248食目 モルティーナ・ルルセック
◆◆◆ モルティーナ ◆◆◆
冬はいやっすね~。
どうにも心が滅入っちまいますよ~。
仕事も冬の間はお休みっす。
雪が積もっちまって作業にならないっすからね~。
冬のモグラ獣人のすることと言えば、
家の中でだらだら寝っ転がることくらいなものっす。
雪かきをしろって? 冗談じゃないっすよ~。
わっす達モグラ獣人は雪が大の苦手なんすよ~。
寒くてアロハシャツも着れないんで、外に出たくないっす。
そんなわけで基本的に冬の間、
モグラ獣人は『冬眠』していると思われているッス。
あまりに外に出たくないんで、
冬に入る前に大量の食糧を購入して『フリースペース』に突っ込んどくんす~。
それが原因で冬眠していると思われてるんすね~。
実際にモグラ獣人が冬の期間に目撃されたというのは稀っす。
一昨日わっすがタカアキ様のお宅に訪問したんすが……
数十年振りにモグラ獣人が冬の期間に目撃された~って、
ちょっとした話題になっていたみたいっすよ~。
「おあ~、ふむふむ。なるほど、なるほど」
あまりにやることがないんで、
わっすは普段はまったくしない勉強をしていたんすが、
これがなかなか、面白くなってきていたんすよ。
知識を身に付けることが、こんなに面白いとは思わなかったっす。
長い冬休みの間に、詰めれるだけ詰めちまうっすよ~。
雪が解ければ、再びモグラ獣人の熱い毎日が始まるっす。
おとっつぁんも、今でこそ死んだ目をしてゴロゴロしているっすが、
一度、仕事が入れば再び仕事熱心なおとっつぁんに戻るっす。
ある意味、冬のおとっつぁんの姿は貴重なんすよ~?
「おあ~、そろそろやるっすかね~」
わっすは勉強を中断して作業着に着替えたっす。
冬の間は仕事をしないって? もちろんしないっすよ~。
今からすることは仕事じゃないっす。
趣味の鉱石掘りっすよ~。
たま~に、珍しい鉱石が掘り起こされる時があるんすよ。
その掘り当てた時の感動が堪らなくて、
時々、冬の間こうして堀に向かうんすよ~。
ぺたぺたと地下倉庫へ続くドアに向かって歩いていると、
おとっつぁんと、おっかさんがご先祖達と一緒になって丸くなってたっす。
冬の間はご先祖であるモグラ達も、
わっすらモグラ獣人の家に来て暖を取りつつ寝ている毎日っす。
彼らを起こさないように気を使いながら、
わっすは地下倉庫へと続くドアをあけ放ったっす。
冷たい空気がわっすの寝惚けた頭を叩き起こすっす。
素早くドアをくぐり抜けて、
冷たい空気が家の中に入らないように閉めるっす。
寒いとご先祖達が「きゅいきゅい」と鳴き始めるっすからね~。
地下倉庫に出たわっすは、
ごちゃごちゃと積み上げられている荷物をどけて、
もう一つのドアを開け放ったっす。
更に地下に降りること数分。
わっすの目的地に到着したっす。
「おぉ~? モルかぁ! 今日は随分と早ぇじゃねぇか!?」
「おあ~、ガンズロックは随分と早いっすね~」
ここは、わっすがこっそりと掘り進めていた広い地下空間っす。
同じく鉱石を求めて掘り進んでいたガンズロックと鉢合わせて、
ここに共同作業用の空間を設けたってわけっすよ~。
「ふっきゅんきゅんきゅん! おはよう、モル!」
「おはようっす、おあ~、今日はエルっちも一緒っすか?
ということは……やっぱりやるんすね~?」
エルっちは「当然だ!」と言うと、
大量に山積みになった屑鉱石の前に立ち、その異常な魔力を放出し始めたっす。
いつ見ても非常識な魔力量っすね~。
「よし……ドクター・モモ、ユクゾッ!」
「ふぇっふぇっふぇっ、おまえさんも執念深いのぉ。
まぁ、ええわい。納得するまでやるがいいさ」
エルっちの小さな口からは、わっすが聞いたことのない、
じっさまのしわがれた声が聞こえたっす。
桃先輩以外の声が発せられるとはおもってもいなかったすよ~。
エルっちの規格外の魔力を浴びて変化をし始める屑鉱石達。
今までそんな加工の仕方を見たことがないっす。
ガンズロックもその光景に作業を止めて見入っているっすよ~。
「か~、おまえさんは本当に非常識じゃのぅ!
魔力十八万なんてこの世界の一般人の千八百倍じゃぞ!?」
……単位がおかしいっす。
自分の耳がおかしくなったんすかね~?
「俺の魔力は世界を変える魔力だぁ……ふきゅん! いいぞぉ!
鉱石達が変化し始めてきた! ここで俺は更に魔力を高める!」
「ばかもん、これ以上はいらんわい。
ここからはじっくりと加工する時間じゃて」
その会話に呆れているのは、わっすだけじゃなかったす。
ガンズロックもしっかりと呆れていたんすよ~。
「まだ魔力を上げれるのか?」
「おう、まだまだいけるぜ。
竜巻の一件で俺の魔力は限界を突破したみたいでな、
今じゃ、かなり無茶をしなければ魔力が枯渇することはない」
と言ったもののエルっちの顔には陰りがあったっす。
その理由は彼女が自ら説明したっす。
「でもな、『ソウルヒール』を連発する事態がこれから起こるだろうから、
これでも全然心許ないんだよ。
しかも、新魔法『ワイドソウルヒール』を、
数回使ったら魔力がなくなっちまうんだぜ」
「『ヒール』の上位版かぁ……そらぁ、魔力がいくらあっても心許ねぇなぁ」
エルっちの使う『ソウルヒール』は魂が籠っている者であれば、
いかなるものであっても損傷を再生させることができる、
恐ろしく非常識な治癒魔法っす。
以前、その魔法を使ってゴーレム達を修復している光景を目撃したっす。
もう、なんでもありっすね、エルっちは。
「ふきゅん! 来たぞぉ! 俺だけのGD完成も間近だぁ!」
「ゴーレムドレス? なんだぁ、それは?」
わっすも聞きなれない単語が飛び出て興味が湧いてきたっすよ。
最近は勉強ばかりしていたお陰で、
知識を獲得することが楽しくなってきたっす。
その時だったっす。
屑鉱石が激しく光を放ち作業空間を光で満たしたんすよ!
わっすらモグラ獣人は光が苦手なんす!
思わずうずくまっちまったすけど、仕方のないことっすよ。
光が収まると、そこには何事もなかったような暗闇があってホッとしたっす。
わっす達モグラ獣人はご先祖達と同じく視力は弱いっすが、
嗅覚が発達しているっす。
それを駆使して生活をしているんすが、
きつい匂いと強烈な光はご法度ものなんす。
特に鼻がおかしくなるような臭いは本当にダメなんすよ~。
動くこともできなくなるっす。
「……解せぬ」
「ほんとにのぅ……途中まで上手くいっていたんじゃが」
光を放った原因である屑鉱石達は、すっかりとその姿を変えていた。
ずんむりむっくりな胴体。その胴体には無数の短い脚がくっ付いているっす。
頭と思われる部分には、つぶらな瞳と小さな口が付いているっすよ。
「これが……ゴーレムドレスかぁ?」
「いやいや、これは断じてゴーレムドレスじゃないわい。
ただの置物じゃて。
ふぇっふぇっふぇっ、残念じゃったなぁ新米」
がっくりと崩れ落ちるエルっち。
彼女が作り出したのは自分の体の半分以上もある、
キャタピノンの置物だったっす。
本来はゴーレムドレスなる物を作っていたらしいっすが、
失敗に終わったらしいっすね~。
「おごごご……俺の野望がっ!
これだけの鉱石を集めるのに、どれだけ苦労したと!」
「エルの体力が無さ過ぎるからなぁ……まぁ、残念な結果に終わったがよぉ、
こういうことは諦めが肝心てぇもんよぉ。
気を取り直してぇ材料を集め直しなぁ!」
そう言ってガンズロックは愉快そうに笑ったっす。
しょんぼりと項垂れるエルっち。
でも、わっすは見たっす。
彼女の左肩から緑色の薄っすらと輝く何かが、
置物のキャタピノンに入り込む姿を。
すると、がたがたと音を立てて置物のキャタピノンが動き出したっす!
その光景にその場にいた全員が驚きの表情を見せたっす!
『いもっ』
更に驚くべきことに、そのキャタピノンは喋ったんすよ~。
もう、訳がわからないっす。
流石はエルっちの作った物っすよ~。
「ふきゅん! いもいも坊やなのかっ!?」
「これは……そうか、ゴーレムもどきに
ソウル・フュージョン・リンクシステムが組み込まれておるんじゃな?
やれやれ、設計図も知らんのに、感覚だけで組み上げてしまいおったわ」
『いもいもっ!』
その日からエルっちは、
そのキャタピノンに乗って行動することが多くなったっす。
『いもいもモービル号』と名付けられた置物は、
キャタピノンと同じ色に塗装されて元気に動き回っているっす。
あまりエルっちから離れると、動けなくなってしまうようだったっすが、
基本的にエルっちは上に乗って行動するから問題なかったようっす。
彼女は目的の物を獲得できなかったけど、
思わぬ収入に満足していた様子だったっす。
わっすも珍しい物が見れて大満足っすよ~。
冬場の退屈な日々も、彼女のような珍事を引き起こす者と一緒なら、
退屈はしないっすから。
「おあ~、それでも、春が恋しいっすね~」
完成したてのキャタピノンに乗って大はしゃぎするエルっちを、
ガンズロックと共に見守るわっすらだったっすよ~。
◆モルティーナ・ルルセック◆
モグラの獣人の女性。人間寄りの顔。
灰色の髪を三つ編みにして垂らしている
瞳の色も灰色。普段から分厚い眼鏡を着用している。
非常に間延びした話し方をする。性格もかなりのんきである。
腕が非常に発達しているが、逆に足の方は退化している。
その発達した手に生えている巨大な爪が最大の武器。
しかし、戦闘は得意ではない。
一人称は「わっす」
エルティナは「エルっち」