255食目 ロフト・ラック
◆◆◆ ロフト ◆◆◆
季節は春に差しかかろうとしていた。
現在は、今まで散々俺達を苦しめた白い悪魔達が、
その重い腰をようやく上げて引き揚げて行っている最中だ。
今年は随分と降ってくれた、
お陰で俺達は、フィリミシア城の雪かきを手伝うはめになってしまったのだ。
だが、まぁ……その分体力は付いた。
国王様の教えも順調に吸収していっている。
何せ、本当に命懸けだ。
鬼との決戦前に命を落としたくはない。
わりとマジで。
それと、だ……冬休みが終わってからというもの、
さまざまな変化が見て取れるようになった。
精神的に成長を果たした者、肉体的に成長した者、またはその両方だ。
我がクラスの少年少女はそれが著しい。
特に女子だ。精神的にも肉体的にも成長が激しい。
これは俺達が『約束の子』であるからではないだろうか?
女神マイアスが意図的に成長を促してるとしたら……!
だとすれば、なんということであろうか!
俺は女神マイアスに言ってやりたい!
『女神マイアス……万歳!!』……と。
「同士諸君。あれを見て、どう思う?」
「凄く……大きいです……」
「みゅ~ん! みゅい、みゅい!」
俺達の視線はある部分に向けられていた。
それはもう、舐めるように見まくっている。
いっそ、そこに顔を埋めたい。
ワイバーンの子、トライも同意見のようで少しばかり興奮気味だ。
こいつはただ単純に、ララァに甘えたいだけのようだが。
地味系女子筆頭のララァ・クレストが、超巨乳となっていたからである。
当初、そのあまりの乳のでかさに、
俺は飲んでいた牛乳を鼻から放出してしまった。
それはもう、有り得ない光景であったのだ。
今までの我がクラスの乳ランキングトップ陣は
ユウユウ、グリシーヌ、ヒュリティアであったが、
彼女らを寄せ付けないほどの圧倒的戦闘力を引っ提げて教室に現れたのだ!
「スゲェ……括れだけが取り柄だと思っていたのに。
まさかのダークホースじゃねぇか」
スラックが彼女に戦慄を覚えた。
額から流れる汗がそれを物語っている。
肩に乗っているツヴァイが退屈そうに欠伸をしている。
「後はケツさね。
あの骨盤を見てみるんさ……あれは、でかくなる骨盤さね。
ぐひひ……地味系のわがままボディ。いいじゃないさね~」
アカネはそう予想しているが、尻に関してはその勘も当てにできる。
彼女のワイバーン、アインは主人の尻がお気に入りのようだ。
やはり育ての親に似てしまうらしい。
しかし、俺も胸に関しては自信があったのだが……
ララァの乳は想定外だった。そして、嬉しい誤算でもある。
実は俺はララァの地味な顔が好きなのだ。
美人は確かに良い。
だが……完成されたそれは段々と飽きてくる。
それに比べて地味系女子のその安心感。
飾らない素顔は心に平穏を、飾った顔はときめきを与えてくれる。
女性が真の輝きを放つのは地味な顔だと確信している。
故に彼女らは化粧という『魔術』を極めんと、日々努力しているのである。
……うちのかーちゃんは無駄な努力だとは思うが。
その顔にあの巨乳である。
俺の胸はやばいほどに高鳴っていた。
そして、彼女は驚くほどに色気を纏っていた。
この冬の僅かな期間に、いったい何があったのだろうか?
やばい、本気でアタックしてみるか?
いや、まだ時期尚早かもしれない。
これは見極めが肝心だ。焦ったヤツからやられる!
「何を悶えてんだロフト?」
そんな俺に声をかけてきたのは兎少女のマフティだ。
彼女もまた、この冬で劇的に変化を果たした一人である。
彼女は男の振りをしていた少女だったのだ。
……だが俺は、こいつの正体を既に見切っていた。
まず、においが違う。
男の臭いにおいじゃない。女が纏う甘酸っぱい香りがしたからだ。
俺にはわかる。
美人のにおいなら百メートル離れた位置でも嗅ぎ分ける自信があるのだ。
だが、今はマフティにかまっている暇はない。
「今はちょっと立て込んでいるんだ。
また後でな、乳首ちゃん」
「乳首いうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
マフティの乳首弄りはクラス内で有名になった。
はっきり言おう。エロい。
彼女もまた肉体的に成長著しい一人だ。
適度な運動をする彼女には無駄な肉がない、
それでいて女性の部分にはしっかりと脂肪が付いていっている。
俺にはわかるのだ。
この服の先を透視するがごとき目からは、
誰も逃れることなどできないのだから。
ただし、男には効果がない。当然だな。
「これは、ランキングの修正が必要だな」
「ロフト……おまえも、その結論に達したか」
「当然さね、ケツランキングも激しい入れ替わりが予想されるさね」
そのように熱が入る俺達に水を差す者がいた。
クラス委員長メルシェである。
「なんだよ? ケツランキング暫定一位さん」
「ケ、ケツッ!? しかも一位!?」
顔を赤らめて慌てて自分の尻を手で押さえる。
その仕草……グッド!
だが、彼女の尻はでか過ぎた。
抑えた手からは柔らかい肉が飛び出してしまっている。
学生服のスカート越しでもこの有様だ。
直に見たら即死レベルのエロさだろう……って、アカネ! 近い近い!!
「ふぅ~……ケツは良い、人類の宝さね。
けれども、あれを見るさね~」
アカネが指さしたのは教室の窓から空を眺める、
癖っ毛のピンク髪の少女プルルであった。
彼女は窓際に肘を載せて、尻を突き出したような格好になっている。
その大きく形のいい尻は……こ、これは!?
更に大きく……!? いや、違う! まさかっ!?
「へへっ腰が引き締まったんだ。
そのせいでケツがでかく見えるのさ。
それに俺はわかるぜ、
太ももも引き締まって美しいラインになってやがる」
スラックの目利きは確かだ。
俺達三人の中で最も冷静かつ的確に言い当てるその眼力。
最早、神業と言っていい。
「委員長、強敵さね。
うかうかしていると、ヒップクイーンの座から転げ落ちるさね」
「ううっ!? わ、私もがんばります!
……って、違います! そうじゃありません!!
そのようなランキングを……」
「おまえら~始めるぞ~? 席に着け~」
委員長が何かを言いかけたタイミングで、
アルフォンス先生が教室に入ってきた。
先生ナイスアシスト! 流石、爆乳美人を娶っただけはある!
噂によれば、その奥さんに子供ができたとか。
食いしん坊の情報なので確かなものだろう。
彼女は俺に、アルフォンス先生から言うまでは黙ってろ、
と釘を刺してきた。
まぁ、なんにせよ、めでたい話だ。
これで、爆乳を受け継ぐ女の子が産まれる可能性が出てきたからな。
時間は過ぎて昼休みへと移る。
俺とスラックとアカネは学生食堂にて注文した、
『がっつりサンド』を抱えテラスへと移動した。
このがっつりサンドだが、サンドイッチの一種だ。
具はブッチョラビのロースカツ、半熟卵を潰した物、
ピクルスを細かく刻んだ物、レタスとトマトだ。
調味料はシンプルにケチャップとマスタード。
この組み合わせがひとセット分だ。
それが二つ分組み合わせっているのが、この『がっつりサンド』なのだ。
この、がっつりサンドは、特に体育会系の生徒に人気が高い。
手軽に食べれる上に満足度も高いからだ。
ただ、纏めて食べると分厚過ぎて食べにくいので、
分けて食べた方が食べ易い。
まぁ、中には、そのまま豪快に食べる猛者もいるのだが。
「さて、食べながらでいい聞いてくれ。
まずは乳ランキングから更新したいと思う」
がっつりサンドをがつがつと齧りつく二人に、
最新の情報を提供する。
まったく以って、衝撃的な順位変動だった。
「まず一位だが、これは当然ララァだ」
「だよなぁ……あれにはビビるぜ」
「ぐひひ、ララァにも特徴が出てきたさね」
彼女の推定バストは84だ。
おわかりいただけるだろうか?
あの華奢な体に付いている乳房のでかさが。
八歳の胸の大きさではない。
はっきり言って、聖女以上に貴重な存在ではないだろうか?
「それでだ……二位がキュウトだ」
「え!? マジで! いつの間に調べたんだよ!?」
「ディークラッド先輩に捕獲された際に調べておいたさ~」
これはアカネの報告で発覚した数値だ。
推定バスト75。これまたでかい。
普段は男として活動し身体を動かしているので、
余計な脂肪など付いていないと思われていたのだが、
実は全ての脂肪は女性体に回されていた可能性がある。
今後も目を離せない人物だ。
「で、最後に三位がユウユウだな」
「結構ランクが下がったな」
「といっても、まだ成長過程さね。
あの身長と肉付きの良さなら、
三年後くらいにトップに返り咲く可能性は十分にあるさね~」
前年度のトップであるユウユウは推定バスト73だ。
十分過ぎるほど大きいが、ララァの乳の前では太刀打ちできないだろう。
とはいえ、まだ八歳だ。
これから大きくなる可能性は十分にある。
ちなみにワーストスリーはアルア、プリエナ、食いしん坊だ。
特に食いしん坊はワースト三冠を達成している。
あいつは、初めて出会った時から一切成長していない。
本当によくわからない体をしている。
五センチメートル伸びたと言って喜んだ次の年に、
七センチメートル縮んで白目になっていたり、
太ったと言って計ったところ三キロ増量していたのが、
次の日には七キロも減っていて痙攣していたりと色々におかしい。
本当に白エルフなのだろうか? 怪しい。
実際は珍獣『エルティナ』という種族なのではないのだろうか?
いつも、ふきゅん、ふきゅんと鳴いているし、
あながち間違いではないのかもしれない。
推測の域は出ないのだが。
「どうした? ロフト」
「ランキング報告は続くさね~。
しっかりするさね」
「ん? おぉ、済まねぇ。
しょうもないことを考えていた。続けてくれ」
何故か、スラック達に心配されてしまった。
おかしな顔でもしていたのだろうか?
まぁいい。ランキングの更新を続けよう。
「クビレの美しさはなんと言ってもヒュリティアだな。
断トツの一位だ」
このウェストランキングは、数値ではなく視覚で決めている。
病的に細いウェストになんの魅力があるのだろか?
痛々しく見えるだけで、なんの興奮もない。
ある程度、肉付きを残したうえでのラインの美しさを、
スラックはその確かな眼力で見抜き評価しているのだ。
ヤツの目から逃れられる括れはない。
「二位はシーマだな。
あいつ、意外にスタイルいいからなぁ……性格は酷いけど」
「ぐひひ、シーマはケツもいい具合に成長してるさね」
やはり、貧乏生活で余計な肉が付かないのだろうか?
それでも、がりがりでないのは定期的にヒーラー業に
精を出していたからだろう。
去年は頬がこけていたからな。
あれは酷かった。
「三位はララァとプルルだ。
この二人は甲乙付け難かったから同率三位とする」
ララァはともかくプルルがランクインするとは思わなかった。
そこまで彼女の腰はシェイプアップされていたのだ。
だが、いったい、この僅かな期間で何があったのだろうか?
興味は尽きない。
「さ~今度はわちきさね~。
ケツランキングトップはメルシェ委員長さね。
やはり、あのケツには抗えない魅力があるさね」
ちなみに尻もアカネの独断と偏見で決めている。
ただ、でかいだけの尻に価値などない。
形、柔らかさ、弾力、張りが重要になるのだ。
それらを兼ね備えた大きな尻が評価に値するのである。
「やっぱり今年も委員長か。強いなぁ委員長のケツ」
「そうだなぁ……委員長はケツだしな」
色々と酷い表現だが仕方がない。
彼女の魅力はその見事な尻に集約しているのだから。
あれほど見事な尻は滅多にあるものではない。
これから更に成長するであろうから末恐ろしい。
「二位はユウユウさね。
あ~顔を埋めたいさね~あの形の良いケツに」
ただし、それをやると本当に死ぬ。
彼女は同性であっても容赦はしない。
アカネもそれを理解しているので堪えているのだが……。
「なんで、わちきはダメで、食いしん坊はいいのかわからないさ~」
「いや……なんでって、おまえはNGだろ」
「食いしん坊は、妹みたいな扱いにされているからなぁ」
彼女はとても同世代とは思えないほど背が低い。
たったの百センチメートル前後しかないのだ。
俺の身長は現在、百三十八センチメートルはある。
小柄なアカネでさえ百十七センチメートルはあるのにだ。
「こういう時だけは羨ましいさね。
んで、三位はウルジェさね。僅差でグリシーヌさ~。
二人とも太ってはいるけど、
いい感じに迫力のある尻を作り出すことに成功しているさね」
狙って作ったわけではないだろうが、
彼女達の尻はアカネの高い評価を得ていた。
……確かに、二人の尻が並んだところを想像したら、
どえらい迫力の映像が映った。
俺は尻フェチではないが、思わず「うほっ!」と言いそうになる。
「今年の春のランキングはこんなものか」
「そうだな、こんなものだろう。
大きく変動するのは薄着になる夏だからな」
「ああ~夏が楽しみさね。
夏はわちきらの季節さね~! 薄着万歳! むちぷり万歳!」
そう、俺達の楽しみは終わることはない。
夏が終われば秋だ。秋が終われば冬に、そしてまた春に。
その度に彼女達は大きく美しく、そしてエロくなってゆく。
「あ~! 堪んねぇなぁ! 俺達ぁこのために生きているようなもんだ!」
「まったくだ! 激しく同意せざるを得ないな!」
「ぐひひ! むっちむちのケツ、万歳さね!!」
はっきり言って、俺は世界の平和とか約束の子とかには興味はない。
気の合う仲間が隣にいて、一緒にバカをすることができれば、それで十分だ。
竜騎兵になるのだって、こいつらと少しでも長くつるむために過ぎない。
世界を護るだの正義だの正直な話、俺の手には余るんだ。
それに、俺はどうあがいても、
極一部の連中を護るので精一杯だろうしな。
俺はそれでいいと思っている。
全てをこの手で護るだなんて無理だ。
だから、俺の足りない分は仲間に頼る。
この、碌でもない愛すべき親友達に。
この、最も信頼を置けるスケベ達に。
「やっぱ、持つべきはエロい仲間だよな」
仮に俺達が歴史に名を刻むのであれば、こう刻まれるだろう。
『エロい三竜騎兵』……と。
……やっぱり、少しは真面目にやった方が良いかな?
◆ロフト・ラック◆
人間の男性。
短い黒髪に白いバンダナがトレードマーク。瞳の色は茶色。中肉中背。
アルフォンスに怒られる回数は珍獣の次に多い。非常に女好き。
竜騎兵を目指す三人組のリーダー格。
パートナーのワイバーンの名前は、トライ。
得物は鉄の槍からショートスピアに変更した。
投擲にも使用するので何本か『フリースペース』にストックしている。
一人称は『俺』
エルティナは『食いしん坊』