260食目 俺達の夢
盗賊の討伐から一ヶ月経った。
散りぢりに逃走した盗賊達は予想どおり、
冒険者やハンターに仕留められ、
次々に賞金首のリストから抹消されていった。
「あぁ、酷い目に遭った。
手足の腱も上手く繋がって良かったわ」
ブリギッド隊長も切られた手足の腱が繋がり、
ようやく部隊に復帰した。
「そのまま引退して、普通の暮らしをすればよかったじゃないか。
多いんだろ? 求婚の申し出」
「ふふ、柄じゃないさ。
それに、私はこの仕事に誇りを持っている。
早いところ盗賊の首領を捕まえて、町の人々を安心させなくてはね」
盗賊達の首領は、いまだに討伐されたとの話を聞かない。
盗賊達のアジトを発見したものの、
既に連中は引き払った後であったのだ。
その一ヶ月の間に、俺達は何もしていなかったわけではない。
一躍、英雄となった俺達は軍に協力を依頼され、
部隊の出撃の度に同行するという忙しい日々を送っていた。
「取るに足らない相手ばかりだ。
本当に我らの手助けがいるのか?」
「まぁ、そういうなよ。
もう少しすれば、エリスンの薬が買える。
それまでの辛抱さ」
軍に同行するといっても、相手は所詮盗賊。
数が揃わなければ訓練された兵士に敵うはずもなく、
俺達はほぼ何もせずに終わる場合が多い。
それでも、軍の連中は高額の報酬を支払って俺達に同行を求めた。
理由を聞いても上層部の指示だ、としか言わない。
まぁ、俺達は金さえ貰えれば文句はない。
これは恐らく、軍は俺達と深い関係があることを、
盗賊の首領に見せておきたいのだろう。
そうすれば、ゼグラクトの町に迂闊に手を出してこなくなる、
と踏んでいるに違いない。
既にここいら一帯では、
『青き竜使いと黄金の竜』のコンビを知らない者はいない。
軍からの仕事がない時は、賞金首を狙って活動していたからだ。
一ヶ月で四人も仕留めたことによって、
俺達コンビの名はミリタナス神聖国に広く知られることになった。
ゆくゆくは、全世界にこの名を知らしめたいと思っている。
俺の夢はいつの間にか、三人の夢へと変わっていたのだ。
そう……三人だ。
ちゃっかりマイクのヤツも、加わろうとしている。
「HAHAHA! その内、青き桃使いに変更することになるさ!
その相棒である、俺っちも歴史にその名を連ねる!
んん~いいね、いいねぇ! 最高だよっ! はっはー!」
とまぁ、コンビ名まで変えようと企んでいたのだ。
俺としては当然のごとく、コンビ名を変えるつもりはない。
そもそも、『桃使い』と言われても、
殆どの人はそれが何か理解できないだろう。
と言ったふうに日々を過ごしていたのだが、
盗賊の首領を残念ながら発見できぬまま、更に一ヶ月が経過していった。
その間に薬の代金が貯まったので購入することができたのだが……。
「よう、貯めなさったなぁ。
これが薬じゃ、ただしこれは一回分じゃよ。
妹さんには最低でも六回は飲ませんと効果は出んじゃろうなぁ。
来月、また受け取りに来なさい。
ワシはこの代金で新しい薬を作っておくでのぅ」
その薬は副作用が強いため、一ヶ月に一回しか飲ませられないらしい。
しかも、材料費が高い上に制作に時間が掛かってしまうらしく、
妹の目の完治までは最低でも六ヶ月は待たないといけないそうだ。
ただ、薬代は全額渡したので問題ない。
完成を待って、エリスンに渡しに行くだけだ。
「それでも、妹の目が治るのなら長くは感じないか」
「ふぇっふぇっふぇ、妹さんは良い兄さんを持ったようじゃ。
それじゃあ、ワシは早速仕事に取りかかるとするかの」
腰をトントンと叩きながら、
赤茶色のローブを纏った薬屋の老主人は店の奥へと姿を消した。
ゴリゴリと音がするので、仕事に入ったのだろう。
俺は手にした薬を大事に抱えて、古びた薬店を後にした。
全てが順調だった。
俺達に敵う相手などいない。
もちろん、慢心という文字はない。
俺達は己の鍛錬に余念がなかった。
「HEY! 相棒! 桃力の特性を上手く使うんだ!
相棒の桃力の特性は『固』! これは、なかなか珍しい特性だぜ!」
「とは言ってもなぁ……桃力自体が……とと、出すこと自体が難しいぜ」
現在、俺はマイクの指導の下、桃力なる不思議な力の訓練中だった。
その桃力だが、俺の手の平には飴玉程度の、
ピンク色に光る球体が出来上がっている。
これが桃力だ。
マイクが言うには『超万能エネルギー』らしいのだが、
これを作り出すのが非常に難しい。
魔法とは違って、
体内で『陽の力』というものを循環する必要があるらしいのだが、
いまいち俺には理解ができないのだ。
それでも、なんとか飴玉サイズの桃力は、この一ヶ月で出せるようにはなった。
問題はこれをどう活用するかだ。
「なぁ、マイク。こんな小さな桃力なんて役に立つのか?」
「愚問だぜ、相棒。その桃力を空間に『固定』してみなよ」
空間に固定? いまいちイメージがわかないが、
手にした飴玉サイズの桃力を空中に置くように放り投げた。
「うおっ!? 桃力が浮いた?」
「のんのん! 浮いたんじゃないさ。空間に『固定』したんだぜ!
更にだ……その桃力にぶら下がってみなよ?」
なんだか狐に摘ままれたような感じだ。
言われたとおりに宙に浮いている桃力を掴みぶら下がってみると……。
「おいおい、マジかよ? 空中に浮いているような形になったぞ!?」
「はっはー! それが桃力の特性さ!
誰でも扱えるものじゃない、相棒だけの能力なのさ!
あ、ちなみに俺っちの桃力の特性は『散』だ。
この特性は……」
マイクの自慢話が始まってしまった。
これがまた長い。
俺は適当に聞き流して、桃力の特性を理解することに努めた。
この空間に固定する力はかなり使える。
空中でも自由に方向転換や、停止することもできるようになるだろう。
今は飴玉サイズの桃力だが、
いずれは特大サイズのものを作り出せるようになりたい。
更に時間は過ぎ、新しい年を迎えた。
流石に年越しくらいは妹の下で過ごした。
相棒はマーベット婆さんのドックで年越しだ。
孫との口喧嘩がうるさくてげんなりするとのことだが、
相棒をここに連れてくるわけにはいかない。
ゼグラクトの町と違って、ここは相棒を良くは思わないだろうからだ。
「シグルド兄さん、ガルンさんはフィーザントにこられないのかしら?」
「難しいだろうなぁ……今は。
でも、俺達コンビがもっと有名になったら、
町の方から来てくださいって言うようになるさ」
妹の目は少しずつ回復していっている。
現在は物の輪郭がぼんやりと見えるまで回復しているそうだ。
流石は秘薬中の秘薬。
くっそ高い金額を払った買いがあるってものだ。
妹の経過に満足した俺は三日ほど自宅でゆっくり過ごし、
相棒の待つゼグラクトの町に戻った。
季節は過ぎゆき、ミリタナス神聖国にも春がやってきた。
妹の薬も後一回で終了だ。
長いようで短かった気もする。
「これで、エリスンの目も治る……長かったぜ」
「これでワシも肩の荷が下りたわい。
ほれ、最後の薬じゃ。
ふぇっふぇっふぇ、妹さんによろしくのぅ」
これで会うのが最後になるであろう薬屋の老主人に頭を下げ、
俺は薬を手に相棒の待つゼグラクトの門へと急いだ。
「待たせた。さぁ、行こうか」
「うむ……」
俺が相棒の背に乗ろうとした時だ。
軍の連中が酷い有様で戻ってきた。
酷いってものじゃない、その殆どが重傷だ。
手足は欠け、顔は抉れ、内臓が飛び出している者が殆どだった。
「カーター!」
「お、おう! 今、軍の本部に連絡を入れる!」
俺達は急いで、負傷者達の下へと駆け付けた。
近くにくるとその惨状が更に酷いものだとわかった。
これは戦闘で負った傷というよりも拷問による傷に近い。
目玉がくり抜かれ、歯を全て抜かれるなんて、
戦闘中にやることではないからだ。
「おい! 何があった!?」
「あ、悪魔……悪魔だ……!!」
比較的負傷具合が軽そうな兵士が、震える声で説明を始めた。
彼らをこのような有様にしたのは、たった一人の男だったそうだ。
その男にはありとあらゆる攻撃が何故か通用せず、
そして男の攻撃はまったく防ぎようがなかったそうだ。
兵士百人を有する部隊が、瞬く間に壊滅してしまったらしい。
そして、その残虐さ。
鬼畜の所業で、生きたまま体の皮を剥がされた兵士がいるそうだ。
悲惨だったのは女性の兵士だ。
かなり惨たらしい凌辱を受けているらしい。
だが、男がその行為に夢中になっている隙を突いて、
なんとか動ける者は逃げてきたらしいのだ。
「はぁ、はぁ、た、頼む! 彼女達を、救って……ごふっ……くれ……」
兵士はそう言い残すと、口から大量の血を吐いて事切れた。
話に聞く男の残虐性……当てはまる存在はただ一つ。
『相棒、まずい相手を感知しちまったぜ。
陰の気……つまりは俺達の宿敵、「鬼」だ』
マイクが魂会話で話しかけてきた。
俺も桃使いとして成長を続けてきている。
故に、このいやらしい陰の気とやらを既に感知していた。
まったく以って胸糞悪い。
『鬼をぶっ潰すのが俺達、桃使いの仕事なんだろう?
だったら、いかなきゃならねぇだろ! ぐずぐずしている暇はないぜ!』
「カーター! 俺達が行く!
ヒーラー達を呼んで、こいつらの治療を頼む!」
「わかった! 死ぬんじゃねぇぞ、シグルド!」
カーターの声を背中に受けて俺は相棒の背に乗った。
空を駆けること十数分。
その男は惨劇の場に佇んでいた。
きっと待っていたのだ……俺達を。
「ふん……おまえ達か。
青き竜使いと黄金の竜とやらは?
随分と俺達の邪魔をしてくれたようだな」
「そうだ、そう言うおまえは何者だ? 盗賊の首領か?
随分と派手にやってくれたみたいだが……目的は何だ?」
金髪リーゼントの男は肌色の塊を、自分の股間から引き抜き投げ捨てた。
それが人だと理解するには、少しばかり時間が掛かった。
何故ならば、その人には手足が根元からなかったからだ。
元々手足があった場所は、まるで溶かされたかのような跡が残っている。
酷い有様だった。
数十人もの女性兵士の全てが、そのような姿にされていたからだ。
中にはもう事切れている者もいる。
「ふん、目的か……そうだな、簡単にいえば恐怖を撒き散らすことか。
この世界に生きる全ての命に恐怖を与え、生きる力を奪う。
ふふん、盗賊共は使い勝手のいい捨て駒だ。
町にちょっかいを出せば、町の連中は恐怖や憎しみを吐き出すようになる。
『陰力』を回収するには都合が良い連中なのさ」
この野郎、言っていることが滅茶苦茶だ。
ただの快楽殺人主義者か!? それとも頭のイカれた糞野郎か!?
『相棒! あいつの言っていることは事実だぜ!
「陰力」を集めていると言った! そいつを集めてやることは一つだ!
あの鬼は鬼穴を開こうとしてやがる! くそったれめ!』
『鬼穴か! 冗談じゃねぇぞ!!
そんな穴が開いたら、この世が地獄と化すんだろ!?』
『オフコース! そのとおりだ!
鬼穴が開いちまったら、鬼ヶ島から洒落にならない鬼が無限湧きしちまう!
この世界なんて、あっという間に滅びちまうぜ!』
マイクとの魂会話にて、とんでもないことが判明した。
なんとしてもこいつを仕留めなくてはならないようだ。
だが、相手の実力は恐らく俺より上だろう。
相手の放つ、いやらしい力がそれを物語っていたからだ。
「あぁ……そうそう、俺の名はアランだ。
覚える必要はないぞ?
おまえはすぐに、あの世に行くことになるんだからな!」
アランと名乗った男の体から、ドス黒い光が放たれ始めた。
胸糞悪いってレベルじゃない。
見ているだけで吐きそうになる。
『相棒! あれは「黄泉の光」だ! ブラザーを下げろ!』
マイクの焦る声。
俺はすぐさま、相棒を下がらせた。
間一髪、回避に成功するも絶叫が響き渡る。
その悲鳴の主は無残な姿になって動けない女性兵士達だ。
ドス黒い光に触れた部分が、腐り果て崩れ落ちてしまっている。
白い骨が見えているが、それすらも腐り果て形を失ってしまっていた。
「シグルド! いったい、なんだあれは!?」
そのありえない光景に相棒が驚愕の声を上げる。
「黄泉の光だとよ! 絶対に触れるんじゃねぇぞ!
一瞬で腐っちまうからな!?」
俺の言葉に表情を僅かばかり動かした、アランと名乗る金髪リーゼントは、
歪な笑みを浮かべて愉快そうに振る舞った。
「おやおや、鬼の陰技を知っているということは、貴様……桃使いだな?
にしては、陽の力が弱過ぎるなぁ……あぁ、そうか。
おまえは『見習い』だな? そうか、そうか」
そう言うとアランと名乗った男は、黄泉の光をこちらに撒き散らしてきた!
俺はともかく、相棒が喰らったら致命傷になっちまう!
『マイク! あれを防ぐ方法はないのか!?』
『あるにはあるけど、相棒の桃力じゃ一回が限度だぜ!
相手の陰の力が異常だ!
ファーック!! 見習いが勝てる相手じゃねぇよ!!』
マイクの言い分を理解すれば、
相手の攻撃を喰らわずに一撃でぶっ殺せということになる。
そして、戦うのは俺だけだ。
「相棒! こいつは俺がやる!
おまえは下がっていてくれ!!」
「バカを言うな! おまえを置いて下がれというのか!!」
あぁ、もう! こういう時に高いプライドの持ち主は厄介だ!
嬉しい反面、扱い辛い! 頼むから下がってくれ!
「ははは! 随分と余裕だな!? 見習い風情が、俺に勝てると思うなよ!
おまえとは年季が違うんだ! 年季がなぁ!!」
アランが俺に向けて手を突き出す。
武器は持っていない。完全に舐められている。
この野郎……なめんじゃねぇぞ!
「マイク! やるぞ!! こいつをぶちのめす!!」
「ジーザス! クレイジーだぜ! 相棒!!」
「グダグダ言うんじゃねぇぜ! おまえは俺の相棒だろが!!」
俺の言葉に、息を飲むマイク。
だが、次の瞬間には覚悟を決めていた。
「OK、OK、わかった、わかったよ!!
相棒がそう言うなら……俺っちも、かな~り無茶なことをするぜ!?
覚悟はできてるんだろうな!? 相棒!!」
「それでこそ、俺の相棒だ!」
「HAHA! 言ってくれるねぇ」
マイクの声は涙声だ。
きっと、相当な無茶をさせる気だろう。
マイクとの付き合いは半月程度だろうか? それ以下かもしれない。
でも、彼の人となりはわかっているつもりだ。
マイクはお調子者で、軽い性格で、おっちょこちょいだ。
でも、人情に厚く、正義感が強く、何よりも仲間を大切にする。
俺が命を預けれる相手だと思ったのは後にも先にも、
相棒とマイクだけだ。
だからこそ……俺はやれる!
あの糞ッタレをぶちのめせるんなら、痛みを恐れない!
『いいか、相棒! チャンスは一度っきりだ!
それをしくじればアウト! 終わり! ジ・エンドだ!
タイミングは俺っちが教えるから、今は回避に専念してちょーだい!』
頭の中にマイクの必死な声と、カタカタと何かを打つ音が聞こえる。
気になる音だが、今はそれを問う余裕はない。
「はん、逃げ足だけは一人前だなぁ?
だが……これでどうだ? これでも逃げ回れるのか? くっくっく」
アランから放たれた黒い光は俺には届かず、
力なく俺の足下に吸い込まれていった。
陰技の失敗でもしたのか?
そう思った瞬間、俺の足がずぶりと『地面』に沈んだ。
いったいなんだこれは!? 踏ん張りが効かない!!
「鬼力……特性『溶』だ。
俺の鬼力は、全てのものを溶かし形を失わせる。
その地面のようになぁ……くっくっく!」
「やべっ!? 身動きが……!!」
あの野郎! 俺の立っている地面を溶かしやがった!
もう太ももまで沈んじまっている!
「ははは! 死ねぇ!!」
アランが指先に赤黒い光を集め出した。
あれを俺に撃ちこむ気なのだろう。
まずい! これじゃあ狙い撃ちされる!!
やるしかない! 桃力だ!!
「桃力!『固』!!」
俺は桃力を空中に数個『固定』し、
ロッククライミングの要領で登っていった。
溶けた地面を脱出した瞬間、赤黒い光の束が元居た場所を通過してゆく。
あっぶねぇ! あんなの喰らったら一発でお陀仏だぜ!
「ち! 見習い風情が桃力を使うか!!
だが、そうそう回数は使えまい?
そんな脆弱な陽の力では、俺に掠り傷一つ付けられんぞ!」
「言いたい放題言いやがって! 調子に乗るなよ!?」
「そのとおりだ! 滅びよ!」
予想外の声。
相棒の声だった。
相棒は俺の制止を無視してアランに飛びかかったのだ。
「はん、トカゲ風情が俺に傷を負わせれるとでも……げべっへ!?」
アランが吹っ飛んでいった。
桃使いでもない相棒の攻撃が鬼に効いたのだ。
「おいおい、ブラザー! おまえ何食ってたんだよ!?
おまえの腹の中に陽の力が溜まっているぞ!?」
「我の腹に? 心当たりはないな。
我が喰らったのは食料と……爆弾と呼ばれるものだ」
「オー・マイ・ガッ! クレイジーにもほどがあるぜ!?
爆弾を食うって、どういう神経してんの!?」
よくはわからないが、相棒のお陰で体勢を立て直せた。
吹っ飛んだアランは倒れたまま動かない。
だが、くたばっていないことは、すぐにわかった。
ヤツの体に、赤黒い光が集結しだしているからだ。
それは憎悪の光、この世にあってはならないもの。
「貴様ら……楽には死なせんぞ。
四肢を溶かし、目玉をくり抜き、歯を全て抜いて、
苦しみ抜かせてから、腐らせてやる!
この肉団子共のようになぁ!」
立ち上がり、俺らを睨み付けるアランの顔は、もう人間の顔ではなかった。
吐き気を催す異形の存在の顔。
思いっきり叩き切りたい顔だ。
『相棒! リクエストに応えられそうだぜ!?
ようやく、プログラミングが終わった! 剣を構えるんだ!』
どうやら反撃の時間らしい。
俺はマイクに言われたとおり、自慢の剣を抜き構えた。
『付与設定……刀身の片刃……「桃光付武」起動!』
その瞬間、残った桃力の殆どが使われちまった。
そして、俺の両刃の剣の片側がピンク色の光を放つようになった。
これは……全て桃力なのか!?
『相棒! こっからは時間との戦いだ!
そいつを維持できるのは三分! それまでにあいつの首を刎ねろ!
鬼は首を刎ねない限り、永遠に再生を続ける!』
『OK! やっと、逃げ回らずに済むんだ。
必ず成功させてみせるぜ!』
反撃の準備は整った。
あのアランという男は鬼力は物凄いが、
自身の身体能力や技術は、そこまで大したことはなさそうだ。
先ほどの相棒の攻撃をまともに喰らっていたからな。
本当に実力がある者なら、あの攻撃は回避できている。
あいつが自分の力に慢心している今がチャンスだ。
必ず一撃で仕留めてやる!
「ブラザー! あんたは後一回しか攻撃できないと思ってくれ!
腹の中の陽の力がなくなりかけている!
OK? わかった!? 返事は!?」
「ふん、一撃あれば事足りる! 案ずるな!!」
時間のない俺達はアラン目掛けて突撃を開始した。
左右に分かれてアランに攻撃を仕かける。
先ほどの相棒の攻撃に警戒しているのか、
アランは相棒に対しても迎撃の構えを見せた。
「小賢しいマネを! 食らうがいい!『憎しみの散光』!!」
アランが纏っていた赤黒い光が一瞬膨れ爆ぜた。
細かい赤黒い光が俺達に襲いかかる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺達はそれに構わずアランに襲いかかる。
多少、肉が抉れようと穴か開こうとお構いなしだ!
ぶった切る!
そのことのみを頭に思い浮かべ、ピンク色に輝く剣を振り下ろした。
「そ、その剣は……!? ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!? 外れた!? くそっ! 地面を溶かしやがったのか!!」
俺の攻撃は確実にアランの首を刎ねる軌道だった。
だが、ヤツは咄嗟に俺の踏み込んだ地面を、鬼力の特性で溶かしたのだ。
結果、俺の剣はアランの右腕を切り落とすに留まった。
『マイク! 剣はまだ使えるのか!?』
『後一回! 辛うじて! 正真正銘、ラストだ!
決めてくれよ! 相棒!!』
ならば! 今度こそ決める! ヤツが怯んでいる今しかない!!
俺は沈む右足を強引に抜き、再びアランに突撃する。
苦痛に歪むアランの顔が、俺を見て今度は引き攣った。
「く、くるなっ!!」
アランがいつの間にか溜めこんでいた赤黒い光を放ってきた。
回避する余裕はない! 軌道からして右腕に直撃する!
俺は咄嗟に、剣を左手に持ち替える。
腕が一本残っていれば、ヤツの首を刎ねれる!
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
相棒が右前脚を赤黒い光に突き入れた!
吹き飛ぶ相棒の右前脚! 霧散する赤黒い光!!
「シグルドぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
これで障害は全てなくなった!
後は……アランの首を刎ねるだけだ!!
俺は剣を両手持ちし振り上げる。
「これで、終わりだ! アラン!!」
「ひぃ!!」
アランは最後の足掻きなのか、肌色の塊……女性兵士を盾にした。
可哀想だが……俺にも余裕はない!
あんたごとアランを切らせてもらう!!
「っ!? そんな……ブリギッド隊長!?」
その一瞬の迷いは致命的な隙になった。
アランが手にした肉の盾は、俺のよく知る女性だったのだ。
「シ、シグル……ド」
そう呟いた彼女の頭が爆ぜた。
と、同時に俺の腹を貫く赤黒い光。
「ひ、ひひひ! おまえの知り合いか? すぐにあの世で会わせてやる!
死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
無数の赤黒い光が俺を貫いてゆく。
腹を貫かれて、もう力が出なかった俺はそれをまともに受けてしまった。
「っ!! シグルドっ!!」
相棒が俺を咥えて、その場を飛び去る。
どんどん小さくなってゆくアランの姿。
『相棒! しっかりしろ! 相棒! 相棒!!』
マイクの甲高い声が今では小さく聞こえる。
まともに息ができない。苦しい。
今、俺がそのような状態で理解できること……それは……。
俺達は負けたのだ、ということだった。
◆ アラン・ズラクティ ◆
鬼の男性。38歳。元人間。
金髪リーゼントで白い肌。きつめの顔。目は細く鋭い。中肉中背。
派手な服装を好み、赤い服が特に好み。
初代エルティナを殺害した男。その時既に鬼だった。
鬼としては未完成で、人間の部分が多く残っている。
それが桃力の効果を半減させているが、
それは鬼力の効果の半減をも意味している。
とにかく中途半端な存在。
鬼力の特性は『溶』。
ありとあらゆるものを溶かす特性。
使い方次第では非常に強力。




