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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
200/800

200食目 白い闇

 ◆◆◆


「ここは……だれ? 俺はどこ? ふきゅん!」


 気が付くと、辺り一面真っ白な世界に俺は、ぽつーんと立っていた。

 困ったことに、とんぺーとも離ればなれになってしまったようだ。

 首に巻き付いていた、さぬきすら見当たらない。


「本当にここは、どこなんだろうなぁ?」


 周りを見渡しても本当に何もない。

 ただただ、真っ白な光景が広がっていた。


 ここはいったい、どこなのだろうか?

 真っ白過ぎて、不気味な感じさえする空間だ。


「よし、わからん! 取り敢えず、皆を探すか……」


 俺は姿が見えなくなってしまった仲間を探して歩き出した。


 ◆◆◆


 ……どれだけ歩いただろうか?


 歩けど歩けど景色は変わらず、声を出して呼びかけても何の返事もなし。

 行く当てもなく彷徨い続けるも、成果はまったくなかった。


 頼みの綱の桃先輩ですら連絡が取れない。

 呼びかけても「ざ~~~~」といった、不快な音が鳴り響くだけであった。

 肝心な時にこれでは、困ってしまうんですがねぇ?


 ここにきて、いよいよ俺の足がプルプルと痙攣しだした。

 日頃の運動不足が祟ったのであろう。

 しかたないので、俺は休憩を取ることにした。


「はぁ……疲れた、一休みするか」


 俺はその場に座り込み、桃先生を創り出した。

 俺の小さな手に光が集まり、美味しそうな桃が姿を現す。


「いただきま~す!」


 シャクッ!

 小気味いい音が真っ白な世界に響いた。


「はぁ……皆どこに行ったんだろう? 早く……早く……ん?」


 早く……なんだ?

 俺は何をしようとしていたんだ!?

 思い出せない、頭が『真っ白』になっている!!

 これは……まさか!?


「な、なんだとぉぉぉぉぉっ!

 今……俺は『攻撃』を受けているっ!!」


 危なかった!

 桃先生を食べていなかったら、全てを忘れるところだった!

 お、思い出せ! 自分の名を! 先代から受け継いだ大切な名を!

 思い出した、俺の名は……!


「俺の名は……エロティカ!」


 何か違う気がする。

 近いようだが、絶対違う気がする。

 ……思い出せ、おもいだせ。


 ぐ……ダメだ。

 頭が真っ白になっていく。

 こんなところでおれはくたばるわけには……。


 ◆◆◆


 どのくらいじかんがすぎたんだろう?


 ずっとひとりぼっちでさみしい。


『ぼくたちがいるよ』


 なかまはどこに? なかまってなんだっけ?


『なかまは、あたたかいきもちにしてくれる、ひとたちのことだよ』


 ……なんでおれはがんばっていたんだっけ?


『わからない、だって……いつでも、がんばっていたんだもの』


 がんばるってなんだっけ?


『あきらめないことだよ』


 わからないわからない……。

 おれはなぜこんなところにいるんだろう?


『それは、それは……

 たいせつなともだちを、すくうためだよ! えるちん!!』


 その時、俺の胸がとてつもなく暖かい温もりと、光を放ち始めた。

 この光は……この光は!?


『えるちん、えるちん!

 わすれないで、えるちんが、あいした、ひとびとを!

 わすれないで、えるちんが、あいした、せかいを!

 わすれないで……『ぼくたち』が、いっしょにいることを!』


 この声は……俺は知っている!

 俺と共に生きた家族のことを!


 あぁ……そうだった! そうだった!!

 俺は一人じゃない!

 いつも俺と共に歩む『家族』がいたんだった!!


『いこう、いこう! えるちん!

 ともだちが、えるちんを、まっているよ!!』


「あぁ! 行こう……いもいも坊や!」


 俺は思い出した。

 俺の大切な仲間を、家族を、守るべきものを!!

 アルア……今『俺達』が行くぞ!!


 俺は……心を燃やす、燃料は……勇気、そして、生み出すは……『愛』!!

 そう、これこそが桃力の正体! 愛の力こそ桃力の源!!

 今俺は、はっきりと理解したのだ!!


 今……俺の中には、限界を超えた桃力が荒れ狂っている。

 俺のプラチナブロンドの髪は、光り輝く桃色の髪へと変貌してた。


「いくぞ! いもいも坊や!『月光蝶』であるっ!!」


『いもいもっ!!』


 俺の背中から虹色に輝く翅が現れ、

 悲しく染まった白い世界を切り裂きながら『俺達』は羽ばたいた。

 大切な友達を迎えに行くために。


 ◆◆◆


「ボリス! ベック! ポッチョ! 返事をしろ!」


 なんだここは!? 冗談ではないぞ!

 記憶を消去する空間など聞いたことがない!


「返事をしろ! 決して諦めてはならぬ!」


 冗談ではない……冗談ではない!!


 私は……家族かこを取り戻すまでは死ねぬ!

 そして、仲間いまも見捨てぬ!

 必ず……カオス神様を蘇らせて、この世を正しき姿にしてみせる!

 カオス神様さえ蘇れば……失われた命も救済される!


 邪神マイアスの好きになど、させてたまるかっ!!


 だが、頭の悪いあいつらでは……

 まともに教えを理解できぬあいつらでは……。


 もう、ボリス達とは五年もの付き合いだ。

 口論も喧嘩もしたし、共に喜びを分かち合ったりもした。


 辛い時も、苦しい時も、文句を言いながら付いて来てくれた……

 たった、三人の部下。


 いや、違う……仲間だ!

 あいつらがどう思おうとも、私はそう認識している!


「もう、愛する者を失うなんて……いやだっ!!

 私から……大切な人を奪わないでくれっ!!」


 私の絶叫は白い空間によって、白く染め上げられ儚く消えていった。

 この空間は切なる願いも、白く染め上げ隠してしまうというのか!?

 また、私から大切な者を奪うというのか!?


「モーベン様!!」


「親分!!」


「ずらー!!」


 突然、白い空間からボリス達が飛び出してきた!

 私の願いが届いたのか……!?


「おまえ達……!」


 三人組は私に抱き付き泣きじゃくった。


「もうダメかと思っただぁ……!」


「そしたら、モーベン親分の励ます声が聞こえたずらぁ……!」


「ず……ずらぁぁぁぁ……!」


 ……っ!


 これも、カオス神様のお導きか!

 諦めなくて……本当に良かった!

 もう、大切な者を失うなんてこりごりだ!


「おまえ達……よくぞ!」


 一人より二人、二人より三人……。

 今、私達は四人揃った。

 この空間にいかなる力があろうと、四人揃った我らに打ち破れぬものなし。


「ゆくぞ、この空間を脱出する! 付いてこい!」


「へい! どこまでも御供いたしやす!」


 取り戻して見せる、家族かこを!

 守って見せる、仲間いまを!


 そして……世界をあるべき姿に!


 ◆◆◆


『エルティナ! 無事だったか!』


『桃先輩も無事だったか!』


 俺が月光蝶モードになって少し経った頃、

 桃先輩の声が聞こえるようになった。


『ようやくリンクが回復した。

 これは……そうか、君が力をかしてくれたか。

 感謝する、月の子よ』


『ぼくは、えるちんが、だいすき。

 だから「ぼくたち」は、がんばれるよ、いつだって、どこだって!』


 そうさ、俺は一人じゃない。

 いもいも坊や達がいる、そして桃先輩だっているんだ!


『桃先輩! この空間の原因はアルアだな!?』


『そうとみて、間違いない。

 現在、彼女とのリンクが途絶しているので位置がわからない状態だ。

 捜索は困難を極めるだろう』


 わかっている。

 でもそれは、レーダーやリンクを使った場合だろう?


「桃力よ……愛の力よ!

 俺をアルアの下へ導いてくれ!!」


 俺は全ての感覚を使って、アルアを感じ取ることに全力を尽くす。

 当然、そのようなことをすれば墜落の可能性が出てくる。

 だがそれは、一人の場合だ。


『いもっ!』


 すかさず、いもいも坊やが舵取りを代わってくれた。

 阿吽の呼吸で一つの体を皆で動かすのだ。

 俺は……決して『一人』じゃないのだ!


『いた……アルアの鼓動を……命を感じ取った!』


 俺達はアルアを取り戻すため『白い闇』を切り裂きながら飛び続けた。


 ◆◆◆


 いたっ! アルアだ!


 アルアはうずくまって泣いていた。

 全てを拒絶するように。


「アルアァァァァァァァァァァッ!!」


 俺はアルアの名を叫ぶが、彼女はまったく反応しなかった。

 まるで、聞こえてないように。


『エルティナ、彼女の周りに特殊な空間が存在している。

 これは……全てを拒絶する特殊空間だ。

 突破は容易ではないぞ』


『関係ねぇ! アルア! 今、迎えに行くぞ!!』


 俺はアルアに向かって突撃した。

 すると突如、空間にひびが入り……

 そこから、無数の白い異形の犬が飛び出してきた!


「な、なんだぁ!?」


 その異形の犬はアルアを守るように陣取っていた。


『データ照合……該当なし。

 十分に気を付けて戦うしかないな』


『応っ! 邪魔をするなら「ふきゅん!」と言わせるのみだ!』


 接近した俺を向かい打つ異形の犬。

 その攻撃は熾烈を極め、俺の体は血に塗れた。

 だが、お構いなしに俺は突っ込む。


「アルアッ! 俺だ、返事をしろっ!!」


 膝を抱えて泣きじゃくるアルアには、俺の言葉が届いていないようだった。

 彼女まで、後わずかというところで見えない壁のようなものに阻まれ……

 俺は一瞬の間、動きを止めてしまった。


 その隙を突いて、異形の犬が俺に体当たりを仕かけ、

 俺は吹っ飛ばされてしまう。


 くそったれめ! 邪魔をするんじゃねぇ!!


「まったく、無謀の極みとは……このことを言うのですかな?」


 吹っ飛ばされた俺を受け止めたのは……モーベンであった。

 その後ろには子分の三人組がいる。


 この状況で敵に会うなんて……最悪のタイミングだ!


「聖女エルティナ、提案があります。

 私達は……一時、停戦を申し込みます。

 この空間を脱出するまで……という条件で、どうでしょうか?」


 モーベンは膝を抱えて泣き続けるアルアを、哀れみの目で見つめた。

 その目は見下したものではない。


 俺はその目を見た瞬間、理解した。

 この漢の『本来あるべき姿』を!


 だが何故、その心を持ちながら道を……

 いや、今はそんなことを考えている暇はない!


「その提案、受け入れよう。援護……頼む!」


「お任せを……おまえ達! いくぞ!!」


「任せてくれずらー!!」


 敵同士である俺達は、この危機的状況下で手を取り合った。

 一人の『白い少女』を救うために。


 ここに、俺とモーベン達との数年間もの間続く

『奇妙な友情』が生まれたのだった。

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