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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
197/800

197食目 集いし強者達

 ◆◆◆


「おぉ! あれは『銀の羽音』だ!」


「あっちには『風鳥旅団』もいるぞ!」


「『野獣の牙』も動いてくれたか!」


「遂にカサレイムのトップを競うパーティー達が動いてくれたぞ!」


 獄炎の迷宮入り口でフレイムスパイダー達を討伐していた私達の耳に、

 カサレイムのトップパーティー達が到着したとの話が入ってきた。

 私達が戦い始めて、一時間が経過しようとしていた時のことである。


「まったく……随分とのんびりとしたご登場ですね」と悪態を吐きたくなるが、

 生憎と燃え盛る蜘蛛と戦闘中であり、

 そのような余裕がないのも確かであった。


「お~いるいる!」


「情報は本当だったか……

 まったく、我々が離れている時に魔物が溢れるとはな」


「フレイムスパイダー相手によく持ったな」


 それぞれのパーティーのリーダーなのだろう。

 タイプの違う男女が大勢の冒険者達を引き連れて登場した。


 その三人は得物を抜き放ち、

 一瞬でフレイムスパイダーとの間合いを詰めて、

 燃え盛る蜘蛛を葬り去った。


 ……強い、トップパーティーを率いるだけあって実力は本物か。


「ほ~……お嬢ちゃんが、ここで踏ん張っていたのか?

 ははっ、えらい別嬪さんじゃないか!

 うちのパーティー『野獣の牙』に入らねぇかい?」


「折角ですが、遠慮させていただきます。

 それと私は男です」


 一瞬きょとんとして、その後豪快に笑う野獣のような黒髪の男。

 襲いかかってくる無数のフレイムスパイダーを、

 得物である巨大な斧を振り回して蹴散らしていく。


「ははっ! 男でも女でも構わねぇさ!

 気が向いたら『野獣の牙・ガッサーム』に連絡をくれよ!

 それじゃあ、ここは任せたぜ! いくぞぉ、おめぇら!!」


 野太い声で『野獣の牙』のメンバーが雄叫びを上げ、

 彼と共に獄炎の迷宮に突入していった。


 突風のような男だったな……。


「やれやれ、彼は相変わらず品がない。

 君のような気品のある者は我々『銀の羽音』に所属するべきだ。

 私は『銀の羽音・フラリーネ』だ。

 我々のパーティーに興味が湧いたら……連絡をしてくれたまえ」


 いつの間にか私の隣に立っていた、

 見事な装飾の鎧に身を包んだ銀髪の女冒険者は、

 私の下にバラの香水の香りを残し、

 同じく見事な装飾の鎧に身を包んだ女冒険者達を率いて、

 獄炎の迷宮に突入していった。


「うう……フラリーネ様相手じゃ文句も言えないわっ」


「フラリーネ様は相変わらず素敵な御方ねぇ……」


 どうやらフラリーネは、同性からも慕われているようだった。

 共に戦う女性冒険者からの評価も高いようで、

 彼女が姿を見せると顔を輝かせる者もいたほどだ。


 現に女性冒険者の気力が回復傾向にある。

 できれば、ここに留まって共に戦ってほしいと思うほどだ。


「やれやれ……あいつらはせっかちだなぁ。

 お兄さん、僕は『風鳥旅団』のサツキだ。

 ところで……フレイムスパイダーが溢れ出た正確な時間ってわかる?」


『風鳥旅団』のリーダーは黒髪の若い少女だった。

 年の頃は成人して間もないだろうか?

 だが、相当な実力者だと認識するに十分な、

 オーラのようなものを身に纏わりつかせていた。


「時間……? 確か今から一時間前だったかと」


 サツキは腕を組み考え込みだした。

 いったい、なんだというのだろうか?


「ルド様、また来ましたっ!」


「いったい、なん匹くるんですの!?」


 私と共に戦ってくれていた女性冒険者達も、そろそろ限界が近い。

 セングランさん達も同様だ。

 むしろ、よくここまで持ったものだと感心する。


 再び私達はカサレイムへ侵入させないために武器を取り、

 フレイムスパイダーと対峙する。


 そのうちの一匹が、考え事をしているサツキに向かって飛びかかった。


「危ない、避けて!!」


 私はサツキに声を上げて危険を知らせるが、

 彼女はうんうんと思案に暮れていた。


 そして私は信じられないものを見た。

 彼女は後ろから飛びかかってきたフレイムスパイダーを、

 危なげなくかわしたのだ。

 その後も死角から攻撃を仕かけられるが……結果は同じであった。


 まるで見えているかのように、何度も何度もかわし続けたのだ。

 しかし、諦めずに攻撃を続けるフレイムスパイダーに苛立ったのだろう。

 彼女の表情に怒りの色が浮き出た。


「あーもう、うるさいなぁ! 少し黙ってて!」


 サツキがフレイムスパイダーに手をかざした瞬間、

 燃え盛る蜘蛛達は爆発し四散した。


 こ、これは……魔法ではない!

 スキルだって、このようなものは見たことがない!

 いったいなんだ……この現象は!!


「あっちゃあ……やっちゃった。

 でもまぁ~そういうことか。

 だから、私達に緊急クエストが言い渡されたんだ」


 サツキは手を合わせ、一人で納得していた。

 仲間の無残な最期を見て、

 フレイムスパイダー達は少女を警戒し始めるが……。


「ブッケンドさん! ちょっと行ってくる!

 後は任せたよ!」


「行ってらっしゃいませ、サツキ様」


 サツキはカサレイムの町へ向かって駆けて行ったのだ。

 この行動に、フレイムスパイダー達も呆気にとられている。


 そして、物凄い速度で走っていったサツキを見送る壮年の老紳士。

 彼がただ者ではないことは、動きの一つ一つから伝わってくる。

 それは私が戦場で出会った魔族達のそれと酷似していたからだ。


 彼は……強い。


 私の額から汗が流れる。

 それは疲労による汗か、それとも強者に出会ったことによる……。


「あ~あ、ま~た一人で行っちゃった」


「ブッケンドさん、今回も俺達でやるの?」


 私の考えは若い冒険者の声で中断させられた。

 若い……というよりも、子供と言った方が早いのかもしれない。

 成人したて……いや、まだ未成年の可能性もある。


 サツキのパーティーは、ブッケンドと呼ばれた老紳士以外は、

 未熟そうな若い冒険者達で構成されているようだ。

 しかし、いずれの冒険者も将来が期待できるような面持ちの、

 少年少女ばかりであった。

 

「いえいえ、今回あなた方はここで、

 フレイムスパイダーの討伐でございます。

 迷宮内へは私が向かいましょう。

 ルドさん……と申しましたな?

 済みませんがこの子らを、こき使ってやってください」


「えっ!? あ、はい……お任せください!」 


 私にそう言い残すと颯爽と、たった一人で獄炎の迷宮に突入してしまった。

 残されたのは『風鳥旅団』の若い冒険者達が六人ほど。

 本当になんなのだろうか?


 いや……それよりも、彼の言葉に『逆らえなかった』。

 これは話術だろうか? それとも……。


「ルドル……ルドさん! 手伝いにきたぜ!」


 この声はマフティ君か!?

 ダナン君の呼びかけによって、

 エルティナの友人達がカサレイムの町に集結しつつある。

 下手な冒険者達よりも能力が高い彼らが駆け付けたくれたことは、

 非常に大きな結果に繋がることだろう。

 私は彼らに感謝の意を知らせるために口を開いた。


「たすか……」


 のだが……そう言いかけて私の言葉は止まった。

 予想外の人物がそこにいたからだ。


「随分、酷い有様だな?」


 銀髪の角刈りに気難しそうな表情。

 エルティナが最も苦手にしている人物。


 ヒーラー協会サブギルドマスター、スラスト・ティーチ氏が

 苦虫をかみ潰したような顔で、そこに立っていたのである。


 いつもは強気なマフティ君が顔を青くしているのは、

 かつてスラスト氏に説教を受けた経験があるからだろうと、

 容易に推測できる。


 彼のフィリミシアでの二つ名は『説教の鬼』である。

 間違った行動、他人に迷惑をかける行為をする者を発見し次第、

 容赦のない『説教』を開始する恐怖の人物だ。


 しかも、王宮に太いパイプ持っていると噂されているので、

 説教される側は逆らえないという。

 とはいえ、正しい行いをすれば褒めてくれる人なので、

 普通の人は恐れることはないのだが……。


 私の保護の対象であるエルティナは、

 いつも彼の『げんこつ』を頭に落とされている。

 いつも無茶をして彼に尻拭いをさせている、

 という点もあるが……実際は違う件なのだろうということは、

 鈍感な私でも理解できる。


 それよりも……何故、彼がここにいるかだ。

 確かめなければならない。


「ど、どうしてスラスト氏がここに?」


「短時間でエルティナの部屋に何人もの子供が入っていったら、

 嫌でも何かあったと気付くものだ」


 そうだった。

 カサレイムへの『テレポーター』は、

 彼女の部屋からしか入れないのだった。

 益々、彼の眉間が深くなる。


「そんなことよりも……くるぞ。

消耗した者は下がれ!

 若手達はローテーションを組んで休憩を取る者と、

 治療を施す者とに分かれるんだ!

 セングラン先輩は下がって休憩を!」


「スラスト……頼む!」


 獄炎の迷宮から再び姿を現すフレイムスパイダーの群れ。

 倒しても倒してもきりがない。

 まるで、こみどり達と戦っているような錯覚を覚えてくる。


「俺達は食いしん坊の下へ向かった方がいいのか?」


「いえ、先ほどリック君とガンズロック君と合流したと連絡が入りました。

 むしろ、ここの防衛が厳しかったので、手伝ってもらいたいのです」


 マフティ君達は頷き、それぞれの得物を抜き放った。

『風鳥旅団』の若い冒険者達も後れを取るなと言わんばかりに、

 フレイムスパイダーの群れへと切りかかってゆく。


 戦い混迷を深めていくのであった……。


 ◆◆◆


「ふきゅん!?」


「どぉしたぁ、エルぅ!?」


 物凄い悪寒に襲われて、思わず鳴いてしまった俺を見て、

 心配そうに声をかけてくるガンズロック。


「シルバー角刈り、げんこつ……うっ、頭が……」


 この限りなくリアルな痛み……間違いなく来てやがる……

 あの恐怖の先輩が!!(白目)


「ほ、本当に大丈夫か?」


 リックが心配そうに俺を見つめている。

 こ、これ以上、心配させるわけにはいかない。


「大丈夫だ、問題ない」


 俺達は現在、獄炎の迷宮十七層の隠し扉前まで到達していた。

 しかし、そこには門番ともいえる魔物が、俺達の前に立ち塞がったのだ。


「フレイムドールか……厄介だな」


 フレイムドール。

 溶岩を材料に作られた特殊なゴーレム。

 運用には膨大な魔力と体の維持に溶岩が必要であり、

 汎用性に欠けるため、ほぼ使用されることはない。


 ……のだが、ここ獄炎の迷宮に至っては最強のゴーレムと化す。

 何しろ、あっちこちに溶岩が川のように流れているからだ。

 むしろ、ここのためだけに開発されたゴーレム、

 といっても過言ではないだろう。


 だが、そんなの関係ねぇ!

 邪魔をするなら……容赦なくぶっつぶす!!


 俺の友達がな!(他力本願)


 いよいよ、アルアの囚われている場所は目前だ。

 今行くぞ……アルアッ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 重複:ー魔力と、体の維持に溶岩が必要であり、 運用には膨大な魔力と体の維持に必要な溶岩が必要であり、
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