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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第一章 珍獣と聖女と仲間達
21/800

21食目 絶望が希望に変わる時

あれ? ここ……どこ? 俺は……珍獣。ふきゅん!


俺は目が覚めた。

何か夢を見ていたみたいだ。

悪い夢だったような、良い夢だったような……思い出せん。

体を起こす、少しクラっとしたが許容範囲だ、問題ない。


と視界に飛び込むド迫力のおっぱい。

ミランダさんの豊か過ぎる胸だった。

ボフッ、と俺の顔が埋もれる。


ちょっと、苦しい! 息ができん!!


顔を上げおっぱいから脱出する。

そこには、大粒の涙を流すミランダさんの顔。

うわぁ……やばい、これはヤヴァイ。

こんなに彼女を心配させてしまったのか。


「良かった、気が付いて良かった! 

 体温は下がってるし呼吸も不安定だったのよ!? 

 こんな無茶をしていたら死んでしまうわ!!」


俺をギュッと抱きしめるミランダさん。

その体は震えていた。

まさか、俺が運ばれてくるとは思ってなかったんだろうな。

俺も想定外だったし、倒れちゃいけなかったんだし……。


あ、やべっ!? 急いで戻らなきゃ!!


「ミランダさん、俺戻らなきゃ……」


俺がそう言うと、ギョッとした表情で「死にかけたのよ!?」と言うが

俺は「死にかけて、ここを頼ってくるヤツらがいる」と返した。


何も言えなくなったミランダさんに『桃先生』を出してと頼む。

自分で創れるが、ここは甘えてしまっても構わんだろう。


はあ……と、ため息を吐いたミランダさんは、

冷蔵庫型のフリースペースから桃先生を取り出し、

食べ易いように切り分けてくれた。


「ありがとう、ごめんなミランダさん」


シャクッと、一口大に切られた桃先生を頬張る。

甘い果汁が死にかけた体を優しく包み込んでくれる。

あの森でこの力に気付かなければ、今の俺はなかっただろう。

桃先生には助けられてばっかりだ。


一口、一口食べる度に魔力や気力が回復してくる気がした。

食べ終わる頃には、なんとかやれる程度には回復した。


死にかけて、超絶パワーに目覚めるなんてなかった!(震え声)


「行ってきます、ミランダさん」


「無茶したらダメよ?

 貴女はどこか死んだ亭主に似てるわ。

 あの人も今の貴女みたいに笑って……」


帰って来なかった。

と最後は消え入るような声でミランダさんは言った。


「俺は必ずここに帰ってくるから、待ってて!」


そう言い、俺は皆の待つヒーラーの戦場に駆け出した。

途中で転けたのは内緒な!!


◆◆◆


「はぁ……持ち堪えて! はぁ……重傷者優先!! はぁ、はぁっ」


限界だ!! 聖女様が倒れて、精神的に参ってるヤツが多過ぎる!!


「レイエン! 無茶だぁ、もう休め! 死んじまうぞぃ!!」


わしはヒーラー協会のギルドマスター、

レイエン・ガリオ・エクシードに休むように指示をするが……。


「聖女様が戻るまでは……はぁ、はぁ…持ち堪えませんと……!」


自分はギルドマスターですからね、と言って意地を張っていた。

レイエンが死ねば、このヒーラー協会に暗雲が立ち込める。

それだけは阻止せねばならねぇ。


「バカ野郎!! 若い奴がワシ達より早く死ねると思うな!

 スラスト! そこの阿呆を引きずり出せぃ!!」


「わかりましたデイモンド先輩。

 ほら、いくぞレイエン」


もう、死にかけてるのに何を言っているんじゃ!

最初にくたばるのは、わしら老いぼれよぉ。

こればっかりは譲る訳わけにはいかねぇのさぁ!!


スラストに引きずられ退場するレイエンを見送り、

わしはいよいよ覚悟を決める。


「ここからは、わしら老いぼれの独壇場じゃぞ?

 気張っていくとしようかぃ!」


ははは、と笑う頼もしき老いぼれ達。

老体晒して、生きた甲斐があったってわけだぁ。

こんなにも……血潮がたぎる!


「聖女様よぉ……! わしらに力を!!

 やるぞ! おめぇらぁっ!!!」


応!! と老齢のヒーラー達の声が響く。

最後の仕事だ、有終の美ってヤツを飾ろうじゃねぇか!!


◆◆◆


「すまない! 待たせた!!」


俺は戦場に復帰した。

そこには、いまだ増え続けるケガ人と……倒れたデイモンド爺さんの姿があった。


「せ……いじょ……さまぁ」


俺はデイモンド爺さんの傍まで駆け寄り、差し出された手を握る。

これはまずい、もう魔力がないじゃないか!?


「へへっ……勤めは……果たしましたぜぇ」


ふ、ふじゅけるなっ!! そんな無茶して!!

そんな、悔いはないって顔で、安らかに死のうとするなんて許さないぞっ!


「女神マイアスよ、切なる願いを聞き入れたまえ!! 慈悲と希望を我らに!『魔力変換』チャージ!! そおぉぉぉぉいっ!!」


俺の魔力をデイモンド爺さんに適した魔力に変え彼に補給する。

魔力が適してないと、拒絶反応が起こって危険だからだ。

ここら辺は血液と一緒だな!


でもって中二病的な呪文は、無詠唱化が中途半端だったからだ。

最近、忙しくてそれどころじゃなかったんだよ!!


デイモンド爺さんの体に魔力が満ちる。

容態は安定したが爺さんはここでリタイアだ。

良くやってくれたよ。本当に感謝だ。

不甲斐ない俺のために、ここまでしてくれるなんて。


「ありがとう、デイモンド爺さん。後は任せてくれ!!」


失った魔力を、その場で創った桃先生で急速チャージ!

皆、突然創られた桃先生に驚いていたが最早気にしていられん。

形振りなんて構ってられないんだ。

さらに数個創り、若手ヒーラー達に渡す。


「やるぞ! 爺さん婆さんがやってくれたんだ!

 若い俺らが頑張らんと、安心して隠居させてやれんぞ!!」


ははは、と場違いな笑い声。

でも若手のヒーラー達の気合は最高潮。


「さあ、行こう! これが俺達の決戦だ!!」


すぐ傍にはティファ姉、ビビッド達若手ヒーラー達が集う。

ベテラン、復帰組は休憩、あるいはリタイア。

非ヒーラーの方々も手伝ってくれている。


いつ終わるかも判らない、絶望的な治療活動。

でも……皆の心は決して折れなかった。

託す者、託される者。


若手ヒーラー達は託された……色々なものを。

限界は当に過ぎている。

今ここにいれるのはヒーラーとしての意地と根性。

俺達は諦めない、決して諦めない……。


◆◆◆


「伝令! 勇者タカアキ様が魔王を打ち取りました!!」


ぜぇぜぇ、と息を切らし飛び込んできた伝令兵。

時間は午後七時十八分。


僕達、若手ヒーラー達も聖女様とティファニーを残しリタイア。

絶望に染まろうとしていた僕達に、希望となる一報が届いた。


「もう一息だ! ビビッド、休憩に行け! 十五分! 

 次はティファ姉! はぁ、はぁ……重傷者から並べぇ!!」


限界が来てるの聖女様でしょうに!!

これはいけない! また倒れてしまう!


「聖女様から休憩です!!」


「何を言って……」


怒鳴って言った僕に困惑する聖女様。

僕は聖女様に努めて優しく言った。


「もう、倒れる君を見たくないんだ……

 頼むからお兄さんらしいことをさせてくれないかな?」


正直……自分も限界だ。

でも僕はこの子より遥かに年上。

才能、素質では確かに劣る。判断力も冷静さも上だろう。

それでも、引けないことがある。


「わかった、頼むよ……ビビッド……兄ちゃん」


そう言うと、聖女様は食堂に向かった。

あ……転んだ。

でも直ぐ立ち上がって、また歩き始める。

どうやら大丈夫なようだ。


兄ちゃん……か。

確かにそう言われた気がした。

これは死ぬ気でがんばらないといけないな!!


「格好付け過ぎよ?」


ティファニーにからかわれる。

わかってるさ、それくらい。


「しょうがないだろ? お兄ちゃん……なんだから?」


へへっ、と笑い治療を再開する僕ら。

絶望は希望に変わり、僕らに最後の力を授けてくれる。

魔王が倒され、後は重傷者から治療するだけ。

命に関わらなければ日をまたいでもなんとかなる。


「もう一息……もう一息だ!!」


傍らにティファニーが寄り添い、治療をサポートしてくれる。

僕達は、ようやく終わりを見せた治療をこなしていった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おかしいな、、、お気楽でちょっとエッチなTS物を軽く読みたいと検索して初めはおもろいと読んでたはずなのにいつの間にめちゃ熱いヒーラー物を読んでたぜ。
[一言] 全員桃食いながらやればいいだけじゃないのか? 何でリタイアするまで食べないんだ?
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