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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
195/800

195食目 ダナンの決意

 ◆◆◆


 エルティナが獄炎の迷宮に突入して五分ほど経った頃。

 複数のクラスメイト達が救援に駆けつけてきた。


 金髪モヒカンのリザードマンであるリック。

 マリンブルーの髪を逆立たせている、我がクラスの『超人』クラーク。

 そしてフェアリーの自称剣士ケイオック。

 双子の兄妹剣士ルーフェイとランフェイである。


 見事に我がクラスの超武闘派が揃ってやってきたのだ。


「ダナン、話は本当か!?」


 リックが愛用の槍を携えて俺を問い質してきた。


「あぁ、本当だ……すまねぇ。

 俺達が付いていたにもかかわらず、

 騒動の一瞬の隙を突かれて攫われちまった」


 本当に一瞬であった。

 そもそも、アルアが攫われるとは夢にも思ってなかったことも災いしたのだ。

 彼女が攫われた理由は、誘拐犯達が言い残した言葉で判明した。

 ヤツらは言った……「聖女は頂いていく」と。

 つまり……アルアは勘違いされて攫われてしまったのだ。


 これは、彼女があまりにも白かったからだろう。

 エルティナの特徴の一つである『白さ』を、

 遥かに上回るアルアを見て彼女の方を聖女だと認識したのだ。

 どうやら誘拐犯達は、技量があってもお頭の方はよくないらしい。


「聖女様が攫われなかったのは、不幸中の幸いか?」


 クラークが全身を重鎧で固め、巨大な盾を左手に携えている。

 とても七歳の子供が着こめるような代物ではないのに、

 まるで普段着を着ているかのように自然体で動いていた。


「いや……逆だな。

 珍獣様なら『ファイアーボール』で一網打尽にできたはずだ。

 攫われたのがアルアだから、騒ぎが大きくなっちまったんだよ」


 ケイオックがクラークの肩に乗って、彼の意見を否定した。

 そう、エルティナであれば『爆破オチ』で事は済んだのだ。

 きっと、真っ黒に焦げた誘拐犯が、手足をぴくぴくと痙攣させている姿。

 そして「おいぃ……おまえら、調子ぶっこき過ぎた結果だよ?」と言って、

 ドヤ顔でセリフを決めるエルティナが見れたはずだ。


「どちらにしても、私達のやることは一つだ。

 アルアを助け出す」


「えぇ、そうですわね……お兄様」


 双子剣士が自分の剣を確かめ鞘に納める。

 どうやら、彼らの突入の準備は整ったようだ。

 お互いの顔を見合わせて頷きあう。

 そして、改めて彼らは俺の顔を見た。


「アルアを頼んだ。

 その前に……『我れが結ぶは魂の絆! ソウルリンク』!」


 俺の手からピンク色の光の線が飛び出し、リック達に絡みついた。

 これで、彼らと情報を共有することができる。

 更には万が一に鬼と遭遇しても、

 エルティナを通して桃力が流れ込んでくるので防戦くらいは可能だ。


 これは俺が桃先輩『トウヤ』さんと交わした契約において

 彼から貰った特殊能力の一つだ。


 昨日、カサレイムで商売を終えて帰ってきた俺は、

 トウヤさんに取引を持ちかけられた。


 ◆◆◆


「ダナン、取引をしないか?」


「急な話ですね桃先輩」


 大事な話があると言ってエルティナと分離した桃先輩が、

 俺の自室のテーブルの上に載っていた。

 そして、その未熟な桃に話しかける俺。

 なんともシュールな光景である。


 尚、分離されたエルティナは「ふきゅん!?」と

 断末魔の鳴き声を上げて倒れた。


「君にこれから起こる大きな戦いにおいて、重要なポジションを任せたいのだ」


「大きな戦いって……また、大きな話を切り出してきましたね。

 でも、俺は戦闘ではまったくの足手まといですよ?」


 でかすぎる話だし、エルティナの戦う相手は

 あの出鱈目な能力を持つ鬼だろう。

 はっきり言って、あんな化け物にはかかわりたくはない。

 俺はきっぱりと断ろうとした。


「ダナン……君は、やはり転生者だな?」


「……え!?」


 俺の声が上ずった。

 失敗した……なんという失態だろうか。

 商人を目指す身でありながら交渉の場において、

 相手に弱みを握られるようなミスを犯すとは。


「な、なんのことっすか?」


「隠さなくてもいい。

 それに、俺が君に対して話している言葉は……『日本語』だ」


 今度こそ俺は顔が青ざめた。

 俺は普通に、この世界の言葉で話しているつもりだった。

 だが、桃先輩は俺が『日本語』を使っていると言った。

 俺は知らず知らずのうちに『日本語』を使ってしまっていたようだ。


「それにエルティナとやり取りしている話やネタは、

 純粋にこの世界で生まれた者には理解できないだろう。

 だが、君は理解し内容を共有していた。

 君はエルティナを、早い段階で転生者だと気付いていたはずだ。

 確信は持っていなかったようだが、

 ネタを使って漫才をしつつ確認を取っていたのだろう……違うか?」


「うぐ……」


 俺は何も言えなくなった。

 全て桃先輩の言うとおりだったからだ。

 自分が転生者である、と言ってだれが信じるだろうか?

 恐らく信じないだろう。

 まぁ、言わなくても、明らかに転生者だろうと思える者もいるが。

 フウタ男爵とか。

 あの人はあからさまだしなぁ……隠す気が全然ないのでは、と思ってしまう。


「でも……俺じゃ、役になんて」


「話をしよう。

 あれは、今から百年と四年前のことだ……」


 桃先輩は俺に、ある桃使いのことを語ってきた。

 桃先輩は桃使いの名前を語らなかったが、

 俺にはその桃使いが、だれなのかすぐにわかった。

 そして、その壮絶な生き様と最期に息を飲んだ。


 最強の桃使いは今、最弱の桃使いとして生まれ変わった。

 さまざまのものが変わったのは想像するに容易い。

 しかし、その桃使いには変わらないものがあった。

 それは……その生き様だ。


 死んでも直らないとは正にこのことだろう。


「この世界はゆっくりと確実に、鬼達によって滅びの道を進んでいる。

 泣いても笑っても、七年後にはこの世界を賭けた決戦が訪れるのだ。

 今我々は、少しでも多くの力を必要としている。

 ダナン……力を貸してはくれないか?」


 世界のために戦い抜いて壮絶な最期を遂げた桃使いは、

 生まれ変わった先の世界で、またしても桃使いとして目覚め、

 再び重い運命を背負ってしまった。

 しかも、相手が同じ敵だというのだから質が悪い。


 俺の心は揺れに揺れていた。

 果たして力がないからといって、協力を拒んでもいいものか?

 基本的に俺はこういった荒事には向かない。


 悩みに悩む俺の脳裏に浮かぶのは、

 満面の笑みを浮かべるエルティナだった。


 辛い時でも笑うことができる、強い心を持った少女だ。

 仲間のために命を懸けることができる、勇敢な心を持った少女だ。

 エルティナの強い心にどれほど惹かれたものか。


 ……はぁ。


 どの道、彼女にかかわってしまった時点で、もう手遅れだったのだろう。

 こうなったら、とことん付き合うしかない。

 俺は腹を決めた。 


「わかったよ桃先輩。

 俺の能力が役に立つのなら使ってくれ」


「ありがとうダナン……よく決心してくれた。

 であるなら、君に渡すものがある。

 ダナン、身魂融合だ」


 つまり、桃先輩を食べろってことか。

 今さっき話した相手を食べるってのも、結構異常な光景だな。


 もぐもぐ……すっぱ!? すっぱいぞ、桃先輩!!


『それは青春の味だ、ダナン。

 ソウル・フュージョン・リンクシステム起動……シンクロ率10%。

 システム……一部を省略。

 さて、ダナン。

 君に渡すものがある、それは桃使いについての情報と『宝具・魂の絆』だ』


 桃先輩がそう言うと、かなりの量の情報が一瞬で俺の頭に入り込んできた。

 かなり機密性が高い情報も含まれているようだ。

 そして、俺の胸の辺りに、暖かい力のようなものが入り込んできた。

 これが『宝具・魂の絆』なのだろうか?


『使い方はわかるな?

 これからダナンにも簡単な仙術を学んでもらう。

 君には、かつての俺がやっていたことをしてもらうつもりだ。

 エルティナを支えてやってくれ』


『わかりました……「トウヤ」さん』


 ◆◆◆


 獄炎の迷宮に向かって駆けて行くクラスメイト達。

 今の俺にできることは『ソウルリンク』を施すことだけだ。

 俺に桃力を作り出す力があれば、もう少しは活躍できたかもしれない。


『エル! そっちにリック達が向かった!』


『おぅ、確認した。助かるんだぜ!』


 魂会話でエルティナと連絡を取り合う。

 ……俺にはこの役目以外、今のところ何もできない。

 なんとも、もどかしいところではある。

 きっと、エルティナも戦闘中に、このような思いをしていたのだろう。


「ダナンッ! エルはぁ今ぁ、どこまで潜ってるんだぁ!?」


「ガンズロック、来てくれたか!

 フォクベルトもリンダも……ヒュリティアも!」


 これで珍獣の保護者達が揃ったわけだ。

 俺は彼らにソウルリンクを施し、

 エルティナが現在五層付近まで到達していることを伝える。

 そして、いくつかのグーヤの実と、アスラムの実を手渡した。


「……ダナン、他の子達も来るみたい……お願いね」


「あぁ、ヒュリティアも気を付けて」


 銀色の髪をなびかせて、愛しい彼女は仲間達と駆けて行った。

 ただ、皆の無事を祈るしかないのも辛いポジションだな。


「ダナン君、我々商人ができることは限られています。

 そして、君はまだ幼い。

 ですが……これから、できないことを、できるようにすることは十分可能です。

 今は耐えるときですよ」


 ブッチャーさんが俺の肩に手を置いて、励ましの言葉と目標を教えてくれた。

 きっと彼も、俺と同じような経験を経てきたのだろう。


「商人って、楽な職業だと思っていたんだけどなぁ……」


 俺の呟きを聞いたブッチャーさんは大笑いをして、

 俺の頭をワシワシと撫でるのであった。


 ◆◆◆


 はい、現場の珍獣です!

 我々は現在、獄炎の迷宮の十一層付近を進行中です! ふきゅん!


『お嬢! また来たぞ! 数は十五!!』


 先行偵察をしていたヴァンさんから連絡が入る。

 その連絡を受けた俺達は、治療と補給を済ませ迎撃体制に移る。


「多過ぎだろ……いったい何匹、この迷宮に生息してるんだよ?」


 ロフトが槍の応急修理を終え立ち上がった。

 もう、フレイムスパイダーを、なん匹倒したかわからない。

 体力も魔力も無限にあるわけではないので、

 一戦闘ごとに休憩をはさんでいるのだが、

 今度は武器の方が悲鳴を上げてきているのだ。


 刃はボロボロになり、矢は戦闘終了ごとにムセル達がせっせと回収している。

 こんな時は、ジャックさんが使っている鈍器が心強い。

 ほとんど手入れが必要ないからだ。


「ちっ……『セーフティーゾーン』に寄るにゃぁ離れ過ぎてるかぁ!

 この下の階層に行けば近くにあるんだがなぁ!」


『セーフティーゾーン』とは、

 冒険者達がダンジョン内に施した結界地帯のことで、

 冒険をする上で重要な拠点となる場所である。

 ぶっちゃけた話が安全地帯だ。


 強力な防御結界と気配を遮断する結界、

 そして光属性特殊魔法『カムフラージュ』で場所を隠す徹底ぶり。

 浅い階層には多くあり、深くなるにつれて少なくなってくる。

 これは作るのに時間がかかる上に、

 長時間ダンジョン内に留まることができなかったからだそうだ。


 しかし、グーヤの実とアスラムの実の登場によって状況は一変した。

 長時間の耐熱効果が保証されるこの果物の登場により、

 獄炎の迷宮の探索が本格化してきたのだ。


 いままで多くて三つ程度だったセーフティーゾーンも、

 この短期間で 一階層に五つ程度設置されるに至ったらしい。

 これによって連戦で力尽きる冒険者が少なくなったそうだ。


「そうそう、休んでいる時間もないよぉ?

 早くしないと、アルアがどうなっちゃうか、わからないんだからさぁ!」


 アカネが立ち上がり槍を構えた。

 見据える先には、大量の燃え盛る蜘蛛達の姿。

 まるで、燃え盛る絨毯が動いているようだ。


 フレイムスパイダーは、大きさが小型~中型犬ほどあるので、

 油断をすれば不覚を取りかねない上に群れで行動するため、

 経験の浅い冒険者では太刀打ちできずに

 倒されてしまう危険な魔物だそうだ。


 普段は二十五層付近で大人しく溶岩を食べているそうだが、

 どうやら雑食性でしかも食欲旺盛であるため、

 冒険者を見かけると襲いかかってくる。


 基本的に縄張りから動かないので、

 近づかなければそれほど脅威ではなかったのが

 フレイムスパイダーだったのだが……。


「来たっ! ムセル! ヘビィマシガンで牽制だ!」


 ムセルのヘビィマシガンが火を噴いた。

 俺の魔力供給と桃力によって、

 ムセルの銃の威力はシャレにならない威力にまで高まっている。


 ムセルの攻撃により、

 二匹のフレイムスパイダーはハチの巣にされ絶命した。


「よぉし、怯んだぞぉ! 畳みかけろぉ!!」


 ジャックさんの号令で、皆が一斉にフレイムスパイダーに攻撃を仕掛ける。

 先ほどからこの繰り返しだ。

 なかなか先に進めないので焦りが出始めており、攻撃が雑になりつつある。

 ついさっきも、そのせいで負傷したアカネを治療したばかりだ。

 消耗しているのは体力や魔力、武器だけではなかった。

 精神力も段々とすり減ってきていたのだ。


 なんとか今回も無事に、フレイムスパイダーに勝利することができた。

 だが、これから先も無事に勝利できる保証はない。

 戦えば戦うほど疲労は蓄積されていき、不慮の事故が起こる確率が上がる。


 援軍であるリック達は現在、八層まで到達している。

 ここは一端、合流した方が良いだろうか?

 アルアが攫われてから、三十分が経過しようとしていた。

 今のところ彼女の容体に変化はないが、

 誘拐犯達に何をされるかわかったものではないので、

 早急に救出したいのが現状だ。


「どうする……行くべきか、待つべきか」


 焦る俺に迫りくる選択肢。

 そして、俺の下した決断は……。

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