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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
205/800

205食目 いつか本当の君に

 ユウユウ閣下の大殺戮(死んでいない)から数分後。

 白目をむいてぐったりとしている女冒険者達を、

 せっせと回収しているモーベン子分ズの姿があった。


 襲われていたクラスメイト達もぐったりしている。

 もちろん精神的な疲労の方が多い。


「……なんかもう、すみません」


「なんだかなぁ……」


 その光景を、俺とモーベンのおっさんは疲れた顔で眺めている。

 彼とは敵同士ではあるが、もう戦う気は起こらなかった。


 それはきっと、無事にアルアを取り戻すことができたのと、

 あまりにも展開がグダグダになったからだろう。


 ユウユウが強引に制圧してくれなければ、

 更に酷い展開に発展していた可能性がおおいにあった。

 彼女には頭が上がらないんだぜ!


 その取り戻すことができたアルアだが、

 現在はガンズロックにおんぶされ寝息を立てている。

 その寝顔は穏やかであり、安らかでもあった。


 記憶の中で出会った本来の彼女の姿を、いつの日か取り戻してあげたい。

 俺にまた、ひとつの目標ができたのであった。


 俺が新しくできた目標を心に刻んでいると、

 ユウユウ閣下が不満そうな表情でため息を吐いていた。

 

「はぁ……物足りないわね。

 そちらのおじさまも『食べ』ちゃってもいいのかしら?」


 もの欲しそうに、モーベンのおっさんを品定めするユウユウ。


「遠慮願いたいですな。

 今の私では君を『満腹』にさせることはできないでしょうから」


 そんな彼女の挑発ともいえる言葉に、彼は大人の対応で返した。

 大の大人でも、そうそう彼女に対していえる言葉ではない。


 現にユウユウはモーベンのおっさんに対して、

『殺気』をぶつけまくっている。

 その殺気を、さらりと受け流しているのだ。

 なかなかできることではない。


「あら、残念ね」


 にっこりと満面の笑みで言ったユウユウは、

 血で真っ赤に染まったドレスの裾をひるがえし、

 ファイアードレイクの下までつかつかと歩み寄った。


 よくよく見たら、彼女の履いている物はハイヒールであった。

 踏みつけられたら物凄く痛そう。


 彼女の接近に気が付いたファイアードレイクは、

 流れるような動作で服従のポーズを取る。

 その動きには、まったく無駄な動きがなかった。

 美しいとさえ思わせる、完成された動作であったのだ。


 というか、いつの間に目を覚ましたんだ?


「いい子ね。

 出す物だしたら帰っていいわよ」


 ユウユウがファイアードレイクにそう告げると、

 巨大な赤いトカゲは口から一つの大きな宝石を吐き出した。

 魔石……ではないようだ。


 不思議な石だ。

 宝石の類には興味のない俺であるが、あの石には妙に引き込まれる。


「あら、貴方根性がないわね。

 それじゃ豚と変わりないわよ? ほら、『ぶひっ』って鳴きなさい」


 そう言って、ファイアードレイクの尻尾をぐりぐりと踏みつけるユウユウ。

 そして、彼女のその行為に

 ビクンビクンと体を震わせて興奮している巨大な赤いトカゲ。


 あ、ダメだこいつ。

 サイズはLLでも心はMだ。


「ごほん、我々はそろそろお暇させて頂きます」


 俺がユウユウ閣下とMの火トカゲの行為を呆れて眺めていると、

 モーベンのおっさんが退却すると言ってきた。


 どうやら、脱出用の『テレポーター』を用意していたようだ。

 モーベン子分ズが片っ端から女冒険者達を放り込んでいる。

 扱いが酷すぎるな……やっつけ仕事じゃないか。


 ……いいぞ、もっとやれ!(暗黒微笑)


「そうか、じゃあな。

 でも……これだけは覚えておけ。

 俺はおまえらを許したつもりはないからな」


「えぇ、覚えておきましょう。聖女エルティナ。

 では私からも一つ……いつか必ず、貴女をお迎えに上がります」


 そんなやり取りを交わした後、

 モーベンのおっさんは『テレポーター』を使い子分と共に姿を消した。

 そして、この時予感したのだ。

 きっとこの先、このようなやり取りが何度もあるのかもしれないと。


 なんか、面倒臭いおっさんとかかわっちまったなぁ。


「おやおや、無事に事が収まったようですな」


 モーベンのおっさんが去った後、今度は謎の老紳士が登場した。

 こんな危険な迷宮で、タキシードを着ているなんてどうかしてる。


 ……すみません、ドレスにハイヒールの方がいらっしゃいました。

 謹んでお詫び申し上げます。


「爺さんは何者だ? どうしてこんな場所に?」


「はい、ある方に頼まれましてね。

 あなたの安全と、困っているようでしたら手を貸してほしいと。

 おっと、申し遅れました。

 私の名はブッケンド・スウ・クランと申します」


 そう言って、うやうやしくお辞儀をする老紳士。


「え~っと、俺は……」


 俺は自分の名前を言おうとして躊躇した。

 初対面の人に本名は流石にまずいかな? と辛うじて気が付いたのだ。

 このファインプレーは褒められてもいい。


「大丈夫でございます。

 存じ上げておりますよ……聖女エルティナ様」


 俺のファインプレーは、なかったことになってしまった。がっでむ。

 というか、スウ・クランって……。


「ひょっとして、サンフォの爺ちゃんか?」


「おぉ、孫のことをご存じでございましたか。

 これはこれは……光栄にございます」


 苗字と顔が似ていたからそうかな? と思ったが当たりだった。

 まさかこんな場所でサンフォの祖父に出会うとは……

 偶然ってあるものなんだな。


「ブッケンドさんじゃあねぇか。

 ってことはぁ、フレイムスパイダーの件はぁもぉすんだのかぁ!?」


「『銀の羽音』が欠けていたのに、よくクエストを達成できましたね」


 ジャックさんとヴァンさんが、ブッケンドさんの登場に驚いていた。

 彼らの話を聞けば、ブッケンドさんも緊急クエストを受けた

 パーティーのメンバーの一人ということらしい。

 結構いい歳だと思われる外見だが、バリバリの現役だということになる。

 どこの世界も、お年寄りは元気だなぁ……。


「えぇ、ガッサーム君達もおりましたし、

 何よりタカアキ様もいらっしゃいましたしね。

 まったく苦労することなくクエストは達成されました」


「ふきゅん! タカアキがここに!?」


 俺が驚いたと同時に大きな振動が起こった。

 ここより下の階層で何かが起こったようだ。


「ふむ……タカアキ様の『用事』が終わったと思われます。

 我々も引き上げましょう。

 エルティナ様も仲間の方々も、酷くお疲れのご様子ですから」


 ブッケンドさんにそう言われると、

 今まで認識していなかった疲労がドッと押し寄せてきた。

 俺は思わず「ふきゅん」と鳴いて座り込んでしまう。


「限界だな。

 このままでは桃力が尽きてしまう。

 とんぺー、エルティナを頼む」


「わん!」


 俺の口から、桃先輩の低く落ち着いた声が発せられた。

 彼に頼まれたとんぺーが俺の下までやってきて伏せる。

 その大きな白い背中によじよじと登る俺。

 これだけの行動が既に辛い。


「御屋形様、大丈夫でござるか」


「なんとかな……それよりザインは顔を拭け。

 キスマークが酷いことになっているぞ?」


 その言葉を聞いたザインは、慌てて顔を手でごしごしと拭った。

 うん、さっきより酷い顔になっている。

 ちゃんとタオルで顔を拭きなさい。


「はぁ……酷い目にあった。女って怖いな」


 半裸のケイオックがふらふらと飛んできた。

 可哀想に……彼の服は無残にも破かれて着れなくなってしまっている。


「まったくだ。思わず後ずさってしまった自分が情けない」


 ケイオックに同意したクラークは、がっくりと肩を落としているが、

 あれは仕方がないと思うぞ? 俺なら裸足で逃げる。


「まさか、性別を正確に見分けられるとは思わなかったよ」


「そうですわね兄様。いったいどうやって見分けたのかしら?」


 そういえば、女冒険者達はルーフェイだけを的確に狙っていたな。

 今考えると、それだけでも恐ろしい連中だった(白目)。


「やり辛い連中だったなぁ。

 やっぱり、女を殴るなんてできねぇよ」


 ライオットはポリポリとほっぺを掻いている。

 俺も彼の言い分に賛成だ。

 ……爆破処理はするがな!(暗黒微笑)


「……戻りましょうエル。

 ルドルフさんやクラスの皆が、

 まだフレイムスパイダーと戦っているかもしれないわ」


 ヒュリティアが心配そうな表情で俺に帰還を促した。

 流石、俺の親友。

 俺がうっかりしているところをカバーしてくれる!


「ふきゅん! そうだった!

 皆、急いで迷宮から脱出だっ!! ムセル、動けるか!?」


 俺の声にムセルは腕を上げて大丈夫だとアピールした。

 体のあちこちがへこんでいる。

 後でしっかりと直してあげないと……。

 イシヅカとツツオウも少し損傷しているが大丈夫なようだ。


「やれやれ、忙しいな食いしん坊は」


 リックが愛用の槍を肩に担いで、

 逆レイプされかけていたマキシード君に肩を貸した。

 どうやら腰が抜けてしまって動けなかったようだ。


「す、すみません……うぅ、こんな失態をセングランさんに知られたら」


 この件はマキシード君のトラウマになりかねないな。

 強く生きろよマキシード君。


「はぁ……酷い目にあいました。

 それでは帰りましょうかエルティナ」


「そうだな、フォク。

 後、首を隠しておけ……キスマークが付いてるから」


 ずり落ちた眼鏡を元の位置に戻し、首を無言で隠すフォクベルト。

 彼もまた犠牲になったのだ。

 欲望に身を堕とした飢えた女達のな……!


 そして、今の彼の姿をアマンダに見られたら

『レッドウルフ』になりかねない。

 それだけは避けなければ……(滝汗)。


 色々とあったが俺達は無事にアルアを救出し、

 獄炎の迷宮を後にしたのであった。




 そして、獄炎の迷宮から出た俺達の目に飛び込んできたのは、

 とんでもない光景だった!


「エルティナ! よくぞご無事で……」


 疲労のためか地面に膝を突いている、

 傷だらけのルドルフさんとクラスメイト達。

 協力して町を守っていた衛兵と女冒険者達も同様だ。

 若手ヒーラー達もぐったりと座り込んでいる。


 そんな中、大量のフレイムスパイダー達を相手に戦う二人の戦士がいた!

 襲い来る燃え盛る蜘蛛の攻撃を華麗にかわし、

 隙あらば一撃必殺の攻撃を打ち込む凄腕の戦士!


「うぉしゃぁぁぁぁぁぁっ!」


「ぬぅんりゃぁぁぁ!!」


 拳でフレイムスパイダーを粉砕する二人の戦士。

 いずれも知っている顔である。


 一人は壮年の男性。

 若かった時はモテたであろうと想像できる顔立ち。


 もう一人は中年の男性。

 銀色の角刈りがまぶちぃ(白目)。


「な、なんでセングランさんとスラストさんが、

 フレイムスパイダー達と戦っているんですかねぇ?」


 燃え盛る蜘蛛と戦っていたのはヒーラーの二人であった。

 しかも、素手で蜘蛛達を粉砕していっている。

 熱くないのかな?


「ぬぅん! せりゃあ!! ようやく帰ってきたか。

 エルティナ……後で話がある」


 びょくっ!


 俺の背中に冷や汗が流れるのをしっかりと感じ取った。

 こ、これは……一時間コースかな?(説教)


 最後のフレイムスパイダーを仕留めたスラストさん達は一息吐いた。


「ふぅ、かなり鈍っているな。

 昔はもっと動けたのだが……」


「最近は治療がメインになったから仕方がないさ」


 このセリフである。

 おごごご……ヒーラーとはいったい!?


 つかつかと俺の下まで歩いてきたスラストさんは、

 無言でげんこつを俺の頭に落とした。


 痛ひ……。


「言いたいことは山ほどあるが……今は休め。

 ヒーラー協会の皆が心配をしているぞ」


 スラストさんのその言葉を聞き、またやってしまったと改めて後悔した。

 そうだ、せめてレイエンさんとスラストさんには伝えておけばよかったのだ。

 何故このことに気が付かなかったんだろう。


「わしも同罪じゃよ……もうろくしたものだ」


「セングラン先輩。

 はぁ……とにかく、騒ぎは収まったようですから急いでここを離れましょう。

 神官兵達が駆け着けたら厄介なことになります」


 確かに、それは厄介ってレベルじゃない。

 国家間問題にまで発展してしまうだろう。

 急いで離れないと!


 でも動けない連中が多過ぎる!

 これは退去に時間がかかるぞっ!?


 駆け付けてくれたクラスメイト達は、

 露店販売に参加してくれた面子全員であった。

 皆、ダナンの呼びかけに応えてくれたのだ。


「ふぅぅぅ、暑かったですねぇ。

 すっかり痩せてしまいましたよ」


「ふきゅん、タカアキ!」


 そこに迷宮から出てきた勇者タカアキが現れた。

 痩せたとは言っているが、まったく痩せた様子はない。


 そして、そのまま彼は動けなくなった仲間達を、一度に五人ほど抱えたのだ。

 恐るべき怪力である。


「やぁ、我が友エルティナ。無事で何よりです。

 それでは帰りましょうか? 私はお腹がぺこぺこです」


「うん、そうだな。

 色々と報告しなければならないことがあるんだ」


 こうして、カサレイムで起こった騒動はひとまずの解決を見せた。

 俺達はジャックさん達に後日、改めて挨拶に伺うと約束し、

 急いでフィリミシアに帰ったのであった。

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