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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
207/800

207食目 チゲ

 ◆◆◆


 お説教なう。


 俺はスラストさんにお説教を受けていた。

 自室のベッドの上で。


 そう、限界を超えたせいで、またしても魂痛になってしまったのだ(白目)。

 ふきゅーん、ふきゅーん! 痛い~ん!!


 今はなんとか体を起こしている状態だ。

 そんな俺を、容赦なくお説教するスラストさん。

 マジパネェッス(白目痙攣)。


 そしてあろうことか、お説教はスラストさん一人ではない。

 タカアキとフウタ、そしてアルのおっさんまでやってきて

 お説教に加わっているのだ。

 何これ酷い。


「カオス教団と遭遇して事を構えた、というのは本当ですか?」


 フウタが顔を近付けて尋問をしてきた。

 いつもは穏やかな表情をしている人の怒った顔は、

 なかなかにおっかないものがある。


「カ……カオス笑団なら会った気がするんですがねぇ」


 うん。あれはきっとカオス教団じゃない。

 カオス笑団だったに違いない(現実逃避)。


「マキシード君から聞いた話からして、あながち間違ってはいないですが、

 あれは組織の一部に過ぎません。 

 むしろ、出会った連中に人間味があって助かったと言えます」


 眉間を摘まみ、揉み解しているフウタ。

 そして、改めて姿勢を正しお説教を続ける。


「いいですか? 改めて申し上げます。

 聖女様はカオス教団に狙われているのですよ?

 それを自分から殴り込みにいくとは何事ですか。

 もっと自重してください」


「で……でも」


「でもじゃない。話はもうマキシードから聞いている。

 友達がおまえと間違って攫われたから、慌てて救出に向かったそうだな?」


 俺が申し開きをしようとしたところで、スラストさんに阻止されてしまう。

 タイミングを逸してしまった俺は「ふきゅん」と鳴くしかなかった。


 はぁ、と俺以外の全員がため息を同時に吐いた。

 おごごご……何気に気まずいんですがねぇ?


「バカ者、何故すぐに連絡を寄越さなかった。

 いくら現地の冒険者の協力があったとしても、

 危険なことに変わりはないのだぞ!

 ……もっと、俺達を信頼してくれ」


 そう言って、肩を落とすスラストさんを見て、チクリと心が痛んだ。


 そんなつもりはなかったんだ。

 スラストさん達を信頼していないわけじゃない。

 でも、あの時はアルアが攫われて、そこまで考えが回らなかったんだ。


「ごめんなさい……」


 俺は素直に謝ることにした。

 何を言っても、言い訳になってしまうからだ。


「我が友エルティナも大いに反省しているようです。

 お説教はこれまでにいたしましょう」


 俺が半べそ状態になっていると、タカアキが助け船を出してくれた。

 流石、勇者は格が違った!


「そうだな、でもその前にエルティナ。あれはなんだ?

 昨日俺達と一緒に『テレポーター』で転移してきたのだが……」


 スラストさんが指さす方には、

 体育座りをして小さくなっている赤いゴーレムがいた。


「……フレイムドールが、何故ここにいるんですかねぇ?」


「それはこっちが聞きたい」


 そう、俺の部屋に獄炎の迷宮十七層で出会った、

 気弱なフレイムドールがいた。


 どうやら、急いで迷宮から脱出した際に、

 どさくさに紛れて付いてきていたようだ。


 フレイムドールは、しきりに俺の顔をチラチラと見てきている。

 顔がないので表情も無く、声も出せないようだが

 雰囲気的に「ここに置いてください」と言っている気がした。


「スラストさん……」


「はぁ……きちんと面倒を見れるのか?」


 もう、諦めた感が半端ないスラストさん。

 今更追い出すわけにもいかないよな。


「うん、きちんとお世話するんだぜ!

 よぉし……では、俺がおまえに素敵な名前を奢ってやろう!」


 何がいいだろう? う~ん。

 きゅぴーん! 俺の額に電流が走った!


「よし! 赤いから、おまえの名はレッドホットチリペッ……」


「我が友よ! それ以上はいけない! いけないのですっ!!」


 タカアキが頭の付近に『バァーン!』という

 擬音を具現化させ、奇妙なポーズを取って俺の言葉を遮った。

 手にはギターを持っている。


「ふきゅん……素敵な名前だと思ったのに」


「もっと呼びやすい名前で、いいのではないですか?」


 ふむ、フウタの言うことはもっともである。

 では何がいいだろうか? あか……赤か。


「じゃあ『紅ショウガ』で」


「おまっ!? 自分がその名前だったら、どう思うんだよ?」


 アルのおっさんからのクレームがきた。

 ふむ……美味しそうでいいじゃないか。

 何が問題なのだろうか? ……解せぬ。


「じゃあ……『チゲ』だ」


「それも料理の名前ですが……

 まぁ、一番まともそうな名前なので、いいのではないでしょうか?」


 フウタからOKがでた。やったぜ!


「今日からおまえの名は『チゲ』だ! よろしくな!」


 名前を貰って嬉しそうなチゲ。

 顔がないので表情がわからないのが不便なヤツである。

 今度お面でも作ってやろう。

 愛嬌のあるヤツがいいな。


 そんなことを考えてウキウキしていたら、ズキリと鈍い痛みが走った。

 

「あうっ!? イタタ……はしゃぎ過ぎた」


 嬉しくて、ついはしゃいでしまった俺は、魂痛の洗礼を受けてしまった。

 体中に激痛がほとばしり、思わず白目になって痙攣してしまう。


「無理をするんじゃない。

 暫く安静にしていないといけないんだろうが」


 スラストさんに手伝ってもらい、俺はベッドに横たわった。

 何度経験しても、魂痛の痛みには慣れない。


「さて、カサレイムでの商売の件だが……ダナン君から事情は聴いた。

 まったく、おまえの行動力には呆れる。

 よもや、スラムの住民のためにそこまでするとは……」


「ふきゅん……」


 そう言ったスラストさんは複雑な表情をしていた。

 嬉しいような、悲しいような、怒っているような……

 いずれにも取れるような表情だったのだ。


「いずれにしてもカサレイムは暫くの間、

 混乱状態が続くでしょうから商売は無理でしょう。

 獄炎の迷宮も、入り口を閉じて入れないようにするそうです」


「そうか……カサレイムの冒険者達には悪いことをしたな」


 これでは暫くの間、稼ぎができなくなってしまうから、

 お金に困る冒険者が出てきてしまうだろう。

 これも全部、カオス教団ってヤツらが悪いんだ!(責任転嫁)


「我が友エルティナが気に病むことはありません。

 彼らの計画はエルティナがいても、いなくても、実行されていたのですから」


 タカアキが驚愕の事実を語り出した。

 いったいそれは……!?


「実は数日前、ブッケンドさんから『テレパス』で連絡があったのです。

 カサレイムで不穏な動きを見せている連中がいると」


「ブッケンド……って、『一撃のブッケンド』かよ!?

 あの爺さん、まだ現役だったのか……

 散々、引退しますって言ってやがったのに」


 アルのおっさんがブッケンドさんの名前を聞いた途端、

 飲んでいたお茶を吹き出した。

 ……汚い。


「えぇ、それで近々カサレイムに向かおうと準備をしておりましたら、

『スラスト連絡網』からの緊急コールがかかってきましてね。

 急ぎ馳せ参じたわけです」


 えっ? 何その『スラスト連絡網』って!?


 俺はスラストさんの顔を見た。

 だが彼はプイッと顔を背けた。


 おいぃ……!


「まさか、カサレイムで我が友エルティナが、

 そのようなことに巻き込まれているとは思いませんでしたし、

 ブッケンドさんも前倒しで事を起こすとは思っていなかったようです」


「それで……黒幕は?」


 フウタがタカアキに問い詰めた。

 タカアキは頷き話を続ける。


「私はブッケンドさんと合流後、

 獄炎の迷宮四十五層で一人の男と対峙しました。

 その男の名は……『ウィルザーム』」


 その名前を聞いた瞬間、フウタとアルのおっさんが勢いよく立ち上がった。

 座っていた椅子がガタンと音を立てて倒れる。

 彼らの表情は険しく恐ろしいものだった。


「バカなっ!? ヤツは確かに死んだはずだっ!!

 俺がウィルザームの首を刎ねて全てが終わったはず!!」


「あぁ……俺もその瞬間を見ていた。

 確かにヤツは死んでいたぜ。

 あれで生きていたとしたら……本当に化け物だ」


 フウタとアルのおっさんの言葉に頷き、タカアキは話を続けた。


「私には、その男が貴方達の言う男かどうかはわかりません。

 ですが……確かに『ウィルザーム』と名乗り、去っていきました」


 俺の部屋が嫌な雰囲気に染まってきた。

 この雰囲気は魂痛に響くので、話題を変えたいところだ。


「と、ところで……タカアキはどうして、その男がいる場所がわかったんだ?

 ブッケンドさんから何か聞かされていたのか?」


 俺は話題を移し、雰囲気を変える作戦に出た。

 このままでは俺のストレスが、マッハで限界を超えてしまう。


「はい、私の特殊能力『正義の勇者』が発動したからです。

 この能力は私に巨悪の位置を教えてくれる能力なのですが……

 相手とある程度距離が離れてしまうと、効果が切れてしまいます。

 ウィルザームは『テレポーター』で逃げたらしく、追跡はできませんでした」


「いつもどおり、用意周到な連中だ。

 もし、ウィルザーム大司祭が生きていたとしたら、

 俺達だけで片付けれる問題じゃないですね」


「そうだな、直接殴り込んだのは俺達だが、

 陽動やら何やらをやってくれた連中がいたからこその成果だしなぁ」


 そう言ってタカアキ、フウタ、アルのおっさんは腕を組んで考え込みだした。

 思ったよりも大事になっていて、どう対応すればいいのかわからない。

 助けて桃先生!


「このバカ弟子がぁ!」


 残念! 来たのは桃師匠でした! ……俺はもうダメかもしれん(白目)。


 けたたましくドアを開けて入ってきた、

 ジェームス爺さんに乗り移った桃師匠を見て目を丸くする一同。

 スラストさんなどは、あんぐりと口を開けている。


 そんな彼らなど眼中にないのか、

 ずかずかと俺の下にきて、いきなり俺の体をまさぐりだした。


「ふきゅーん、ふきゅーん! 痛い~!!」


「ふん……案の定、魂痛になっておるわ! ぬぅん!」


 桃師匠がギュッと拳を握ると、その拳に桃力が宿るのを感じた。

 え? まさか……嘘だよな?


「そぉうりゃぁぁぁぁっ!」


 べきべきべきっ! ぽきぽきぽきっ! ぷぴっ!


「おごごご……がくっ」(白目失神)


「ふんっ、おまえには時間がない。

 これで今日中に魂痛が治るはずだ。

 明日より修行を再開するぞ! バカ弟子がっ!!」


 そう言って、俺に荒療治を施した桃師匠は去っていった。


 嵐のようにやってきて、竜巻のごとく場を引っ掻き回し、

 突風のように去っていった桃師匠を、

 歴戦の戦士達はただ見送ることしかできなかったのだ。


 そして、俺はあまりの激痛に、お尻から桃力が抜けて力尽きたのであった。

 ふきゅ~~~~~ん……がくっ。

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― 新着の感想 ―
[一言] おならの音も”ふきゅーん”ですか、そうですか。: そして、俺はあまりの激痛に、お尻から桃力が抜けて力尽きたのであった。  ふきゅ~~~~~ん……がくっ。
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