213食目 結成 新生『モモガーディアンズ』!!
ラングステンに戻ってきた俺達は早速、
フィリミシア城の王様の下へと向かった。
ミレニア様から頂いた大金貨三千枚と、
今まで稼いだ売り上げ、およそ大金貨千枚をドヤ顔で王様に渡すためだ。
城門には、この作戦に参加した者全員が揃っていた。
皆でお金を渡そうということになり、
午後六時半に城門前に集合することになっていたのだ。
「エル~! もう全員揃っているぞ!!」
ダナンが俺に気付き手を振って大声で叫んだ。
時間は午後六時半を少し過ぎたところである。
ブッケンドさんの話を聞いているうちに、
予定の時間が過ぎてしまったようだ。
まぁ、大切な話だったから多少はね?
「今行く~!」
俺も手を振り、彼らの下へと急ぐ。
皆の下に到着すると、白い少女が抱き付いてきた。
「あはは! エルッ、エルるっ! おっかかえりり! あははは!」
「アルア、ただいま!」
アルアは救出されてから、暫くの間ヒーラー協会預かりとなっていた。
というのは、誰も彼女の家がわからなかったからだ。
目覚めた彼女の話によると、知り合いの記者の家に泊まったり、
野宿していたり、学校の警備ゴーレムの格納庫で
寝ていたりしていたそうだ。
普通に学校の寮で寝ればいいのに、
と言ったがアルアは嫌だと言って拒否したので、
スラストさんがそれならばヒーラー協会の空き部屋を使えばいい、
と彼女に申し出たところ、
アルアはその提案を満面の笑みで受け入れたのだ。
彼女は部屋を与えられても、時折知り合いの記者の家で寝ているらしいが、
あまり迷惑をかけていないか心配になる。
「あら、ようやく帰ってきたのね? エルティナ。
はい、これは追加よ」
ユウユウ閣下が俺に袋を渡してきた。
俺はそれを受け取り……袋に押しつぶされた。
「むぎゅっ!? へ……へるぷ・み~」(白目痙攣)
「あらやだ、こんな物も持てないの?」
ユウユウが軽々と持ち上げた、その袋の中身は大金貨千枚。
大金貨一枚の重さは三十グラムだ。
つまり彼女は三十キログラムを片手で持っていたのである。
軽量化の魔法も使わずにだ。
俺が自分の体重より重たい物を持てるわけないだろっ!
いい加減にしろっ!(激おこ)
「どうしたんだ、こんな大金?」
ライオットが袋の中身を見て驚いていた。
当然だろう。皆でがんばって稼いだお金と、
彼女が一人で稼いだお金が同じ金額だったのだから。
俺達の苦労って……(遠い目)。
「あの『豚』が吐き出した物が高値で売れたのよ」
「あぁ……あれか」
あのMなドラゴンとのやり取りを知っている者は引き攣った顔をした。
俺はガルンドラゴンと戦い、ドラゴンが強大な戦士だと認識していたので、
正直あのドラゴンにはがっかりしていた。
でも、大金になる物をくれたので特別に許してあげよう。
「いいのか? こんな大金」
俺がユウユウに尋ねると、
ユウユウは闇夜にゆったりと浮かんでいる月を見て言った。
「えぇ……いいのよ。
私が求めるものはお金じゃないわ。
私より強い存在、私を満足させる強者よ」
そんな生物いるのだろうか?
ガルンドラゴンか『鬼』ならばあるいは……(白目痙攣)。
「じゃ、行こうか」
俺達は大金貨五千枚もの戦果を携えて、謁見の間へと歩を進めた。
謁見の間に入った俺達を待っていたのは王様だけではなかった。
デルケット爺さん、レイエンさんとスラストさん。
タカアキにフウタ、アルのおっさん……
そして、残りのクラスメイト達であった。
「おいぃ……どうして皆がここにいるんですかねぇ?」
「俺が集めた。
これからのことを話すためにな」
最後に桃先輩を持ったジェームス爺さん……いや、この気配は桃師匠だな。
桃師匠が謁見の間に入ってきて、スラストさんの隣に並んだ。
「全員集まったようじゃの。
では、まずはエルティナの報告から聞くとしようかの」
王様が俺の報告を促した。
俺は一歩出て王様に報告をする。
「王様……俺達ががんばって稼いだお金だ。
ラングステン王国のために使ってほしい」
俺は具体的にスラム街とは言わなかった。
だが、これで王様はわかってくれるはずだ。
衛兵にお金を預けると、彼らは驚いた顔をした。
当然だろう。
とても子供が稼げる金額ではないからだ。
「こ……この大金貨の量は!?」
「大金貨およそ五千枚です。国王陛下」
ブッチャーさんが王様に告げた。
それを聞き届けた王様は玉座から立ち上がり俺の下へ歩み寄り、
俺を抱きしめた。
そして、集まったクラスメイトに向かい感謝の言葉を述べた。
「すまぬ……我ら情けない大人のために、いらぬ苦労をさせてしまった!
この金は決して無駄にはせぬ! ありがとう……子供達よ!!」
これで王様の唇と、モンちゃんの血管……
そして、スラム街の人々が救われるだろう。
……これで一安心だな。
「我が友エルティナ。
ブッケンドさんからの報告を国王陛下に」
タカアキが俺にカオス教団のことを王様に伝えろ、と言ってきた。
どうやら、本格的に彼らと戦うことを決めたようだ。
俺は王様にカオス教団の復活、目的、狙っている物を報告する。
「そうか……遂に来るべき時が来たというのだな? フウタよ」
「はい、国王陛下」
王様は取り乱すことはなかった。
このことは予見していたのか、冷静な受け答えであったのだ。
そして王様は俺達に向き直り、表情を厳しくした。
「さて……子供達よ、
自分達が他の同年代の者とは違うことを認識しておるか?」
クラスの皆は頷いた。
若干名、わかっていない様子の子もいたが誤差なのでいいだろう。
「そなたらは、女神マイアスによって選ばれ、
特別な力を授かり生まれた『約束の子』達じゃ。
ワシは彼女のお告げに従い、そなたらを一つのクラスに纏めたのじゃ」
また『約束の子』という単語が出てきた。
いったいどういう意味なのだろうか?
いい加減に聞き出さないと、モヤモヤして爆発しそうだ。
「王様『約束の子』ってなんなんだ?」
「うむ、神に選ばれし子供を『約束の子』と言うのが通説じゃ。
じゃが……もう一つの意味がある」
王様は言うか言わないか迷っている。
ブッケンドさんといい、言い難いことなのだろうか?
「……もう一つの意味は『生贄』です」
デルケット爺さんが王様の代わりに答えた。
王様の顔に苦渋の色が見える。
デルケット爺さんも相当な覚悟を持って答えたのだろう。
額から流れる汗の量がおびただしい。
その言葉を聞いた皆は静まりかえった。
まさか、そのような単語が飛び出してくるとは思わなかったからだ。
王様はデルケット爺さんに促され話を続けた。
「女神マイアスはこの世界を救うために、
そなたらに力を与えたと言っておったよ」
「ブッケンドさんの話が本当なら、
女神マイアスが言う敵はカオス教団ということになるのか?」
王様は俺の言葉に頷いた。
その表情は険しさを増すばかりだ。
「聖女エルティナの言うとおり、
世界を脅かす者とはカオス教団のことじゃろう。
そなたらは、ヤツらと戦う宿命を持たされて生まれてしまったんじゃよ」
王様の言葉を聞いた、気の弱い子達は半べそになっていた。
それはそうだろう、
この世界のために強大な力を与えたから、やばい敵と戦ってね?
というのだから。
話が本当なら強制的に戦うことになるだろう。
言い伝えでは、女神マイアスは大した力を持たない、
ということになっているが……わかったものではない。
実は強力な力を持っていて、それを隠している可能性だってあるのだ。
俺が女神マイアスについて、あれこれ考えを巡らしていると、
不安がったり怯えている子供達を見た王様は声を強めて言った。
「……じゃが、ワシらの考えはこうじゃ。
『約束の子』に頼るなど断じて断ると!
この世界を護るのはワシら大人の仕事じゃ。
女神マイアスのお告げに従い、
そなたらを集めたのは戦わせるためではない……護るためじゃ。
大切なワシらの宝を、むざむざと生贄にして堪るものか!」
クラスの皆が王様の迫力に息を飲んだ。
彼は女神に逆らったのだ。
俺達を護るためなら、神相手でも戦うと……そう言ったのだ!
王様はタカアキ達を見た。
タカアキは頷き、きっぱりと告げる。
「そのための勇者です」
その短い言葉に多くの覚悟が詰まっていた。
これが勇者タカアキなのだ。
「ですが……君達には戦う力を持ってもらいます。
世界のためではなく、自分自身と大切なものを護るための力です」
フウタが優しく俺達に告げてきた。
あくまで世界のためではなく、俺達自身のために鍛えろというのだ。
「おまえ達の面倒は引き続き俺が見る。
辛くても逃げるんじゃないぞ? おまえ達には俺達が付いているからな」
アルのおっさんがいつもの笑顔を向けてきた。
その笑顔は気弱な子を安心させるには十分であった。
いつもはヘタレなアルのおっさんが頼もしく見える。
「有事の際は、我々も精一杯お手伝いしますよ」
レイエンさんとスラストさんが、俺達を優しく見守ってくれている。
俺達は幸せ者だろう。
こんなにも思ってくれる大人が沢山いるのだ。
「ウォルガング国王……よろしいか?」
「うむ」
桃先輩を持った桃師匠が俺達の前に立つ。
未熟な桃がメインで喋るという、
かなりシュールな光景が繰り出されようとしていた。
「さて、エルティナが桃使いだということは知っているな?
そして『鬼』がこの世界に攻めて来ていることもだ」
「あぁ……知っているぜ」
ライオットが皆を代表するかのように答えた。
「では、エルティナと共に命を懸けれる者以外は退室をしてくれ。
ここからの話はそういうものになる」
クラスの皆が一斉に俺を見てきた。
俺は小さな手で顔を隠した。
……見ないでっ! はずかちぃ!
「決して責めたりはしない。
この話を聞いた以上は、もう逃げられなくなるからだ」
皆は桃先輩が冗談を言う人物ではないことを知っている。
彼がここまで言ってくるからには、
とんでもないことを頼み込んでくることも予想できたはずだ。
だが……誰も退室する者はいなかった。
「ブッチャーさんもよろしいのか?」
「えぇ、私にできることがあるのであれば、
この力を惜しみなく捧げましょう」
桃先輩は行動に移したのだ。
なりふり構わず周りを巻き込み、戦力を確保することに。
「今から約七年後……君達が成人式を迎える頃に、
この世界で眠る一体の鬼が目覚める。
その鬼の名は……虎熊童子。
かつて俺のいる星を、滅亡寸前まで追いやった六体の鬼の一人だ」
桃先輩から語られた話は、皆を動揺させるには十分だった。
そして、やはりクラスの皆は俺を見てくる。
「見ちゃらめぇ」
俺は再び顔を手で隠した。
そんなに注目されたら照れるんだぜ!!
「ええぃ、エルティナ。話の腰を折るな」
「このバカ弟子がっ!」
おごごご……散々な言われようだ(白目)。
俺が悪いわけじゃないのに……。
「桃先輩、その情報は確かなのですか?」
フォクベルトが眼鏡の位置を直しつつ質問をした。
冷静沈着な彼も動揺の色を隠せていない。
「あぁ、確かだ。
鬼の陣営に命を懸けて潜入している『白エルフ』からの情報だ」
「白エルフ……珍獣様以外にいるんだ?」
クラークの肩に乗っているケイオックが白エルフと聞き、
驚いた声を上げた。
「あぁ……僅かな生き残りがな。
白エルフ達はこの世界を護るために、
いち早く虎熊童子に戦いを挑み……滅ぼされた」
ケイオックの開いた口が塞がらなかった。
まさか、このような答えが返ってくるとは思わなかったのだろう。
「だが、彼らの死は無駄ではなかった。
彼らを『喰らう』ことによって虎熊童子は知性を得て、
暴食の限りを尽くす鬼とは違う存在に変わったのだ。
それが……この世界がまだ存続している理由だ」
「白エルフが……最強の魔法使い達が、
束になっても敵わなかったのですか!?」
委員長が震える声でなんとか絞り出したのは、そのような質問であった。
「そうだ、鬼は桃使いでなければ倒せない。
普通の者が倒せるのは小鬼までだ。
ましてや、白エルフ達が相手にしたのは鬼の四天王の一人。
桃使いが百人いて、どうにかできるかどうかの強さだ」
これは酷い。
百人いて、どうにかできるかどうかの鬼を、
俺一人でぶちのめせと言っているのだ。
プルプルと震える委員長の隣に立ち、俺もプルプルした。
プルらなきゃ、やってらんねぇぜっ!(プルプル)
「話はわかりました。
それで……俺達は何をすればいいんですか?」
副委員長が震える委員長の肩に優しく手を乗せる。
委員長は彼の手に手を添え、目と目を合わせ頷いた。
だが俺の場合は頭を鷲掴みにし、強制的にプルプルを止めた。
何……この扱いの違いは? ふきゅん!
「うむ、君達には正式に『モモガーディアンズ』に入隊してもらう」
そして、何事もなかったかのように話を進める桃先輩。
俺は深い悲しみに包まれた。
「え?『モモガーディアンズ』は
ゴーレムマスターズに出場するために結成した
チームじゃなかったっけ?」
リンダが首を可愛らしく傾げた。
彼女の言うとおり、俺達がグランドゴーレムマスターズに参加するために、
結成したチームである。
「そうだ、だがこのチーム名は『桃の守護者達』という意味だ。
使わない手はないだろう?」
リンダが納得したように何度も頷く。
結構適当に決めたのだが、思わぬところで利用されることになったな。
「有事の際は君達に協力を要請することになる。
カオス教団の脅威がある以上、戦力を分散できない状況も出てくるからだ」
大人達が桃先輩に苦しいところを看破され苦い顔をした。
「そして、鬼に対抗できる桃使いは、この世界にエルティナただ一人だ。
エルティナが死ねば……後は滅びを待つしかない。
俺達がこの世界に干渉できるのは、桃使いがいてこそなのだから」
「話が見えてきました。
つまり、僕達にエルを護れということですね?」
エドワードが俺の肩に手を添え、桃先輩を真っ直ぐ見つめていた。
その目に固い決意を秘めて。
「そうだ、君達にはエルティナを護ってもらいたい。
できうる限りの訓練を施すが、白エルフの肉体限界は非常に低い。
だが、鬼を倒すには桃力を用いての攻撃が不可欠だ。
エルティナの攻撃は隙が多い、それをカバーしてほしいのだ」
「なんだ……いつものことじゃねぇか。
もっと、とんでもないことでも、させられるのかと思ったぜ!」
バシンと拳と拳を合わせライオットが不敵に笑った。
彼はこういう時に頼りになる男だ。
クラスの皆に蔓延していた不安が徐々に晴れていっている。
「んふふ……食いしん坊と騒動に巻き込まれていたら、
感覚がマヒしてくるからねぇ?」
プルルも不敵に笑った。
随分と逞しくなったものだ。
皆と距離を置いていた彼女はもういない。
「……そうね。
いつものこと……エルは私達が護るわ」
ヒュリティアが俺の手を握り微笑んだ。
彼女の温もりが伝わってきて、
冷えていた俺の心が再び熱くなっていくのがわかる。
俺は彼女の手を強く握り返した。
「桃先輩……俺達はやるぞ……!
大人達が俺達を愛し護ってくれるなら、
俺達も大人達を愛し護ってみせる!
大切なものを護るために……俺達は強くなるっ!!」
俺は拳を天に向かって突き上げた。
クラスの皆もそれに倣い拳を天に向かって突き上げた。
「そうだ、見せてやるんだ……おまえ達の無限の可能性を。
ウォルガング国王、ここに新生『モモガーディアンズ』の結成を宣言する」
「うむ……了解した。
ラングステン王国国王、ウォルガング・ラ・ラングステンの名において、
『モモガーディアンズ』の結成を承認する!」
ここに俺達の長い戦いの日々が始まった。
決戦の日まで後七年。
果たして……俺達は未来を、その手に掴むことができるのであろうか?
俺達の道には重く暗い闇が、その行く手を阻んでいるのであった……。
これで三章終了です。
次章は『ほのぼの』になる~?