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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第四章 穏やかなる日々
217/800

217食目 オフォール・ブルースカイ

 ◆◆◆


 学校のグラウンドにて、俺は澄み渡る大空を見つめていた。

 青い空を流れる雲が気持ちよさげに瞳に映っている。


「いい風だな……」


 俺の赤い髪の毛が風に吹かれなびいていた。

 今日は体調もいい、これならば……あの青空にも届くかもしれない。


「いいぞ! オフォール!」


 俺の背中に乗る白エルフの少女の掛け声を合図に、俺は力強く大地を蹴る。

 徐々に速度を上げてゆき、遂に自己の持つ最高速度に達した。


「いくぞ! エルティナ!!」


 そして俺は、両翼に渾身の力を込めて羽ばたいた。

 ふわりと体が浮く感じがする。


「やったかっ!?」


 エルティナのそのセリフはフラグであった。

 俺は宙でピタリと止まり、慣性を無視するように垂直に落ちた。


「ぐえっ!?」


「ふきゅん!?」


 俺の背中に乗っていた彼女が、コロコロと転がっていく。

 これで何度目の失敗であろうか?


「くっ!? 失敗か! だが、たった二千七百十五回の失敗だ。

 まだ慌てる時間じゃない」


 エルティナは悔しそうに失敗の数を言った。

 彼女は俺の失敗の回数を正確に覚えていたのだ。


 俺は顔を両翼で覆って泣いた。




 俺の名はオフォール・ブルースカイ。

 鷲の鳥人だ。


 俺には……ある悩みがあった。

 鷲の鳥人にもかかわらず、空を飛ぶことができないのだ。

 その理由がまったくわからない。


 別に体のどこかが悪いわけではない。

 風の精霊に嫌われているわけでもない。

 飛び方だって練習した。

 フォームだって問題ないって父さんに言われた。


 ……でも、俺は飛べなかった。

 何がいけないのか、まったくわからない。

 俺と同年代の仲間達はもう自由に空を飛びまわっている。

 飛べないのは俺だけだった。


 空を飛びたい! その思いは今だって持っている。

 でも、こうも失敗続きだと人は諦めることを選ぶ場合もある。

 かつての俺がそうだった。


 この王立ラングステン学校に入学するまでに飛べなかったら、

 もう飛ぶことを諦めようと……必死になって練習した。

 ありとあらゆる手を尽くした。


 だけど、その強い想いも空しく俺は飛ぶことが叶わなかった。

 女神様に願懸けだってしたのにダメだった。

 目の前が真っ暗になったよ。


 あぁ……泣いたさ。

 何故、俺は飛べないんだって。

 父さんや母さんに八つ当たりもした。

 そして、俺は飛ぶことを遂に諦めてしまった。

 夢を捨てちまったんだ。


 それ以来、俺は空を見なくなった。

 もう風の声も聞こえない。

 ずっと地面を見て生きていた。


 そんなある日、一人の少女が無茶な注文を言ってきたんだ。


「おいぃ……オフォール。

 俺を乗せて空を飛んでくれ」


「はぁ? なんでだよ。

 ララァに頼めばいいじゃないか」


 彼女が言うには、背中に乗ってゆっくり空の散歩がしたいのだそうだ。

 ララァは背中に翼が付いているので背中には乗れず、

 持ち上げられて飛んだところ、

 非常に怖い思いをした上に空から落ちてしまったらしい。


「『ファイアーボール』で浮き上がらなければ即死だった」


 とエルティナは言ったが、その落下地点に偶然シーマがいたそうだ。

 無残にも、彼女は黒焦げになって倒れていたのだが、

 突如何事もなかったかのように立ち上がり言ったそうだ。


 元上級貴族でなければ死んでいた……と。


 俺にはシーマの言っていることがよくわからなかったが、

 彼女でなければ死者が出ていた大参事である。


 俺は「ふきゅん、ふきゅん」鳴いて纏わりついてくる彼女に根負けし、

 できもしない約束を交わしてしまった。

 これが、現在に至る失敗回数の理由である。




「解せぬ……俺達のタイミングは完ぺきだったはずだ。

 これは、神々が介入している可能性が……!?」


「んなわけないだろ? 原因がわかれば苦労はしないさ、エル」


 俺達はいつの間にか、互いを呼び捨てにできる仲になっていた。

 時間さえあれば、彼女は俺の飛ぶ練習に付き合ってくれる。

 彼女には諦めるという言葉がないように思えた。

 

 エルティナのお陰で失敗した際の擦り傷は、あっという間に癒される。

 何故なら、彼女は一流のヒーラーであり、この国の聖女なのだから。


「お~ニワトリ。

 そろそろ飛べるようになったか?」


「俺はニワトリじゃねぇ! 鷲だよ!!」


 兎の獣人マフティが俺をからかいに来た。

 まったく、暇なヤツだと心の中で悪態を吐く。

 彼の肩に乗っているホビーゴーレムのテスタロッサは素直で可愛い子なのに。


「ほれっ、飲み物だ」


 俺は投げられた飲み物を受け取り、一気に飲み干した。

 そう、この気遣いがなければ「帰れ」と口に出していたことだろう。

 こいつもなんだかんだ言って、俺を応援してくれている者の一人だ。

 ……口は悪いがな。


「よし、もう一回だ!」


「いいぞぉ……その意気だぁ」


 背中にエルティナを乗せて、俺は助走をつけて再び羽ばたいた。

 が……結果は先ほどと同じ結果になった。


 失敗の理由がわからない以上、どうにもならないとは思うのだが、

 エルティナは「失敗の数だけ成功は輝く」と言ってはばからないので、

 無駄だとわかっていても俺達は挑戦し続けた。


「どうでもいいけどよぉ……足早過ぎだろ。

 おまえ、そのうちニワトリじゃなくてダチョウって呼ばれるぞ?」


「うっせぇ、放っとけ!」


 マフティの言うとおり、俺の走る速度、踏み込みは異常に鍛え上がっていた。

 ライオットと競争しても負けたことは一度もない。

 これは練習の副産物だが、地味に嬉しい成果でもある。

 俺達の努力が無駄ではない証だ。


「エル、もう一度だ!」


「よっしゃ! 治療は終わった。いつでも行けるぞぉ!」


 俺達は何度でも挑戦し続ける。

 いつかあの大空を羽ばたくために。

 いつの日か、あの青空の中で笑っていられるように……。


「ふきゅ~~~~ん!?」


 がしゃんっ! がたがたっ! どさどさ!


「あー!? 食いしん坊が納屋に突っ込んだぞ!?

 オフォール手伝えっ!」


「うおっ!? エル、しっかりしろー!!」


 ……その道のりは、果てしなく険しかった。

 ◆オフォール・ブルースカイ◆


 鷲の獣人の男性。

 顔は鷲寄りというか鷲。

 腕は翼になっており、足も鳥のように鍵爪である。

 もう、二足歩行の人型の鳥と言った方がいい姿である。

 彼はクラスメイトから『ニワトリ』と呼ばれているが、

 その原因は彼が空を飛べないからである。

 また、オフォールの髪が赤いせいで余計にそう見えてしまう。


 一人称は「俺」

 エルティナは「エルティナ」

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