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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
233/800

233食目 ザイン・ヴォルガー

 ◆◆◆ ザイン ◆◆◆


 拙者が御屋形様に仕えて、暫しの時が流れた。

 部屋には冷たい空気が充満し、吐く息が白くなっている。


 温い布団から出るのにも、かなりの労力が必要になってきた。

 これがまた、いかなる強敵よりも手強いのだから困る。


 意を決して、布団をはねのけ起き上がった。

 途端に寒さが体を包み込み、拙者の眠気を奪い去ってゆく。


 部屋の冷たい空気が『さっさと起きよ、たわけが!』

 と言っているようで、思わず苦笑してしまう。


「あいすまぬ。お陰で目が覚め申した」


 冷たい空気に礼を言い、ゆっくりと体を解す。

 この分だと、今日は雪が降りそうだ。


 そう……最近はちらほらと、小さな雪が舞い降りてきている。

 穏やかだった短い秋が、その役目を終えようとしているのだ。


「ふむ……もう、このような季節か」


「実りの秋が来た」、と子兎のようにぴょんぴょん飛び跳ねて、

 大層はしゃいでおられた御屋形様の嘆く姿が目に浮かぶ。


 ……これから、ラングステン王国に長い冬がやってくるのだ。


 冬が来て、当然困る者達もいる。

 フィリミシアの復興に携わる者達だ。


 街の復興は加速度的に上がってはいるが、まだまだ二割程度の復興である。

 それは、重要機関を優先的に修復している結果だ。


 その結果……いまだに自宅に戻れず、

 仮住まいで暮らしている一般市民達が大勢いる。

 不憫なものだ。


 拙者は寮暮らし故に困ることはないが、

 不憫な暮らしを強いられている者のことを思うと、いたたまれなくなる。


 これは御屋形様も同様のようで、

 ことあるごとに復興の様子を視察なさっておられた。

 無論、差し入れを持ってだ。


 これに対しては、ウォルガング国王も頭を悩ませておいでだ。


 子供やお年寄りを城内にて世話をして、

 丈夫な者達は仮住まいで生活してもらう案を考えておられるらしいが、

 現実的ではない、と反論が出ているそうなのだ。


 御屋形様より聞いた話なので信憑性は高いと思われる。


 さて……いつまでも物思いに耽っているわけにもいかぬ故、

 我が主を迎えに行くために支度をすることにする。


 髷を結い、身嗜みを整えて、

 拙者にはあまり似合わない学生服に身を通す。

 簡単な支度であるが、男の拙者には十分であろう。

 

「うむ、これでよし」


「お迎えか? 律儀なヤツだな、『武士道ザイン』は」


 同室にて暮らしているガイリンクードが部屋に入ってきた。

 どうやら、朝早くから鍛錬をおこなっていたようだ。

 彼は人に努力している姿を見られるのを極端に嫌う。


「おはようでござる、ガイ殿。

 これも家臣の務めなれば、苦労にも感じぬでござるよ」


「ふっ……そうか。

妖精』が舞い降りてきてるぜ、『転倒ころば』ねぇようにな」


 拙者はガイリンクードに礼を言い、

 家宝の『竜雷刀』を腰に差し部屋を出た。

 御屋形様がいらっしゃるヒーラー協会に向かうためだ。




 寮の外に出ると彼が言ったとおり、

 曇った空から小さな雪が可憐に舞い降りてきている。

 その可憐な雪を手の平で受け止めると、それは儚く溶けて消えてしまった。


 拙者はその手を見つめ……そして、固く握った。


「拙者達の一族もまた、其方らと同じく刹那に生きる者。

 雷光の如く戦場を駆け、その身が朽ちるまで、主のために力を振るう」


 今は亡き、父と母に思いを馳せる。

 人として、最後まで信念を貫き、その末に果てた父と母。

 拙者もそうありたい。


 奇跡的に巡り合えた使えるべき主。

 この歳で巡り会えたのは僥倖であった。


 主である白エルフの少女は可憐であり、

 分け隔ての無い愛情を惜しみなく分け与える傍ら、

 その正しき怒りを隠すことなく示し、

 激情に駆られることもある御方。


 故に、我が主には困難が多過ぎる。

 その優しさは多くの味方も作るが、激し過ぎる激情は多くの敵を作り出す。


 しかし、拙者がいれば、少しでも多くの困難を打ち払うことができよう。

 それが自分の命を縮める結果になっても悔いなどない。

 御屋形様を護るために、拙者はいるのだから。


「『真なる約束の子・エルティナ』……

 貴女様のためであれば、この身を捧げ申す」


 ……始祖竜の首飾り。


 それは真なる約束の証。

 御屋形様が、大いなる存在に渡された継承者の証。


 その者、『八つの誓いの魂』を宿しし時、大いなる魂は解き放たれん。

 その者に仕え、身魂を捧げよ。


 尊敬していた父の最期の言葉。

 それは言われるまでもなく『自覚』していた。


 今考えれば……拙者が御屋形様に巡り会うことは運命だったのだろう。

 拙者達の一族は……そのために存在してきたのだから。

 拙者は、そのために産まれてきたのだから。


 小雪が舞う道を拙者は歩き出した。

 もう、後戻りなどできようはずがない。

 拙者は行き着く先を見つけてしまったのだから。


 後は行くのみ。

 彼女と共に、雷光の如く……ただ、ただ前へと。


 真なる約束が果たされる……その日まで。

 ◆ザイン・ヴォルガー◆


 人間の男性。

 東南にある小さな島国『イズルヒ』の出身。

 黒髪のざんばら頭に『まげ』。常に口はへの字。

 黒い瞳。紫色の武者鎧を身に着ける。

 愛刀の名は『竜雷刀』。家宝。

 育ての親は既に他界。


 一人称は『拙者』

 エルティナは『御屋形様』

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