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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
271/800

271食目 初代聖女の服

 結局、そのまま窮屈な状態でフィリミシア城に運ばれてしまった俺達は、

 馬車が止まりドアを開けられると雪崩のように流れ落ちた。

 どういうわけか俺が一番下になり、

 潰れた蛙のような鳴き声を上げるハメになる。


「おごごごご……結局はこうなるのかっ! がくり」


「お、御屋形様ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ざんねん! おれのたんじょうぱーてぃーはここでおわってしまった!


「いたた……流石に無理がありましたね。

 さて、着付けの方とメイドの達が待っています。

 行きましょうか、エルティナ」


 ルドルフさんは顔面から地面に突っ込んで痙攣している俺を抱き起して、

 しっかりと立たせた後、

 何事もなかったかのように城内にある着替え室へと案内した。


 最近の彼は、こういった事態に慣れ過ぎだと思う。

 ザインの慌てぶりを少しは見習ってほしい。




 着替えなどに使用される大きな一室に案内された俺は、

 熟練のメイド達に手伝ってもらい、超絶豪華な聖女の服に着替えていた。

 

 この衣装は儀式やら身分の高い連中の挙式で使用するらしいのだが、

 俺はあまり着たいとは思わなかった。

 

 何故なら……この服、ちょ~重い。

 今すぐゴードンの発明した魔導糸を縫い付けて軽くしたいくらいだ。

 これでは動きに制限が出て、身動きがままならなくなる。


 ……マジで、あの糸って凄い発明じゃないのか?(驚愕)


「はい、終わりましたよ。聖女様」


「まぁまぁ! 相変わらずお似合いですわ!」


 巨大な一枚鏡に映った俺の姿は……たとえるなら西洋版十二単だ。

 はっきり言って過去最高の重ね着であり、自力での歩行は困難を極めた。

 というか身動きが取れない。

 これでは完全に着せ替え人形そのものである。


「ふきゅん、歩けないんだぜ」


「うふふ、そうでしょうね。

 大丈夫ですよ、移動の際には我々がサポートいたしますので」


「私達が護衛も兼ねておりますので、どうかご安心を」


 着付けには、かなりの時間が掛かってしまった。

 プロの着付けの人が居るにもかかわらず、

 これほど掛かってしまったのは、

 この聖女の服が古い物であり、

 複雑なパーツに分かれているためである。


 何故また、このような服を用意したのかと聞けば、

 この聖女の服は初代聖女が幼い時に着ていた、

 由緒正しい聖衣なのだそうだ。


 この服の保有者はミレニア様である。

 つまりはミリタナス神聖国の聖女の服なのだが……よく王様が許可を出したな。

 ひょっとしたら、復興資金の借りを返す意味合いもあるのかもしれない。

 きっと、この姿を見たらミレニア様も喜んでくれることだろう。


「あ、そうだ……このペンダントも身に付けておこう」


 あの森の神様から頂いた豪華な紋章付きのペンダントだ。

 八つの濁った宝石が付いているのだが、

 現在は青い宝石が強い輝きを放っている。


 もう一つ黒っぽい宝石が薄っすらと輝いているのだが……あれ?

 こんな色の宝石ってあったかな? わからん。

 まぁいいや、気にしても仕方がないし。


「ふきゅん、これで完璧だぁ……」(うっとり)


「ちろちろ」


 鏡に映ったぱーふぇくと珍獣スペシャルを見て、俺はうっとりしてしまった。

 首に巻き付いているフォーチュンパイソンのさぬきも、

 俺を褒め湛えてくれている。

 これで、どこからどう見ても外見だけは立派な聖女だ。

 ただし、中身は珍獣のままであるが。


 着替えが終わったということで、

 外で待機していた男連中が室内に入ってきた。

 その中には、王様まで混じっている。

 どうやら、我慢できなくて見に来てしまったようだ。


「おぉ、良く似合っているではないか。

 ふぉっふぉっふぉ、渋々条件を受け入れたが、これは怪我の功名じゃの」


「良くお似合いですよ、エルティナ」


「おぉ、これは美しゅうなられ申した!

 これならば、我が国の十二単を着ても問題ないでしょうなぁ」


 目を閉じ、妄想を膨らませるザイン。

 おいぃ……鼻血が出てるぞ!?

 まったく、どういう妄想をしているんですかねぇ?(白目)


「おぉ! ここに居たか、陛下!

 ミリタナスの若婆様が到着したらしいぜ?」


 王様相手にも溜口なグロリア将軍が部屋に顔を出してきた。

 相変わらず、割れた腹筋が美しゅうございます。


「こりゃ! おまえはどうして、そんながさつな言葉使いを……。

 はぁ、エルティナよ、グロリアのようになってはいかんぞ?

 このせいで、結婚を言い寄る男がいないのじゃ」


 王様の話を「がっはっはっは!」と笑い飛ばす彼女は、

 言葉使い以前の問題があると思われる。

 でも、きっと良い女房にはなると思うんだが。


「おっと、ミレニアが来ておるんじゃったな。

 面倒臭いが顔を出しに行かねばな」


「残念、もう来ているわ」


 その場に居る全員が、その声にビョクッとした。

 なんと、ミリタナス神聖国の教皇が、一人でここにやってきたのだ。

 なんとも無茶な人である。

 従者の人が困っているんじゃないのかな?


「あらあらあら! まあまあまあ! よぉ~……っく! 似合っているわぁ!!」


 ミレニア様が頬擦りを敢行してきた。

 王様と違ってジョリジョリしないので安心だ。

 そして、それを羨ましそうに眺めている王様。

 皆が居る手前、そのようなことができないのであろう。


「素敵だよ! エルッ!!」


 あ、ここに一人できるヤツが来た。

 エドワード、おまえは本当に臆さないヤツだなぁ。

 ある意味感心してしまう。


「あら、エド? 大きくなったわねぇ、いつぶりだったかしら?」


「はい、三歳の時に会った以来です。ミレニア様」


 あぁ、もう知り合っていたのか。

 王様とミレニア様は昔からの付き合いだって聞いてたし、

 当然といえば当然だったな。


「ふん、久しいなミレニア。

 いつもの半裸はしておらんのか?

 それとも乳が垂れ下がって着れなくなったか?」


「ふん、ラングステンが寒過ぎるから、

 暑苦しい法衣を着てきたのよ、マッチョ爺」


 仲悪いな、おい!?

 国のトップ同士がする会話じゃないぞ。


「がっはっはっは、相変わらずだな若婆様は」


「こらっ、グロリア。貴女は、まだそんな言葉使いをしているの?

 そのままじゃ、お嫁にいけないわよ?」


 グロリア将軍とも親し気に会話しているということは、

 身内の殆どを紹介している可能性が高いな。

 ……やっぱり、仲が良いんじゃないのか?


「ははっ、貰ってやるって言った奇特なヤツは地面の下さ。

 俺は独身のままでいいよ」


「貴女……まだ彼のことを想っているのですか?

 そのままでは……私みたいになってしまいますよ?」


 一気に話のトーンが落ちてしまった。

 場の雰囲気もどんよりしてしまっている。

 これはなんとかしなくては!(使命感)


 だが、俺は現在ミレニア様とエドワードによって蹂躙されており、

 行動することが困難であった。


 俺はなんて無力なのだろうか! くやちぃ!!


「まぁ、俺のことは良いさ。

 今日はエルティナの誕生日だ、こんな時化た話はなしだぜ!」


 そう言って豪快に笑い、グロリア将軍は部屋を後にした。


「あの子も不器用な娘ですね。貴方にそっくりです」


「言うな……わかっておるわ」


 グロリア将軍が立ち去っていったドアを見つめ、

 ため息を吐く二人はまるで夫婦のようだった。


「さぁさぁ、そろそろお時間ですよ?

 国王陛下達も会場に向かわれてくださいまし」


 とメイドさん達がやんわりと王様達に告げる。

 どうやら、誕生パーティー開始の時刻が迫ってきているようだ。

 二人のメイドさんが豪華な聖女の裾に『ライトグラビティ』を施し、

 軽量化させて持ち上げる。

 すると俺は自力で歩けるようになった。

 こうやって会場まで向かうことになるみたいである。


「ふむ、もうそのような時間か。

 それではエルティナよ、会場で会おうぞ」


「エルティナ、会場で待っていますよ」


 そう告げて王様とミレニア様は会場へと向かった。

 同様にビースト隊とホビーゴーレム達も、

 二人に続く形で会場にぞろぞろと向かっていく。


 こら、ひろゆき。

 おまえも会場に行け、ここで寝るんじゃない。


 俺の警護を担当しているルドルフさんとザインは残ることになるのだが……

 何故かエドワードも残っている。

 はて? どういうことなのだろうか?


「エドワードは会場に向かわないのか?」


「あぁ、僕はエルと一緒に登場予定だよ」


 初耳であった。

 しかも、彼の顔は明らかに何かを企てている顔であったのだ。

 これは十分に警戒しなくてはならないだろう。

 何故なら、俺の大きな耳がピクピクと動き警戒を呼び掛けているからだ。




 結局は、エドワードも加わる形で会場に向かうことになった。

 薄暗い廊下を照らす蝋燭が非常にか細く、

 これから始まる誕生パーティーが、

 波乱に満ちていることを告げているように感じる。


 絶対に何か起こりそうだ。

 世界各国から主要人物が集まって来るのだ。

 一悶着あるに決まっている。


 俺は緊張を保ちつつ、会場へと繋がる大きな扉の前に立ったのであった。

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