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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第六章 進化
263/800

263食目 聖女エルティナの試練

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 季節は移り行き、春の様相を呈してきた。

 だが、まだ夜及び朝方は冷え込む。

 それは俺の自室も例外ではなかった。

 いくら桃先生の樹の中とはいえ寒いのは寒い。


「チュ、チュ、チュ、ちゅん!」


 恒例である、もっちゅトリオとうずめの鳴き声で目が覚める。

 彼らは時間に正確だ。

 一斉に光るきのこ達が部屋を明るく灯し、

 新しい朝が来たことを告げてくる。


 さぁ、起きるとしよう! 今日も一日が始まる!


「ふきゅんっ? 起きれねぇ! おまえら、くっ付き過ぎだぁ!」


 俺は起きようとしたが、起きることができなかった。

 何故なら、大量の毛玉共が俺に密着していたからである。


 寒がりの野良にゃんこ共はこの季節、俺が眠りに就くと、

 どこからともなく姿を現し、もぞもぞと布団の中に潜り込んでくる。

 更にモモガーディアンズのにゃんこ達も加わって、その数およそ二十匹。


 ……多過ぎぃ!(呆れ)


「にゃ~」「み~」「みゃう」「ごろごろ」「にゃ~ん!」


 その中には、ちゃっかりツツオウも混ざっていた。

 おまえに寒さを感じる機能はなかったはずだが?

 前も雪山の天辺で寝ていたし。


 にゃんこ達は仕方がなさそうにダラダラと俺の上から飛び退き、

 ベッドの上で丸くなる。

 まだまだ寝るつもり満々であった。


 俺もぬくぬくした布団で二度寝したいがそうもいかない。

 これから地獄がやって来るのだ。


 そう……桃師匠という名の地獄がな!(白目)




 メルシェ委員長達と共に地獄のランニングを終了させた俺は、

 マイアス教最高司祭のデルケット爺さんに呼び出された。

 ヒーラー協会の温泉にて体を洗い流し、身嗜みを整え、

 さぬきとうずめ、ザインとムセルを伴い、

 てくてくとヒーラー協会二階にある彼の部屋を訪ねる。


「どうぞお入りなさい」


 ノックをすると部屋の中から声がしてきた。

 聞きなれたデルケット爺さんの優しい声だ


「おじゃまします、デルケット爺さん」


「おじゃまいたす」


「おぉ、お呼びだてして申し訳ありませんエルティナ様。

 ザイン殿もこちらの椅子へ」


 俺とザインは、あまりに簡素な部屋にある二つしかない椅子に座らされ、

 テーブルにある、これまたシンプルなクッキーを勧められた。

 一つ摘み口に入れると、誰が作ったのかすぐにわかった。


「こ、これはなんとも……」


「これは、アマンダが作ったクッキーだな?」


「おや、おわかりでしたか? ホウディック防衛大臣に頂いたものです。

 彼のお孫さんが沢山作って渡してきたらしいのですが、

 あまりに多くて食べきれないそうなので、配って回っているのですよ」


 アマンダめ……試作のクッキーを作り過ぎたな?

 しかも、これはかなり挑戦的な味だぞ。

 クッキーにウスターソースを混ぜ込むなんて聞いたことがない。

 しかも量が多過ぎたのか、あまり甘みがない。

 どちらかといえば、

 柔らかい醤油せんべいみたいな感じになってしまっている。


「これは失敗したんだな。

 ウスターソースの配分を間違えたんだ」


「左様でございますな。

 甘みが殆どないでござるよ」


「はっはっは、やはりそう思われますか。

 しかしながら、歯の弱くなってきた年寄りには評判が良いのですよ。

 彼女が作ったクッキーは口の中でほろほろと解けますからな」


 デルケット爺さんがテーブルに置いたのは、

 緑茶が淹れられた湯飲みが二つ。

 どうやら、この試作クッキーは

 柔らかいせんべい的なポジションを獲得したようであった。


「さて、ここにお呼びだてしたのには、わけがございます。

 一週間後、エルティナ様は八歳のお誕生日を迎えるのは理解していますね?」


「うん、三月三日に八歳になる。

 今年も気の知れた仲間とワイワイ盛り上がろうぜ」


 だが、デルケット爺さんは心苦しそうに首を振った。


「以前であれば、そうできたでしょう。

 ですが、エルティナ様は正式にラングステンの聖女として世界に公表されため、

 これからは国を挙げての『行事』ということになってしまいました。

 ですので、もう仲間内のみのお祝いとはいかなくなってしまったのです」


「……そうか。それなら仕方がないな」


 どうやら、俺が聖女であると正式に公表した弊害が出てきてしまったようだ。

 まぁ、立場上仕方がないこととはいえ残念な結果である。


「申し訳ございません、エルティナ様。

 それともう一つ……礼儀作法の件でございます」


「礼儀作法? 一通り習得していると思うが……問題でもあるのか?」


 はて? 何か変な流れになって来たぞ?

 物凄くいや~な予感がビンビンと来ている。

 俺の大きな耳がピクピクしてきた!

 このピクピク度は危険だ! 早急に、この部屋から脱出しなければ!!


「はい……エルティナ様の『言葉使い』を女性らしく改めて貰いたいと」


 デルケット爺さんの目が『ギュピーン!』と怪しく輝いた!

 彼はどさくさに紛れて、俺を女らしくしようと画策しているのだろう!


 だが断る!

 このエルティナ・ランフォーリ・エティル!

 決して女らしくなどならぬ! ならぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!


「自由への逃走!!」


 俺は自由を求めて、久々の逃走を試みた!

 以前に比べて、俺の体力は二倍近くになっている!

 ふははは! 捕まえれるものなら捕まえてみるがいい!!


「げっつ」


「ふきゅん」


 俺の自由への逃走は僅か二秒で終わってしまった。

 体力は付いたが身体能力は上がっていなかったのだ。がっでむ。


「ふっふっふ、老いたりとはいえこのデルケット、

 まだまだエルティナ様に遅れは取りませんぞ?」


「うごごご……圧倒的に速さが足りなかった。無念」


 結局、俺はデルケット爺さんに捕獲され、

 恐怖のレッスンを受けるはめになってしまったのだ!

 レッスン場所はフィリミシア城!

 こいつは参った! 絶対に逃げられねぇ!!




 今日は学校もヒーラーの仕事も休みだったので、

 俺は早速、フィリミシア城に拉致されてしまった。

 デルケット爺さんに、豪華な装飾の部屋に案内される。

 そこで待ち受けていたのは……一人の中年女性であった。


 きつめの顔立ちにお団子状に纏めた茶色い髪。

 そしてつんつんと尖った眼鏡を付けたいかにもって感じの人だ。

 彼女は細身で背が高い。黒いスーツ姿が良く似合う。


「お待ちしておりました。

 わたくしはザマス・ザマスともうします。

 聖女様のお言葉使いを修正する役を申し付けられました。

 以後……よろしくお願いいたします」


 彼女は金縁眼鏡の位置をくいっと直す。

 その際、眼鏡が『ギュピーン!』と輝いた。


 あ、ダメだ。

 この人怖い人だ。

 絶対にスパルタな人だ。


 俺はどう足掻いても絶望な状態に、思わず白目痙攣してしまった。


「おごごご……よ、よろしく哀愁」


「はい! そこ!『あいしゅう』、ではなく!

『お願いいたしますわ』……でございます!」


 早速、ダメだしされた。


 いかん、このままでは俺のストレスが光の速さで大爆発を起こし、

 セブンセンシズに目覚めてしまう(聖闘士)。

 なんとかしなくては。


「よ、よろしくお願しますわ……ぐはっ!!」


 俺は女言葉を使ったことによって、反動ダメージを受けてしまった!

 俺にとって女言葉とは諸刃の剣! 決して俺と相いれないものなのだ!!


「はい! もう一度!!」


 だが、彼女は容赦しなかった!

 彼女は……鬼だ! そう! 鬼に違いない!


「よ……よよ、よろしくっく!

 お願いいたしむぁす、す、すす! わ……ぐおぉぉぉぉぉっ!?」


 再びの大ダメージ! 俺は遂に片膝をついてしまった!

 俺がいかに桃使いといえど、このダメージには耐えられない!

 いったいどうすれば? 俺はもう限界だ!!(白目痙攣)


「はい! もう一度! 今度はスムーズに! さぁ!」


 容赦ない、本当に容赦ない。

 俺の意識は既に朦朧としている。

 もう倒れそうだ。


 だが、俺の不屈の闘志がそれを拒絶し、

 死に掛けた肉体を再び立ち上がらせる!


 俺の生きざまを見晒すがいい!!


「よ、よよ……よろ……よろちくびっ!!」


 俺はそう言って意識を手放したのだった。

 あーうん、これ無理だわ……がくっ。

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