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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
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277食目 魔法障壁の可能性

 しかし、勝利を確信したのも束の間のことであった。

 俺は忘れていたのである……グラシの体には無数の醜い口があったことを。


 ブチブチと音を立てて千切れてゆく蔓。

 その無数に生えている口で蔓を食い千切っていたのである。


「おいぃ……人が勝利を確信したというのに、なんてことをしてやがるんだぁ」


 しかし、悪いのは俺であったのだ。

 不覚にも失敗フラグを立ててしまったらしい。

 やっぱり、勝利は確信してはいけないものだったのだ!(戒め)


 それでも輝夜ががんばっているお陰で、蔓はまだグラシを押さえ付けている。

 だが、その『戒めの蔓』も、もうすぐ食い破られてしまいそうだ。

 今の内にグラシにダメージを与えておかなくては。


『桃先輩! 今の内に大技を叩き込んでおく!

 魔法障壁と桃力をコラボしたあの技を使うぞっ!』


『了解した。ただし、あっちは使うなよ?』


 今こそ、特訓の末に編み出した、魔法障壁の可能性の一つを示す時だ!

 俺は莫大な魔力を使用し魔法障壁をある形に形成した。

 そして、その魔法障壁に桃力を纏わす。


 この魔法障壁に桃力を纏わすことが、俺にとって非常に困難を極めた。

 何せ俺の桃力の特性は『食』だ。

 極めて利己的な性質を持ち、協力などクソ食らえ、

 と言ってのけるとんでもない桃力なのである。

 それ故に、俺の桃力は俺の魔力ですらモリモリと食べてしまうのだ。


 その桃力を桃先輩と桃師匠ともう一人、

 遅れてやってきた『桃老師』という謎の仙人様の協力を得て、

 スパルタ指導による俺の桃力の調教をおこなったのだ!


 それは過酷を極め、本体の俺が精神的苦痛で燃え尽きそうになったほどだ。

 主に桃師匠が原因なのだが……(白目痙攣)。


 だが、そのお陰で桃力は俺に従うようになった。

 ただし、それは表面上だけのことで、

 隙あらば貪り食おうとする気が満々なのだ。


 まったく……誰に似てしまったのだろうか?(呆れ)


 形成した『それ』を見た者達から驚きの声が漏れた。

 中には絶句している者もいる。

 前者は魔法に疎い者、

 後者は魔法に詳しく魔法障壁を盾程度にしか扱えない者だろう。


「あ、あれが魔法障壁だというのか!

 バカな、聖女エルティナとはいったい……!?」


 中年の要人の一人が腰を抜かして倒れ込んだ。

 どうやら彼もまた、魔法障壁がただの盾にしかならない、

 と思い込んでいた者の一人のようだ。


 だが、それが間違いであると知ってしまい、

 身体を支える力が抜けてしまったようである。

 それは、俺が魔法障壁の可能性を、彼にまざまざと見せつけたからだ。


「魔法障壁、タイプ『中華包丁』だ! 叩き切ってやる!!」


 魔法障壁で超巨大な中華包丁を形成して宙に浮かしてある。

 魔法障壁なので重さなどはない。


 その中華包丁はドアほどもある巨大な物だ。

 それに桃戦技ももせんぎ桃光付武とうこうふぶ』を使用し、

 中華包丁を桃力でコーティングすれば、対鬼用の武器が完成する。


「ぐるおがぁぁぁぁぁぁっ! えぇるてぃなぁぁぁあああぁぁぁっ!!」


 グラシが『戒めの蔓』を破り無数の触手を伸ばしてきた。

 しかし、それらはルドルフさん達によって切り落とされ、

 俺には一本たりとも届かない。


「いくぞ、グラシ! 俺の新たな力を……受けてみろっ!!」


 俺は『中華包丁』をグラシに向かって振り下ろした。

 その際は『中華包丁』に、

 重力属性日常魔法『グラビティ』を付与し威力を底上げする。


 ぶよぶよの体に物理攻撃は効かない、と思っている者が多いことだろう。

 それは確かに正しい。


 だが、この『中華包丁』は魔法障壁で作られている上に、

 中華包丁の先端の鋭さは、

 いかなる食材ですらも容易に切り裂くことができるのだ!


「ぎおぉぉぉぉぉおおおおおっぉおおおおお!!」


 俺の必殺の『中華包丁』が、グラシの不定形な体を易々と切り裂いた!

 悲鳴を上げて苦しむグラシ!


 その切られた部分から桃色の光が漏れている。

 これは桃力によって、鬼の体が浄化されているとのことだ。

 つまり、俺達桃使いは鬼を倒すことによって、

 鬼を救っているのである。

 その終わりのない苦痛から、憎悪から、悲しみから。


 鬼は生きながらにして地獄にあるのだ、と桃先輩から教わった。

 彼らは恐怖と憎悪を撒き散らすことを使命としている反面、

 自分が救われることは一切ない。


 存在自体が罪である彼らは、いつか来るであろう救済に身を焦がしながら、

 憎悪と恐怖を撒き散らしてゆく。


 そう、彼ら鬼は生きていること自体が罰なのだ。

 決して来ない幸せを掴むために足掻いている……哀れな存在なのだ。


「今、俺がおまえを救ってやる! 迷うことなく輪廻の輪へ帰れ!」


「いぎぃぃぃぃぃっ! ぐがおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 足掻くグラシは切られたはずの触手を高速で再生させ、

 俺に向かって放ってきた。

 ルドルフさん達は俺のカバーに入ることはできない。

 何故ならば、要人達にも目掛けて触手を放っていたのである。

 それをルドルフさん達は切り払っていたからだ。


「御屋形様!」


 ザインが俺を心配する声を上げる。

 大丈夫だ、ザイン。

 俺もいつまでも守られっぱなし、というわけにもいかない。


「『中華包丁』には、こういう使い方もあるんだ!」


 俺は中華包丁を使用して身を隠した。

 元々が魔法障壁だ、これくらいのことはできて当然である。

 そう、この『中華包丁』は攻防を備えた究極の武器なのだ!


 更には『桃光付武』によってダメージは加速する!

 この状態の武器に触れることは鬼にとって至難のことなのだ!


 グラシが怯んだ! チャンス到来! 決めるなら今だ!


「これでっ……! うぬっ!?」


 赤黒い光! グラシが『黄泉の光』を撒き散らし始めた!


『エルティナ!「桃結界陣」!』


 桃先輩が咄嗟に『桃結界陣』を展開し、『黄泉の光』を封じ込めに掛かる。

 しかし、それによって僅かな隙が発生してしまった。

『桃結界陣』の効力は絶大だが、その分隙ができてしまう。

 桃先輩もリスクを承知での発動だ。

 そうしなければ要人達が一人残らず犠牲になってしまう。


 ドロドロに腐ってゆくテーブルや床を見て悲鳴を上げる要人達。

 その負の感情がグラシに力を与えてしまった。


「ぎぎぃおぉぉぉ! えぇぇぇるぅぅぅうてぃぃぃぃなぁぁぁぁああ!!」


 その隙を突かれ、俺はグラシの触手に絡めとられてしまう。


 思ったとおり、触手は臭かった! 鼻がツン曲がりそうである。

 えぇい、その先端を俺に向けるんじゃない!


「エルティナ様! 控えろ、下郎!」


 一筋の閃光が俺を捉える触手を切断する。

 戒めを解かれた俺は、その閃光を放った者が誰かを知った。


「ラペッタ王子! 助かった!」


「いえ、それよりもヤツにが来ます! 気を付けて!」


 ラペッタ王子が左目に内蔵された『収束型魔導レーザー』を使用して、

 窮地の俺を救ってくれたのだ。

 彼には大きな借りを作ってしまったな。


「エルティナ! 時間を稼ぎます!『中華包丁』の修復を!

 スキル『ヘビーガード』!」


 ルドルフさんがスキルを発動して俺の盾となった。

 スキル『ヘビーガード』は空間魔法を利用したスキルの一つで、

 その場から移動できなくなる代わりに、

 あらゆる衝撃によるノックバックが発生しなくなるスキルだ。


 フェンリル戦で使用した時はわからなかったが、

 お勉強をした今の俺はスキルの効果が丸わかりなのだよ。

 俺は褒められてもいい(確信)。


 ルドルフさんが盾になってくれている内に、

『中華包丁』の修復作業をおこなう。

 こいつは魔法障壁でできているため、

 攻撃や防御でどんどんと擦り減ってしまうのだ。


 摩耗すればその分威力や耐久力が減ってしまい、

 最大限の効果を発揮しなくなってしまう。

 壊れても作り直せば済むことであるが、

 生成までに時間が掛かってしまうため修復作業をした方が早いのである。


「よし、修復完了!」


 それと同時であった。

 ルドルフさんの大きな盾が、粉々に砕けて散ってしまったのだ!

 このままではルドルフさんが危ない!

 しかし、俺がフォローに入れば、

 せっかく直した『中華包丁』が使い物にならなくなる!


「かあぁっ!」


 裂帛の叫び声と共に、グラシの巨体が吹き飛んで壁に激突した。

 その声の主はオオクマさんであり、

 彼は離れた場所で掌底突きを繰り出した姿でいた。


 なんと、グラシを吹き飛ばしたのは、彼の拳圧だったのだ!

 なんという威力であろうか!?

 小鬼程度なら彼の一撃で終わっているところであろう。


「エルティナ! 今だ、行けっ!」


「おうっ! 任せろ! 決めてやるこの『中華包丁』でな!

 それでは……ユクゾッ!」


 俺は『中華包丁』を掲げ、グラシに向かい駆け出した。

 当然、グラシも俺を近付けさせまいと触手で迎撃をおこなってくる。


「御屋形様は、その一撃に集中めされい!」


 ザインが俺の前を走りながら触手を切りはらってゆく。

 チャンスは一度きりのつもりで、グラシを仕留めるタイミングを計る。


「御屋形様、いきますぞ! 食らえぃ、『雷光一文字切り』!」


 ザインの刀が紫色の雷を帯びた。

 そしてそれを真横に薙ぎ払う。

 直撃を受けた無数の触手は黒焦げになり、

 触手を伝ってグラシ本体にも感電したのであった。


 ビクンビクンと痙攣するグラシ、チャンスは今を置いてない。

 俺はグラシに突撃を試みた。


「グラシ! 俺がおまえを救ってやる!」


『エルティナ、桃戦技『桃光斬とうこうざん』だ!」


「応! 桃戦技! とう、こう……ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


『中華包丁』にありったけの桃力を注ぎ込む。

 そして、桃色の光が溢れ出した巨大な『中華包丁』をグラシに振り下ろした!

 これぞ……俺が習得した最大奥義の一つ『桃光斬』だ。

 鬼を滅する必殺の斬撃である。


「ぎぃぃぃぃぃっぃいいいいいいあぁぁあああああぁぁっ!!」


 一刀両断になったグラシの体が桃色の光に包まれた後、

 光の粒になりパッと砕けて消えていった。

 後に残る物は何もない、これが鬼の最期。

 呆気ないグラシ・ベオルハーン・ラングステンの最期だった。


「迷わず輪廻の輪に帰れよ……グラシ」


 俺はグラシにかける言葉が、それしか見当たらなかった。

 彼は何故、鬼に堕ちてしまったのだろうか?

 答えを知る者は誰もいない。

 知る者はこの世から去ってしまったのだから。


 これで一段落か。

 後は雑魚達を駆逐すればこの騒動もお終いだ。

 まぁ、ユウユウ閣下や王様達が活躍すればすぐに終わることだろう。


 俺は『中華包丁』の使用を停止する。

 すると呆気なく巨大な包丁は霧散してしまった。


「ふぅ、これで一安心だな」


 俺の言葉に、この場にいた人々から安堵の声が漏れたのであった……。

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