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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
211/800

211食目 食材の精霊

 ◆◆◆


 教皇様のお説教が終わり、

 俺は彼女の自室にて、カサレイムでの事件を詳しく説明することになる。

 以前にも来た部屋だ。


 ミレニア様の趣味なのか可愛らしいぬいぐるみが沢山あり、

 部屋の隅々には、これまた可愛らしい小物が沢山飾ってある。

 彼女は可愛い物に目が無いようであった。


「……というわけなんだ」


 流石にアルアのことは話さなかったが、

 カオス教団のことは詳しく話すことにした。

 あのおっさんが国をどうこうできるとは思ってはいないが、

 カオス教団のボスがやばいヤツだったら大変だしな。


「『獄炎のモーベン』……やはり生きていたようですね」


「ふきゅん!? 何そのカッコいい二つ名」


 ここで衝撃の事実が発覚した。

 あのモーベンのおっさんに強そうな二つ名が付いていたのだ。


 いや待て待て! あのおっさんが獄炎!?

 どう見ても『愉快なおっさんのモーベン』にしか見えなかったのですが……?


 そこまで考えて『ティン!』ときた。

 獄炎の迷宮が自宅だから『獄炎のモーベン』なんじゃね? ……と。

 そのことをミレニア様に伝えると、困った顔で違いますと言われた。ふきゅん。


「エルティナ、やはり貴女は女神様の強い加護を受けているようですね。

 彼はカオス教団でも、まだ話が通じる司祭です。

 他者を思いやり、自分のことを後回しにできる、とても強い人間。

 彼は人を惹きつけます……それ故に戦い辛い。

 一度彼と戦った貴女ならわかるでしょう?」


「あぁ……モーベンのおっさんは強い。

 それに、あの時は友達が攫われた怒りから戦うことができたけど……

 モーベンのおっさんの他人を思いやる行動を目の当たりにしたら、

 俺の戦意が薄れていく感じがした」


 そう、彼の優しさと、思いやる心は本物だった。

 それに、アルアの命をどのような理由があろうとも、

 体を張って守ってくれたことは事実だ。


 後、子分とのやり取りがコントみたいで卑怯だ。

 あんなの見たら戦意が薄れてしまう(呆れ)。


「なんにせよ、エルティナ。

 今後、貴女は決して一人で行動してはいけませんよ?

 必ず従者を引き連れて行動するのです」


「うん、わかったんだぜ」


 このことは王様にも、きつ~く言われたので『なるべく』守るつもりだ。

 ルドルフさんもいるしザインもいる。

 それに、これからはムセルも護衛に就いて貰うことになっている。

 ムセルの狙撃の腕前が護衛に欠かせない、とザインが進言してきたからだ。

 抜擢されたムセルは喜んでいた。


 だが俺は内心複雑な心境であった。

 ムセルが玩具から、かけ離れていっているからだ。


 もうムセルと、ゴーレムマスターズを楽しむことはできないだろう。

 何故なら、相手のホビーゴーレムが爆発四散する未来しか見えないからだ。

 ムセル……おまえは強くなり過ぎた(白目)。


「それと、カサレイムの商売の件ですね」


 俺は『ぱたっ』と大きな耳を閉じた。

 だが、ミレニア様に無理やりこじ開けられてしまったのだった。

 ふきゅん。


「こら、ちゃんと聞きなさい。

 まったく……これだから、ウォルガングはダメなのよね。

 こほん、まずカサレイムの『プライベートテレポーター』ですが……

 使用を禁止します」


「ふきゅ~~~~ん……」


 わかっていたことだが、きっぱり言われると悲しい。

 苦労して作った『テレポーター』が使えなくなるとは。


 あの苦労の記憶が蘇ってくる。

 教皇様との謁見(辛い)。

 ミカエル宅での一瞬の邂逅(睾丸)。

 ……ミカエルのマンモス(でかい)。


 ……くっそ!

 ミカエルのマンモスで、苦労の記憶が台無しになってしまった!

 どうしてくれるんだ!(八つ当たり)


「ですが、アスラムの実とグーヤの実……それにクーラントビシソワーズは、

 今や獄炎の迷宮を攻略するには必要不可欠。

 どうか販売を再開して欲しいとの声が、数多く大神殿に寄せられています。

 そこで、これらの品を大神殿で買い取り、

 カサレイムの冒険者ギルドに売却することにしました」


 ミレニア様の話からして、

 どうやら大神殿でアスラムの実などの管理することになったようだ。

 転売ということは、現地での値段が少し上がる可能性が高い。

 冒険者は涙目になることだろう。


「それで、クーラントビシソワーズですが、

 こちらは一般市民にも売り出そうと思っています。

 エルティナが作るには大変でしょうから、

 レシピを買い取る形にしたいと思います」


「でも、クーラントポテトは特殊素材なんだぜ。

 普通の人じゃクーラントビシソワーズを作れないらしいらしいんだ」


 その言葉を聞きミレニア様はパンパンと手を鳴らす。

 暫くして一人の料理人らしき人物が訪れた。


「ジョカ、参りました。

 御用件はなんでございましょうか?」


 その料理人は若い女性であった。

 艶のある長い金髪を纏め上げた面長の人間だ。

 瞳の色は赤く、肌は黒い。

 そして、何よりも目を惹くのはその真っ赤なコックコートだ。


 この人はカルサスさんが言っていた、

『クリムゾンハンドのジョカ』で間違いないだろう。

 大神殿で雇われていたのか。


「ジョカ、聖女エルティナから

 クーラントビシソワーズの作り方を学びなさい」


「仰せのままに」


 ジョカさんは頭を深々と下げ、俺に向き直った。

 そしてしゃがみ込み、目線を俺と同じ高さに合わせ自己紹介を始めた。


「初めまして、大神殿専属料理人ジョカ・マーセナグルです」


「俺はエルティナ・ランフォーリ・エティルだ。

 よろしくジョカさん」


 俺はジョカさんと握手を交わした。

 するとジョカさんが驚いた顔をしたので、どうしたか聞くと……


「聖女様、もし貴女が料理人を目指していたならば、

 きっと歴史に名を残す料理人になっていたでしょう。

 貴女には素晴らしい『食材の精霊』達が憑いています」


「食材の精霊?」


 ジョカさんが言うには食材の精霊とは、

 料理をする際に料理人をサポートしてくれる

 パートナーみたいなものだと教えてくれた。


 この食材の精霊は全ての人に基本一つ憑いており、

 持っている能力もさまざまなのだそうだ。


「貴女には五体もの食材の精霊が憑いております。

 表面に出てきているのは一体だけのようですが、

 料理の腕を上げるごとに、一体……また一体と出てくることでしょう」


「あの、おっさんだけじゃなかったのか」


 ということは、五体出てきたら調理中は物凄く賑やかになってしまうな。

 むしろ、うるさ過ぎて調理にならなくなる可能性も……(白目)。


「それでは大神殿の調理場にご案内いたします」


 俺はジョカさんに連れられて大神殿の調理場に向かうことになった。

 ミレニア様も、ちゃっかり着いてきているがいいのだろうか?

 なんかスキップしてるし……摘み食いできると思っているのかな?(名推理)


 その際バルンバルン揺れるおっぱいが凄いことになっているのだが、

 ポロっと零れてしまわないのだろうか?

 ……あ、零れた。ごちそうさまです!(眼福)




「ここが大神殿の調理場です」


「うおぉ……凄ぇ! キッチンの配置が理想的だ!」


 設備や調理器具の型は古いが、そんなことは問題ではなかった。

 ここの調理場は、とにかく料理がし易いように配置が工夫されていたのだ。


「そこに目を付けるとは……ますます惜しいですね。

 効率よくスピーディーに調理するには、ある程度の空間が必要なんです。

 特に私の食材の精霊は狭い空間を嫌がるので、

 このくらいの広さがなければ100%の実力を発揮できないのですよ」


「あ~、結構わがままだもんな、食材の精霊って」


 ジョカさんは、俺に頷き苦笑した。

 そして、俺と共に調理場に立つ。


「レシピの方ですが、特殊素材での調理なので紙に記すのは無意味です。

 そこで特殊な方法を使用します」


 ジョカさんは俺にクーラントビシソワーズを実際に作ってくれと頼んできた。

 なんだかよくわからないが、

 俺は言われたとおり丁寧にクーラントビシソワーズを作っていった。


『んん~貴様……見ているな?』


 食材の精霊は時折、ジョカさんに向けて話しかけているようだ。

 内容はよくわからない。

 だが、サポートの方はしっかりしてくれたので、

 無事に料理は完成することができた。


「はい、結構でございます。では失礼して……」


 そいう言うとジョカさんは完成したクーラントビシソワーズを味見した。

 ゆっくりと舌を転がすようにして味を確かめている。


「……素晴らしい。

 私と私の食材の精霊では作れない味です。

 ですが、調理過程を食材の精霊に『覚えさせた』ので、

 私にも作ることが可能になりました」


 ジョカさんはそう言うと、俺と同じ工程で瞬く間に

 クーラントビシソワーズを作り上げてしまった。


 なんかもう赤い残像しか見えなかったんですが!?

 これがプロの料理人の力か……圧倒的じゃないか!!(驚愕)


 俺はジョカさんの作ったクーラントビシソワーズを味見してみた。


 ……美味い! 完成度が段違いだ!

 上品であっさりしている! しかも口触りが滑らかで官能的でさえある!!


「どうでしょうか?

 だだ、これは大神殿で出すクーラントビシソワーズに仕上げております。

 町で販売する物は聖女様の味の方が喜ばれるでしょう。

 聖女様のクーラントビシソワーズは、優しい味がしますので」


「そうかな?」


 ジョカさんに褒められたが、いまいち実感がわかない。

 彼女が作った物の方が数段上の美味さなのに。


「ご馳走に仕立て上げた物と、普段食べる物の違いですね。

 エルティナのクーラントビシソワーズは毎日

 飲みたいと思う味に仕上がっているのですよ」


 ちゃっかり味見しているミレニア様がそう言った。

 幸せそうな顔で飲んでるなぁ……(苦笑)。


 そっか、そうだったな……すっかり忘れていたが、

 俺の料理は商売用の味付けじゃなかったのだ。

 料理に人生とプライドを懸けているプロの味と同じになるはずがない。


 俺の作る料理は一般家庭の美味しい料理だ。

 それ以上の味なんて必要ないのだ。

 毎日食べる物に感謝し、美味しくいただければいいじゃないか。


「そっか、俺には俺の目指すべき味があるんだな」


「はい、それぞれの料理人には得意な料理の味付けが存在します。

 聖女様は優しい味付けが得意なようなので、

 そちらを伸ばしていくのがよろしいかと」


 俺はジョカさんと固い握手を交わす。

 これで俺は目指すべき道を確認することができたのだ。


「俺は立派な料理人になってみせる!」


「ちょっ! お待ちなさい、貴女は聖女でしょう!?」


 絶妙なタイミングで、口の周りにクーラントビシソワーズを付けた

 ミレニア様のツッコミが入ったのであった。




 ジョカさんにクーラントビシソワーズの作り方を伝授した俺は、

 再びミレニア様の自室へと戻り、今後のことを話し合っていた。


 クーラントビシソワーズを入れる容器は、

 ジェフト商店から取り寄せるという方向で決まった。

 ポイ捨てされても、やがて土に還ることが評価されたのだ。


 そしてアスラムの実とグーヤの実だが、

 これらの取引はブッチャーさんにお願いすることにした。


 ブッチャーさんなら顔が広いし、商人としてのランクも高いので、

 大神殿に入ることが許されるそうだ。

 何よりも、俺の推薦が決め手になっているもよう。


「さて、最後にクーラントビシソワーズのレシピ代ですね。

 大金貨三千枚をお支払いいたしましょう」


「ふきゅん!? 大金貨三千枚!!」


 俺はこの金額が意味するところがわかった。

 つまり、これでラングステンのスラムの人々を救えと言っているのだ。


「ありがとうミレニア様! 大好きだぜっ!」


 俺は感極まって、ミレニア様に抱き付いた。

 ミレニア様はキュッと俺を抱きしめ囁いた。


「カサレイムを救ってくれたお礼も兼ねています。

 もうあのような、危ないことをしてはいけませんよ?」


「うん、なるべく気を付けるんだぜ」


 こうして俺は、スラム街の復興資金を手に入れることができたのであった。

 やったぜ!(ガッツポーズ)

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