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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
238/800

238食目 ブランナ・クイン・ハーツ

 ◆◆◆ ブランナ ◆◆◆


 わたくしは吸血鬼だ。

 闇に産まれ、夜に生き、人の血をすする月の眷属。

 

 吸血鬼は古き時代より存在しており、途方もない長い年月を過ごしてきた。

 最盛期には吸血鬼の国までもが存在していたらしい。


 しかし、吸血鬼の栄華は長くは続かなかった。

 その原因はヴァンパイアハンターではない。

 異世界から召喚されたと思われる、極悪なモンスター共の台頭によるものだ。


 その品性のない、本能のみの怪物達の対処に人々は追われ、

 我々吸血鬼は人に構われなくなってしまったのだ。


 様式美にこだわる吸血鬼達は、

 戦いに疲れ果てた人々を襲うことを良しとせず、

 次第にその数を減らしていった。


 中には人と共に、化け物を退治する者まで現れだした。

 しかし、その化け物は無駄に強かった。

 何度も戦いを挑んで、ようやく撃退できる強さだったそうだ。


 その吸血鬼達は人と手を組んで戦っているうちに、

 人との間に奇妙な絆を感じるようになった。

 糧として見ていた人と共に、

 生きてゆきたいと願うようになったのだそうだ。


「エル様……」


 わたくしはエル様が好きだ。

 彼女の満面の笑みが堪らない。


 小さな体をいっぱいに使って感情を表現するさまなど、

 愛おし過ぎて発狂しそうだ。


 その優しさが苦しい。


 最近はわたくしとの時間を作るために、無理して夜遅くまで起きている。

 眠たい目を擦りつつも、

 わたくしの話をニコニコしながら聞いてくださっているのだ。

 嬉しい反面、辛い姿のエル様を見るのは心苦しい。


 ……やはり、このままではいけない。


「お父様! わたくしはエル様のために

『デイライトウォーカー』になりますわ!」


「何っ!『デイライトウォーカー』だとっ!」


 父のブラドーが驚愕の表情を浮かべた。

 黒髪のオールバックにちょび髭が良く似合う中年の紳士で、

 私の自慢の父親であり、愛する唯一の肉親だ。


 でも……お願いだから、パンツのみで屋敷をうろつかないでほしい。

 いくら、親子二人しか住んでいないからって、それはないと思う。


 そう、この築二百三十年にもなる『おんぼろ屋敷』には、

 わたくしとお父様しか住んでいない。


 昔は下僕達がいて賑やかだったが、

 衰退してゆく私達では対価を支払えず、

 泣くなく下僕達と別れざるをえなかった……とお父様は言っていたのだが。

 私が物心ついた時には既にこの有様だったので、

 どこまで本当かはわからない。 


「ブランナ……『デイライトウォーカー』になるということが、

 どういうことだかわかって言っているのか!?」


「もちろんですわ! わたくしはエル様と共に歩んで行きたいのです!」


 弱点の多い吸血鬼の最大の弱点はやはり『日光』だろう。

 その日光を克服してしまった者が、

『デイライトウォーカー』と呼ばれるようになったのだ。


 最初に日光を克服した者は人と手を取り合い戦っていた、

 若い男の吸血鬼だったそうだ。


「エルティナ様のためだとっ!?

 じゃあ、パパもがんばっちゃおうかな?」


「お父様、最初の前振りはなんだったんですの?」


 こうして、親子揃って『デイライトウォーカー』を

 目指すことになったのだが……。




「よし、最初は『日光浴』三十秒からだ」


「お父様……いきなり、ハードルが高いのではありませんこと?」


「だって、そう書いてあるんだもん」


 私の住むおんぼろ屋敷は、

 ラングステン学校の裏山にある鬱蒼と茂った森の中にあるのだが、

 それでも日の差す場所が存在する。

 今我々親子はまさにその場所から少し離れた位置に立っていた。


 お父様が手に持っているのは、

『きみにもなれる! デイライトウォーカー』という酷く怪しげな書物だ。

 いったい、どこで手に入れたのだろうか?


「よし……いくぞ、娘よ」


「えぇ……それでは」


 私達は恐る、恐る、日光に踏み出した。


「あちゃちゃちゃちゃっ!?」


「あつ! あちちちちちちっ!?」


 しかし、結局は強い日光に体を焼かれ、慌てて日陰に退避してしまった。

 こんなの無理だ。


「うむ、流石に三十秒は無理だな。

 最初は十秒から始めよう」


「そ、そうですわね……お父様」


 段々と嫌な予感がしてきた。

 この書物は、本当に効果があることが証明されているのだろうか?


「最初は難易度が低いものから始めよう。

 ええっと……ニンニク一気食い」


「それはきっと、命にかかわりますわ。お父様」


 ……難度が低い以前に、ニンニク臭くなりたくない。


「では……川を泳いで渡る」


「わたくし達は金づちですわ」


 …………。


「では、杭を心臓に撃ち込む」


「死にますわ」


 もう確信した。

 この書物はインチキだ。

 こんなこと真面目にやってはいられない。


「まぁ、待て。続きがある。

 ええっと……以上のことは、意味がないので決してやってはいけない。

 ……だそうだ。

 はっはっは、やっちゃった」


「おバカーーーーーーー!!」


 わたくしは、お父様に猛烈なツッコミを入れたのであった。




「しくしく……娘の愛が痛い」


 膝を抱えていじけているお父様を放置し、

 わたくしは問題の書物に目を通す。


 なんてことはない。

 ふざけているのは、最初の数ページだけだ。

 しかも、最初のページに『警告』と書いてある。

 お父様はきちんと読まなさ過ぎだ。

 以降のページには詳細な情報が書かれていたのだから。


「お父様! いじけている場合ではありません!

 この書物は本物ですわ! どこで手に入れられたのですか?」


「えぇっと……それはリアンナの遺品だ」


「お母様の?」


 ならば、間違いなく本物だ。

 きっと……お母様は家族揃って、

『デイライトウォーカー』になろうと考えていたのだろう。

 あの人なら、そのような突飛もないことを計画するだろうから。

 この世を去るには、早過ぎる人だったのだ。


「さぁ、お父様! いじけている場合ではありません!

 この書物には『デイライトウォーカー』になるための方法が、

 しっかり書かれておりますわ!

 お母様の遺してくれたこの本を頼りに、

『デイライトウォーカー』になりましょう!」


「リアンナが……そうか、彼女は太陽に執着していたからな。

 ブランナ、我々で『デイライトウォーカー』になって、

 リアンナに見せてやろう」


 その日から、私達親子の挑戦が始まった。

 その苦労はエル様と、亡くなったお母様のために。

 必ずや『デイライトウォーカー』に至ってみせる。




「ブランナ……ものすっごく……きっつい」


「弱音は、滅びてからにしてくださいなっ!」


 わたくし達、吸血鬼親子の道程は果てしなく険しかった……。

 ◆ブランナ・クイン・ハーツ◆


 ヴァンパイアの女性。

 濃い金色のウェーブのかかった髪に、パッチリとした大きな目には

 赤い瞳がキラキラと輝いている。眉は短い。鼻筋も通っていて形も良い。

 間違いなく美少女と言っても過言ではない。

 が弱点である日光を防ぐため常に全身を甲冑で固めているため

 素顔を晒すことは極めて少ない。

 基本的に武器は使わない。己の怪力が武器。

 父親はいるが母は既に他界。

 珍獣の血を飲み親子共々おかしくなってしまった。

 それ以降は珍獣を主と認識するようになる。


 一人称は「わたくし」

 エルティナは「エル様」

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