26食目 素質なんてなかった
はろう。一年八組の奇妙な珍獣エルティナだ。
今日は生徒の素質を調べる日である。
新入生達は全員、体育館へと集合していた。
自分の素質は、もうわかってるんですがねぇ?
そうだ、あの無残な素質の数々だ!(悪夢)
俺以外の生徒は、テンションマシマシである。
逆に俺はダダ下がりであった。
鳴けるぜ……ふきゅん!
「エルちゃんは、凄く魔法の素質が高そうねっ!」
そう言ってきたのは、クラスメイトのリンダ・ヒルツ。
人間の女の子で、将来は魔法使いとして生計を立てたいらしい。
茶色い髪を肩で切りそろえた、丸顔の元気な子だ。
ぬふぅ!? やめちくり! 素質は白エルフでも過去最悪なんだから!!
「おいおい……当然だろ? なんていっても白エルフだぜ?
黒とは大違いだもんな!?」
チラリと、黒エルフのヒュリティアを差別の目で見る赤髪の少年。
ダナン・ジュルラ・ジェフト。
彼は人間の男の子で、裕福な商人の子だ。
赤い髪を七三分けにしており、薄い眉に高い鼻、たれ目には紫の瞳。
ひょろっとした、背の高い少年だ。
将来は親の跡を継いで商人になるって言ってたな。
一つ言っておく……俺のハートはもうボロボロだ!
許してください、なんでもしますから!!
「君達……当たり前のことを言うべきではありません。
白エルフといえば伝承に残されるほどの攻撃魔法の名手です。
全精霊に愛されてる種族なのでしょう。
僕達とは格が違うのですよ」
俺にとどめをくださったのは、
気難しそうなメガネ少年フォクベルト・ドーモンだ。
人並以上に整った顔に黒くて輝きがある髪。
意志の強そうな目には黒い瞳が輝いている。
既に複数の女子に目を付けられているようだ。
ふひひ……俺のHPはもう0だ……。
しかも、全精霊にそっぽ向かれてる可能性があるんだぜ……(白目)。
俺が精神攻撃を受けて、真っ白に燃え尽きていたら、無情にも測定が始まった。
一年一組から順番に始まり、ようやく俺達一年八組の測定だ。
程なく全員の測定が終わる。簡単なものだった。
カードに手を置いて五秒くらいすると、カードに素質が刻まれる。
そしてこれは、そのまま学校の身分証明書になるそうだ。
生徒手帳みたいなものだな。
その素質カードを見て、これからの進路を決めさせるのが、
この学校の方針なのだそうだ。
また、守秘義務もないので素質の見せ合いは問題ないらしい。
「ねえ、ねえ! エルちゃんどうだった!?
私は魔法の素質Bだったよ!」
ぶふぅっ!? たけぇ!!? リンダの方がよっぽど白エルフだよ!?
「お……おお……れれれは……あ、あれだ! カードが故障した!」
こ……ここは誤魔化すしかねぇ!
俺はかなりテンパりながらも、いい加減な嘘を吐いた。
「んなわけないだろ……見せてみろよ?」
不意を突かれ、ひょいとカードをライオットに取られてしまった。
そしてクラスの皆が、俺のカードを見てしまうこととなった。
じーざす。
「へ?」
とカードを見た者達の間抜けな表情。
次に「マジかよ?」と驚きの声。
ライオットが済まなさそうにカードを返してくる。
「マジだよ! 全精霊に見捨てられた俺を笑うがいい!」
あひゃひゃひゃひゃ……!!
と壊れたように笑う俺に、クラスメイトは流石に引いたようだ。
「す……すまねぇ。悪気があったわけじゃないんだ……」
「許す」
ライオットが素直に謝罪してきたので許してやる。
ホッとしたようだ。
「もう許した! 流石、白エルフは格が違った!」
俺がライオットをすぐ許したことに驚くダナンがそう言った。
「それほどでもない」(きりっ)
俺は謙虚に答えた。
そして、済まなさそうに落ち込んでいるライオットに俺は言った。
「気にすんな! どうせ俺は、こんなもんだろうって思ってたんだよ」
バシバシ、笑いながらライオットの肩を叩く。
「それにしても……魔法の素質がEとは、苦労なさったのでは?」
「ふきゅん!?」
メガネ少年! 今なんつった!?
急ぎカード見ると……魔法の素質が全部Eになっていた。
「なんということだぁ……がっでむ」
なんと、良くなるどころか悪化してたのだ……しくしく。
「……武器関連もE……エル、あなた苦労するわよ」
黒エルフのヒュリティアですら、同情の目を向けてきた。
「ももももも……問題……ないぃぃぃぃっ!!
白……エルフはははは……狼狽えないぃぃぃぃぃっ!!」
精一杯の虚勢を張っておいた。
素質だけで全てが決まるわけじゃない!
なんとか、できることをアピールしなくてはっ!!
「俺には……ちゆ」
と出かけたところで言い止まる。
エレノアさんに自分が聖女でSランクヒーラーだということは、
なるべく秘密にするようお願いされている。
余計な厄介事と、俺を利用しようとするヤツに
目を付けられないようにするためである。
……ん? 治癒魔法取ったら、俺何も残らないじゃん?
おごごご……どうすればいいんだよぉ!?
や、やむおえん! エルティナ、いっきま~す!(やけくそ)
「……ちゅ~が上手いんだ!!」
リンダに抱きついてホッペにキスした。
「なんだそりゃ~!?」と一斉にツッコミが入った。
「まったくしょうがないな~」とか「こりゃ守ってやらんと」とか、
何やら小動物を保護した子供達の雰囲気になってきた。
どうやら、プルプル震えていた俺を小動物として捉えたらしい。
実際クラスで一番小さいのは……俺だ。
整列する時に最前列に並んだのは初めてだったようなきがする。
前世は背が高かったような……。
「守ってあげる……」
肩に手を置いて優しく笑ってくれたヒュリティア。
彼女は黒エルフのため魔法の素質はEだが、
その反面武器関連の素質が高くなっており、
剣の素質はA、他の武器関連もBと軒並み高水準であった。
「うおぉ……心の友~!!」
ここに白と黒のコンビが完成したのであった。
◆◆◆
さてさて……カードを見て治癒魔法がEになっているのだが、
これは別に測定を受けるためである。
放課後、各自がマイアス大聖堂やヒーラー協会に赴き測定を受ける。
貴重な素質を持った者は、直ちにヒーラー協会や大聖堂預かりになって
手厚く教育されるというわけだ。
もちろん、断って学校に通うこともできるので、
毎年、レイエンさんとスラストさんが血眼になって、
人材の確保をおこなっている。
……だから、断られるのではないのだろうか?
そういうわけで異例の速さでSランクになった俺は、
逆に学校に行くって話になったのだ。
ヒーラー協会のカードは別にあるので、
記念に学校のカードの治癒魔法の素質覧はEのままにしておく。
これで、奇跡のオールEのカードが完成したわけである。
なんの自慢にもならないが……。
学校での測定も終わったので、今日はもう解散となった。
俺は午後から仕事があるのでヒーラー協会に帰った。
……のだが。
「エルちゃんも測定?」
リンダがいた。
あ~そうだった……ここでも測定してるんだったな。
「そ……そんなところかな?」
ははは……と言って誤魔化しておいた。
俺はリンダが測定に行ってる間に職場に移動する。
「お帰りなさい! 測定どうでした?」
とティファ姉が聞いてきたので……
「どうもこうも、全部Eだった!」と答えてあげた。
カードを見せるとティファ姉は
「わぁお……全部Eですね。かえって貴重ですよ?これ」と言った。
言われてみれば、確かに貴重かもしれんな。
オールEなんて滅多に出ないだろう。
だれにでも、取り柄の一つくらいあるものなのだから。
気を取り直し、仕事に専念することにした。
春先は風邪をこじらせる、爺さん婆さんが多いからな!
さあ、溜まったフラストレーションを治療で発散させてくれるわ!!
ちなみに、リンダの治癒魔法の素質はEだったそうな……
仕事が終わりカルテを書いてると、ヒュースさんがお菓子を持ってきてくれた。
「お疲れ様」と言い、代わりに桃先生を創って渡すと、
彼はとても喜んで「家族と頂きますね」と言って仕事を終えて
家族の待つ自宅へと帰っていった。
カルテを書き終えた俺は、自室に戻りトレーニングを開始した。
素質がないからって、トレーニングを辞めるつもりはない。
こういうのは日々の積み重ねだって、じっちゃんも言ってた。
習慣となった締めの桃先生を食べてベッドに潜り込む。
明後日からは本格的に授業が始まる。
果たしてどんな授業になるのやら……。
期待と不安に悩みながら、俺は深い眠りに誘われたのだった。




