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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
221/800

221食目 ガンズロック・ドルトン

 ◆◆◆


「おうっ! 釘五百本しあがったぞぉ! リック!」


「おっ、ありがてぇ! サンキュー、ガンズロック!」


 でき上がった釘をリックに手渡す。

 最近は武器を作った記憶がない。


 仕方がないこととはいえ、このままでは腕が鈍っちまう。

 せっかく上達してきたっていうのに、釘ばかり作っていたんじゃあな……。


 おまけに店番もしなくちゃならない。

 親父は国から大量の武器を注文されちまった。

 今は店の工房で武器の製造にかかりっきりだ。


 よって、武器の修理は俺の担当になっている。

 店番をしながらカウンターの奥にある簡易作業場で、

 修理をしながら客を待つって寸法だ。


 自慢じゃないが……うちの店は大きい。

 フィリミシアでも一番だと豪語できる。

 従業員も五十人を超える大所帯だ。


 そのような大人数がいるにもかかわらず店番は俺だけだ。

 理由は先ほど言ったとおり。

 従業員全員で武器を作っている。


 このような事態は店の創業以来、初めてのことだそうだ。

 親父の作る武器は安くはない。

 貴重な鉱石を混ぜ合わせて作る、特殊な合金を使って製造するからだ。


 その合金で作られた武器は非常に切れ味がよく、しかも頑丈なので、

 わざわざ遠くの国から買いに来る常連さんも少なくない。


 その武器を大量に作っているのだ。

 親父の性格上、手抜きは一切しない。

 一つ作り上げるのに三日はかかる。

 それを従業員全員で代わるがわる休みながら、昼夜問わず作業しているのだ。


 並みの精神と覚悟じゃ務まらない。

 だが親父は辛い顔など見せずに言いきった。


「はんっ! 職人冥利に尽きるってぇもんよぉ!

 くたばるなら布団の上じゃぁなく、鎚を持ったままくたばりてぇからなぁ!」


 職人バカとは、親父のためにあるような言葉だ。

 俺もいつかは親父のようになりたいもんだ。


「らっしゃい! ルドルフさん!」


「やぁ、ガンズロック君。

 私の剣の修理を頼みたいのですが?」


 彼の武器は親父が作った物だったが、

 カサレイムでの戦闘でボロボロになっていた。


 それは戦闘の激しさを物語っていたものであったが、

 修理するには損傷が激しく、

 これならば新しく買い替えた方がいいと提案したのだが……。


「この武器には沢山の想いが詰まっているのです。

 なんとか修理できないでしょうか?」


 親父はその頃、既に店の連中と工房に籠っていた。

 修理できるのは俺だけだ。

 彼のその想いに俺は奮起せざるをえなかった。


 そこまで言われちゃあ、直さなくては職人の名が廃る。

 まだ未熟者だが、この依頼を腕を理由に断るなんてできるわけがない。 

 俺はこの依頼を受ける意思を固めたのであった。




「ってぇわけだぁ。力ぁ貸してくれねぇか?」


 俺は学校にてクラスメイトである、ゴブリンのゴードンに協力を要請した。

 細工職人を目指すゴードンはそれ以外にも魔石の研究や、

 術式の研究といった、さまざまな分野にも手を伸ばしているので、

 俺には足りない部分を補ってくれると踏んだのだ。


「けけけっ、なんだか面白そうなことに手を出しているな?

 いいぜぇ……協力してやるよ!」


 思惑どおり、彼は二つ返事で了承してくれた。

 だが、予想外のことは起こるものだ。


「ふっきゅんきゅんきゅん! 話は聞かせてもらった!

 ルドルフさんの剣を直すのであれば、俺も協力しよう!」


 白エルフの少女、エルティナが協力を申し出てきた。

 だが、エルは戦力外だということが確定している。

 彼女ができることといえば……っと、そういえばあるじゃねぇか。


「おう、ありがてぇ! 修理の間ぁ店番たのまぁ!」


「ふきゅん!? 店番……」


 エルは修理に携わる気が満々だったようだ。

 垂れている大きな耳が更に垂れて、元気がなくなっているように見える。


「力仕事に女はむりってぇもんだぁ」


「あら……それじゃあ、私は無理なのかしら?」


 俺達の話を聞いていたユウユウが話に入ってきた。

 彼女の腕力はこの学校どころか、フィリミシアの町全体に知れ渡っている。


「あほぉう、おめぇさんは力があり過ぎんだよ」


「クスクス……それは残念ね?」


 最初から、からかいに来ていたのはわかっていた。

 彼女自身も細かい力の調節は無理だと自覚しているはずだ。


 きっぱりと言いきった俺に満足げに笑みを浮かべると、

 花の香りを残してユウユウは立ち去っていった。


「ユウユウにそんなこと言えるのは、おまえくらいなもんだぜ」


「ふん、おめぇらがビビり過ぎなんだよぉ」


 ゴードンは俺とユウユウのやり取りにひやひやしていたと言うが、

 逆に俺はゴードンに「同じクラスの仲間にビクビクしてどうするんだ」

 と一喝しておいた。


「そうだぞぉゴードン。

 仮に怒っても、優しく『デコピン』されるだけだぁ……」


「それって、結局死ぬってことじゃねぇか……」


 そう言って震える二人に、俺はため息を吐くことしかできなかった。




 放課後、俺達は早速俺の実家『武器屋ドルトン』に向かい、

 ルドルフさんの剣を修理することにした。


「ふきゅん! らっしゃい! いい武器揃ってやすぜぇ! げへへ!」


「あはは! ぶぶっき! みるっみるる! あははは!」


「あえぇぇぇぇっ!? 聖女様がなんで店頭に立っているんですか!」


 店に入って来た客が驚きの声を上げている。

 考えてみれば、エルはこの国の聖女だったことを失念していた。

 帰り際にエルにくっついてきたアルアに、

 接客を任せた方がいいかもしれない。


「まぁ……なんとかなるか。

 悪いなぁブルトン、休日に来てもらってよぉ」


「……気にするな」


 オークのブルトンが手伝ってくれることになった。

 というのも、

 ゴードンはいつもマフティとブルトンと三人で行動しているため、

 一人に頼むと情報がすぐさま三人に伝わる。


「そうそう、気にすんなって! ほらっ、どうだ?」


 兎の獣人のマフティが研ぎ終わったロングソードを渡してくる。

 研ぎ終わった刃は、欠けた部分がなく切れ味も申し分がなかった。


「てぇした腕前だぜ! うちにほしぃくれぇだぁ!」


「へへっ、毎日ナイフを研いでいるうちに、腕前が上がったみたいだぜ」


 研ぎだけなら俺よりも腕がいい。

 これは俺も、うかうかしていられないな。


「よぉし……始めるかぁ!」


 俺達は剣の修理を始めた。

 まずは合金を作るのだが、

 ここでゴードンが合金に青い粉のような物を投入した。


「これは屑魔石を粉末状にした物さ。

 これで普通にでき上がる合金よりも、硬度と粘りが上がるんだぜぇ」


「どこでぇ、そんな情報を仕入れたんだぁ?」


 ゴードンは実際にうちのナイフを溶かして合金に戻し、

 実験を行っていたことを話してくれた。

 マフティの使う短剣のための新たな合金を作っていたそうだ。

 それをこの修理で試そうとしているらしい。


 でき上がった合金を、型にはめた剣の上に流し馴染ませる。

 少し置いて固まったら、今度は俺とブルトンとで合金を叩き、

 余計な不純物を取り除く。

 ここからは体力勝負だ。


「ふきゅん、武器に祝福を? いいぞぉ……今日は大サービスだぁ!」


「あはは! それ、だいきんかっか、じゅうにまいい! くれっくれ!

 まいまいどあるり! あははは!」


 エル達も上手く接客ができているようだ。

 アルアがいい働きをしてくれている。

 カサレイムでの経験が生きているのだろう。




「……どうだ? ガンズロック」


「ふぅ、いいだろぉ。

 マフティ、仕上げをたのまぁ!」


 俺とブルトンの作業が終わったのは、店の営業が終わると同時だった。

 それまでは、マフティも店の手伝いをしていた。


「やっとか! 待ってたんだぜ?」


 手をワキワキさせて作業場に飛び込んできたマフティは、

 早速打ち終えた剣を手に取り研ぎ始める。

 彼は将来、良い研ぎ師になるかもしれない。


「ふっきゅん! ガンズロックにブルトン、ご苦労さん。

 ほい、今日の売り上げだぁ」


 エルとアルア、二人がかりで渡された売り上げはずしりと重たかった。

 これだけの重さだと、相当店の商品が売れたに違いない。


「店の商品の半分くらいがなくなったぞ。

 後で補充しとくんだぁ」


「売れ過ぎだ。

 うちの在庫も、そこまで置いちゃあいねぇぞ」


 想像を遥かに超える売り上げに、俺は頭を抱えるハメになった。

 うちの商品は全て自作の商品だ。

 他の職人達から買い取っての販売は一切していない。

 よって売れ過ぎても、品切れが起こって困ったことになるのだ。


 その後、マフティが剣を研ぎ終えたのは午後九時頃。

 エルとアルアは先に帰宅させた。

 女二人を夜遅くまで働かせるわけにはいかないからだ。


「ふぅ……どうよ?」


「……いぃできだぁ! ゴードン、仕上げに入る!」


 マフティがいい仕事をしてくれた。

 まるで芸術品のような研ぎっぷりに惚れてしまいそうだ。

 俺がマフティを褒め千切ると「よせよぅ」と顔を赤くして俯いてしまった。


「けけけっ、予想よりもいい感じだな!

 これならマフティのナイフに応用できるな」


 俺とゴードンで仕上げに入った。

 ひび割れていた柄の宝石を魔石に代える。

 これはゴードンの作った『ライトグラビティ』が付与された魔石だ。

 グリップには滑りにくいヒルボアの皮を巻く。

 最後にゴードンが装飾を入れて全作業が終了した。


「ふぅぅぅ……終わったな」


 修理が終わったのは午後十一時。

 俺達は四人がかりで半日作業だったが、

 親父ならこれを三時間でやってのける。

 特殊なスキルを使っているらしいのだが、俺はいまだに習得できていない。


 修理が終わったルドルフさんの剣は、

 惚れぼれするような剣に生まれ変わった。

 これなら彼も満足してもらえるだろう。


 後日、剣を受け取りに来たルドルフさんは、

 生まれ変わった剣を手に取り、いたく感激していた。

 この時の彼の表情を、俺は生涯忘れないだろう。


 なんといっても、俺達チームが初めて手掛けた剣の所有者なのだから。

◆ガンズロック・ドルトン◆


 ドワーフの男性。

 六歳にして、既に髭が生えているドワーフの子供。

 短く刈り込んだ髪の色は茶色。太い眉におおきな鼻。瞳の色は黒。


 一人称は「俺」

 エルティナは「エル」

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