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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
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243食目 プルル・デュランダ 後編

 まず、ゴーレムドレスの各フレームには、

 さまざまな増幅装置が組み込まれている。

 それらは全て魔力で起動する物だ。


 いくら僕の魔力が多いとはいえ、ゴーレムドレス全体に魔力を回していると、

 すぐに魔力枯渇で倒れてしまうそうだ。

 そこでドクター・モモが開発したのが、

 フレームの胸の部分にある『魔力ブースターシステム』。


 仕組みはよくわからないけど、

 この装置に魔力を通すと魔力が五倍になってフレームに流れるらしい。

 これで少ない魔力で稼働が可能になるってわけだよ。


 食いしん坊はこのシステムのせいで爆発してしまったわけだね。

 あの子の『軽く』は信用ならないからねぇ。


 でもそのお陰で、

 僕みたいに身体能力が劣る者でも、軽快な動きが可能になっている。

 各フレーム内に搭載されている『パワーアシスト』という、

 特殊な装置が各フレームの動きを早めてくれているらしい。

 これも魔力で作動するため、強力な魔力が必要になるわけだよ。


 次はセンサー類なのだけど、これらも異常な性能だった。

 通常の戦闘用ゴーレム達のセンサー有効距離は千メートルだ。

 しかし、バイザーに表示されている数値が本当なら、

 三千メートルもの距離を感知することができる。

 三倍もの距離だ。

 察知できれば一方的に先制が取れるわけだねぇ。


 後は武装だね。

 魔力ブースターシステムとセンサーの性能の説明の後、

 フレームだけだったスカスカのゴーレムドレスに、

 装甲を取り付けることになった。


 その装甲なんだけど、これも全てネオダマスカス合金で作られていた。

 このネオダマスカス合金なのだけれど、

 普通に戦闘用ゴーレムをこの合金で制作すると、

 約三十倍ものコストが発生する。


 試作機という理由で費用を度外視しているらしい。

 そんなことを教えられたら委縮しちゃうよ。


 装甲を付けられたゴーレムドレスは、

 本当にドレスを着ているかのような外観になった。

 ピンク色の華やかな色だ。

 試作機ということで派手な色にしたそうだけど、

 僕の髪の色と同じで好印象を持った。


 そして、魔力を通した装甲は柔らかいんだ。

 本当に鎧というよりは服に近い感じがする。

 外見が少しごっついので固そうに見えるけど、まったく干渉することはない。

 触れる部分が伸び縮みするからだ。

 本当に凄い合金だよ。


 背中にあるイシヅカのコクピットは、

 同時にブースターの役割を兼ねているそうだよ。


 普通の戦闘用のゴーレム達は倒れた際やジャンプする際の、

 補助としてしか機能していないのだけども、

 このゴーレムドレスのブースターは規格外だ。

 魔力が続く限り、飛び上がることができるほどの力がある。


 ただ、飛行はできないらしい。

 残念がった僕だけど、既に飛べるようにするプランを練っているそうだ。

 本気でお爺ちゃん達は、鬼に対抗できる兵器を作っているのがわかる。


 装甲を付けたところで、動作チェックをすることになった。

 取り敢えずは何も考えずに動いてみてくれと頼まれたので、

 走ったりくるくると回転したりしてみた。


「わぁ……凄い、自分の身体じゃないみたいだ!」


 軽く動かしただけで、自分の思った以上の軽やかな動きをしてくれる。

 自分だけでは到底できなさそうな動きが自由自在にできる。

 凄いよ、これならライオットと競争しても負けないかも!


「ふむ、動作には問題はなさそうじゃの。

 後は軽量化かのう……外見がちとごつすぎるわい」


「そうじゃのう。

 大きければ、それだけ的が大きくなるということじゃからな」


「その前に、俺の魔力に耐えれるフレームを作ってくれぃ」


 動作テストを終えた僕は三人の下に戻った。

 身体を動かしてこんなにも楽しかったのは、いつ以来だろうか?

 そんなご機嫌な僕に、お爺ちゃんは暗い顔で話しかけてきた。


「プルル……ワシらは間違ったことをしているのかもしれん。

 この技術が他国に渡れば、いずれこの兵器を使った大戦争が勃発するだろう。

 それでも、ワシらはゴーレムドレスを制作した。

 それは……この世界の未来を掴み取るためじゃ。

 それだけは、信じておくれ」


「お爺ちゃん……?」


 そう言って、お爺ちゃんが手渡してきたのはゴーレムドレスの武装だった。

 一つはガイリンクードが使っている魔導銃を大きくしたような物。

 色は黒を基調に桃色のカバーが装着されている。

 目標を正確に狙えるようにスコープも装備されているようだ。

 もう一つは真っ白な丸い盾だった。

 パッと見は何の変哲もなさそうだけど……。


「それは『魔導ライフル・モモビカリ』じゃ。

 銃口に炎属性支援魔法『フレイムブースト』の術式を組み込み、

 光属性下級攻撃魔法『レーザーショット』を放つ仕組みになっておる」


 炎属性支援魔法『フレイムブースト』は通常であれば、

 剣や槍に魔法の炎を纏わせて相手に追加ダメージを与える支援魔法だ。

 それを光属性下級攻撃魔法『レーザーショット』に纏わせるというのだ。

 いったい、どうしたらこのような発想に至るのだろうか?


「プルルは何も考えんでもいい。

 ただ、引き金を引けば、恐るべき威力の破壊光線が発射される仕組みじゃ」


「ふぇっふぇっふぇ、さぁさぁ! 試し撃ちじゃ!

 こっちに的を用意しておいたから、狙って撃ってくれい」




 ここの工房には、兵器を試し撃ちをする場所が設けられている。

 戦闘用のゴーレムも作っているので、

 どうしてもその場所が必要になるからだ。


 それにしても魔法障壁の施し方が異常だった。

 通常の魔法障壁を十倍もの厚さで施している。


「さぁ、プルル。撃ってみてくれ。

 大丈夫じゃ、イシヅカがサポートしてくれる」


「お爺ちゃん……うん、やってみるよ」


 バイザーに映る映像内のイシヅカが、

 親指を立てて任せろという仕草を見せる。

 的は……あれかい?


 僕が狙うのは、今持っている白い盾と同じものだった。

 目標までの距離は二百メートル。

 バイザーには、そんな細かいデータも表示されているんだ。


 僕は標準を的である白い盾に合わせる。

 不思議なことに手がぶれない。

 これがイシヅカのサポートというヤツなのだろうか?

 僕は躊躇いながらも、魔導ライフルの引き金を引いた。


 甲高い発射音と空気を切り裂く熱線が、白い盾目がけて真っ直ぐ飛んでゆく。

 本来は白い筈の光線は、赤い炎を纏ってピンク色に輝いていた。

 それは、吸い込まれるように的である白い盾に命中し……

 とんでもない大爆発を引き起こした。


「ひゃあっ!?」


 あまりの爆風に思わず顔を覆ってしまう。

 でも吹き飛ばされることはなかった。

 普段の僕なら、最低でも尻もちを突いて、

 情けない恰好を晒しているだろうに。


「ふきゅん! 凄い爆風だぁ……」


「それでも、想定内の威力じゃよ」


 食いしん坊にくっつく形で爆風から身を護る爺ちゃん。

 彼女の魔法障壁内に入って事なきを得たのだろう。


「ふぇっふぇっふぇ、イシヅカはいい仕事をするわい。

 あの距離で転倒しないようにアシストできておる。

 パイロットとのシンクロ率も八十パーセントオーバーじゃ」


「やっぱり、イシヅカが僕を支えてくれていたんだ」


 画像内のイシヅカが「どうだ」と胸を張って自慢している。

 頼もしい子に成長したものだ。


 煙が晴れ的の様子が見えてきた。

 その姿に驚きを隠せない。


「え? あの爆風で……!?」


 白い盾は多少の損傷はあったが原型を留めていた。

 そのことから、異常な防御力を誇ることが容易に理解できる。


「ふむ……こっちは想定以上のダメージじゃな。

 ミスリルコーティングではこれが限界かのう」


「プルルのモモビカリの威力が高過ぎたんじゃろう。

 使い手によって威力は大きくぶれるからなぁ。

 大破までいっとらんから、今は十分じゃろう」


 お爺ちゃんとドクター・モモは白い盾の損傷具合を確かめて、

 今後にどう生かすかを検討している。

 でも、僕は気が付いた。

 どんなに高威力でも、鬼には普通の攻撃は効かない。

 食いしん坊の協力が必要不可欠だけど、

 桃の加護の有効範囲は確か五百メートルが限界だったはずだ。


 そのことをお爺ちゃん達に伝えると、三人は感心した表情を見せる。

 一人は果実で顔はなかったが、そんな感じがしたんだよ。


「いいところに気が付いたのう、プルル。

 魔導ライフル・モモビカリの最大の特徴は、

 桃の加護内で桃力をチャージして携帯できる点じゃ。

 最大弾数は五発じゃが、

 桃の加護の範囲外でも桃力を載せた攻撃ができるんじゃよ」


「そんなところまで作り上げていたんだ……凄いよお爺ちゃん」


 でも、首を振って否定するお爺ちゃん。

 その表情は少し悲しげだった。


「これらのシステムや合金はドクター・モモの指示でワシが作ったに過ぎん。

 ワシごときではこのような物は作り出せんよ」


「ふぇっふぇっふぇ、ワシは天才じゃからのう。

 しかしながら、精度の高い物を作る腕はドゥカンの方が遥かに上じゃて。

 コンビに上も下もないということじゃ」


「ドクター……」


 ドクター・モモの言葉に深く息を吐き、憑き物が落ちたような顔を見せた。

 きっと凄過ぎる発明に劣等感を抱いていたのかな?


「さて、テストを続けようかのう。

 プルルちゃんや、腰に備え付けてある棒を手に取っておくれ」


「腰の? これかな……?」


 僕は腰に据え付けてあった棒のような物を手に取った。

 しげしげと眺めると、先端の部分に穴が開いているのを見つけた。


「プルル、それも武器じゃ。

 イシヅカや、『魔導光剣・モモツルギ』起動」


「はわわわ!?」


 突如、先端の穴からピンク色の光の剣が伸びてきた。

 これはきっと、モモビカリと同じ原理なんだろうなぁ。

 でも……これは物凄く魔力を吸われていく。

 形状を維持するのに、魔力を放出し続けないといけないようだね。


「ふぇっふぇっふぇ、その顔だと、

 この武器がどのような物かわかったようじゃの。

 それにも桃力をチャージできる機能がある。

 だたし、そちらはエネルギー残量制じゃ。

 気を付けんと、すぐにただの光剣になってしまうぞい」


 どの武器も凄い技術だ。そして威力も。

 正直言って、僕はこのゴーレムドレスと武器達が怖い。


 お爺ちゃんが言っていたとおり、

 この技術が広まって大きな戦争が起こったら、

 魔族戦争なんて比較にならないくらいの、

 悲惨な戦争になってしまうんじゃないだろうか?


「お爺ちゃん……どうして、この子を作ろうと思ったの?

 本当のことを言ってよ。

 さっきのお爺ちゃんは嘘を言っていた。

 確かに、鬼達との戦いには戦力は必要になるだろうけど。

 僕はこの子が怖いよ……」


「プルル……」


 場の雰囲気が重苦しくなった。

 わかってはいたけど、僕は言わずにはいられなかった。

 僕はゴーレムが好きだ。

 大きなゴーレム、小さなホビーゴーレム……どちらも好きだ。


 ゴーレムは戦うために作られたという。

 でもキョウダイ・シローウは別の答えを出した。

 警備用のゴーレム、農作業用のゴーレム、

 そして、子供の玩具であるホビーゴーレムを作り出した。


 イシヅカやムセル、ツツオウを見てきた僕にはわかる。

 そして、戦闘用に作られたケンロクでさえ優しさを持っている。

 ゴーレムは戦うだけの存在じゃない。

 家族として共に生きていくことができる存在なんだ。


 それが……意思もなく魂もない、戦うだけのゴーレムなんて怖いし悲しい。

 この子は、正確にはゴーレムではないのかもしれないけど、

 それでもゴーレムと名称されるこの子が不憫でならない。


「そいつはな……プルルちゃんのために作ったんじゃよ」


「……え?」


 暫しの沈黙を破ったのはドクター・モモだった。

 彼はお爺ちゃんが僕のためにこの子を作ったのだと言ったのだ。


「この世界では魔力の高い者は総じて身体能力が低い傾向にある。

 それでは鬼にとって格好の的なんじゃよ。

 ヤツらのタフさは尋常ではない。

 少しくらいの傷程度では決して怯まん。

 じゃから、圧倒的な攻撃力で鬼をねじ伏せるか、

 軽やかに回避できる運動能力が必要になってくるんじゃ」


「それで……この子を作ったの?」


「そうじゃ。

 プルル、おまえはワシの最後の家族であり……ワシの宝なんじゃ。

 失いたくない一心で、ゴーレムドレスを作った。

 おまえは戦いに行く運命を背負わされておる。

 決して戦いから逃れられないじゃろう。

 ならば、少しでも生き残れる可能性を高めたかったんじゃ」


 お爺ちゃんの告白に胸が詰まる思いだ。

 そこまで僕を思ってくれていたなんて知らなかったよ。

 ただ思ってくれているだけと、口に出してくれるとでは大違いだ。

 自然と涙が溢れてくる。


「ふきゅん……大きな力はおっかないけどな、皆を守る力でもあるんだ。

 確かに、こいつには心もないし魂もない。

 でも……思いはたくさん詰まっているんだぜ? プルル」


「食いしん坊……うん、そうだね」




 彼女の言葉が決め手となった。

 僕はこの子と共に戦う決意をしたんだ。


 僕とイシヅカとこの子……『ゴーレムドレス・デュランダ』と共に。

 ……絶対に死ぬものか。

 僕には大切な家族がいるんだから!

 ◆ GD-P-0・デュランダ ◆


 ドゥカン・デュランダとドクター・モモが作り出した、

 初の試作型戦闘アシストゴーレム。通称『ゴーレムドレス』。

 パワードスーツのそれに近い。

 外見はヘルメットを被ってランドセルを背負った、

 ドレス姿の少女のような姿。装甲はピンクで統一されている。


 メインパイロットはプルル・デュランダ。

 サブパイロットはイシヅカ。


 全高・百四十センチメートル。

 本体重量・七十二キログラム。

 魔導出力・1380MP。

 センサー有効範囲三千キロメートル。

 装甲材質・ネオダマスカス合金。

 武装・魔導ライフル・モモビカリ。

    魔導光剣・モモツルギ。

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