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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
204/800

204食目 本性を現す銀髪の女冒険者

 ◆◆◆


 目を開けると、そこは白い空間に取り込まれる前の部屋だった。

 地面に倒れているライオット達。

 姿が見えなかったとんぺーは、ジャックさん達と一緒にいたようだ。


 仲間達の無事を確認した途端に緊張の糸が切れた。

 その瞬間に獣信合体が解け、俺達は元の姿に戻ることになった。


「ふきゅん!?」


 俺は体を支えることができず、地面と濃厚な口づけを交わすこととなった。

 体を動かすことすらままならない。

 どうやら、残りの桃力が後わずかな量しかないようだ。

 なんとかしなければ、体が動かせないというか……その前に死んでしまう。

 桃力は魂の力でもあるため、完全になくなれば死んでしまうのだ。


「エルティナッ! 無事なのか!?」


「おごごご……桃先輩、へるぷ・み~」


 運よくすぐ傍に、桃先輩の依代である未熟な桃が転がっていた。

 俺は力を振り絞り、なんとか桃先輩の下まで辿り着いて身魂融合を果たす。

 むしゃむしゃ。


『死ぬかと思ったぜ……』


『本当にな……もう少し遅ければ死んでいたぞ』


 桃先輩の話によれば、桃力が本当に残りわずかだったらしい。

 運が悪ければ、帰ってきた瞬間にご臨終の可能性もあったということだ。


 うおぉ、震えてきやがったぜぇ……(恐怖)。


『いったい、何があったんだ?

 通常の獣信合体では、俺がリンクアウトするはずがないんだぞ?』


『えっ!? そ、そうなのか?

 てっきり、仕様かと思ってたんだぜ』


 ということは、初めての獣信合体が異常な合体だったということだ。

 むしろ、通常とはいったい……(白目)。


 俺は桃先輩に、獣信合体中の記憶を調べてもらうことにした。

 彼なら何かわかるはずだ。


 くすぐったい……ふきゅ~ん、ふきゅ~ん!(むずむず)


『ええい、鳴くな。

 もう少し辛抱するんだ』


『だって、くすぐったいんだぜ』(もじもじ)


 どうやら桃先輩は記憶を調べると同時に、

 自分の桃力を俺に供給してくれていたらしい。

 そのお陰で、妙なくすぐったさが発生してしまったようだ。


『よし、いいぞ。

 やはり、通常の獣信合体ではないようだ。

 もっと詳しく調べる必要があるな』


『それは桃先輩にお任せするんだぜ』


 桃先輩が桃力を補給してくれたお陰で、なんとか動けるようにはなった。

 俺はすぐ傍で疲れ果てて寝ている、うずめとさぬきを抱き上げる。


「お疲れ様、今はゆっくり休んでくれ」


 力を尽くしてくれたうずめとさぬきを労い、俺はアルアを探した。

 ……いた、まだ台座に括り付けられている。

 早く戒めを解いてあげなければ!


 アルア、今俺が……ユクゾッ!


 と思ったら、既にクラークが駆け付けて括り付けている縄を切り、

 ぐったりしているアルアを助け出していた。

 しょぼ~ん。


 他の皆はまだ倒れているのに復活が早いなっ!?

 流石、超人の二つ名は伊達ではないということか(確信)。


「クラーク、大丈夫か?」


「はい、聖女様もご無事でなによりです」


 クラークに抱きかかえられているアルアの顔は穏やかなものに見えた。

 アルアの過去を知ってしまった俺は、なんとも言えない気持ちになる。

 このことは、俺の胸の内にしまっておこう。


「つぅ……エルッ! 無事か!?」


「ライ! なんとか生きて帰ってきたぞ!」


 少し遅れて目を覚ます仲間達。

 そして、それは……。


「ここは……なるほど。

 どうやら、あの白い空間から脱出することができたようですね」


 モーベン達も同様であった。

 あの白い空間から脱出するまでが休戦の条件だった。

 脱出に成功した今……彼らは再び、俺達の敵となったということだ。


 身構える俺に対し、モーベンは手の平を見せた。


「もう我々に戦闘の意思はございませんよ。

 今回は我々の負けということに致しましょう」


 どうやら、モーベン達も相当に消耗している様子であった。

 しかし、お縄にかかる意思はなさそうである。

 子分達に命じて撤退の準備を始めだした。


 俺達にも彼らを捕らえるような力が残っていないことは理解している。

 やはり、あの白い空間で消耗しすぎたのだろう。


 だが、そんな俺達の行動に対し異を唱える者達がいた!


「ふっ……愚かな!

 聖女を捕らえる絶好の機会をみすみす逃すとは……! 

 そんなことだから、支部の増員が先送りされてしまうのだ!

 私達が聖女を捕らえる瞬間を、その目で見ているがいい!」


 消耗している俺達とは反対に、妙に元気な銀髪の女冒険者達。

 いったい、どういうことだ?


「これこそが知略よ。

 貴様らがあの化け物共を馬鹿正直に相手をしている隙に、

 我々は体力を温存していたのだ!」


 勝ち誇った顔をする銀髪の女冒険者。

 殴りたい! その笑顔!!


「実際は化け物が怖くて、皆で一か所に固まってただけなんだけどねぇ」


「余計なことを言うなっ」


 うっかり正直に話してしまった太っちょの女冒険者の口を、

 慌てて塞ぐ銀髪の女冒険者。


 俺達は一斉に銀髪の女冒険者を見つめだした。

 すると彼女は顔を手で抑え「だって、怖かったんだもの」と

 顔を抑えてうずくまった。


 いや、あんたは冒険者だろうが。


「ふんっ! だが、そんなことはどうでもいい!

 今が聖女を捕らえる絶好のチャンスだということに変わりはない!

 いや、聖女だけではない! 

 ここにいる、穢れなき男の子達も

 正しき道に誘うために保護しなくてはならない! ハァハァ……!」


 手をワキワキさせながら近寄ってくる女冒険者達。

 彼女達の表情を見て、思わず後ずさるライオット達。


 こいつら……まさか! ショタコンかっ!?

 ライオット達の貞操があぶな~い!(暗黒微笑)


「なんで、このタイミングでその表情になるんだよ!?」


 ライオットが俺に対してツッコミを入れてくるが、

 その顔には余裕がなかった。

 俺も彼女達に狙われてはいるが若干余裕があった。

 だって、あいつらライオット達しか見てないんだもの。


「あぁ!? ケイオックが捕まった!!」


 なんということだろうか! 

 あろうことかケイオックが女冒険者の一人に、

 捕らえられてしまったではありませんか!?


「さぁ、お姉さんと正しい階段を登っちゃいましょうね~」


「うわぁ! 服を取るなぁ!!」


 いかん! ケイオックが大人の階段を登っちゃう!?


「ケイオック! 今行きます!!」


 フォクベルトが救出に向かうも、銀髪の女冒険者が彼に立ちはだかった。


 ……なんで、胸元をはだけているんですかねぇ?(呆れ)


「ふふっ、君のように端正な顔立ちで知的な少年は、私に最も相応しい。

 さぁ……私が色々と教えてあげよう。色々とね」


「お断りします! 僕には心に決めた人がいます!」


 フォクベルトは顔を背け、きっぱりと誘惑を拒否した。

 だが、その行動は命取りだ!

 フォクベルトが顔を背けた瞬間、銀髪の女冒険者が間合いを詰めて、

 その豊満な胸元に彼の顔を抱き寄せたのだ!


 ちくせう! うらやましい!


「ふふふ、油断したな少年! もう逃がさないぞ!!」


「ひ、ひきょうなぁ……」


 顔を真っ赤にして「卑怯」と連呼するフォクベルト。

 その割には嫌がってないような気がするんですがねぇ?


「おまえら、いい加減にしやがれっ!」


「そうだそうだ!」


 ロフト達が突如、声を張り上げた。

 やはりこの状況下で、このようなふざけた展開を認める気はないのだろう。


「俺もおっぱいに抱き寄せてください! お願いします!」


「その柔らかそうな、おっぱいを僕らに!」


「わちきはお尻でいいだわさ!」


 違った。

 ダメだこいつら。

 早くなんとかしないと収拾がつかなくなる。


「おいぃ! モーベンのおっさん! なんとかならないのか!?」


「……あ~はい。

 説得は試みますが、期待はしないでほしいかなと」


 だめだぁ! 期待できねぇ!!


 消耗しきった俺達では、

 無駄に元気な女冒険者達に抵抗できず追いつめられていった。


 そんな中で果敢にも抵抗する者がいた。

 ライオットを庇うピンク色の癖っ毛の少女プルルである。


「ライオットには指一本触らせないよ!!」


「あんたのものじゃないだろうに!」


 そう言った女冒険者に対してプルルは大声で言った。


「ライオットは僕のものだぁぁぁぁっ!!」


 言ったぁぁぁぁぁっ! 言いきった! プルルさんマジパネェっす!


「……プルルって、こんなに大胆な娘だったのね?」


「ヒーちゃん、恋はバーニングなんだぜ」


 こっそりと俺の傍までやってきたヒュリティアとリンダ。

 もうショタに飢えた女冒険者達により、

 この場はカオスな状況になっている。


 はっ! だからカオス教団なのか!?

 カオス教団汚い! 流石、カオス教団……汚い!


 モーベンのおっさんも彼女達を説得しているが、

 まったく相手にされずにがっくりと肩を落としていた。


「兄様に触るなぁぁぁぁっ!」


 あちらではルーフェイを庇うランフェイが暴れており。


「ひぃぃぃ!? 僕はもう大人ですよっ!?」


「もっと好都合よ! あなたと『合体』したい! はぁはぁ!」


 こちらでは童顔のマキシード君が、

 むっちむちの女冒険者と合体寸前になっていた。


「もう纏めて『爆破処理』しちゃってもいいかな?」


「御屋形様、ご容赦を」


 なんとか逃げおおせたザインが、俺を止めに入った。

 彼の顔中にキスマークが付いている。


 なんだかなぁ……(いらっ)。


「申し訳ない、説得に失敗しました」


「知ってる」


 がっくりと肩を落としたモーベンのおっさんがやってきた。

 彼の子分達も説得しているようだが……あ、ぶっとばされた。


「いったい、どうなってるんだ?」


 俺はモーベンのおっさんに、この異常な状況の説明を求める。


「恐らく……一見まともに見えますが、

 恐怖によって理性のタガが外れているのでしょう」


 モーベンのおっさんは困り果てた表情で説明してくれた。 


 発狂してた方がまだ対処しやすい。

 これ、どうやって収拾すりゃいいのか、もうわっかんねぇな?


「なぁ、もぉ俺達ぁ帰っていのかぁ?」


 女冒険者達に相手をされないガンズロックとジャックさん。

 そして、スケベトリオも相手にされていないのだが……。


「その胸にレッツ・ダイビング!」


「くびれた腰がセクシー!」


「でっぷりとしたお尻に、わちきの顔を埋めさせてっ! 」


「ぎゃー!? くるなぁぁぁぁっ!!」


 逆に女冒険者を追いかけ回していた。

 これは酷い。七歳児がするような行動ではないぞ。


 先ほどまでのシリアスな展開は、どこに行ってしまったのだろう?

 シリアスさんかむばっく!


『桃先輩、何かコメントを』


『ノーコメントだ』


 桃先輩も呆れかえって何も話してはくれない。


 教えてくれ、いもいも坊や! 桃先輩は何も答えてはくれない!

 俺はどうすればいい!?


『ぐ~ぐ~、いもいも……』


 いもいも坊やは、疲れて寝てしまっていた。

 もう、だめだぁ……お終いだぁ!


 俺が絶望のどん底でコサックダンスを踊っていると……

 突如、天井にひびが入り巨大な物体が降ってきた。


 それは凄まじい轟音と共に地面に激突し、激しい砂埃を立たせる。

 やがて砂埃が収まり、落下してきたものが見えてきた。

 それは一匹の巨大なトカゲのような生物であった。

 

 もう収拾できる気がしない。

 厄介ごとが追加されたぜ!


「ファ……ファイアードレイクか!?」


 女冒険者に纏わりつかれたヴァンさんが、

 降ってきたトカゲを見て表情を険しくする。


 ファイアードレイクは獄炎の迷宮でも一二を争うほどの難敵だ。

 このファイアードレイクは、はっきり言ってしまえば炎の竜である。

 大きさは五メートルほどであろうか。

 ガルンドラゴンよりは小さいが、十分脅威になる大きさだ。

 特長としては炎のブレスを放ってくる点だろう。

 対策がなければ、たちまちのうちに燃やし尽くされてしまう。

 恐ろしい魔物である。


 が、何やらその巨大なファイアードレイクの様子がおかしい。

 ぴくぴくと白目をむいて痙攣しているのだ。


「クスクス……最初からこうしておけばよかったわ。

 いちいち、階段を探す必要なんてなかったのだから」


 ファイアードレイクの上に立っている者がいた。

 深緑の美しい髪をツインテールにしている端正な顔立ちの美少女。

 ユウユウ閣下でございました。


 その純白のドレスがまぶし……あれ?

 たしか、カサレイムに来た時は純白だったよな?

 なんで真っ赤に染まっているんですかねぇ?(恐怖)


 おごごご……このタイミングでユウユウ閣下が来てしまわれるとは!

 もう、なるようにしかならん!

 俺は考えることを放棄するぞぉぉぉぉぉっ!(やけくそ)


「新しく穴を開けた方が、早いに決まっているわよねぇ?」


 口元に手を当てて、ころころと笑うユウユウ閣下。

 だが俺は知っていた。

 そのしぐさは……獲物を見定めている時に取る行動だ。


「クスクス……より取り見取り」


 ユウユウがそう言った瞬間、彼女の姿が消えた。

 そして、壁にぶっ飛んでいく下半身丸出しの女冒険者。

 マキシード君と合体しようとしていた女冒険者であった。


「あらやだ、手ごたえのない敵ねぇ……

 ひょっとして、もう消耗していたのかしら?」


 きょとんとした顔で、

 壁にぶち当たって気を失った女冒険者を見るユウユウ閣下。


「でも、うちの子に手を出したんだから……殺っちゃってもいいわよね?」


 にたぁ~と笑って、ゆっくりと銀髪の女冒険者達に近づいてゆく、

 情け無用の恐怖の存在。

 もう、下手なモンスターよりもおっかない。


 何が起こっているのか理解できていない女冒険者達は、

 咄嗟に武器を取り身構えた。

 だが、それは一番取ってはならない行動!

 ユウユウ閣下に対して、戦闘の意思を示してしまったのだ!!


「クスクス……素敵よ、貴方達。

 さぁ、私を楽しませてちょうだい」


 俺にはもう、彼女達の冥福を祈ることしかできなかった。

 そのすぐ後に、銀髪の女冒険者達の断末魔が部屋に響くことになる。


『緑の悪魔』に手を出しちゃあいけねぇ。

 俺は改めて、そう認識したのであった(白目痙攣)。

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