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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
242/800

242食目 プルル・デュランダ 前編

 ◆◆◆ プルル ◆◆◆


 今日はよく雪が降る日だ。

 灰色の空からは止まることなく、白い雪達がふわりふわりと降りてきている。

 その白さは僕の吐く息と、なんら変わらないほどに純白だ。


「う~寒いねぇ……

 なんだってお爺ちゃんは、こんな日に僕を工房に呼び出すんだろう?」


 降り積もった雪に足を取られつつも、工房のあるゴーレムギルドへと向かう。

 ゴーレムギルドはフィリミシアの町の北部に位置する。

 僕の自宅は西部の奥側だ。

 学校に近い反面、ゴーレムギルドからは離れた位置にある。


 馬車を呼びたくなるが、この雪では馬車も来てはくれないだろう。

 それほどに雪が積もっていたのだ。

 まったくもって、いい迷惑である。


 今年は例年に比べて、雪の量がとても多いそうだ。

 復興途上のフィリミシアにとっても、いい迷惑に違いない。


「ふぇっくしゅん! は、早く工房に着かないと、風邪を引きそうだねぇ」


 僕は少しばかり歩く速度を速めた。

 その分、足と体力に負担がかかるけど仕方がない。

 風邪を引いて、再び食いしん坊に迷惑をかけたくはないからねぇ。


 その甲斐あってか、予定よりも早くゴーレムギルドに辿り着いた。

 その分、疲労感を強く感じるし汗もかいてしまったが。


 取り敢えず、お爺ちゃんに挨拶をしてシャワールームを借りて汗を流そう。

 着替えは『フリースペース』に常備している。

 女の子の嗜みというヤツだ。

 僕も一応、女だからね。


「いたいた。お爺ちゃん、来たよ~」


「おぉ、プルルか。早かったじゃないか」


 僕と同じピンク色の髪の初老の作業員が、

 スパナを片手に作業しながら声をかけてきた。

 祖父はその間も、決して作業を中断しない。


 ギルドマスターになってからも第一線で活躍する、

 ゴーレム製造の熟練技師なのだ。


「うん、話の前にシャワールームを借りてもいい?

 汗をかいちゃって、風邪を引きそうだよ」


「うん? おぉ、構わんよ。

 場所は知っておるな? 早く汗を流しておいで」


 もちろん場所は知っている。

 むしろ、自宅より工房の方が過ごした時間が多いくらいだ。

 僕は迷うことなくゴーレムギルドのシャワールームに向かった。


 ゴーレムギルドのシャワールームを利用し、

 汗を流した僕は、再びお爺ちゃんの居る工房へと足を運んだ。


 汗を流し着替えたことによって寒さはなくなっていたが、

 それでも工房の巨大なスペースは完全に温かくなることはなく、

 ところどころに設置されている魔導ストーブか、

 薪ストーブの周りしか温かみはない。


 そのストーブの上ではポタージュが温められていて、

 体が冷えたり、小腹が空いた作業員が食パンを浸して摘まんでいた。

 その中に何故か見知った人物がいる……食いしん坊である。


「うん、やはりミネストローネはいいな。

 きちんと具材も食べるんだぞ? 作業員は体が資本なんだからな!」


 どうやら、作業員のための料理を作っていたらしい。

 彼女らしい一面だ。

 その彼女が、僕の姿に気が付いて声をかけてきた。


「おぉ、プルルも来たか。

 取り敢えず、ミネストローネを食べてほっこりしてくれ」


「そうだね、小腹も空いたし……ご馳走になるよ」


 食いしん坊に勧められて、ミネストローネを食べたのだが、

 その味に驚きを隠せなかった。

 下手な料理店が出すそれと、一線を画す物だったからだ。


 使っている材料は同じだろうが……いったい、この差はなんなのだろうか?

 材料にはタマネギ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、セロリ、ズッキーニ、

 さやいんげん、ベーコンなどだ。

 色取りどりの野菜達が、赤い色をしたスープの中で自分の色を主張している。

 カラフルでとても綺麗だ。


 でも、極々普通の材料を使って、

 忠実に作られたミネストローネのようだけど……。


 具の野菜を噛みしめるとトマトベースのスープと、

 野菜の豊かな旨味が融合して別次元の味を作りだす。

 トマトの酸味が食欲を刺激し、この上なく調整された塩気が、

 僕の持つスプーンを加速度的に早めていった。

 もう止める自信がない。

 気が付けば、僕はミネストローネを完食してしまっていた。


 それは、他の作業員達も同じだったようで、

 中にはスープに浸すつもりだったパンを、

 皿に擦りつけて食べている者までいた。

 最後の一滴まで味わい尽くしたいのだろう。


「ふぅ……おいしかったよ。ごちそうさま」


「ふきゅん、おそまつさま。綺麗に食べたな。

 やはり、ミランダさん直伝のミネストローネは美味かろう。

 体が温まるし栄養抜群だから、冬場の料理にぴったりだぁ」


 僕は食いしん坊にお礼を言って食器を片付けた。

 しかし、どうして彼女がこちらに居るのだろうか?

 居るとしたら併設されている、

 ホビーゴーレムギルドの方だと思うのだけれど。


「それにしても……どうして食いしん坊がこっちに居るんだい?」


「それはな、これからプルルに話すことに関係があるんじゃよ」


 僕の疑問に答えたのは、彼女ではなくお爺ちゃんだった。

 でも、その表情は浮かない。

 いつもの活発な表情ではなかった。

 何か、話辛い内容のものなのだろうか?


 お爺ちゃんに案内されて着いた場所は第八特別開発室だ。

 この巨大な工房の中にあって、滅多に使用されない開発室である。

 その扉には『関係者以外は立ち入り禁止』と書かれた紙が貼られていた。

 しかも、扉には頑丈な金色の錠が設置されている。

 そこまでして秘密にしたいものが、ここにあるのだろうか?


 懐から金色の鍵を取り出したお爺ちゃんは、

 それを鍵穴に差し込みゆっくりと回した。

 カチリ、と音がして錠が外れ中に入れるようになる。


「さぁ、ここじゃ。入っとくれ」


 僕達が部屋に入ると自動的に証明が点き、

 部屋の中の様子が見えるようになった。

 最新式の魔導照明器具を取り付けたようだ。


 部屋の正面には、骨格のみの人型ゴーレムがハンガーに設置されていた。

 まだ外装は取り付けられていないようだ。

 ただし、頭部には透明のバイザーが付いている。


 でも、そのゴーレムは、心臓であるゴーレムコアを搭載していなかった。

 どう見ても、未完成のように見えるのだけど……。


「プルル、おまえに見せたかったのはこいつじゃよ」


「お爺ちゃん、これって新しい戦闘用ゴーレム?」


 僕は小さい頃からゴーレムの製造過程や知識を獲得してきたので、

 骨格フレームをみれば大体のタイプがわかる。

 この未完成のゴーレムは戦闘型だ。

 でも……あまりにも小さ過ぎる。


「お爺ちゃん、この子は小さ過ぎて、

 ゴーレムコアを載せれないんじゃないのかな?」


 戦闘用ゴーレムコアはとても大きい。

 近年、小型化が進んではいるけども、

 ケンロクサイズのゴーレムコアが現在最小で、もっとも出力が高いはずだ。


 他のシングルナンバーズやラング改は二メートル以上の巨体の中に、

 七十センチメートルもの巨大なゴーレムコアを内蔵している。

 ケンロクは改良を施して六十センチメートルまで小型化しているのだが、

 それでもまだまだ大きいことには変わりない。

 にもかかわらず、『僕』とさほど変わらない大きさのゴーレムに、

 戦闘用のゴーレムコアを搭載しようというのだ。


「こいつにゴーレムコアは搭載せんよ。

 必要ないんじゃ……こいつにはのぅ」


「どういうこと? ゴーレムコアがないと、この子は動けないよ?」


 お爺ちゃんが理解不能なことを言って、剥き出しのフレームに手をかけた。

 その顔はなぜか険しい。

 この表情は、言うか言うまいかを迷っている表情だ。

 僕の両親が死んだ時も同じ顔をしていたから……僕にはわかるんだ。


「ここからはワシが説明しよう」


 しわがれていて妙に甲高い声は、僕の後ろから聞こえてきた。

 誰かと思い後ろを振り向いても誰もいない。

 食いしん坊しか見当たらないのだ。


「ここじゃ、ここじゃ、どこを見ておる?」


 その声の主は……食いしん坊が持っていた、灰色の奇妙な果実からだった。

 相も変わらず、おかしな果実を呼び寄せるものだね。


「ワシの名はドクター・モモ。

 この強化骨格……いや、この『ゴーレムドレス』は、

 ワシとドゥカンとで開発したものじゃ」


「ゴーレムドレス?」


 不気味に笑う灰色の奇妙な果実。

 はた目から見れば異常な光景だけど、

 桃先輩で慣れてしまった僕らにとっては普通の光景だ。

 慣れって怖いものだねぇ。


「左様、こいつは普通のゴーレムとは違う。

 ふぇっふぇっふぇっ、機動力、運動性、反応速度、

 どれをとっても既存のゴーレムでは敵わないほどの性能じゃて。

 しかも動力源の魔力が高ければ高いほど、

 その性能は限界値まで高まってゆくのじゃ! ふひゃひゃひゃひゃ!!」


「もったいぶらないで、そろそろ動力源が何か教えて欲しいねぇ……」


 さっきから気になっていた、肝心の動力源の話がいまだに出てこない。

 性能云々は後でいいから早く教えて欲しい。


「まったく、若い者は結果を急ぎ過ぎていかんのう。……まぁ。いいわい。

 動力源は……プルルちゃん、おまえさんじゃ」


「ドクター、直球過ぎるじゃろう!?」


 灰色の奇妙な果実、ドクター・モモが僕を名指しで動力源と言ったのだ。

 僕は思わず未完成のフレームを見た。


 確かに人が入れるスペースがある。

 でも、かなり窮屈なスペースしかない。

 少しでも成長すれば、すぐさま入ることができなくなってしまうだろう。


「おまえさん、すぐに合わなくなると思ったじゃろ? 心配はいらん!

 新素材『ネオダマスカス合金』をフレームに使用しておるから、

 動力源に合わせて伸び縮みするのじゃよ!」


 聞いたこともない合金の名前が飛び出してきた。

 ということは、桃先輩の居るであろう異世界の製造技術を

 組み込んで作られた子なんだろうねぇ。

 これは、厳重に管理するわけだよ。


「ふぇっふぇっふぇ、この『ネオダマスカス合金』は凄いぞぉ!

 従来のダマスカス鋼は曲がりはすれども、伸び縮みはせなんだからな!

 この合金のお陰で、人の動きや可動範囲を完璧にすることができるのじゃよ」


「ふぅん……大体、仕組みはわかったよ。

 魔力を通すと伸び縮みするんだねぇ……物理ダメージを受けた場合は?」


「ほぉ、流石はドゥカンの孫じゃわい。

 基本的に制御システムが魔力を遮断して硬化状態に戻す。

 じゃが、その際ヒットストップが発生するから回避することが好ましいのう」


「そんなことより、早く動かしてみるんだぜっ!

 わくわくが止まらないんだぜぇ……」


 僕よりもせっかちな、食いしん坊の発言によって話が中断してしまった。

 それなら、僕よりも魔力の高い彼女が動かせばいいのに。

 そのことを伝えてあげよう。


「食いしん坊が動かせばいいんじゃないのかい?」


「爆発した」


「え?」


 プルプルと震える白い珍獣。

 恨めしそうな目で僕を見つめてくる。


「爆発したんだよ……跡形もなく。

 ちょっと、魔力を込めただけなのに……解せぬ」


「聖女様の膨大な魔力に、フレームと制御装置が耐えられなかったのじゃよ」


「想定外の出来事じゃが……良いデータが取れたわい。ふぇっふぇっふぇ。

 新米のゴーレムドレスはお預けじゃて」


 食いしん坊は更に震え出した。

 このままでは爆発をしかねないので、

 取り敢えずゴーレムドレスを装着してみる。

 フレームに魔力を込めて装着しやすく……。


「ふぇっ!? ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 フレームに魔力を流して装着しようとした瞬間、

 フレームが僕を取り込むように襲いかかってきた。

 僕は成す術もなくフレームに取り込まれてしまう。

 いったい、どうなっているんだろう?


 恐る恐る目を開けると、そこには心配そうな顔をしたお爺ちゃんと、

 悪い顔をした食いしん坊と灰色の果実の姿が確認できた。


「これは……?」


 僕の目の前にはバイザーらしき物が存在していた。

 これはフレームだけのゴーレムドレスに付いていた物だ。

 そこには色々な情報が表示されていた。

 これはいったい……それに、なんて高度な技術なんだろうか!?


「ふぇっふぇっふぇ、上手く着付けれたのう。

 良い子じゃよ……イシヅカは」


 えっ!? 何故、そこでイシヅカの名前が?

 まさか……このフレームの材料に使ったとでも!?

 僕の鼓動が段々と早まってくる。

 また、あんな思いはしたくない……!


「制御コンピューターを作るのが手間だったのでな。

 代わりの物はないかと探しておったのじゃが……

 素晴らしく良い物があったというわけじゃよ。

 おまけに学習もしてくれる。

 これほど制御装置に適した物はないわい」


「で、でも……それじゃあイシヅカは!」


「イシヅカは背中のコクピットにいるぞ?」


 食いしん坊が羨ましそうに僕を見つめていた。

 そして、少し拗ねたような仕草で、

 イシヅカの位置を僕に教えてくれたんだ。


「じゃあ、イシヅカは無事なんだね?」


「当然だぁ……ホビーゴーレムをバラして使うような計画なら、

 全力で爆破処理をしているところだ」


 それではフィリミシアが危なくなるから止めてほしい。

 でも……イシヅカが無事でよかった。

 僕の気持ちを察してくれたのか、

 イシヅカがバイザーに自分の映像を映し出してくれた。


 なかなかに立派なコクピットだ。

 あまり広くはないが、窮屈そうな姿勢ではないイシヅカの姿が確認できる。

 後でじっくりと観察することにしよう。

 でも、何故か大漁旗が飾ってあるがイシヅカの趣味なのだろうか?

 我が子ながら彼の趣味がわからない。


 そこで僕はふと、重大なことに気付いた。

 慌てて食いしん坊に確認を取ることにする。


「……食いしん坊。

 気になったんだけど……制御装置ってムセルを使ったの?」


「ふきゅん、そうだが?」


 どうなったのだろうか? 確か……爆発したって、聞いた記憶があるのだけど。

 怖かったけど聞くことにした。

 気になって仕方がなかったからねぇ。


「ムセルは……爆風で天井近くまで吹っ飛んだが無事だったぞ?

 その後は『ソウルヒール』で細かい傷を治した程度だ」


「少し間違っていたら大惨事じゃないか」


 イシヅカはムセルほど動けないし素早くもない。

 もし、食いしん坊みたいなことになっていたら、

 僕共々、木っ端微塵になっていたに違いない。

 そう思うと怖くなってくる。


「プルル、具合はどうじゃ?」


「うん、特に問題はないよ」


 お爺ちゃんが心配そうに僕の顔を覗いた。

 魔力を消費して動かす仕組みなので心配なのだろう。

 自慢ではないが、僕の魔力は他者より多い方だ。


「……そうか。

 プルルの魔力量なら問題はないと思っとったが……やはりか」


「何を浮かない顔をしておる。

 これでテストパイロットが決まったじゃないか。

 ようやく『GD計画』が進展するんじゃぞ? 後は『GT計画』じゃ。

 ワシらには悩むことも、立ち止まることも許されん。

 おまえさんが一番理解しておるじゃろうに」


 聞きなれない単語がまたしても飛び出した。

『GD計画』とはゴーレムドレスのことだろうけど……『GT』ってなんだろう?


「プルル、聞いてのとおりじゃ。

 このゴーレムドレスは来るべき決戦に向けて、

 ワシとドクターが協力して作り上げた禁断の兵器じゃ」


「左様、この世界の発達した魔導技術とゴーレム製造技術、

 ワシらの世界で発達している科学を融合させた、

 まったく新しいゴーレムなのじゃ」


 お爺ちゃんとドクター・モモが、ゴーレムドレスについて説明をしてきた。

 そのゴーレムドレスの、恐るべき能力を僕に話したんだ。

 ◆プルル・デュランダ◆


 人間の女性。

 ピンク色のふわふわした癖毛は背中まで伸びている。

 眠そうなたれ目、瞳は髪と同じピンク色。眉は太い。

 小さな鼻と、ふっくらとした唇。

 ゴーレム、ホビーゴーレム大好き少女。

 身長は標準的。身体能力は低い。

 武器は使用しない。弓に適性はあるが好みではないもよう。

 魔力は珍獣とキュウトちゃんの次に高い。

 両親はプルルが3歳の時に『事故』で共に他界。

 祖父に育てられている。


 一人称は「僕」

 エルティナは「食いしん坊」

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