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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
222/800

222食目 ウルジェ・ルレイズ・クラリマット

 ◆◆◆


 午前中の授業が終わり、楽しい昼食の時間がやってきた。


 今日はよく晴れており、俺の心をウキウキさせた。

 こんな時はテラスで、お日様の光を浴びながら昼食を摂るに限る。


「……いい天気ね、エル」


「ふきゅん! そうだな、ヒーちゃん!」


 俺達は日当りのいい場所に陣取り食事を摂り始めた。

 相変わらずライオットは骨付き肉の丸焼きだ。

 そしてユウユウ閣下も分厚いサーロインステーキだ。

 この肉食獣共めっ!


 俺は昼食に揚げパンサンドをチョイスした。

 具はレタス、玉ねぎ、アボカド、スライスされたスモークサーモンだ。

 ドレッシングにはブルーチーズを溶かして調理した物を加えてあるそうな。


「いただきます!」


 俺は揚げパンサンドに齧り付いた。

 ザクッとした食感と心地よい音が俺を楽しませてくれる。

 そして、なによりも芳ばしい揚げパンの香りが、俺の鼻腔を喜ばせた。

 これは堪らない。俺の期待は膨らむばかりだ。


 咀嚼してゆくとアボカドのクリーミーさ、玉ねぎの辛み、

 スモークサーモンの燻製された香りと旨味が混然一体となる。

 そこに少し癖があるブルーチーズのドレッシングが具達を纏め上げるのだ。

 う~む、揚げパンを使っただけでこうも変化するのか。


 他の具材を組み合わせても素晴らしいものになりそうだ。

 ブッチョラビのローストを挟めて、玉ねぎ、トマト、ブルーチーズ、

 といったシンプルな組み合わせもいいかもしれない。

 ブルーチーズがいい味を出してくれることだろう。


 ブルーチーズが苦手な人はケチャップでも、

 タルタルソースでもいいかもしれない。

 ふっきゅん! これが揚げパンの可能性というヤツか!

 

「や~エルティナさん~ちょ~といいかな~?」


「ふっきゅん? どうしたウルジェ?」


 俺が揚げパンの可能性について考察していると、

 一人の少女に声をかけられた。

 この間延びした話し方をする少女の名は、

 ウルジェ・ルレイズ・クラリマット。

 ガイリンクードと同じく、ドロバンス帝国の留学生だ。


 彼女はエメラルドグリーンの長い髪を、二つのお下げにして纏めている。

 眉は薄く短い。そして少し小太りで眼鏡をかけていた。

 身長はクラスの中では低い方だ。


 彼女がかけている分厚い眼鏡は、牛乳瓶の底のようになっている。

 その下には垂れ目があり、綺麗な銀色の瞳が収まっているが、

 分厚い眼鏡に阻まれて見る機会は殆どない。


「うん~お手伝いを~お願い~できないかな~と~?」


「んぐ、んぐ……ふきゅん! いいぞぉ……何を手伝えばいいんだ?」


 彼女は牛乳を一気飲みした俺に、白い筒のような物を渡してきた。

 大きさ的に一升瓶くらいの大きさで、重さは一キロくらいあるだろうか?


 結構重い……ぷるぷる。


「うわ、また変な物作ったな」


 俺とライオットがそれを興味深く観察していると、

 ウルジェがその筒に魔力を注入してくれと頼んできたので、

 思いっきり魔力を流すと白い筒がどんどん赤く染まっていった。


「あら、綺麗な赤色ね。

 クスクス……血の色みたいで好きよ?」


 ユウユウ閣下の物騒な発言に、俺は逆に顔が白くなっていった。

 しかしこれ、魔力をかなり持っていかれるな。


「うん~うん~いい~ですね~取り敢えずは~成功です~」


「ウルジェ、これって、なんなんだぜ?」


 彼女の説明によると、これは魔力を貯蓄して置くためのタンクだそうだ。

 簡単に考えると『乾電池』みたいな物なのだろう。


「う~ふふ~野望に~一歩~前進です~」


 彼女の野望、それは家庭用の飛空艇を開発することだ。

 現在は軍事用の飛空艇が各国に数隻ある程度。

 しかも、それらは遺跡から発掘されて奇跡的に稼働した物であり、

 壊れてしまったら今の技術では修復不可能というものであった。


「ウルジェはどうして飛空艇を作りたいんだ?」


 俺は前々から気になっていたことを彼女に聞いてみると、

 返ってきた返答は至ってシンプルであった。


『空の景色を楽しみたい』


 それが彼女が飛空艇を作る理由である。

 男よりも男らしいロマンではないか。


「オフォール君に~乗る手も~ありますが~、

 やっぱり~自分の手で~作った物で~堪能したいんですよね~。

 いつの日に~なるか~わかりませんけどね~」


「ウルジェの野望も、オフォールが飛べる日並みに遠いもんなぁ」


 今彼女が着手している部分は飛空艇の動力炉……つまりエンジンだ。

 最も肝心要の部分である。

 ここをクリアーすると、更に難度が高い重力制御装置を作ると言っていた。

 この二つは現在の技術では制作が難しいとされている。


 フウタならきっと作ってしまうだろう。

 でも彼に作れるかどうか聞くと……


「結論から言って作れます。

 しかし、この技術は争いを呼びます。

 戦力バランスが乱れてしまうんですよ。

 ですから私は『飛空艇』を作りません」


 ときっぱり作らないと言ってしまったのだ。

 でも、『作るな』とは言わなかった。

 彼は他人の夢を邪魔する権利がないことを自覚していたからだ。


「さ~これで~動力炉が完成です~」


「ふぁっ!? もう完成したのか!」


 まさかの完成宣言である。 

 早過ぎる、制作に取りかかったのが去年の秋だ。

 ひょっとしてウルジェは天才なのではないだろうか?


 その割に筆記テストの成績は良くないのだが。

 好きな分野に特化した天才なのかもしれない。


「う~ふふ~次も~ご協力を~お願いいたしますね~?」


 そう言って赤く染まった筒を抱えて走り去っていくウルジェ。

 いかにも理系で運動神経が鈍そうであるが、

 彼女はバリバリの近接型の物理戦士である。


 鎖に繋がれた棘付き鉄球をぶんぶん振り回し、敵を叩き潰す様からは

『空の景色を楽しみたい』という発想が出てくるとは信じがたい。

『空の景色を血で染めたい』という発想なら出てくると思うのだが。


「これもう、わっかんねぇなぁ……」(遠い目)


 ちなみにウルジェは、ユウユウ閣下の相棒を務めている。

 そのうち『双璧ツイングリーン悪魔デーモンズ』とかコンビ名が付きそうである。

 なにそれこわい。


 俺の頭の中でユウユウ閣下と鉄球を持ったウルジェが「かーかっかっか!」、

「ふぉっふぉっふぉ!」と笑っている姿がエンドレスで流れた。


 そして俺はそっと、考えることを放棄したのであった(白目痙攣)。

 ◆ウルジェ・ルレイズ・クラリマット◆


 人間の女性。

 ドロバンス帝国からやってきた留学生。

 エメラルドグリーンの長い髪を、二つのお下げにして纏めている。

 眉は薄く短い。少し小太りで身長は低い。眼鏡着用者。

 眼鏡は分厚く牛乳瓶の底のようになっている。

 垂れ目。瞳の色は銀色。


 一人称は「うち」

 エルティナは「エルティナさん」

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