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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
223/800

223食目 キュウト・ナイリ

 ◆◆◆


「ふきゅん、あの後ろ姿は……?」


 学校の通路の曲がり角にて、

 こそこそと奥の様子を窺っていたクラスメイトを発見した。


「おいぃ……キュウト、何をこそこそしているんだぁ?」


「きゅおんっ!? な、なんだ……エルティナか。

 もう、びっくりさせるなよなぁ」


 何を警戒しているのだろうか?

 彼は小さな鳴き声を上げて驚いていた。


「今先輩に狙われてるんだよ。

 あんまり騒ぐと、見つかっちまうから静かにしてくれ」


 そういうと再びこっそりと奥を窺った。

 俺もキュウトに倣いこっそりと奥を窺うと、

 恐ろしく険しい表情の上級生達が複数うろついていた。

 彼を探しているのだろう。


「あれはマジだな」


「だろう? 今日の先輩達はマジなんだよ」


 そう言って、銀色の毛並みのもふもふ尻尾をふにゃりとさせるキュウト。


 彼の名はキュウト・ナイリ。

 狐の獣人で人間寄りの顔だ。

 女の子のように見えるが、れっきとした男である。


 つり目には青い瞳が収まっており、長く細い眉と、

 サクランボのような唇が彼を一層、男らしさからかけ離れたものとしている。


 狐の獣人はこの世界では数が少なく希少な種族だ。

 更には銀色の毛並みを持ち、人間寄りの顔となればこと尚更である。


「おまえら! 必ず探し出せ!」


 大柄な体の上級生が他の生徒に命令した。

 あのグループのリーダーなのだろう。

 彼の言葉にキュウトの顔から血が引いていった。

 それは上級生の持っていた、ある物が目に入ったからだろう。


「そして……キュウトちゃんに、この制服を着てもらうのだぁぁぁぁ!」


 彼が持っていたのは、この学校の女子生徒の服であった。

 その服を見た他の生徒達が雄叫びを上げる。


 あ……女子の上級生も加わった。


「勘弁してくれよぉ……」


 キュウトはその光景に涙目である。

 彼らは決して『男の娘』に興味があるわけではない。

 彼らは善意でキュウトに、あの制服を着させようとしているのだ。


 それはキュウトが抱えるある問題が原因である。

 彼は厄介な先天性の異常を持って生まれてきた。


 それは……魔力を体内から放出すると女になってしまう体質だ。


 もう本当に魔力を放出すると『ぼんっ』と煙が出て、

 あっという間に女になっているのだ。

 これには、俺達も開いた口が塞がらなかった。


 魔力を放出するということは魔導器具を使うとNG。

 攻撃魔法なんてもってのほか。

 テレポーターに乗っても、一定確率で反応して『ぼんっ』だ。

 魔法抵抗が発生してもダメらしいのだ。

 魔力が放出されてしまうからな。


 男に戻るには『気』を体に巡らせればいいのだが、

 キュウトは『気』の扱いがド下手である。

 この間も男に戻るのに一時間もかかっていた。


「しょぼい攻撃魔法に当たってもアウトだもんな。

『シャイニングボール』か『ダークボール』辺りを撃ってくるか」


 キュウトの運動能力は低くはない。

 ただし、それは男の状態であるならだ。

 女の状態のキュウトは運動能力が下がってしまう代わりに、

 強力な魔力と特殊能力を得ることとなる。


 この世界では多少の運動能力を失っても、魔力があれば苦労することはない。

 だが今の彼の生活は、原始的なレベルまで退化してしまっている。

 男としてこの世界で生きるには、

 黒エルフと同じ生活をしなくてはいけないのだ。


「なぁ、キュウト。

 おまえはやっぱり元々は女なんじゃないのかな?」


 普通に考えれば、苦手な『気』を使ってまで男に戻るメリットは少ない。

 女であれば魔導器具を使うのに制限はないし、

 便利な日常魔法も使いたい放題だ。


「違う~! 俺は男だっ!!」


「ふきゅん! そんな大声を出したら……」


 彼の声は男の声とはかけ離れている。

 甲高くて女性的な声だ。


 男の状態でこの有様なのだから、

 やはり元々は女として生まれたんじゃないのかな?(名推理)


「いたぞ~! あそこだ~!」


 言わんこっちゃない。

 キュウトの声で居場所がばれてしまった。

 上級生達が一斉にこちらに走ってきた。


「きゅおんっ!? ばれたっ!!」


 彼は急ぎ逃げようとするも、学生服を持った上級生に退路を塞がれていた。

 いつの間に、ここまで移動したのだろうか?


「こ、こんにちは……ディークラッド先輩。

 俺は用事があるので、これで失礼します」


「……知らなかったのか? 風紀委員長からは逃げられない」


 あ、どこかで見たことあると思ったら風紀会長だった。

 女の状態のキュウトが男の制服を着ているのは問題がある、

 とかなんとか言っていたってフォクベルトが言ってたな。


 うちの風紀委員はフォクベルトである。

 生真面目だから選ばれたのだが、

 この調子では色々と兼任させられそうである。


 そう言っている間にもキュウトは上級生に取り囲まれ、

 一斉に『シャイニングボール』の一斉攻撃を受けていた。


「きゅお~~~~~~ん!?」


 彼の断末魔と共に『ぼんっ』という音と煙が上がった。

 光と煙が晴れた後……そこには狐耳の少女、

 キュウトちゃんがへたり込んでいた。


 女になったキュウトは、まつ毛が長くなり目が大きくなっている。

 そして、体は小さくなり女性特有のふっくらとした丸みを帯びていた。

 これはもう、将来が楽しみな美少女である。


「うむ……後は頼む」


「お任せを……さぁ~キュウトちゃん。

 お姉さんが着替えさせてあげますよ~?」


 危険な目をした上級生のお姉様方の魔の手が、キュウトちゃんに迫る!

 いいぞ! もっとやれ! ふっきゅんきゅんきゅん!


 彼女らの迫力に腰が抜けたのか、

 キュウトちゃんは動けずにぷるぷると震えるのみであった。


 数秒後……女子生徒服に着替えさせられたキュウトちゃんの姿があった。

 どこからどうみても完璧な女子生徒だと感心するが、

 まったくもって、どこもおかしくはないと断言する。


「お、俺の男が……また死んだ……げふっ」


「慣れとかないと後がきついぞ?」


 そう、俺が言うのだから間違いない。

 俺はきみの先輩なのだよ。


 ……あれ? 勝手に涙が……?


 そこには白目になって痙攣する、

 奇妙な二匹の珍獣ができ上がっていたのであった。


 ち~ん。

 ◆キュウト・ナイリ◆


 狐の獣人の男性。人間寄りの顔。

 イズルヒからやってきた留学生。

 銀色の髪は腰にまで届き、ピンと立った大きな狐の耳が特徴的。

 つり目には青い瞳。長く細い眉。サクランボのような唇。

 もふもふの尻尾の触り心地は絶品(珍獣談)。中肉中背。


 ◆キュウトちゃん◆


 狐の獣人の女性。人間寄りの顔。

 魔力を放出してしまい女性になってしまったキュウト。

 男の時よりも女性らしい顔つきになり、身体も丸みを帯びている。

 この状態になると運動能力は落ちるが、

 それを補って有り余る莫大な魔力と、妖術などの反則スキルが解禁される。

 男に戻るには『気』を全身に行き渡らせればいいのだが、

 キュウトは気を練ることが苦手で、最低でも一時間はかかってしまう。

 鳴き声は「きゅおん」。


 一人称は「俺」

 エルティナは「エルティナ」


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