222食目 ウルジェ・ルレイズ・クラリマット
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午前中の授業が終わり、楽しい昼食の時間がやってきた。
今日はよく晴れており、俺の心をウキウキさせた。
こんな時はテラスで、お日様の光を浴びながら昼食を摂るに限る。
「……いい天気ね、エル」
「ふきゅん! そうだな、ヒーちゃん!」
俺達は日当りのいい場所に陣取り食事を摂り始めた。
相変わらずライオットは骨付き肉の丸焼きだ。
そしてユウユウ閣下も分厚いサーロインステーキだ。
この肉食獣共めっ!
俺は昼食に揚げパンサンドをチョイスした。
具はレタス、玉ねぎ、アボカド、スライスされたスモークサーモンだ。
ドレッシングにはブルーチーズを溶かして調理した物を加えてあるそうな。
「いただきます!」
俺は揚げパンサンドに齧り付いた。
ザクッとした食感と心地よい音が俺を楽しませてくれる。
そして、なによりも芳ばしい揚げパンの香りが、俺の鼻腔を喜ばせた。
これは堪らない。俺の期待は膨らむばかりだ。
咀嚼してゆくとアボカドのクリーミーさ、玉ねぎの辛み、
スモークサーモンの燻製された香りと旨味が混然一体となる。
そこに少し癖があるブルーチーズのドレッシングが具達を纏め上げるのだ。
う~む、揚げパンを使っただけでこうも変化するのか。
他の具材を組み合わせても素晴らしいものになりそうだ。
ブッチョラビのローストを挟めて、玉ねぎ、トマト、ブルーチーズ、
といったシンプルな組み合わせもいいかもしれない。
ブルーチーズがいい味を出してくれることだろう。
ブルーチーズが苦手な人はケチャップでも、
タルタルソースでもいいかもしれない。
ふっきゅん! これが揚げパンの可能性というヤツか!
「や~エルティナさん~ちょ~といいかな~?」
「ふっきゅん? どうしたウルジェ?」
俺が揚げパンの可能性について考察していると、
一人の少女に声をかけられた。
この間延びした話し方をする少女の名は、
ウルジェ・ルレイズ・クラリマット。
ガイリンクードと同じく、ドロバンス帝国の留学生だ。
彼女はエメラルドグリーンの長い髪を、二つのお下げにして纏めている。
眉は薄く短い。そして少し小太りで眼鏡をかけていた。
身長はクラスの中では低い方だ。
彼女がかけている分厚い眼鏡は、牛乳瓶の底のようになっている。
その下には垂れ目があり、綺麗な銀色の瞳が収まっているが、
分厚い眼鏡に阻まれて見る機会は殆どない。
「うん~お手伝いを~お願い~できないかな~と~?」
「んぐ、んぐ……ふきゅん! いいぞぉ……何を手伝えばいいんだ?」
彼女は牛乳を一気飲みした俺に、白い筒のような物を渡してきた。
大きさ的に一升瓶くらいの大きさで、重さは一キロくらいあるだろうか?
結構重い……ぷるぷる。
「うわ、また変な物作ったな」
俺とライオットがそれを興味深く観察していると、
ウルジェがその筒に魔力を注入してくれと頼んできたので、
思いっきり魔力を流すと白い筒がどんどん赤く染まっていった。
「あら、綺麗な赤色ね。
クスクス……血の色みたいで好きよ?」
ユウユウ閣下の物騒な発言に、俺は逆に顔が白くなっていった。
しかしこれ、魔力をかなり持っていかれるな。
「うん~うん~いい~ですね~取り敢えずは~成功です~」
「ウルジェ、これって、なんなんだぜ?」
彼女の説明によると、これは魔力を貯蓄して置くためのタンクだそうだ。
簡単に考えると『乾電池』みたいな物なのだろう。
「う~ふふ~野望に~一歩~前進です~」
彼女の野望、それは家庭用の飛空艇を開発することだ。
現在は軍事用の飛空艇が各国に数隻ある程度。
しかも、それらは遺跡から発掘されて奇跡的に稼働した物であり、
壊れてしまったら今の技術では修復不可能というものであった。
「ウルジェはどうして飛空艇を作りたいんだ?」
俺は前々から気になっていたことを彼女に聞いてみると、
返ってきた返答は至ってシンプルであった。
『空の景色を楽しみたい』
それが彼女が飛空艇を作る理由である。
男よりも男らしいロマンではないか。
「オフォール君に~乗る手も~ありますが~、
やっぱり~自分の手で~作った物で~堪能したいんですよね~。
いつの日に~なるか~わかりませんけどね~」
「ウルジェの野望も、オフォールが飛べる日並みに遠いもんなぁ」
今彼女が着手している部分は飛空艇の動力炉……つまりエンジンだ。
最も肝心要の部分である。
ここをクリアーすると、更に難度が高い重力制御装置を作ると言っていた。
この二つは現在の技術では制作が難しいとされている。
フウタならきっと作ってしまうだろう。
でも彼に作れるかどうか聞くと……
「結論から言って作れます。
しかし、この技術は争いを呼びます。
戦力バランスが乱れてしまうんですよ。
ですから私は『飛空艇』を作りません」
ときっぱり作らないと言ってしまったのだ。
でも、『作るな』とは言わなかった。
彼は他人の夢を邪魔する権利がないことを自覚していたからだ。
「さ~これで~動力炉が完成です~」
「ふぁっ!? もう完成したのか!」
まさかの完成宣言である。
早過ぎる、制作に取りかかったのが去年の秋だ。
ひょっとしてウルジェは天才なのではないだろうか?
その割に筆記テストの成績は良くないのだが。
好きな分野に特化した天才なのかもしれない。
「う~ふふ~次も~ご協力を~お願いいたしますね~?」
そう言って赤く染まった筒を抱えて走り去っていくウルジェ。
いかにも理系で運動神経が鈍そうであるが、
彼女はバリバリの近接型の物理戦士である。
鎖に繋がれた棘付き鉄球をぶんぶん振り回し、敵を叩き潰す様からは
『空の景色を楽しみたい』という発想が出てくるとは信じがたい。
『空の景色を血で染めたい』という発想なら出てくると思うのだが。
「これもう、わっかんねぇなぁ……」(遠い目)
ちなみにウルジェは、ユウユウ閣下の相棒を務めている。
そのうち『双璧の緑の悪魔』とかコンビ名が付きそうである。
なにそれこわい。
俺の頭の中でユウユウ閣下と鉄球を持ったウルジェが「かーかっかっか!」、
「ふぉっふぉっふぉ!」と笑っている姿がエンドレスで流れた。
そして俺はそっと、考えることを放棄したのであった(白目痙攣)。
◆ウルジェ・ルレイズ・クラリマット◆
人間の女性。
ドロバンス帝国からやってきた留学生。
エメラルドグリーンの長い髪を、二つのお下げにして纏めている。
眉は薄く短い。少し小太りで身長は低い。眼鏡着用者。
眼鏡は分厚く牛乳瓶の底のようになっている。
垂れ目。瞳の色は銀色。
一人称は「うち」
エルティナは「エルティナさん」