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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
序章 森の中の全裸幼女
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2食目 桃っぽいヤツ

 見上げる形となっている鬱蒼と生い茂った木の枝から木漏れ日が差している。

 どうやら、無事に日の目を拝むことができたようだ。やったぜ。


「うおぉぉ……俺は生きているぅ……」


 なんとか生きて次の日を迎えた俺は、本格的に現状を打破すべく行動に移る。


 まずは身を守る力を手に入れることが最優先であろうか。

 あとはやはり服が必要だ。


 体感温度からして、季節は初夏に差し掛かるところだろうか。


 暖かかったので全裸でもへっちゃらだったが、この先ずっと温かいとも限らないのだ。

 まともに行動できる内に、できることは全てやっておきたい。


「ん? あれ? そういえば……」


 今になってふと気付く。

 自分にどれだけ男だった頃の記憶が残っているのかということに。


 よし、飯を食べながら思い出そう。

 何か役に立つ記憶があるかもしれない。

 知識は己の身を守る鎧であると共に武器でもあるのだから。


 低い位置にある桃っぽい木の実をもいで一口頬張った。

 程よい甘みがクセになる。


 でも、これだけだと、いずれ飽きてしまうかもしれない。

 これも問題点だな。


 さて、まずは自分の名前だ。


 ええと、う~んと。


 う~んと。


 ふきゅ~んと。


「!?」


 なん……だと……!? 思い出せないっ!?

 仕事は……? ニートじゃないよ?


 これはマズイ。


 自分が男だったこと、そして趣味は思い出したのに役に立ちそうな記憶がゴッソリ抜けている。


 あっ! やべっ! 秘蔵のエロ本を出しっぱなしにしてたかも!? 


 誰かに見られたら、俺の人生がストレスでマッハになって終わってしまう!!

 いやまて! 俺の人生は既に終わったからからこその幼女!?

 そもそも、俺は死んだのかっ!?


 おおおおお、おちちちちつけけけけけっ!? まだ、なんとかナルハズダッ!


「はぁはぁ……」


 もう一口、桃っぽいのを頬張る。

 じんわりとした優しい甘みが俺を落ち着かせてくれた。


 お前だけだよ、俺を癒してくれるのは。


 OK。前世の記憶は、殆ど無いことが判明した。

 それでも日常のことも忘れてるとは……むう。


 しゃく……もぐもぐ。


 紅葉みたいに小さくなった手をにぎにぎしながら、昨日思い付き結局使えなかった魔法について考えてみる。


 魔法は詠唱の後に発動しさまざまな効果を発揮する、という設定が大半を占めているだろう。


 俺がよく読んでいた小説の主人公は、いきなり無詠唱で魔法を発動して周りから驚かれていたが、俺は恐らくは無理な部類だろう……じゅる、もちゃもちゃ。


 でも、間違えて何か出ないだろうか? 


 人とは希望を持たなければ生きてはいけない。

 つまり、俺はここで諦めてはいけないのである。


 そうだ、じっちゃんも言っていた。頭が悪いヤツは考えるな、行動しろと。


 OK、わかったよ、じっちゃん。

 俺は考えるのを止めるぞぉぉぉぉぉぉぉっ!


 俺は小さくなった手を突き出し、気合を入れる……しゃりしゃり。


 すると、手に光が集まりだしたではないか。

 やはり、考えるよりも感じた方が早かったのだ。


「おおっ!? きたっ! いいぞっ!?」


 期待からか、俺は自分でも分からないほど興奮していたようだ。

 ドキドキと心臓の音が聞こえるかのような気がしたが、ここは己の手に意識を集中することに専念する。


 やがて目が眩むほどの光が収束した後、その光からポトリと見たことのあるピンク色の木の実が落ちた。

 その光景に俺は沈黙した後に間抜けな声を上げることになる。


「はへ?」


 今まさに、自分の食べている桃っぽい物と同じ果実である。


 どうやら、自分が食べている木の実ではなく別の新しい木の実であるようだ。

 その証拠に新しい方には齧った跡がないからだ。


「なっとくできん! も……もう一回だ!」


 あれから何度か試したが結果は残念ながら同じだった。

 それを示すかのように、桃っぽいのが十個ほど俺の足元に転がっていた。


 なんてこったい。


「……ふきゅん」


 正直な話、わけが分からない。


 いったい、なんなのだろうか……この魔法? それともスキル? 

 直前に食べた物でも記憶して複製する特殊な魔法なのだろうか? 


 理解不能である。


「ダメだ、理解できん。もう、いっぱい創り出して、この実を投げつけて攻撃手段とするか?」


 はあ……と、ため息を吐き、試しに桃っぽいやつを木に投げつける。


 ベゴッ!


「ふぁっ!?」


 なんと大木にあっさりと穴があいたではないか。

 あまりの出来事に俺は再び間抜けな声を上げることとなった。


 穴の大きさは果実の大きさと一致するので、間違いなくこの大木を果実が貫いた、という動かぬ証拠である。

 

 穴を覗けば奥にある木に桃っぽいのが減り込んでいた。


 いや、待てよ……ひょっとしたら、筋力強化の魔法が発動していたのかもしれない。

 物は試しだ、この大木を殴って確かめてみようではないか。


「ちょあぁぁぁぁぁっ!」


 ぺちっ。


「ふきゅん!?」


 痛い。どうやら凄いのは、俺ではなく桃っぽいやつのようだ。


 チラリと足元に転がっている沢山の桃っぽいのを見れば「プークスクスねえ今どんな気持ち?」と笑われている気がした。


 イラッとしたので食べてやった。げふぅ。




 一応のところ、自衛手段と食料兼水分である桃っぽい……もう桃でいいや、を手に入れた。

 後は自身の強化と服を手に入れれば、一応の目標は達成されることになる。


 とはいっても、この二点がもっとも達成が難しいと思われるのだが。


「まぁいい。見てるがいい、桃よっ! 必ずお前を超える男になってみせるっ!」


 俺は桃に向かって指をビシっと指し決意する。


 さあ、やることは盛り沢山だ。決意したなら行動は早い方がいい。

 拠点を造り、鍛錬を始めよう。

 

 ふふふ……漫画で培った特殊な修行方法の数々! 今こそ活かす時がきたっ!


 俺の最強伝説が今、幕を開けるのである。たぶん。

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― 新着の感想 ―
[一言]ももで?物理法則?なんか神の桃とかなんかww
[一言]  桃作るスキルですか、強化されたらそれ以外も出るのかな( ゜д゜)ポカーン
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