を易々と切り裂いた。
彼の持つ光の剣は、まるで重さがないように感じられる。
待てよ? これなら俺も……。
「フォクベルトッ、俺にもそれを使わせておくれ!」
「申し訳ありませんが、これは超特殊武器です。
代々、僕の一族しか使えませんので……」
う~ん、残念!
でも、可能性がないわけではない。
だったら、新しく作ればいいのだ!
よし、これも候補に入れておこうっと(メモ)。
さてさて、他の子は何を使っているのかな?
お? あそこにリンダがいるぞ、行ってみよう。
「リンダは何を使ってるんだ?」
俺はリンダにそう聞いたが、彼女は恥ずかしいのか俺の大きな耳もとで、
コッソリと教えてくれた。
リンダの武器の素質で一番高いのは鈍器。
なんと素質Sである!
彼女は小さめのクラブを手に持っていたのだ。
「魔法より素質が高いなら、そっちで行けば良いんじゃないのか?」
「だって……はずかしいもん」
ああ……確かに、女の子が鈍器持って「ひゃっはぁぁぁぁっ!!」って……
一部の方々は狂喜乱舞しそうだが。
いいなぁ……皆、武器に恵まれて。
それに比べて俺ときたら……いや待て、まだ諦めるには早い!
可能性を捨てては何も始まらない!
そう、俺は可能性の珍獣。
見せてやろう、俺の真の姿を!
俺は手当たり次第に武器を試すことにした。
結果は……ありとあらゆる武器達にコケにされた。
「うえ~ん、武器達が苛めるよう……」
俺はガクリと崩れ落ちた。
見ろぉぉぉぉ! これが俺の真の姿だぁ!!(滝涙)
「これは、もう武器で戦うのは逆効果だな……
取り敢えずエルティナは、武器訓練の間はグランドを走って体力付けとけ」
とアルのおっさん先生はおっしゃいましたとさ。
解せぬ……ふきゅん!
◆◆◆
「めしだー!!」
運動の後は腹が減る。
グランドを何周したかも、わからなくなるくらい走り込んだ俺は、
学校の食堂にクラスメイトと共に来ていた。
ここの食堂は、ミランダさんの料理に比べれば一歩ゆずるが
メニューが豊富で、尚且つ出てくるのが早いのが売りだ。
「何を食べようか……? うむむ、良し!」
俺は、ナポリタンを食べることにした。
これも、転生者か召喚者が伝えたものだろう。
庶民の食べ物が豊かになるのは良いことだ。
食堂のおばちゃんが、俺にナポリタンを渡してくれる。
「あら~相変わらず、ちっこいわね!?
ちゃんと食べないとダメよ?」
とか言いながら、山盛りのナポリタンを俺に渡してきた。
俺の顔が隠れるほどの山である……って、こんなに食えねえよ!?(呆れ)
まあ……余ったら、ライオットやガンズロックが食べてくれるんだけどな。
食堂はかなりスペースがあるので、席の奪い合いにはならない。
丁度いい場所が空いてたので皆でそこに座った。
「じゃ、食べようよっ!」
リンダの合図で一斉に食事を楽しむ。
リンダはサンドイッチ。
ヒュリティアはホットドッグ。
ダナンは焼きそばパン。
フォクベルトはシュークリーム。
いつも思うのだが、そんなので腹膨れるのか?
ガンズロックは焼き鳥に……ビール(大ジョッキ)だ。
「ガンちゃん、一口飲ませて」
「ばぁろぉ、この歳での飲酒はなぁ、ドワーフ以外にゃ認められてねぇんだ。
アルの先生にもよぉ、絶対にエルにゃあ飲ませんなっ、て言われてんのよぉ」
そう言い切ってビールをグイッと飲み干す。
いい飲みっぷりだぁ……しょぼん。
いいなぁ、俺も早く飲みたいんだぜ!
「うめぇのか? その飲み物、俺はこっちの方でいいや」
ライオットは……でたぁぁぁぁぁぁっ! 骨付き肉っ!!!
まさに、肉食獣そのものっ!!
てか……一緒に食事するようになって結構経つが、
それ以外の料理を食べてる姿を、一度も見たことがないのだが。
まぁ、いいか……俺も、そろそろ昼食を頂くことにしよう。
ホカホカと湯気が立ち上るナポリタン。
出来たてのパスタは格別な美味さを誇るのだ。
ケチャップをまとった麺は朱く染め上げられ
玉ねぎと、ピーマン、人参、厚切りベーコンが脇を固める。
俺はそれらをよくかき混ぜ、フォークをクルクル回し、
麺を団子状にし……あむっとほう張った。
ケチャップの酸味、玉ねぎの辛味、ピーマンの苦味
そして、人参の甘味!(重要)人参が甘いのだ、果物みたいに!
更にベーコンの塩気と、ジューシーな肉汁が渾然となり舌を喜ばせる。
出来立てで、熱いというのも重要な要素だ。
冷えてるとまったくの別物になってしまう、といっても過言ではない。
冷えたナポリタンは、どこか野暮ったくなってしまう。
「んまい!」
俺は冷えないうちに、むしゃむしゃとナポリタンを腹に収めていく。
しかし、おばちゃんが渡してくれたナポリタンは多過ぎた。
半分以上も残す結果になり無念に思う。
「……のこった~」
「よこしなぁ、酒のつまみにでもするからよぉ」
ガンズロックが余ったナポリタンを受け取り、ガツガツと食べ始めた。
大抵の場合、余った料理は彼の腹に収まる。
残してしまったら、もったいないので非常にありがたいことだ。
俺もがんばって、もっと食べれるようになろう……。
ちなみに、貴族連中は別に食堂があり、そこで食事取ることになっている。
色々と過去に問題があったからだそうだ。
俺との食事を楽しみにしていたエドワードは残念がっていた。
まぁ、俺がそちらに赴くという手もあるが、
今は身分を隠しているから当分の間は無理だろうな。
◆◆◆
「ふぅ……ミランダさんの料理は至福、はっきりわかんだね」
夕食をヒーラー協会の食堂で済ませた俺は、
しばらくミランダさんと雑談し自室に戻った。
俺の指導もあり、アルのおっさんも彼女に一歩踏み込みだしたが……
やはり、前の旦那のことを引きずってるみたいだ。
流産のことも、気にしているみたいだしな。
「こればっかりは……なぁ」
ベッドに入り、ミランダさんのことを考えていたが、
次第に眠気が強くなりウトウトとしだした。
エレノアさんも……求婚されたって言ってたっけ。
相手はだれか、聞きそびれたが……。
変なヤツだったら『ファイアーボール』(自爆)で葬り去ってくれるわ!
グランドを走り回ったせいか、満腹になったせいかはわからないが
俺は知らない内に、深い眠りについていた。
たぶん……両方なのだろう……ぐーすかぴー。