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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
272/800

272食目 魑魅魍魎

 会場へと続く大きな扉がゆっくりと開いてゆく。

 俺の目の前に広がる光景は、

 果たして賑わいを見せる楽しい宴か?

 それとも魑魅魍魎が獲物を食い散らかす地獄の宴か?


 俺の目に飛び込んできたのは、

 一癖も二癖もある連中の顔であった。


 その連中からは、他にないオーラが……って、これ違う。

 よくよく見たらうちの連中じゃねぇか。

 つまり、俺のクラスメイトは魑魅魍魎だった……?(疑惑の案件)

 

 というのも、皆が正装していたので全然わからなかったのだ。

 髪型も変わっているから女連中など別人に見える。

 パッと見ですぐ判別が付くのはモルティーナくらいだ。

 モグラ獣人は体形ですぐわかるからな。


 後、ララァもバッチリわかる。

 というか、八歳の色気じゃない。

 着ている服は俺達が繕い直した力作だ。

 つまり……エロい服である。


 そして、それを堂々と着こなすララァの胆力に、俺は驚きを隠せなかった。

 もう、おっさん連中の視線を独り占めにしている。

 これで、ララァは八歳だと彼らに伝えたら、

 どのような顔を見せてくれるだろうか?(暗黒微笑)


 ララァの顔をよくよく見てみれば、

 化粧をしているのか目の下の隈とソバカスが見えなくなっていた。

 そのお陰で、ララァ本来の美しさが蘇っている。

 化粧の力は半端じゃないぜ(俺はしない)。


 だが、彼女らを抑えてぶっちぎりで目立っているのはユウユウであった。

 彼女は真っ赤なバラを模したドレスに身を包み、

 やたらと高圧的な態度を取っていたからだ。


 彼女の半径十メートルには誰も人がいない……たぬ子以外は。

 まさに、魑魅魍魎の頂点と言っていい存在になっていた。


 うん! 綺麗だけど超怖い!!


 華やかな女性陣に比べて地味なのは男性陣だ。

 特にライオットなどは……あれ? 意外と似合っている?

 最近、ライオットは落ち着きが出てきたせいか、

 タキシードを普通に着こなしているように見えた。


 いや、これは目の錯覚に違いない。

 俺はきっと疲れているんだ……間違いない(確信)。


 そして、問題だと思われたスケベトリオは、

 一糸乱れぬ正しい姿勢で整列していた。

 これは王様の効果が絶大に効いている証拠だろう。


 王様はもう会場に居るからな。

 変な姿を見せようものなら、後でこっぴどくお仕置きされるだろう。

 ふっきゅんきゅんきゅん……計画通り(暗黒微笑)。


 さて、問題のうさ子はというと……うんうん、きちんとドレスを着ているな。

 彼女は黒地に銀色の刺繍が施されているドレスを身に纏っていた。

 その白い肌がドレスの黒で良く映えている。


 マフティが顔を手で覆っている。

 恐らくはドレス姿が相当に恥ずかしいのだろう。

 ゴードンが彼女をからかっているので、それが原因かもしれないが。

 間違っても、ここで乳首を摘まむんじゃないぞ?


 そして、キュウトは信頼と安心のドレス姿であった。

 もう、お約束過ぎて掛ける声がない。

 彼女は黄色のドレスを着させられて白目痙攣をしていた。

 憐れ過ぎる、きっとマフティ辺りに道連れにされたに違いない。


 それよりもだ……ガイリンクードは、よくその格好に許可が出たな。

 彼は黒いウェスタンハットに黒いスーツ、そして黒いマントを纏っていた。

 まるで荒野のガンマンを彷彿させるが、

 下手をすれば魔王みたいな格好にも見える。

 いや、彼的にいわせれば『魔王サタン』か?


 実際問題、その姿が似合い過ぎているので文句が言えなかったのかもしれない。

 でも、タキシードも似合うと思う(提案)。


 落ち着いて見渡せば、ちらほらと見知った顔があった。

 我がエティル家の面々も揃っているし、タカアキやフウタ、

 レイエンさんの姿も確認できる。


 もちろんアルのおっさん先生も出席している。

 今回は勇者パーティーのメンバーとしてではなく、

 俺の担任として出席する形だ。

 クラスメイトが全員出席しているからな。

 それを纏める者が必要になるという理由である。


 後はミレニア様の護衛に、サツキさんやブッケンドさんが就いているようだ。

 サツキさんは、さっきからタカアキしか見ていないが大丈夫なのだろうか?

 その後ろではミカエル達が控えている。

 友人枠で俺の傍に来ないかと誘ってみたが、やはりというか遠慮された。

 ミレニア様の手前、そうせざるを得なかったのだろう。


「聖女エルティナ・ランフォーリ・エティル様が参られました。

 皆様、ご起立を願います」


 誕生パーティーの進行役は、デルケット爺さんが務めることになっている。

 勢い余って暴走することはないだろうが、このパーティーは普通ではない。

 彼の力量が試されることだろう。


 デルケット爺さんの促しにより、

 席に着いていた各国の要人達が一斉に立ち上がり俺を見てきた。


 その目は、いつも俺が民衆から向けられている眼差しではない。

 相手の本質を力量を価値を見抜き、相手の弱点、欠点を掴もうとする目だ。

 はっきり言って気持ちの良いものではない。


「さぁ、参りましょう、聖女様」


 俺は何も言わず静かに頷いた。

 これが、今回の誕生パーティーにおける秘策その一、

『極力喋らない』である。


 どうしても喋るとボロが出てしまうため、

 俺は極力喋らず、喋るとしても言葉を短くすることにしたのだ。


「大丈夫だよ、僕もエスコートするから」


 俺の手を握り誘導するのは超笑顔のエドワードだ。

 既に戦いは始まっていた。

 なんだかよくわからないが、

 各国の要人達に混じって数人の少年がいたのだが、

 あからさまにエドワードのことを敵視していた。


 いったい、何が起こっているんですかねぇ?


 俺はエドワードに連れられて、

 会場のメインとなる少し高い位置にある大きく豪華な椅子へと向かう。

 椅子にまで続くのは、真っ赤な絨毯だ。

 その汚れ一つない絨毯の上を俺達は堂々と歩いて行った。

 ただし、その際の俺の顔は無表情である。


 そう、これも秘策だ。

 秘策その二、『無表情』である。

 身内が見れば無理をしているなと感じるであろうが、

 俺を良く知らない者が見れば、この顔の俺は神秘的であるらしい。

 ミレニア様が言っていたので信憑性は高い。


 この俺の姿を見て、ひそひそ話をする者は皆無であった。

 どうやら、俺が聴覚に優れているということは、

 事前に調べ上げているようだ。


 言い換えれば、この国に間者が何人も潜り込んでいるということである。

 ということは……普段の俺の姿も伝わっているのではないだろうか?


 あれっ? これって、意味なくね?

 ま、まぁいいや。最後まできちんとやろう。


 俺がメイドさん達に手伝ってもらい、

 金色の装飾に彩られた豪華な椅子に着席すると、エドワードはその隣に並んだ。

 その顔は物凄い邪悪顔だった。しかも、ドヤ顔である。

 遠くからは歯ぎしりをさせる少年達と、それを止める保護者の姿があった。


 エドワードはいったい何がしたいんだろうか? げせぬ……。


 尚、この大きく豪華な椅子は全てが木製である。

 金などの貴金属は『一切』使用していない。


 まず、リックの親父さんが基本である椅子を作り、

 ゴードンの親父さんが装飾を施し、

 最後に何故かモンちゃんことモンティスト財務大臣が自宅にて、

 自らの手でせっせと金色の塗料で色付けした物である。


 これがまた非常に上手に塗られていて、

 プロ顔負けというか、プロが裸足で逃げるレベルだ。

 節約に命を懸ける彼の技術力は、俺達の想像を遥かに超えていた。

 モンちゃんはいったい、どこを目指しているのだろうか?


 やがて、デルケット爺さんの司会による、

 儀式のような誕生パーティーが始まった。

 なるべく早く、そして無事に終わってほしいものだ。


 そして、王様にスピーチが回ったところで事態は動き出すことになった。


「御集りの皆さま、こたびは『ラングステン王国の聖女』

 エルティナ・ランフォーリ・エティルの

 記念すべき誕生の日にお集まりいただき、

 ラングステン国王である私も感謝が絶えません」


 初っ端から王様が牽制を仕かけてきた。

 俺がラングステン王国の所属であると強調してきたのである。

 当然、各国の要人達は良い顔をしない。

 会場の雰囲気がピリピリとしてきた。


 王様はこう見えても非常に攻撃的だ。

 戦場にだって我先にと突っ込んでいくらしい。

 そんな王様をモンちゃんと、

 アマンダの祖父であるホウディック防衛大臣が、

 冷や汗を流しながら見守っている。


 しかし、二人の心配も杞憂と終わり、

 王様は無難な挨拶をしてスピーチを終えた。

 やはり、一国の王である彼はわきまえるところは知っているようだ。

 ……たぶん、うん、きっとそう。


「これより、これから聖女エルティナ様との謁見の儀を執りおこないます」


 遂に最大の試練の時がやってきた。

 これから俺は各国の要人達と、個別に対話をしなくてはならないのだ!

 ただの挨拶で終わってくれればいいのだが……

 どうも、そういう雰囲気ではないらしい。


 果たして、俺はこの試練を乗り越えることができるのであろうか!?

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